賢者の孫のお兄ちゃん(魔力無しVer.)   作:愛飢夫

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ウォルフォード流の真髄

「さて、さっきは『ウォルフォード流の基礎であり奥義』なんて大層なことを言ったけど、実は皆はもうその気になれば使える技なんだ」

「「「……は?」」」

 

 クライスたちは揃ってポカンと口を開いた。

 

「だって『基礎であり奥義』だよ? 一通りの基礎は既に叩き込んであるんだからお前らが使えてもおかしくはないだろ?」

「いや、しかし奥義……でもあるんだよな?」

「そこは『使える』のと『使いこなせる』のは違うってことで」

「あ、ああ……」

 

 この技の肝はそこにある。

 ウォルフォード流を学び、操気術を習得し、外気を纏えるようになったこいつらになら技は『使える』。

 しかしこの技はただ使えればいいという類の技ではない。

 最も効率的に、最も効果的に使うためには多くの修練と経験が必要なのだ。

 

 故に『基礎であり奥義』。というのは建前で、こうやって言っておけばそれっぽくてカッコイイ。

 それに「指導者として言ってみたい言葉ランキング」に間違いなく入る言葉だと思うのでここで言わなくてどこで言うってね。

 

「『技自体』はすぐにでも使えるけど、『技を完璧に使いこなせる』ようになるには時間がかかる……そんな技だよ」

 

 内心は別として、それっぽくなるようそう説明すると、クライスたちはゴクリと生唾を飲み込んだ。

 

「ねぇルカ、それはどんな技なの?」

 

 今までならこういう話になるといの一番に食いついてきていたミランダがここに来てようやく口を開く。

 その瞳はキラキラ輝いており、「一刻も早く使ってみたい」と思っているのがヒシヒシと伝わってくる。

 

「そうだね。一言で纏めると……」

「纏めると?」

「『魔法を斬る技』だよ」

 

 瞬間、沈黙が場を支配した。

 

「魔法を……」

「斬る……」

「……そんな事が可能なのか?」

 

 クライスたち3人は今にも「信じられない」と叫び出しそうな表情を浮かべているが、ミランダだけはさらに瞳を強く輝かせていた。

 

「どうやるの? ねぇ、どうやるの!?」

「はいはい落ち着いて。ちゃんと今から説明するから」

 

 いつもより俺から距離を空けて立っていたミランダだったが、これから伝授される技に興味津々のようで、いつもより勢いよくグイグイ来始めた。

 

 良かった、安心した。これでこそミランダだ。

 

「コホン……えー、まずは『基礎であり奥義』の基礎の部分なんだけど、皆はもう《外気》は使えるよね?」

「もちろん使えるわ!」

「うん。だったら武器に気を纏わせることは?」

「それも出来る!」

「はい。じゃあやってみて」

 

 俺がそう言うとクライスたち……いやもうこれミランダが代表っぽいからミランダたちにしようか。

 ミランダたちはそれぞれ武器を抜いて気を纏わせ始めた。

 

「これでいいの?」

「全員ちゃんと出来てるね」

「それで!? それで!?」

「それで新技の準備は完了だよ。お疲れ様でした」

「……えっ?」

「だから準備完了。後はこれをどう技に昇華させるかだけど……」

 

 おめめをパチクリさせているミランダたちに俺は気についての説明をする。

 

「実は気って魔力と反発する性質を持ってるんだ」

「魔力と……反発?」

「そう。だから気は魔法で打ち消せるし、逆に魔法は気で打ち消せる。この事に最初に気付いたのはシンなんだけど、2人で色々実験したり模擬戦したりしてるうちにその結論に行き着いたんだ」

「ああ……森の中で……」

 

 うん? なんだかミランダが知ってる風な顔をしてる。なんでだろう?

