賢者の孫のお兄ちゃん(魔力無しVer.)   作:愛飢夫

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ハードモード

 ――オーグになら俺の刀を預けてもいいかもしれない。

 

 そんなことを思ってしまったが故に逆にオーグの「力を貸して欲しい」という頼みに即答出来ないでいると、なにか思うところがあったのかシンが俺とオーグの間に入ってきた。

 

「なぁ、ちょっと提案があるんだけどいいか?」

「……なんだ? 魔人どもを一網打尽にする案でも思い付いたのか?」

「いや、そういうのじゃないんだけど……もうすぐ長期休暇に入るだろ?」

「そうだな。それがどうかしたのか?」

「その長期休暇を使って合宿しないか?」

 

 突然のシンのその提案に真っ先に反応したのは金髪ロリっ娘だった。

 

「合宿! いいね! やっぱり研究会って言えば皆で夏合宿だよね!」

 

 なんだかこのロリが喋り始めた瞬間、「帝国民数万人の命を見捨てなければならない」というような重苦しい雰囲気が壊れたような気がする。

 

 これがムードメーカーというやつか。

 

「そうね……これから魔人を相手しなきゃいけないなら、もっと力を付けたいわね」

「朝から晩まで魔法漬け……楽しみ」

 

 さっきまでのヘビーなムードがクラッシュされたからか、他の面々も合宿の話に乗っかり始めワイワイと合宿の話で盛り上がり始めた。

 

「ところで合宿ってどこでやるの?」

 

 そこで再びロリっ娘が口を開き、その場に沈黙が訪れた。

 

 ……これがムードクラッシャーというやつか。

 

「うーん、魔法の練習はここでするとして……合宿って言うくらいだから、皆で泊まれるところがあればいいんだけど……どこか無い?」

「何よ、決めてないの?」

「だって……俺はついこの後まで山奥しか知らなかった人間だよ? どこがいいとか知らないって」

 「でも逆に森の奥で皆でキャンプするのも楽しいと思うよ?」

「え? ルカ兄も合宿に参加すんの?」

「ダメなの!?」

 

 なんですげえナチュラルに俺を仲間外れにしようとしているの!?

 

「だって究極魔法研究会の合宿だよ? ルカ兄魔法使えないじゃん」

「的は必要でしょう?」

「的!?」

「俺たちは放たれる魔法を斬ったり避けたり防いだりする練習をするからそっちはそんな俺たちに魔法を当てられるよう頑張ればいいと思う」

 

 そっちは魔人に魔法を当てる練習になるし、こっちは魔人の魔法に対応する練習になるんだからウィンウィンだよね。

 

「たち?」

「もちろんミランダやここには居ないけどクライスたちのことだよ。これから魔人と戦うんだろ? お前ら皆魔法使いで後衛なんだからお前らの前で戦う前衛は必要でしょ?」

 

 あ、全員じゃなかった。ユリウスはマッチョなんだからそっち側からこっち側に来てもいいんだよ?

 

「ふむ、一理あるな。せっかく騎士と魔法使いの連携の訓練もしたのだからひとつのチームとして戦うのはアリかもしれないな」

「でしょう? まぁ今ここにクライスたちが居ないのに勝手に決めちゃダメかもだけど……ミランダはどう思う?」

 

 俺がそう聞くと、全員の視線がミランダへと向けられた。

 まぁクライスたちが拒否しても師匠権限でクライスたちの拒否を拒否するんだけど……ああ、ケントが「家庭の事情で不参加」って言ってきたらそれだけは認めよう。

 家族は大事にするべきだ。

 

「……ルカも戦うのよね?」

「当然。一番槍は譲れない」

 

 この前作ってもらった旗槍を掲げて突撃するよ! まぁ旗が邪魔で振りにくいから接敵する前に投槍にするけど。

 

「だったら……アタシも戦う! ルカと一緒に鍛えたこの力でルカの背中を……皆を護ってみせる!」

 

