「シンは昔から何にでも興味と疑問を持つ子だったんだよ。なんで火が燃えるのか? なんで風が起きるのか? 水は何でできている? なんで水は氷になる? 身体は何でできている? どうして動いている? そういうことをとにかく調べたんだろうね」
……火は燃えるものだし、風は吹くものだし、水は水。身体が何でできているかや何故動くのかなんて考えたことも無い。
やはり『天才』や『英雄』なんて評されるような人はアタシなんかとは頭の出来が違うんでしょうね。
「反対にルカは自分が興味を持ったことに関してはシンよりもさらに深く追求するけど、興味のないことに関しては全力で逃げ出すような子でね……勉強させるのに苦労したものさ」
「すごく……想像出来ました」
何度かルカに勉強を教えようとしたことがあるのだけど、ルカって科目によっては初等部で習う内容すらあやふやな部分があるのよね。
でも歴史上の人物の名前は覚えてなくても歴史的な事件や戦争に関しては相当詳しかったりするし、軍学系は普通に出来ていたりもする。
武具の善し悪しも一目で見分けられたりもするので導師様の言う通り自分が興味のあるものだけ覚えてるんでしょうね。
「あの子たちは5つの時から森の中で狩りに走り回ってたんだよ」
「い、5つ!?」
「それは信じられませんよぉ」
5歳の時のルカか……マリアやユーリは信じられないって顔をしているけど、ルカなら5歳で狩りをしていたと言われてもなんだか普通に有り得そうって思えるのよね。
「事実なんだから諦めな。アタシもビックリしたもんさ、ある日ルカとシンが見当たらないからマーリンに問い詰したら……森に狩りに出掛けたって言うじゃないか。ついマーリンを締め上げちまったよ」
「「「はは……」」」
前にルカが「ばあちゃんが最強。誰も勝てない」って言ってたけど、賢者様も導師様には頭が上がらないのね……
「小さい頃から異常に物覚えの良かった子たちだったけどさすがに心配でねぇ、探しに行こうかと思ったら2人揃ってひょっこり帰ってきたのさ」
導師様はその時のことを思い出しているのか、少し遠い目をしている。
「シンは両手に鳥と兎を、ルカは大きな鹿を背負ってね」
「鹿!?」
「2人がかりとはいえ5歳で鹿ですか!?」
さすがアタシの師匠、すごいわね。
「はぁ……シンくんすごいです」
「シシリー、ルカも居たのよ?」
「えっと……ルカさんもすごいです」
どうやらシシリーの耳にはウォルフォードくんの話しか入っていなかったみたいね。
「アタシも驚いたねぇ。さらにそれらの獲物の他に木の実や山菜、キノコなんかも大量に《異空間収納》から取り出し始めたものだから余計にね……見るからに毒々しい真っ赤なキノコも混じってたけども」
合同訓練の時にルカは木の実や山菜、キノコを採っていたけどその時にも見るからにヤバそうなキノコも採取していた。だからその『見るからに毒々しい真っ赤なキノコ』もルカが採って来たのだと思う。
「これだけ狩れるなら大丈夫かと思ってね、日中は森の中に狩りに出掛けるようになったんだよ。それからかねぇ……森の中で2人で遊んだり実験をするようになったみたいで……気が付けばこのザマさね……」
「マーリン様は気付いていなかったのですか?」
「あの元祖無自重男がかい? 気付くどころかシンがすぐに魔法を覚えるもんだから、次から次へと魔法を教えてたよ。事の元凶は間違いなくあのじいさんさね」
「あの……ルカは?」
ウォルフォードくんに関しては賢者様が元凶だということは分かったけど、ルカはどうなんだろう?
「ルカは……3歳の頃からミッシェルに師事して5歳の時に『並の騎士よりはるかに強い』と太鼓判を押されてたからねぇ……気に入ったミッシェルが色々仕込んでいたから、そういう意味では元凶はミッシェルなのかもしれないねぇ……」
「剣聖様……」
ルカと剣聖様は師弟関係だとは聞いていたけれど、まさか3歳から剣聖様に師事していたなんて……
それに5歳の時点で『並の騎士よりはるかに強い』ってことはもしかしてその時点で今のアタシたちよりも強かったってことなのかしら?
信じられない……いや、ルカならもうなんでもありね。もう驚かない。
その後もルカとウォルフォードくんの子供時代の話は続いたが、ルカが9歳になる前に剣聖様から一本とったという話を聞いた時には思わず声をあげそうになってしまった。
一体どんな成長速度をしてるのよ……
「でも、そのお陰でこの事態に対処出来そうなんですから、良かったと思います」
導師様の話を聞いて皆唖然としていたが、唯一シシリーだけはニコニコと楽しそうに聞いており、そんな感想を漏らしていた。
本当にウォルフォードくんとは付き合ってないのよね? 全肯定のお嫁さんみたいになってるけど。
「そうさねぇ……まさかこんなことをしでかす輩がいるとは夢にも思ってなかったからねぇ」
「だからメリダ様もあまりお気になさらないでください。シンくんはきっと世界を救う英雄になりますよ」
……ルカは? シシリーの中にルカは存在しないのかしら?
