男湯でルカが世界一のボディビルダーになっていた頃、女湯ではどのような様子だったのか……今回は特別にミランダ視点でお送り致します。
◇◆
「わ……メリダ様すごい……」
「本当……失礼ですけど、確か60は超えていらっしゃいますよね?」
「もうすぐ70に手が届くねぇ」
「それでこの身体……反則だよぉー!」
シシリーに案内されてやって来た温泉の脱衣場で服を脱いでいると、そんな風に騒ぐ声が聞こえてきた。
聞こえてきた内容が気になってそちらを見てみると、服を脱いで下着姿になった導師様を囲むようにしてマリアたちが騒いでいた。一緒に騒いでいるのは……ヒューズさんとコーナーさんね。
そして奥にいる導師様を見てみると……確かに騒ぎたくなる気持ちはわかるわね。
もうすぐ70に手が届くということはアタシのおばあちゃんよりも歳上なはず。なのにしわくちゃなおばあちゃんよりも断然綺麗な身体をしている。40代前半から半ばだと言われても信じてしまいそうね。
「導師様の身体もすごいけどぉ、ウォーレスさんの身体もすごいわねぇ」
アタシも話に混ざりたいけど、いきなり導師様に声を掛けるのは恐れ多いし、マリアは友達だけどヒューズさんやコーナーさんとはあまり関わりが無いのでどうしようかと悩んでいると、既に服を脱いで裸になっているカールトンさんに声を掛けられた。
「えっと……カールトンさんの方がすごいと思うけど……」
アタシの視線は自然とカールトンさんの顔より少し下、つまり胸へと注がれている。
すごい……一体何センチあるのだろうか?
「ウォーレスさんはすごく形が綺麗じゃない。あとぉ、私のことはユーリでいいよぅ」
「あ、うん。分かった。じゃあアタシのこともミランダって呼んで」
「分かったぁ、ミランダよろしくねぇ」
ユーリはそう言ってニコニコしながらアタシの右手を両手で掴んで上下に振っている。
それに合わせてユーリの胸が揺れている。ちょっと羨ましいな……
いや、でもこれだけ大きければ刀を振る時に邪魔になりそうだし……やっぱりアタシはこのままでいいかも。
でもクライスたちは「胸が大きい女子は魅力的」みたいな話をしていたし……果たしてアタシに女としての魅力はあるのだろうか? 決して小さくはないと思うのだけど。
「それでねぇ、ミランダにはちょっとお願いがあるんだけどぉ……」
「お願い? 何かしら?」
ユーリは何やら言いにくそうにモジモジしている。
これは……そんな無理難題を頼まれるのかしら?
「あのねぇ……お腹、触らせてもらってもいい?」
「……お腹?」
首を傾げながらユーリを見ると、ユーリの視線はアタシの顔の下……胸を通り越してお腹へと向けられていた。
「うん、ミランダのお腹ってすごいじゃない? だからちょっと触ってみたいなぁって思って……」
ユーリはアタシのお腹から視線を外して上目遣いでそうお願いしてきた。
そんな目で見られたら……断れない!
「え、ええ……別にいいけど……」
「本当ぉ!? ありがとぉ!」
ユーリは花が咲いたような笑顔を浮かべてアタシのお腹に手を伸ばしてきた。
ちょ……触るのはいいけど、なんでそんな壊れ物に触れるかのように指でなぞってくるの!? くすぐったいんだけど!
「はぁぁ……すごく硬ぁい。ねぇ、もっと強くしても大丈夫?」
「え、ええ。むしろくすぐったいから触るのならもっと強く触って欲しい」
「分かったぁ……えいっ!」
ユーリは人差し指を立ててアタシの脇腹を突いてくる。
だからなんで!?