 そうミランダが力強く宣言すると、周囲で見ていた究極魔法研究会の面々はなんとも言えないような、しかしそれでいて笑顔のようなとても微妙な表情を浮かべながら生暖かい目をミランダへと向けていた。

 

「ねぇマリア、ミランダは凄いね」

「そうね、凄く勇気を振り絞ったんだと思う。でもねシシリー、ルカを見て。多分アイツ何もわかってないわよ」

 

 俺が何もわかってないってどういうこと? 俺はミランダの師匠なんだからちゃんとわかってるよ。

 

 魔人の集団と戦うのは怖いはずなのに勇気を振り絞って戦うと宣言するなんて大したものだ。後でたくさん褒めてあげよう。

 でも普通に魔人と戦うことを受け入れちゃってるマリアたちも凄いと思うよ。褒めないけど。

 

「うわぁ、ルカくん今のスルーしちゃうんだ……」

「そういうところソックリ。やっぱ兄弟よねぇ」

 

 金髪ロリっ娘とナイスバディさんもそんな話をしている。

 だから俺はわかってるって。後でちゃんと褒める……ってそうか、今褒めないから皆から「わかってない」なんて言われるのか!

 

 そうとわかれば早速褒めよう。皆、俺が褒めるところを刮目して見よ! 俺はちゃんと弟子を褒められる師匠だ!

 

「さすが俺の弟子! ご褒美にミランダにも旗槍をあげちゃう!」

「それはいらない」

「なんで!?」

 

 皆が俺に「褒めろ」と圧を掛けて来ていたので褒めたのだが、まさかのご褒美を拒否されるという体たらく。

 皆から向けられる視線が非常に冷たい。

 

「ルカ兄って鈍感だったんだね」

「シン、それには同意するがルカもお前にだけは言われたくないと思うぞ?」

「俺は鈍感じゃない!」

 

 なんだかシンも巻き込み事故に遭っているが、ちょっと今は助けてあげる気にならない。

 というかこれは俺とミランダ……師匠と弟子の問題なんだから外野がつべこべ言うな!

 

 その後最終的になんやかんやあって俺の弟子である騎士学院生も参加、合宿場所はシシリーさんの家の領地に決定した。

 どうやらそこは温泉地らしい。これはとても楽しみだ。

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 こうして皆から「お前は何もわかってない」という目を向けられながら決まった夏季休暇強化合宿であるが、翌日クライスたちに合宿のことを伝えご家族に確認するよう伝えると、その翌日には全員が「ぜひ」と参加を希望してきた。

 一応ケントには弟妹のことは大丈夫なのかと聞いてみると、ご両親から「弟たちの世話をしてくれるのは助かるけどお前の将来も大事。お前の将来に必要なことだと思うならこちらのことは気にせず参加して来なさい」と言われたので参加することを決めたようだ。

 

「だから両親の期待に応えるためにも俺はこの合宿で強くならなければならない」

「わかった。ならケントの目標は『災害級のソロ討伐』にしとくね」

「さ、災害級!?」

「イケるイケる」

 

 今行われている魔法学院との合同訓練で魔物との実戦を経験した皆はメキメキと実力を伸ばしている。

 訓練開始前は中型の魔物を倒すのが精一杯だった彼らも今では大型の魔物とやり合えるまで強くなっているのだから、合宿をすればなんとか災害級を倒せるレベルに手が届くと思うよ。

 

 あ、ミランダだけは現時点で大型の魔物に余裕で勝てるようになってるからミランダだけは余裕を持っての災害級ソロ討伐が目標です。

 

「さ、災害級の魔物に俺たちが勝てるのか?」

「今から戦っても4人で組めば普通に勝てると思うよ?」

「そうなのか?」

「まだソロじゃ無理だろうけどチームならね。合宿では今までとは違う鍛錬も取り入れようと思ってるし、終わる頃には全員災害級ソロ討伐が出来るようになる計算だよ」

「「ルカが……計算?」」

「ぶっ飛ばすぞ」

 

 せっかくわかりやすく説明してやったのにクライスとノインがふざけた返しをしてきたので強めのビンタをして、その日の合同訓練に参加した。

 

 今日からクライスとノインはハードモードでの鍛錬です!