 

「ま、まぁだから《外気》をちゃんと纏っていれば攻撃魔法と打ち消し合うから魔法に込められてる魔力より纏っている気が多ければダメージを受けないし、反対に込められた魔力の方が多ければ《外気》を削り切られてダメージを受ける」

「……《外気》にもそんな効果があったのね」

「うん。だけど《外気》で防御すると魔法に込められた魔力と同量の《外気》を削られるから気の消耗がえげつない。だから気の消費を最低限に抑えるために編み出した技なんだ」

 

 10の魔力が込められた魔法を防ぐにはこちらも10の気を纏わなければならない。

 しかしこの世界の魔法は『自身の魔力』ではなく『世界中に漂う魔力』を利用しているらしいので魔法使いには魔力切れという概念は存在しない。

 

 とてもズルいと思う。

 

 だから一方的に気を削られるだけになってしまっては勝ち目が無くなるので、こちらの消耗を抑える技が必要になったのだ。

 

「1の気で10の魔力が込められた魔法をぶった斬る技……それがウォルフォード流の基礎であり奥義、真髄とも言える技《魔力破壊(マナ・ブレイク)》だ」

 

 ここが決め時と判断した俺がキリッとしたキメ顔で言い切ると、ミランダたちは噛み締めるように「《魔力破壊(マナ・ブレイク)》……」と呟いていた。

 

 決まった……!

 

「ということで早速練習に入ろうと思います。まずは魔法を防御する時にどれくらい《外気》が削られるのか体験してもらおうかな?」

 

 ミランダたちは仲間内での模擬戦や合同訓練での魔物狩りで順調に戦闘経験は積んで来ているけど、まだ実際に魔法を受けたことは無い。

 だから実際に体験するところから始めてみよう。

 

「体験って……魔法学院生の誰かに協力してもらうの?」

「昨日の時点ではとりあえずその状態で武器を振るう感覚だけ身に付けさせて魔法学院生たちの練習の時の的にしようと思ってたんだけど、今日はせっかくそこに暇そうな魔法使いが居るから協力してもらおうと思ってる」

 

 そう言って見学者席に座っているばあちゃんへと顔を向けると、いつの間にかパラソルとサイドテーブルをセットして椅子をリクライニングさせて優雅にジュースを飲んでいた。

 

 うん、思ってたよりもマジで暇そう。

 

「なんだい?」

「暇なんでしょ? 見学料代わりにちょっと手伝ってよ」

 

 俺がそう返すとばあちゃんは怪訝そうに眉を顰めるが、今に限っていえば正義は俺にあるはずだ。

 

 怖くない。決して怖くはないんだ。

 

「何を手伝って欲しいんだい?」

「魔法を受けたり斬ったりする訓練がしたいから魔法撃って欲しいなぁって……」

 

 ばあちゃんの眼力に負けそうになりだんだん尻すぼみになってしまったが、ちゃんと言い切ることができた。

 

「なるほどねぇ。だったらこれを貸してあげるよ」

 

 ばあちゃんは異空間収納を開いて中から1本の杖を取り出した。

 

「この杖に魔力を流せば直径30センチの火球が放てるからこの杖を使って練習しな。魔道具なら毎回同じ速度と威力の魔法が放たれるからその方が練習しやすいだろう?」

 

 魔道具を介して放たれる魔法は全て画一的なものになる。

 つまりばあちゃんの言うように速度や威力は全く同じで魔法の『核』も同じ場所にあるということだ。

 正確に魔法の核を斬り裂かないといけない《魔力破壊(マナ・ブレイク)》の練習をするにはこっちの方が効率が良さそうだ。

 

 元々『魔法はズルい』と考えているタイプの俺は自身で行う鍛錬や戦闘に魔道具を使うつもりはない。なぜならズルいから。

 しかし弟子を鍛えるためなら話は別。多少のズルをしても俺にはミランダたちを強くする義務があるのだから。

 

 ダブスタ? 何がいけないの?