「ユーリさん……何してるんですか?」
そうして執拗に脇腹を突かれるくすぐったさに耐えていると、服を脱ぎ終わりタオルを巻いたシシリーとオリビアがこちらに近寄ってきた。
「あ、シシリー、オリビア! 見てぇ、ミランダの腹筋すごくなぁい?」
「確かにすごいですけど……なんで脇腹を突ついてるんですか?」
「なんとなくぅ」
「なんとなくですか……」
「うん。シシリーとオリビアも触らせて貰いなよぉ」
「えっと……ミランダさん、いいですか?」
「いいけど……とりあえずお風呂入らない?」
触られるのは別に嫌ではないので構わないのだけど、このままここで触られていればあっちで導師様を囲んでいるマリアたちも参戦して来そうなのでとりあえずお風呂に入ることを提案してみる。
「それもそうですね」
「ミランダの背中の筋肉も気になるから私がミランダの背中を流してあげるねぇ」
「あ、なら私はミランダの腕に触ってみたいから腕を洗うね」
「えっと……じゃあ私は予定通りお腹を……」
「冗談でしょ?」
さすがにそこまでされることは無いだろうと思いながらそのまま4人で連れ立ってお風呂場に入り、掛け湯をして身体を洗おうと石鹸に手を伸ばそうとした瞬間、シシリーたちが石鹸とタオルを持ってこちらに近付いてくる姿が視界に入った。
ほ、本当にアタシのことを洗うつもりなの!?
「ミランダー、背中は任せてぇ」
「ミランダ、右腕と左腕どっちからがいい?」
「お腹ってどうやって洗ったらいいのかな?」
3人はそれぞれ手に持っているタオルを石鹸で泡立てながらにじり寄ってくる。
アタシは一体どうしたら……
「アンタら何やってんの?」
そうして徐々に追い詰められていたアタシに突如福音が舞い降りた。
「マリア! 助け――」
「これからミランダの筋肉を触らせてもらうお礼に身体を洗ってあげようかと思って。マリアも参加する?」
「シシリー、何言って……」
アンタアタシの筋肉に触りたいんでしょ? なんでマリアも誘ってるのよ! マリアも参加したらシシリーが触れる部分が減るの分かってるの!?
「え、なにそれ楽しそう」
「マリア! お前もか!」
「私はどこを洗えばいい?」
「聞いてよ!」
「じゃあ私が右腕を洗うからマリアは左腕をお願いね」
「オーケー任せて! ツルツルピカピカに仕上げてあげるわ!」
「待って!? ちょっと待って!」
こうして4人がかりで洗われていると、少し離れた位置で自分の身体を洗っていたコーナーさんとヒューズさんもやって来て「あたしは右足!」「じゃあ私は左足」と意味の分からないことを言ってアタシの足をタオルで擦り始めた。
「……やれやれ、騒がしいねぇ」
導師様は究極魔法研究会の女子メンバー総出で泡まみれにされて困惑しているアタシの姿を見て楽しそうにそう呟いていた。
あの……助けて……
◇◆
最終的に6人がかりで全身を擦られながら触られるという苦行に耐え、ようやく湯船に浸かり一息ついた。
「もうお嫁に行けない……」
「将来夫婦喧嘩で旦那を殴り殺しそうだからお嫁に行けなくてもいいんじゃない?」
「マリア……それを言ったらアンタだって夫婦喧嘩の時に魔法で吹き飛ばしそうじゃない?」
「私はそんなことしないわよ」
「アタシだってちゃんと手加減くらいするわよ!」
マリアはなんて失礼なことを言うのだろうか。
「あ、でもミランダが本気で殴ってもルカなら大丈夫そうじゃない?」
確かに虎の魔物の攻撃を防御せずに受けてケロッとしているルカならアタシが本気で殴ってもあまり効かないとは思うけど……
「ルカとアタシはそういう関係じゃないわよ」
「え? よく2人で出掛けてるのに?」
「確かに出掛けてるけど……でもあれはルカの用事とか買い物に付き合ってるだけだから」
「ふーん。でもプレゼント貰ったり2人でお喋りしながら甘いもの食べてたりするんでしょ?」
「それはルカがお礼にって……」
「普通友達同士でそんなこと頻繁にはしないわよ? もしかしてルカはミランダのことが好きなんじゃないの?」
「それは無いと思う。そもそもルカってアタシのことをちゃんと女子だって認識してるのかも怪しいのよね」
模擬戦をしても寸止めせずに普通に当ててくるし、鍛錬内容だってクライスたちとほとんど変わらないメニューを出されている。
お出掛けだって普通にクライスたちと出掛けてる時もあるし、アタシが休日もルカの家に行ってるから誘われてるだけだと思う。
先週なんて鍛錬が終わってすぐに「今日はクライスたちと遊んでくる」ってアタシのこと置いて出掛けて行ってたし。
あ、でもルカの攻撃を受けても血が出たりアザになったりはしないから少しは気を使ってくれてるのかな?