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 そうしてあれよあれよという間に時は流れ、合宿に出発する日がやってきた。

 今回合宿に参加するのはシン率いる究極魔法研究会のメンバー全員と、俺の弟子たち全員、そして保護者兼引率としてじいちゃんとばあちゃんの合計19名。結構な大所帯だ。

 

 点呼を取り、全員揃っていることを確認して馬車乗り場へと出発する。

 今回、行きは馬車で向かい帰りはシンの《ゲート》で帰る為自前の馬車ではなく業者さんに頼んでのチャーターなのだそうだ。

 さすがにじいちゃんやばあちゃん、オーグなど目立ち過ぎる人が居るのと人数の多さから長距離バス的な乗合馬車は遠慮したようだ。

 

「さて、ではそれぞれ別れて乗ってくれ……ルカ、本当にお前の弟子たちは乗らなくていいのか?」

「結構です。馬車に乗るなんて甘えなのです」

 

 今目の前に並んでいる馬車は3台。それぞれ6人乗りなのでその気になれば18人までは乗れるのだが結局1人は余ってしまう。

 その余った1人に「お疲れ様。帰っていいよ」などとは言えないので俺と俺の弟子たちは全員馬車には乗らずに並走して行くことに決めたのだ。

 最初オーグは6人乗り2台、4人乗り2台の計4台の馬車を用意しようとしていたのだが、それはとてももったいないので俺の方からオーグに申し入れている。

 

「なぁルカ……俺たちは本当に走っていくのか?」

 

 クライスが青い顔をして尋ねてくるが、何を甘えたことを言っているのだろうか。

 

「片道2日の行程で距離は100キロと少しなんだからそのくらい走りなさいよ。本当なら2日もかけずに1日で行きたいくらい」

「1日で100キロはちょっと……」

「今のお前らなら時速30キロくらいは余裕で出せるだろ? だったらちょっと余裕を見て4時間もあれば着くよ」

 

 ちなみに参考記録として前世の俺のフルマラソンの自己記録は1時間を少し切るくらいでまだまだ体力的には余裕があった。

 この世界の人間は前世の俺と違って魔力がある分有利なんだからそのくらい走って見せろ。

 

「さすがに無理だろう……」

「無理だと思うから無理なんだ! 出来る! キミなら出来る! もっと熱くなれよ! お前の本気を俺に見せてみろ!」

「いや、そんな精神論で言われても……」

「本気になれば精神は肉体を凌駕するんだ。それが出来ないなら本気じゃないか精神がまだ軟弱な証拠。クライス、お前はどっち?」

「それは……」

「頑張るor今度は魔法学院生の前で黒歴史発表会再び。どっち?」

「ちくしょう! 走ればいいんだろ走れば!」

 

 どうやらクライスたちはようやく走る覚悟を決めたようだ。

 最初から走る気満々でストレッチをしているミランダを見習い給え。

 

「よし。では……出発!」

 

 こうして俺たちは目的地に向かって走り始めた。

 

 そういえば帝国に関してなんだけど、荒野から少し離れた場所に流れる川のほとりにシンの土魔法で住居と畑を作らせてからこっそり2人で帝国に侵入してまだ襲われていなかった街や村から女子供を中心に希望者だけをシンの《ゲート》を使って移住させておいた。

 オーグとディスおじさん、じいちゃんとばあちゃんに事後報告したらビックリするくらい怒られたけど後から「良くやった」と一言褒められたので最近の俺とシンのテンションは割と高い。

 

 この合宿で皆を魔人なんて鎧袖一触で蹴散らせるくらいまで鍛えてやんよ!

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