そうしてきちんと体を洗い、湯船に浸かる。
「ああ~生き返るのぅ……」
「ふぃー、気持ちいい……」
じいちゃんとシンが同じようなタイミングで同じような言葉を漏らした。
血の繋がりは無いはずなのになんでこの2人はこんなにそっくりなのだろうか?
「ああ……これはいいな。疲れが溶けていく……」
「ぶくぶく」
「ケント寝るな! 寝たら死ぬぞ!」
じいちゃんたちの奥ではここまで走って来たことで疲労困憊になっているクライスたちも温泉を満喫していたが、限界を超えていたケントが寝落ちしてしまいノインが必死にケントを起こしていた。
「しかしこうして見ると……ユリウスの体も凄いですがやはり騎士学院生の体は仕上がっていますね」
そうして皆で温泉に浸かりのんびりしていると、自分の体にコンプレックスがあるらしいトールが俺たちの体を見てそんなことを呟いた。
「トールはちんまいで御座るからなぁ……」
「五月蝿いですよユリウス。これでも毎日筋トレはしてるんですけどね……」
トールは自分の体の細さを見て溜息をつき、羨望の眼差しをクライスたちの方へと向けた。
「そんな目で見られると少々恥ずかしいのだが……」
そう言ってクライスは少し恥ずかしそうな表情を浮かべながら立ち上がり、トールに背中を向けながら両腕を持ち上げて鍛え上げた背中の筋肉群を見せ付ける『バック・ダブルバイセップス』のポーズをとった。
よっ! 背中に鬼神が宿ってる!
「俺はクライスやケントに比べたら細いけど……確かに最近筋肉のキレはいいんだよな」
続いてノインも立ち上がり、両手を頭の後ろで組んで腹筋と脚の筋肉を強調する『アブドミナル・アンド・サイ』のポーズを決める。
泣く子も黙る大腿筋!
「……確かにルカから指導を受け始めてから筋肉が喜んでいると言うか、躍動感が出てきたような気がするな」
ケントは立ち上がる気力も無いのか湯船に浸かったままだが、鍛え上げた大胸筋を動かしてお湯をパシャパシャさせている。
大胸筋が歩いてる!
「ふむ、確かに素晴らしい筋肉、ナイスマッチョで御座る。しかし……しかし拙者も負けては御座らん!」
クライスたちの筋肉を見て触発されたのか、ユリウスは勢いよく立ち上がり、腕の太さと胸の大きさ、肩のデカさや体の厚みを見せ付けるポーズ『サイド・チェスト』を披露した。
出たな! プロポーションお化け!
「うん、皆いい感じに仕上がってるね。皆違って皆いい。ナイスバルク」
俺が4人のポーズを賞賛し、拍手を送ると全員の視線が俺へと向けられた。
なんぞ?
「……ルカ殿はポーズはしないのですか?」
「して欲しいの?」
別にするのはいいんだけど、今俺がポージングしちゃうとせっかく4人が盛り上げた空気全部俺が持っていくことになっちゃうよ?
「止めておけトール。確かにルカの筋肉も凄いが、太さだけで言えばユリウスの半分程度しか無いんだ。実用性はあれど魅せる筋肉ではないだろう」
つまりオーグは俺の筋肉が『小さい』と言いたいのかね?