 俺だって『俺はいいけどお前はダメ』って考えはダメだと思うけど、俺がやってるのは『俺はダメだけどお前はいいよ』なのだから責められる謂れは無いはずだ。

 

「いいの? ありがとう」

 

 自分の鍛錬には魔道具禁止を課している俺だが弟子の鍛錬に魔道具は便利。そう考える俺は素直にばあちゃんにお礼を言いながら杖を受け取り、先端をミランダたちに向けて構えた。

 

「え? ちょっとルカ、何して――」

「はい、ドーン!」

 

 俺には魔法使いの素養とやらが無いので魔法は使えないが魔道具を発動させることくらいはできる。なので容赦なくミランダたちへと魔道具をぶっぱなした。

 

 ふむ、一撃の威力を程々に抑えて連射性能を上げているのか。この練習には最適だな、さすがばあちゃん!

 

「クソッ! どうすれば……」

 

 クライスは驚き戸惑っている。

 

「回避、回避ー!」

 

 ノインは逃げ出した。しかし(動きを先読みした俺の魔法に)周りを囲まれてしまった。

 

「盾……持ってない……」

 

 ケントは慌てて背中に手を回すが、そこに盾は存在せず呆然と立ち尽くしている。

 

「皆しっかりして! ルカの言葉を思い出して!」

 

 そこにミランダの叱責が響き渡る。

 

「ルカは『魔法は外気で防げる』って言ってた! 『体験させる』とも! だから急いで外気を纏って!」

「「「お、おう!」」」

 

 外気を纏いつつ指示を出すミランダに続いてクライスたちも慌てて外気を纏い始めた。

 

 割とギリギリのタイミングだったので、当たってダメージを受けたらそれはそれだと思っていたのだが、すんでのところで外気が間に合い俺の持つ杖から放たれた火球はミランダたちの外気により掻き消された。

 

「……せめて一言『やる』って言ってから撃てばいいのに」

「戦場では相手は待ってくれないからね。魔物を相手にするならともかく、これからミランダたちが相手にするのは意思ある魔人なんだから不意打ち闇討ち何でもござれでしょ?」

「だからと言って……まぁいいさね。アタシにゃ騎士のことは分からないからあまり口は出さないでおくよ」

 

 ばあちゃんは何か言いたそうな顔をしているが、言葉を飲み込んだ。

 多分騎士として意思ある魔人と戦う俺たちに対して魔法使いの自分が口を出すのはよろしくないと判断したのだろう。お墨付きをゲットできた気分だ。

 

「おいルカ! いきなり撃つなんて酷いじゃないか!」

「そうだそうだ! せめて一言あって然るべきだろうが!」

「……修練方法の改善を要求する!」

「ちょっと! やめなよ!」

 

 クライスたち男衆がいつもの様にギャーギャー騒ぎ始めたが、すぐにミランダが一喝して黙らせた。

 

「アタシたちはこれから意思ある魔人と戦うことになる可能性が高いんだ。意思があるってことは頭を使って来るってこと……だったら不意打ちを仕掛けてきたり最悪闇討ちしようとしてくるかもしれないんだよ? それなのに魔法を発動できる魔道具を持ったルカの前で油断してる場合じゃないでしょう?」

「うぐっ……」

「アタシは魔人が相手でも『ルカの隣で戦う』って決めてるんだ! そんなフワフワした遊び感覚で参加してるなら鍛練の邪魔だから帰りなさいよ!!」

 

 ミランダの絶叫を聞いたクライスたちは絶句した。

 

「……ルカ」

「何? ばあちゃん」

「あそこまで言わせたんだ、責任取りな」

「何の!?」

 

 いや、そりゃ魔人との戦いで戦果を挙げられるくらいには強くするつもりだけど……それで責任を果たしたことになるのかな?

 

「ミランダ……」

「その……」

「……すまなかった」

 

 その後、なんやかんやあって「死ぬ気で頑張る!」と宣言した男衆に向けて魔道具を使って発動させた火球をマシンガンのように連射すると、クライスたちはギャーギャー騒ぎながら死ぬ気で逃げ惑っていた。

 

 魔道具……楽しい。これはこれでアリかもしれない。

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