賢者の孫のお兄ちゃん(魔力無しVer.)   作:愛飢夫

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キミに夢中

 温泉から上がった研究会の面々からほっこりした視線を受け、俺とシンは少々居心地の悪い思いをしていた。

 

 理由は単純、じいちゃんの話に感銘を受けたかららしい。

 

 その話の内容が「友達がいなかった俺たちと友達になってくれてありがとう」という保護者が友人に感謝するという中々の羞恥プレイだったのはどうかと思うけども。

 

 そして、女性陣もそう変わらないタイミングで温泉から上がってきた。

 

 女性陣は俺たちの姿を見付けると、まずはシンに優しげな視線を向け、続いて俺を見てニヤニヤし始めた。

 

 ……なんぞ?

 

 さすがに気になったのでミランダにでも確認しようかと思ったが、肝心のミランダが一番挙動不審になっている。

 一体何が起きたのかと戦々恐々としていると、「食事の支度が出来ている」とクロード屋敷の使用人に言われてしまったので後ほど確認しようと心に決めて大人しく食堂へと案内された。

 

 席に着き、目の前に並べられた料理を見た瞬間、研究会の女子メンバーにニヤニヤされたことなんて吹き飛んでしまった。

 何故ならそこに温泉たまごがあったから。

 

 何を隠そう俺はたまご料理が大好きだ。

 

 焼いてよし、茹でてよし、なんなら生で食べてもいい。たまごかけご飯は完全食だ。

 美味しくて、さらに筋肉を育てるために必要な栄養素がたっぷり詰まったたまごが嫌いな武術家やボディビルダーはいないだろう。ソースは俺。たまごかけご飯と目玉焼きには醤油派だけど。

 

 たまご焼き、目玉焼き、スクランブルエッグ、ゆでたまご、味たま、温泉たまごetc……みんな違ってみんないい。

 

 白身と黄身が奏でるハーモニー、俺はプルプルの黄身が大好きです。

 

 そうして俺が目の前の温泉たまごに釘付けになっていると、ばあちゃんから今回の合宿についての話があった。

 

 どうでもいいから早く食わせろ。

 

「ああそうだ、さっき風呂の中で決めたことがあってね……今回の合宿でアタシたちは保護者に徹するつもりだったけど、アタシたちもアンタたちを鍛えてあげるよ」

「え? 本当なのですか?」

「マーリン様とメリダ様が教えて下さるのですか?」

 

 顔を上げて見てみると、女性陣は知っていたのか落ち着いた様子なのだが初めて聞いた男性陣は大いに盛り上がっていた。

 

 喜ぶのは勝手だけど、事あるごとにハリセンでシバかれるから覚悟はしておいた方がいいよ? それより温泉たまご……

 

「え? じいちゃんいいの?」

「ほっほ。初めて聞いたのぅ……」

 

 シンがじいちゃんに確認しているが、どうやらじいちゃんは聞いてなかったらしい。

 

 つまりばあちゃんの思い付き。これは静かにしておいた方がいい案件だろう。

 それにこんな所で勉強はさせられないだろうからばあちゃんが教えるのは魔法に関してでしょう? 俺には関係無いです。だから早く食べさせてください。

 

「賢者様と導師様が指導して下さるのか……それは是非受けてみたいな」

「でもよ、俺たちは教わっても魔法は使えないんだから意味無くないか?」

「……いや、確かに俺たちは魔法は使えないが魔人は魔法を使うのだろう? ならば魔法のことを知っておく必要はあると思う」

「ケントの言う通りだ。知っているのと知らないのとでは動き方も変わってくるからな」

 

 え? 何? 受けたいの? 俺は絶対嫌なんだけど……

 というかこういう話題では率先して発言するミランダが黙ったままなのが気になるな。

 もしかしてあまり交流の無かった人たちに囲まれて緊張してるのかな? だとしたら挙動不審になっていたのも納得だ。

 俺だってシンやオーグが居ない状況で研究会男性メンバーに囲まれたらどうしていいか分からなくなっちゃうもん。

 