「そうなの?」
「ええ。ルカは大切な友人であり、頼りになる師匠ね」
「ふーーーん……それで、その頼りになる師匠とはどんな特訓をしているの?」
「ルカやクライスたちとひたすら模擬戦をしたり、ルカの持ってきた魔道具でトレーニングをしたりしてるわね」
「魔道具?」
「ええ。魔力を流すと重くなる鉄の棒とか、自動で動くベルトの上で走ったりとか……最初は柔らかいけど魔力を流せば徐々に硬くなるボールをひたすら握ったり離したりもしてるわね」
「ああ、『ダンベル』に『ルームランナー』に『グリップボール』だね。やっぱりアンタたちもシンの作った魔道具でトレーニングをしてるんだね」
アタシとマリアが普段どんな鍛錬をしているのかと話していると、導師様が話に入ってきた。
「ご存知なのですか?」
「ああ、ルカとシンが『身体を動かした方がいい』って言うからアタシも使ってるのさ」
「「「へぇ」」」
「あれらの器具にはそれぞれに《自然回復力強化》の付与もしているハズだからアンタたちのトレーニングも効率が良くなってるんじゃないのかね」
「そんな効果が……」
「おや? 知らなかったのかい?」
「はい。ルカからは何も聞いてないです」
ルカは「魔力を流せば負荷が強くなるから便利」としか言っていなかった。そんな付与がされてたなんて聞いてない。
「そうかい。まぁルカの事だから説明しなくていいと思ったかそもそもそんな付与がされていることを聞いてなかったかのどちらかだろうねぇ」
「聞いてなかったって……」
「ルカは生活用品の魔道具は欲しがるけど、武具や鍛錬道具に関しては魔道具は使いたがらないからねぇ」
「そういえば以前『武術家たるもの武器の性能に頼りきりになってはいけない。敵は己の技で斬る』みたいなこと言ってましたね」
「何かこだわりがあるんだろうねぇ」
この前見せてもらった『道着』って言うパッと見スカートみたいだと思った服にも何も付与はしてないって言ってたし、本当に徹底してるんだと思う。
「あのぅメリダ様……その器具を使わせて頂くことって出来ませんか?」
「私も使ってみたいです」
アタシがそうやってルカのことを考えていると、その器具に興味を持ったコーナーさんとヒューズさんが話に食い付いた。
「構わないけど、身体を鍛えたって胸は大きくならないよ?」
「えっ?」
「そうなの?」
2人は揃ってアタシの胸へと目を向けてくる。
なんでアタシを見るのよ……って鍛えてるからか。
「でもミランダは大きいですよね?」
「そうさね……シンは胸も脂肪だから痩せると小さくなると言ってたんだけど……ミランダ、アンタ、ルカから何か言われてないかい?」
「そうですね……週末出掛けた時には『甘いものをもっと食べろ』とは言われましたね」
「甘いもの? 食べるなじゃなくて?」
ヒューズさんは不思議そうにしているけど、アタシもちょっと不思議に思ってるのよね。
「ええ、もっと食べろって。ルカとカフェに行ったら最低ケーキ3つは食べさせられるのよね」
「ケーキ3つ……いいなぁ」
「あたしもルカくんとお出掛けしてみたい!」
「やめときなさいアリス。アンタがケーキをたくさん食べても太るだけよ」
「うぅ……マリア酷いよ……」
マリアにツッコミを入れられてコーナーさんがしょんぼりとしている。
なんだろう、ちょっと撫でたくなってきた。
「ふむ、まぁルカがそう言ったのなら間違いなく何か理由があるんだろうねぇ」
「そうなのですか?」
「ああ。あの子はどこで覚えてきたのか知らないけど人の体に関しては相当の知識を持ってるからねぇ……その点に関してだけはシンよりも詳しいはずさ」
「ウォルフォードくんより……」
アタシはウォルフォードくんのことはあまり知らないけど、ルカが「近接戦闘能力以外は全部弟に負けてる」って誇らしげに言っていたことは覚えている。
そんなにすごい人が居るのかとも思ったけど、実際にルカの成績を聞いて納得したのもいい思い出だ。
「それにしても……2人はなんでそんな事に詳しいんですかね?」
「そうですね、ルカさんに関してはあまり知りませんけど、シンくんは本当に色々なことを知っていますよね」
マリアとシシリーは興味を惹かれたのか話を深堀しようと導師様に問い掛けた。
「そうさねぇ……」
それから導師様はルカとウォルフォードくんの小さい頃の話をし始めた。
終わらなかったので2つに分けます。