賢者の孫のお兄ちゃん(魔力無しVer.)   作:愛飢夫

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さらに成長しました

「今日こそ……今日こそ一本取ってやるぞミッシェルさん!」

 

 膝を曲げ、深く腰を落として木剣を下段に構え目の前に立つミッシェルさんを睨み付ける。

 

「はっはっは! いい気迫だ。ルカ! 掛かってこい! だが《尊厳破壊(ディグニティ・ブレイク)》は禁止だぞ!」

「それは使うかもしれないし使わないかもしれない!」

「やめろ!」

「秘技《影分身》!」

 

 木剣を構えたミッシェルに言葉での揺さぶりを掛けながら俺はその場で反復横跳びを開始した。

 

「む……?」

 

 ミッシェルさんは初めは怪訝な表情を浮かべて見ていたが、俺の反復横跳びの速度が上がっていくにつれてその表情は徐々に驚愕のものへと変わっていく。

 

 秘技《影分身》とは最初はゆっくり反復横跳びをしているだけなのだが、徐々に気による肉体強化を使って速度を上げ最終的に現れた残像でさも俺が分身したかのように見える超絶奥義である。

 

「喰らえ! 奥義《残像剣(ファントム・ブレイク)》!」

「甘い!」

 

 十分にミッシェルさんの目を惑わせたと判断したので木剣を強く握り下段からの斬り上げを放つが、ミッシェルさんは俺の攻撃をあっさりと受け止めてしまった。

 

「なん……だと!?」

「いや、何を驚いているのか知らんが、その程度の速さで私の目を欺けるとでも思ったのか?」

「ぐっ……ミッシェルさんの動体視力……」

「少なくともさっきの3倍は速く動かないと効果は無いぞ?」

 

 ちくしょう……昨日シンに見せた時には目をキラキラ輝かせながら「すげぇ!」と言ってもらえたからミッシェルさんにも効くかと思ったけど、まだまだ速度が足りなかったようだ。

 しかし今の俺の気の質と量、肉体能力ではあれが限界……気と身体を鍛えつつまた新たな技を考える必要がありそうだ。

 

「むぅ……」

「新技披露はこれで終わりか? ならいつも通り掛かって来なさい!」

「ぜってぇ勝つ!」

 

 それから俺はミッシェルさんの前後左右上下ありとあらゆる角度から攻撃を仕掛けてみたり、全力で気を使って防御を一切顧みない全力攻撃を仕掛けてみたりと手を尽くすが、ミッシェルさんはその全ての攻撃を笑いながら防いでしまった。

 

「ふむ、確かに成長しているが……まだ甘いな。今度はこちらから行くぞ!」

「バッチコイ!」

 

 今度は攻めに転じたミッシェルさんが木剣を横薙ぎに振るって来たので木剣を斜めに構えてミッシェルさんの攻撃を受け止める。

 更にいい感じのタイミングで肩、肘、手首を使って角度を変えてミッシェルさんの木剣を滑らせた。

 

「……む?」

 

 そのままミッシェルさんの木剣を滑らせ続け、いい感じのタイミングを見計らってほんの少しだけ力を加えてミッシェルさんの攻撃を完全に受け流した。

 

 好機!

 

 俺の受け流しで若干体勢が崩れているミッシェルさんの体勢を更に崩させるため膝にローキックを打ち込み、その勢いそのままに回転しながら横薙ぎの一撃を放った。

 

 回し蹴りと回転斬りを合わせたようなこの技は……えっと……うんと……そうだ!

 

「《回し斬り》!」

「甘い!」

「うわぁ!?」

 

 これは完璧に決まったと思ったのだが、そもそも俺の蹴り程度で全身を筋肉で覆っているような身体のミッシェルさんの体勢が崩れるわけもなく……万全の体勢で待ち構えていたミッシェルさんによって俺の《回し斬り》は簡単に受け流され、放たれたカウンターによって俺の首筋に木剣が突き付けられた。

 

「これまで、だな」

「ぐぬぬ……」

「そう悔しがるな。8歳にしてこの強さは驚嘆に値する。おそらく新人の騎士ではルカに勝てないだろうな」

「そうなの?」

「ああ。このまま驕らずに鍛え続ければ私を超える日も遠くないだろうな」

 

 ミッシェルさんは白い歯を見せながらとても爽やかに笑う。

 

「成人するまでにはミッシェルさんより強くなる!」

「ははは、その意気だ! ではルカは下がっていなさい。次はシンの番だ」

「ありがとうございました!」

 

 俺が一礼して下がると、入れ替わるようにとても嫌そうな顔をしたシンがミッシェルさんの前に立った。

 

「よろしくお願いします」

「うむ。さぁ、好きに打ち込んで来い!」

「はい!」

 

 こうして始まったミッシェルさんとシンの稽古を眺めていると、家の方からこちらに向かって歩いてくる足音が聞こえてきた。

 じいちゃんかな? ミッシェルさんとの稽古中にこっちに来るなんて珍しい、何かあったのかな?

 

「ルカ、ミッシェルの稽古が終わったなら勉強するよ!」

「げぇ!? ばあちゃん来てたの!?」

「『げぇ!?』とはなんだい! アンタの勉強を見るために来たんだよ!」

 

 現れたのはじいちゃんではなくメリダばあちゃんだった。

 

 普段から「ほっほっほ」とニコニコしている好々爺なじいちゃんとは違って中々に厳しい人だ。

 でも厳しさの中に優しさもしっかりある人なのでおっかないけど俺もシンも嫌ってはいない。むしろ大好き。

 

 昔はとても優しい人だったんだけど今は……これ以上は言うまい。

 

 ちなみにじいちゃんはばあちゃんに頭が上がらないっぽい。俺たちと同じだね!

 

「勉強なら昨日もしたじゃん!」

「お黙り! アンタはシンと比べて遅れてるんだから補習さね!」

「き、今日は狩りに行かないとだから……」

「そんなの後でじいさんかミッシェルにでも行かせればいいさね。わかったらさっさと行くよ!」

「嫌だぁぁぁああ! 助けてシン! ミッシェルさん!」

 

 首根っこを掴まれ引き摺られながら稽古をしているシンとミッシェルさんに助けを求めたが、2人は何とも言えない表情を浮かべながら俺を見送っていた。

 

 その光景を絶望したような顔で見ていると、シンが小さく手を振っていやがった。後で覚えとけよ!

 

「五月蝿いよ! 今日は分数の計算だよ!」

「分数くらい出来るし!」

 

 一応こんなでも大学まで出てるんだからそれくらいできるよ! スポーツ推薦だけど!

 

「じゃあ8分の1+4分の1は?」

「12分の2!」

「おバカ!」

「あっ! 6分の1!」

 

 約分するの忘れてた……

 

「はぁ……わかったよ」

「じゃあ狩りに――」

「アタシはルカを甘やかしすぎたみたいだね。これからはもっとビシバシいくよ!」

「なんでぇ!?」

 

 それから俺は数時間……シンがミッシェルさんとの稽古を終えてから狩りに行って帰ってくるまでの間しっかりじっくりばあちゃんに見張られながら勉強をさせられた。

 

 どうやら分数の足し算は通分とやらをしなければならないらしい。俺はまたひとつ賢くなった。

 




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