アタシはウォルフォードくんだけじゃなくてルカにだって十分魔人を倒す力があると思ってるんだけど……殿下もそう言ってたし。
「アンタ、やっぱりいい娘だね。これからもシンのことを宜しく頼むよ。道を違えないようにしてやっておくれ」
「はい! お任せください!」
シシリーは元気よく返事をしているけど……ちゃんと意味を理解してるのかしら?
アタシには導師様がシシリーとウォルフォードくんがくっつくことを望んでいる発言をしたように見えたんだけど。
「そういえばシンくんは治癒魔法もすごいんですけど、それも1人で覚えたんですか?」
いや……あの……だからルカ……
「ああ、森で狩った獲物を自分たちで解体もしてたからね。それで生き物の身体の構造を調べたんだろうねぇ」
「なるほど……」
つまり身体の構造についてウォルフォードくんよりもルカの方が詳しいのはウォルフォードくんはある程度調べて納得したけどルカは興味を持ったからそこから更に深掘りしたってことなのかしら?
「それにしても、ルカの気配を消したりする変な能力とシンの異常な魔法の理由が分かった気がするわね」
「ずっと2人だけで遊んでたってちょっと寂しい理由だけどね」
「だからウォルフォードくんは仲間の身を案じてくれてるのねぇ……お兄さんの方もミランダたちが魔物と戦ってる時はすごい真剣な顔をして見てたし……」
「騎士学院生だけじゃなくてあたしたちが怪我しないようにも気を配ってくれてたよね!」
そうだったんだ……ルカのことだからてっきり腕を組んで後方師匠面で頷きながら見てたと思ってたんだけど……
「だからねぇ、アンタたちには感謝してるんだよ」
「メリダ様?」
「あの子たちにはお互い以外歳の近い友達はいなかった。周りにいるのは大人ばかりだったからね。あの子らはアタシたちがいたから寂しくなんてなかったって言うけど、アンタたちも一緒にいる2人の様子を見てるとねぇ……やっぱり友達は必要だったと思っちまうのさ」
どうやら導師様はそのことを後悔しているらしい。
もしかしてルカはこちらから声を掛けたアタシたち以外のクラスメイトに自分から声を掛けないのは同年代と付き合ったことが無いのが関係してるのかもしれない。
実はなんて声を掛けたらいいのか分からないとか?
「だから、今こうして皆が2人の友達でいてくれるのが嬉しくてねぇ……本当にありがとう」
導師様はそう言って微笑み、アタシたちに向けて頭を下げた。
「メリダ様、頭を上げて下さい。私の方こそ、シンくんに出会えて本当に良かったと思ってるんです」
「そうですよ。むしろシンと友達になれて良かったのは私たちです」
「うん。超ラッキー」
「リンさん、ラッキーって……」
「でもその通りですよぉ、ウォルフォードくんと知り合って一番得をしたのは私たちですぅ」
「ホントそうだよね!」
「アンタたち……」
皆口々にウォルフォードくんと友達になれて良かったと言っているが、ルカのことも忘れないであげて欲しい。まぁ皆とルカはそこまで仲がいい訳ではないから仕方ないのかもしれないけど。
だったらその分アタシがルカのことをフォローしないと!
「導師様、アタシもルカと出会えて本当に良かったと思っています。ルカと出会えたことで成長出来たし、これからももっと成長出来ると確信しています。今はまだ到底ルカには及びませんが、いつかルカの背中を守れるようになりたいと思っています」
「ミランダ……」
導師様から優しい目で見つめられる。
「そうかい。ならルカのことはミランダに任せようかねぇ」
「ア、アタシですか!?」
そんなことを考えていると、話の矛先が急にこちらに向けられた。
「ああ。現状ルカの手綱を握れそうなのはアンタと殿下くらいだろう? 殿下はこれから色々と忙しいだろうからあの子が暴走しないようにしっかり手綱を握っておいて貰えないかい?」
これはさっきのシシリーに言ったようにアタシに「ルカとくっつけ」って言ってる訳じゃない……のよね?
純粋に言葉通りルカが暴走しないよう目を光らせておいてくれって意味なのよね!?
だってルカは英雄の孫で……シシリーは貴族の家のご令嬢だから釣り合うけど、アタシはただの平民だし。
それにルカだって男の子なんだからアタシみたいな筋肉質な女子じゃなくてユーリみたいな女の子らしい女の子の方が好きだろうから……
だから……うん、きっとそうだ。アタシがルカや導師様に選ばれることなんて有り得ないんだから変な期待をしちゃダメよね。
「……微力ながら全力を尽くします」
「頼んだよ。それとアンタは多分ルカの好みのど真ん中だからそっちの方面でも宜しくしてくれたら安心なんだけどねぇ」
「な……ッ!? えっ!? ハッ!?」
「はっはっは! よし、今回の合宿じゃあ保護者に徹して口を出さないつもりだったけどアタシたちもアンタたちを鍛えてあげることにするよ!」
その後、お風呂に入りながらどんな話をしたのかアタシの耳には一切入ってこなかった。
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