 大好きなたまご料理が目の前にあるのに「待て」をさせられている今もどうしていいか分からなくなってきてるけど。もう周りを無視して食べてもいいかな……

 

「まぁ、シンには魔法のイメージを教えて貰いな。じいさんは魔力制御、アタシは付与魔法を教えてあげるよ」

「うわぁ! 夢みたいですぅ!」

 

 研究会のメンバーはテンションを上げているが、反対に俺の弟子たちは意気消沈していた。

 

 まぁ魔力制御も付与魔法も教わったところで俺たちには何の意味も無いから仕方ないね。

 

「騎士学院生には……そうさね、じいさんが魔力制御を教えている間はいつも通りルカと訓練すればいい。アタシが付与魔法を教えている間にじいさんとシンから魔法の解説を聞いたり実演させたりすればいいさね」

 

 ばあちゃんはクライスたちの話を聞いていたようで、クライスたちにも魔法のお勉強が出来るよう取り計らってくれた。

 

 でもコイツら明日から研究会メンバーたちの魔法の練習時に的になるから好きなだけ魔法を見て体験出来るから実演は不要かなぁ? 解説はアリだけど。

 

「導師様……我々にもご配慮いただきありがとうございます」

「なに、アンタらもウチの孫の友人なんだ。それくらい構いやしないよ」

「そんな……恐れ多いです」

「そもそも『導師様』なんて堅苦しい呼び方はやめちまいな。アタシのことはメリダで構わないさね」

「ワシもマーリンで構わんぞぃ」

「し、しかし……」

「ほっほ。ワシらのことは友人のじいさんとばあさんくらいに思ってくれたらいいんじゃよ」

「よ、よろしいのですか?」

「もちろんさね。どうせこれからしばらくは毎日顔を合わせるんだから堅苦しいのは無しだよ」

 

 そう言うばあちゃんの視線はミランダを捉えて離さなかった。

 

 いや、だからなんで?

 

「ということは俺はフリーになる時間があるから……新しい魔法の実験かな?」

 

 全員……特に研究会の女性陣がミランダへと生暖かい視線を向けていたが、シンがそう呟いた瞬間全員の視線はシンへと向けられた。

 

「……ちょいとお待ち、シン」

「何? ばあちゃん?」

「『何?』じゃない! アンタ今聞き捨てならないことを言ったね!?」

「新しい魔法とか……」

「実験とか……」

「あ、あの! その時は言ってくださいね! 私たち避難しますから!」

 

 他のメンバーは困惑していただけだったが、ストーンさんだけは反応がガチだった。

 

 シン、お前……信用無いんだね。

 

「え……何この反応……」

「お前……新しい魔法って、一体何をするつもりだ?」

 

 シンは困惑している皆を見て困惑していたが、オーグからの追求を受けてどんな魔法を試そうと考えているのかを話し始めた。

 

「いや……シュトロームを倒すのに新しい魔法が必要かなって……」

「え? 確かこの前シュトロームと対峙した時、全力は出していなかったと言ってませんでしたか?」

「いや、まぁそうなんだけど……ちょっと思い付いたことがあるから試してみたかったんだけど……」

 

 シンはトールからも追求されてタジタジになっていた。

 

「……なんだ、話を聞いただけでヤバい気がするのは私だけか?」

「殿下、自分もです」

「私もです」

「私も! ヤバい匂いがプンプンするよ!」

 

 オーグの言葉にトールとマリア、金髪ロリっ娘が同調する。

 

 あ、シンが若干涙目になってる! 可愛い、助けてあげなくちゃ! というのは建前で、俺はもう限界です!