よろしい。ならば本物の筋肉というものを魅せてしんぜよう。
「確かに殿下の仰る通りですね。ルカ殿、申し訳――」
「謝らなくていいよ。オーグがそこまで言うなら俺の本気を見せてやるよ」
「「えっ?」」
謝罪しようとするトールを制して俺は静かに立ち上がる。
「ふぅーーー」
目を閉じ、深呼吸をしてオーグに煽られたことで荒ぶっていた気持ちを鎮め、体内の気を練りあげ、高めていく。
「何が始まるんッスかね?」
「さぁ? でも面白いものは見られそうだねぇ……真剣な顔で目を閉じているのに丸出しな時点で面白いけど」
「それは……」
マークとフレイドくんがそんな話をしているのが聞こえるが、気が散るので静かにして欲しい。
あとソコを含めて俺の体に見られて恥ずかしい部分は無いから丸出しでも気にしない。
俺は全裸でも戦える男なのだから。
そうして高めた気を一気に解放して体内へと巡らせると同時に俺はカッと目を見開いた。
「ウォルフォード流奥義! 《
瞬間、俺の全身の筋肉が膨れ上がり、ケントやユリウスが細マッチョに見えてしまうほどのマッチョ・オブ・マッチョへと変貌を遂げた。
「お、おお……」
「説明しよう!この《
「5倍は凄いな……」
オーグは感心しているが、この形態には当然弱点もある。
「しかしこの状態だと筋肉が大きすぎてとても動きにくい! この状態で素早く動くことは不可能です!」
「それはダメなんじゃ……」
「いや、たとえそうだとしてもパンチ力5倍は魅力的ッス!」
マークは「攻撃力アップは魅力的」と言うが、実はそこにも問題はあるのだ。
「筋肉が大き過ぎる分攻撃モーションも大きくなるから俗に言う『テレフォンパンチ』になるので回避するのは簡単です!」
「ダメじゃん……」
そうシンが呟くと同時、全員が同意を示すように頷いた。
五月蝿いやい。俺だってそんなことは分かってんだよ。
これはパワーとスピードを両立させるために極限まで引き締めている俺が大きな筋肉に憧れて生み出した技なんだから実用性とか無くても問題無いんだよ!
「ふむ……それで、その技の使い所は?」
何かしらの気を遣ったのかオーグがそんな質問をしてくるのだが、答えなんて分かりきっている。
「無いよ」
「無いのか……」
そりゃ無いよ。そもそも普通に殴れば大抵の魔物もワンパンなのになんでパンチ力5倍にする必要があるのかって話だし。
純粋にボディビルダーに憧れただけである。
「……ルカ」
「ん? 何?」
そうやって盛大にオーグを呆れさせていると、ケントが話しかけてきた。
「それは俺にも使える技なのだろうか?」
「技自体は簡単だからすぐ使えるようになると思うけど……使いたいの?」
今のケントなら発動すること自体は簡単に出来るだろうけど、ケントの持つ気の量的に継続時間はそこまで長くはならないと思う。
「是非」
「そう? ならまた後で教えてあげるよ」
「よろしく頼む」
「ズルいで御座る! 拙者も使ってみたいで御座るよ!」
今夜にでも教えようかと話していると今度はユリウスが切羽詰まったような様子で話に入ってきた。
ユリウスもケントに負けず劣らずのマッチョなのでケントだけが《
「ユリウスも?」
「是非! 是非とも教えて欲しいで御座る!」
ケントは《躁気術》の基礎を習得しているが、ユリウスはそうではないので《
「別に教えるのはいいんだけど、魔法で似たようなことは出来ないの?」
「魔法……で御座るか?」
「うん。俺は魔法は使えないから《躁気術》って言う魔力じゃなくて気を操る技術を使ってるんだけど、ユリウスは魔法使えるだろ? 魔法で似たようなことは出来ないのかなって思って」
「考えたことも無かったで御座るな……」
「ユリウスも『究極魔法研究会』のメンバーなんだから代表のシンに相談してみたら? シンなら何か妙案があるかも」
「なるほど……分かり申した! 早速シン殿に相談してみるで御座る!」
「頑張って」
「ケント殿! 貴殿には決して負けぬで御座るからな!」
「ふっ、望むところだ」
ケントとユリウスは不敵な笑みを浮かべながら固く握手を交わしていた。
「では……シン殿ー!」
「俺を巻き込むなぁー!」
こうしてようやく静かになったので今まであまり話す機会のなかったトールやマーク、フレイドくんたちとお喋りをしながら温泉を満喫していると、俺たちが騒いでいるのをニコニコして眺めていたじいちゃんがおもむろに口を開いた。
「皆、ルカとシンに付き合ってくれてありがとうのぅ」
「え? 賢者様?」
「この子たちはずっと山奥で暮らしておったからの、同い年の友人は1人もおらなんだ」
皆口を閉じ、真剣な顔でじいちゃんの話を聞いている。
「この子らは別方面ではあるが兄弟揃って異常に物覚えのいい子らでな、あれもこれもと教えているうちに、気が付けば成人しておったんじゃ」
物覚えが良かったのはシンだと思う。俺は俺に出来ることしか覚えてないよ。
「その事に気が付いてからこの子らに申し訳なくてのぅ……何とか学院で友人を作ってくれるのを願っておったんじゃ」
「じいちゃん……」
だから騒ぎになることが分かっていて一緒に森を出てきてくれたんだね。ありがとう。
「じゃからのぅ、入学して早々こんなにも心を許せる友人が出来たことは本当に嬉しいんじゃ。皆ありがとう」
そう言ってじいちゃんは頭を下げた。
「止めて下さいマーリン殿。むしろ私の方こそお礼と謝罪をしなければなりません」
皆を代表してなのかオーグがそう返す。
「私はこの国の第1王子です。対等な友人など1人もいなかったし、立場上仕方の無いことだと諦めてもいました。しかし2人は私のことを『従兄弟みたい』と言って対等に接してくれた……それは私にとって予想外の、何よりも嬉しいことだったのです」
ふむ、これがオーグの本音か……まぁまぁ恥ずかしいことを言ってるような気がするけどいいのかな? 後で揶揄っても大丈夫?
