王都の馬車乗り場を出発して数時間、黙々と走っているミランダに対してヒィヒィ言っているクライスたちのケツを蹴り飛ばしながら走らせていると、本日の目標移動距離の半分を少し過ぎたあたりでこちらに敵意を向けてきている存在の気配を捉えた。
それとほぼ時を同じくして走っていた馬車が停まり中からシンたち究極魔法研究会のメンバーが続々と姿を表した。
「な、なんだ?」
「休憩かしら?」
「キツイ……もう走りたくねぇ!」
「ぜぇ……ぜぇ……うっぷ……」
馬車が停まったのを見てクライスたちも足を止める。
クライスとミランダ、ノインはまだ喋る余裕があるようだが、3人と比べて明らかに装備が重いケントだけは死にそうな表情を浮かべていた。
4人はそれぞれ装備を身に着けたまま走っているのだが、ケントは
対してミランダとノインは役割的にあまり防御力は求められないので武器と革製の部分鎧。時に
つまりケントが一番最初にへばるのは仕方ないことなのだ。
「残念ながら休憩ってわけじゃないよ」
「……そうなのか?」
まぁそれは置いておいて、馬車が停り中の人たちが降りてきた理由を説明することにしよう。
「まだ見えてないけど、あっちの方から魔物が来るよ。気配の大きさ的には中型かな? 数は――」
俺が言い切る前に5体の山犬の魔物が姿を表した。
「――見ての通り5体でした。さて、戦う元気のある人は?」
「「「……」」」
「はい!」
クライス、ノイン、ケントの3人は沈黙し、ミランダだけが手を挙げた。
「よし、じゃあミランダは一緒に行こうか……ってアレ何やってんの?」
「さぁ? 何かしら?」
振り返り、シンたちの方を見ると究極魔法研究会のメンバーが一箇所に固まって何やらワイワイ騒いでいた。
「当たった!」
魔物が接近してきているのに何をしているのかと思い注視していると、よく金髪ロリっ娘とつるんでいる黒髪ショートのクール系メガネ女子がなにやら先端が赤く塗られている細い棒を掲げて喜び始めた。
アレは……くじ?
「魔物と戦う人を決めるくじでも引いてたのかな? クール系メガネ女子が当たり引いたっぽい」
「クール系メガネ女子って……名前覚えてないの?」
「えっと……」
「なんで何回も一緒に訓練してるのに覚えてないのよ……あの娘は入試成績5位から8位の組、魔法学院第2班にいたリン=ヒューズさんよ」
自己紹介はしても喋らなかったら覚えなくない?
その組はトールとしか喋ってないから他のメンバーのことは『金髪ロリっ娘』『クール系メガネ女子』『ボインちゃん』で覚えてたよ。
「そうなんだ。とりあえず行ってみようか」
「そうなんだって……興味無さそうね」
だって全然タイプじゃないし。それに向こうも俺に興味無さそうなんだからお互い無関心以外選択肢が無いでしょ。
そんなことを話しつつシンたちの近くまで移動して状況を確認してみると、思った通りくじ引きで魔物を倒す人を決めていたようだ。
「クール系メガネ女子が当たりを引いたから1人で戦うってこと?」
「そうだけどクール系メガネ女子って……ルカ兄名前覚えてないの?」
「覚えてるよ。リン=ヒューズさんだろ?」
ついさっきミランダから聞いたばかりだからさすがに覚えてるよ。
「覚えてるなら名前で呼んであげなよ。あだ名にしてもそっちの方が長くて呼びにくいでしょ」
「前向きに検討して善処しますです」
「どこの政治家だよ」
「そんなことよりホントに1人でやらせるの? ここに将来有望な騎士もいるよ?」
俺がミランダを指し示すとシンは一瞬悩んだようなそぶりを見せたがすぐに頷いた。
「そうだね、中型5体くらいなら必要無いかもだけど一応リンの護衛をミランダさんにお願いしようかな」
「分かった。任せて」
ミランダは返事をしてから前に出ているクール系メガネ女子の近くまで移動して魔物が襲ってきてもすぐに斬り捨てられるように刀を抜いて警戒し始めた。
その際クライスたちが「戦わず護るだけなら俺たちが……」など口にしていたが、お前らは余計な口を挟んでいる暇があるならさっさと気を回して体力を回復させなさい。
「じゃあ早速」
クール系メガネ女子が魔力を集め、風の魔法を起動する。
無詠唱かつ強力な魔力によって発生した風の刃はあっという間に5体の山犬の魔物を切り刻んだ。
ふむ、威力と範囲はまぁまぁだけど起動が遅い。あれなら回避は余裕だな。
それにあんなにズタズタにしてしまったら素材としての価値は皆無になってしまう。
クール系メガネ女子は知的に見えて実はシンと同じで細かいことは気にしないタイプなのかもしれない。
そんなことを考えていると、ミランダとクール系メガネ女子が話しながらこちらに戻ってきた。
「アタシ、必要なかったわね」
「まぁ保険みたいなものだしね。逆にミランダが中型5体と戦うってなったら魔法使いの援護は必須だと思う?」
「ルカと出会う前なら魔法使いの援護があっても中型の魔物なんて戦えなかったけど今なら中型5体くらいなら援護は不要ね」
「でしょ? でも中型5体を瞬殺出来る魔法使いが後ろに控えてくれていたら心強いと思わない?」
「それはそうね」
ミランダとそんな話をしていると、シンたちの方でも先ほどのクール系メガネ女子の戦闘について話していた。
「だいぶ魔法の起動が早くなったね」
「ふむ、余裕」
「でも、ちょっとやり過ぎかな? もう少し集める魔力が少なくても大丈夫。そうすればもっと起動が早くなるよ」
「そっか、次は気を付ける」
やはりシンも俺と同じようなことを思っていたらしくそうやってクール系メガネ女子にアドバイスをしていた。
「次はあたしね!」
「ダメよ、次もくじを引きましょう。リンを除いて」
「酷い、私もやる」
「アンタ今やったじゃない!」
あちらのメンバーはほぼ全員が戦いたいらしい。
なんだろう、
どちらにしてもおっかない。
「……まぁ、気持ちは分からなくもないわね」
「そうなの? もしかしてミランダも戦いたい?」
「戦いたいと言うか……上がった自分の実力を試してみたいのよ。普段は同じように強くなってるクライスたちやアタシたちより圧倒的に強いルカとばかり戦ってるから成長した実感が薄いのよね」
なるほど、そう言われてみれば理解も納得も出来る話だ。
そういう事ならもっと成長が実感出来るであろう相手と戦わせてあげようか。
「そっか。だったら今度災害級と一騎打ちでもしてみる?」
「え゛っ……?」
「クライスたちじゃまだ勝てないだろうけど、ミランダならギリ勝てると思うんだよね」
「ほ、本気で言っているの?」
「もちろん。ルカ嘘つかない」
「つかないと言うより嘘ついたらすぐに分かるって導師様から聞いてるけど……本当に嘘はついてないみたいね」
ばあちゃん、なんでそんなことミランダに教えてるの? てかいつの間に?
「なんだか呆けている者もいるが……そろそろ先に進みたい。また頼むぞ」
「は、はい!」
オーグの指示で研究会メンバーは馬車に乗り込み、出発した。
「ルカ、いつまで呆けてるの? アタシたちも早く行かないと」
「あ、はい」
そうして俺たちランニング組も馬車を追いかけ出発した。
その後何度か魔物の襲撃を受けたが、その全てをくじで当たりを引いた研究会メンバーが撃破してしまったので俺たちに出番は回ってこなかった。