 

「あのさ、その話まだ続きそう? 続くなら先食べててもいい? お腹減っちゃった」

「……そうさね、これ以上話してたらせっかくの食事が冷めちまう。続きは食べながら話そうかね」

「いただきます」

 

 その後も食事を摂りながら話は続いていたが、俺は温泉たまごに夢中になっていたので話の大半を聞き流した。

 そんな俺の姿を見て、クロード屋敷の料理人さんが温泉たまごのオカワリを持ってきてくれたので俺は満足だ。

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 翌日、皆がじいちゃんの魔力制御の練習をしている間、俺たちは少し離れた場所に固まって鍛練開始前の恒例となっているストレッチと《練気》を行っていた。

 

「……で、ばあちゃんは何してるの?」

 

 ばあちゃんは俺たちがストレッチをしている横で《異空間収納》から取り出した椅子に腰掛け寛いでいる。

 

「魔力制御の練習を見てても暇だからこっちを見学しようと思ってねぇ……迷惑かい?」

「いや、別にいいけど……皆緊張するんじゃない?」

「昨日マーリンが言ってた通りアタシのことは友人のおばあちゃんくらいに思ってくれてれば構わないよ」

 

 そうは言われましても……クライスたちは緊張してるし、俺だって授業参観されてる気分で落ち着かないよ。

 でも誰もばあちゃんに面と向かって「邪魔」とは言えないのでここは諦めて大人しく見学してもらうことにする。

 

 いや、むしろここは好都合だと考えるべきか。

 これからクライスたちに新技を伝授する予定だったからその新技習得のためにばあちゃんにも協力してもらおう。

 

「……よし、じゃあ鍛練を始めようか」

「え? いや、しかし……」

「ばあちゃんの事は気にしてはいけない。ばあちゃんが『自分の事は友達のババアだと思え』って言ったならお前らはそうしなければならない」

「ルカ?」

「ひえっ……」

 

 俺が皆に『ばあちゃんに逆らってはいけない』ということを伝えていると、背後から物凄く低い声でばあちゃんに名前を呼ばれてしまった。

 

「コホン、それでは鍛練を始めます! 全員武器を持って!」

 

 このままだといつものハリセンでシバかれてしまいそうだったので慌てて鍛練の開始を宣言する。

 さすがのばあちゃんでも鍛練が始まってからシバキに来ることは無いだろう。無いよね? 無いと思いたい。

 

「はい! 今回はですね、なんと皆様に新技を伝授させて頂こうかと思っております!」

 

 そうして俺はばあちゃんが立ち上がったら即座に逃げ出せるよう注意を払いながらクライスたちに新技の伝授を開始する。

 

 喋りながら感じる気配だけでは不安だったのでこっそりと横目でばあちゃんの姿を盗み見る。

 ばあちゃんは……よし、座ったままだな。これなら叩かれることはなさそうだ。

 

 これなら説明に集中できる。そう思って改めてクライスたちへと向き直ると朝から、というか昨日のお風呂上がりからずっと挙動不審なミランダと目が合った……瞬間逸らされた。

 

 え? 何? 俺何かやっちゃいました?

 

 いや、待て。落ち着け。まだ慌てるような時間じゃない。

 よくよく考えてみれば昨日男女で分かれるまでは普通だった。つまり俺は何もしてない。よし、解決……してないな。

 

 とはいえこのまま黙っている訳にもいかないので無理やり気を取り直して説明を再開する。

 

「今回教える技は俺が編み出したウォルフォード流の基礎であり奥義、そんな位置付けの技だよ」

 

 俺がそう口にすると、突然のばあちゃんの登場で困惑したような表情を浮かべていたクライスたちの表情が引き締まった。

 

 あ、ミランダもこっち見てる。

 今度は目が合っても逸らされない。

 

 よし、朝から、というか昨日のお風呂上がりくらいから心ここに在らず状態だったミランダも集中し始めてくれたようだしここからは俺も気合いを入れて技の伝授に集中しよう。

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