「そして今、2人の好意に甘えて今の事態に対処するための戦力を作ろうとしている。それが危険なことだと、2人を巻き込むことになると知った上でです。そのことは2人を守ろうとしているマーリン殿とメリダ殿に対し非常に申し訳なく思っております。誠に申し訳ありません」
いや、あの……むしろ俺が突撃しようとしてたの止めたのがオーグなんですけどね。
「ほっほ。そのことは気にせんでええ。ディセウムから聞いておるよ、『王国の私欲のためにその戦力を使う訳では無い』と。事が済んだ後は世界の平和のためにその戦力を使うつもりだともな」
世界平和のため? 何それ? もしかして俺たち戦隊モノのヒーローにでもなれるの?
「そこまで気を使わせてしまっていることも申し訳無いのじゃがな、出来ればルカやシンとは変わらずに友人付き合いをしてやって欲しいんじゃ」
ちょっとじいちゃん……保護者に「友達でいてやってくれ」って言われるのめっちゃ恥ずかしいからやめてくれない?
「それは勿論です。私にとっても初めて出来た気兼ねなくやり取りが出来る友人……いえ、従兄弟ですから」
俺が内心恥ずかしくて悶絶している間にオーグがキリッとした顔でそんなことを言っていた。
「ルカにはお世話になるばかりで……むしろこちらがルカに見捨てられないかが心配ですね」
いや、見捨てないけど。
仮に弟子として見捨てたとしても友達としては見捨てないから。
「ルカは見てるだけで面白いんでこのまま友人でいて欲しいです」
ノイン……俺はお前を楽しませる芸人じゃないからな? 明日からキミの鍛錬はウルトラハードモードに決定だ!
「……ルカは自分のような口下手な人間に対しても普通に接してくれています。あまり上手くは言えませんが……ルカはかけがえのない友人だと思っています」
ケント……そこまで言えるならお前は口下手なんかじゃないよ。
そうしてイラッとしたり感動したりしていると、シンたちの方も似たような感じで話が進んでいたようでシンも若干居心地が悪そうにしていた。
「じ、じいちゃん! 俺を鍛えてくれてありがとう。途中で街に出てたら多分今の俺は居ないと思う。だからさ、あんま気にしないでよ」
「シン……」
「じいちゃん、ありがとう」
「うっ……」
何やらシンが上手く纏めようとしている。これは俺も乗っからなければ!
「じいちゃん!」
「なんじゃ?」
「俺もじいちゃんには感謝してる。今まで育ててくれてありがとう!」
「ルカ……」
「だから将来の介護は俺に任せろ! じいちゃんが俺たちをしっかり育ててくれた分俺もしっかりじいちゃんたちを看るからさ! だから安心してよ!」
俺がそう宣言をすると、じいちゃんはなんとも言えないような曖昧な表情で頷いた。
「ルカはワシに孫を抱かせたいのか介護したいのか、どっちなんじゃろ……」
「どっちも。だから長生きしてね?」
その為にも今度戦う魔人なんて粉砕してやんよ!
「そうじゃのぉ……しかしルカ、お主結婚相手はおるのかの?」
「……」
俺、魔人との戦いが終わったら運命の人と出会って結婚するんだ!
愛飢夫は25キロの一斗缶を片手でひとつずつ持って積み込みが出来る運転手なのでダンベルなら多分30キロはいけます。
見返したくなったのにネトフリにダンベルは無かったです。悲しい……