午前中いっぱいを《
「俺たちは実際に魔法を使う『魔法演習』をするけど、ルカ兄たちはどうするの?」
「的になる」
「的にって……あの時言ってたアレ、マジだったの?」
俺たちの午後の予定を聞いてきたシンが呆れたような表情を浮かべているが、もちろんマジである。
「そっちとしても的があった方が練習しやすいだろ? こっちとしても魔人の魔法に対処する練習になるんだからウィンウィンだよ」
「そうかもしれないけど……怪我したらどうすんのさ」
「その時は回復魔法の練習をすればいいと思う」
「スパルタだねぇ……」
普通に騎士として強くなりたいだけならここまでやらないけど、魔人と戦うのであればどこまでやってもやり過ぎってことは無いと思うんだ。
「まぁミランダたちは外気もしっかり纏えるから研究会メンバーの魔法でミランダたちの外気を貫けるのかって問題もあるよ」
「ほぅ……つまりルカは『私たちの魔法の威力が低い』と言いたいのか?」
シンと午後の鍛錬内容について話していると、そこにオーグも入って来た。
「別にそこまで言う気はないけど……でも実際シンより弱いよね?」
「お前、それは卑怯じゃないか? それを言うならロイドやウォーレスたちはお前よりも弱いだろう?」
「ミランダにはこの前負けたけどね」
あれは不覚を取ったと言わざるを得ない。
でもあれはしょうがない気がする。男なら誰だって負けるだろあんなの。
えっちなのはいけないと思います!
「それは……まぁそうだが……」
「研究会のメンバーでシンに勝てるやついるの?」
「……クロードがあの時のウォーレスと同じことをすれば」
「それはシンの負けだね」
というかシンの場合別にシシリーさんに限らなくとも女性メンバーが同じことをすれば全敗すると思う。だってこいつ女性に対して免疫無いんだもん。
「なぁ、それって今必要な話か?」
「必要か不必要かと言うと……」
「間違いなく必要だな。我々にもシンに対抗する手段は必要だ」
「いや、俺を止めるならシシリーに頼まなくてもルカ兄を向かわせたらいいんじゃない!?」
「お前が暴れてるところに俺が突入したらお前ゲートで逃げるじゃん」
「確かにルカ兄が刀振りかぶって走ってきたら思わず逃げるけど……」
これがあるから俺はシンに勝てないのだ。
いくら走って距離を詰めてもゲートで距離を離されたらまた1からやり直し。
エンドレスでやられるとさすがの俺も気が尽きる。
「だから俺じゃなくシシリーさんを突入させる」
「それはマジで危ないからやめて欲しい。切実に」
「だったら別バージョンで俺がシシリーさんをお姫様抱っこしてシンとは反対方向に逃げるってのもあるけど」
「あれ? 暴れる俺を止める話じゃなかったの?」
「ふむ、ルカがクロードを担いで逃げればシンなら追いかけてくる……わざと追いつかせてクロードが足止めしてる間にルカがシンを攻撃する作戦か?」
「オーグ正解!」
ハナマルあげちゃう!
「それ、俺死ぬんじゃ……」
「左腕だけは残してあげるからあとは自力で治してね?」
「やだよ! てか俺はルカ兄みたいな単細胞じゃないんだからそもそも暴れねーよ!」
「なんだとゴラァ! 喧嘩売ってんのか!?」
「今の流れで俺が悪いの!?」
「いい加減にしろ。話が進まん」
「「お前のせいだろ!」」
あ、久しぶりにシンとハモった。
「ふむ、まぁいい。それで……騎士学院生たちは我々の的になることには同意しているのか?」
「午前中いっぱい練習したから大丈夫」
「いや、同意は?」
「ミランダは3回に1回、クライスたちは大体5回に1回魔法斬れるようになったから大丈夫」
「だから同意……分かった。取ってないんだな」
取ってないよ。取ってないけど午前中ミランダに怒られてやる気満々になってるから否は無いよ。
「はぁ……分かった。お前の弟子のことだからこれ以上は何も言わん。それではそろそろ始めるか?」
「そうだね。まぁオーグたちの魔法でミランダたちに怪我させられることをお祈りしておくよ」
「……その挑戦、受けて立とう。必ず私たちの魔法で怪我をさせてやる」
「その発言王子様的に大丈夫?」
「……」
はい、論破。
「ルカ兄、性格悪すぎない?」
「普段やり込められてばかりだからこういう時にやり返さないと」
一応割り切ったし、勝手に帝国民レスキューしたりはしてるけど、帝国にカチコミかけようとしていたのを止められた恨みもあるからね。
「クソッ……ルカに揶揄われるなんて一生の不覚だ」
「ふふん!」
「オーグはオーグで大袈裟だし、ルカ兄もルカ兄でこれ以上煽らないでよ」
その後、呆れたシンの執り成しで俺とオーグはお互いいい笑顔で握手を交わして仲直り。それからすぐに研究会メンバーによる魔法演習と俺の弟子たちの《
俺が魔道具で火球を連射していた時には悲鳴をあげていたクライスたちも慣れたのか、それとも女子が多い研究会メンバーに恥ずかしい姿は見せられないと頑張っているのか必死な顔で悲鳴を噛み殺しながら飛んでくる魔法を斬ったり避けたり防いだりしている。
ふむ、動機はどうあれ本気になるのはいい事だ。
その証拠に俺との練習では5回に1回程度しか成功していなかった《
まぁミランダはミランダで集中力のギアを一段上げたのか、5回中4回は《
というかミランダの習熟早くない? 成長速度どうなってんの? もしかして『獲得経験値3倍』みたいなチート持ってるの?
可愛くてスタイル良くて強くて真面目で才能あるってどこの転生主人公ですかね?
なんかもう一周まわってここは剣と魔法のファンタジー世界じゃなくてミランダが主人公の乙女ゲームの世界なんじゃないかと思えてきた。
そうなると攻略対象は正統派イケメン王子様なオーグ、脳筋枠ユリウス、知的ショタ枠トールとかになるのかな?
そうなるとあとは幼馴染み枠と大商人枠かな? だとすればどちらにも該当しない俺はミランダが主役の乙女ゲームだとまさかのモブ?
いや、全ルート攻略したら解放される隠しキャラ枠ならワンチャンあるのか?
逆転の発想で騎士学院成績上位者が攻略対象パターンを考えてみるが、俺含めクライスたちには婚約者どころか恋人すら居ないので必然的に悪役令嬢が存在しない。
なのでやはり攻略対象者は魔法学院生なんだと思う。
そんなことを考えつつ必死で武器を振るうミランダたちを眺めていると、ノインの気が枯渇しかけていることに気がついた。
このままだと今纏っている《外気》が削られても補充する事が出来ずに近いうちに魔法を相殺出来ず吹き飛ばされることになるだろう。
「うわぁぁぁあああ!!」
「あっ……」
ノインの気が枯渇する前に俺の気を注入して補充するかあえて吹き飛ばされてから補充してやるかどちらにしようと考えていると、運悪く前方数メートル地点に着弾した魔法の余波を受けてノインは数メートル吹き飛び地面を転がった。
「いてて……」
「大丈夫?」
ノインはすぐに立ち上がり埃を払っていたが、気をかなり消費しているためかかなりだるそうだ。
「あー、身体はやけに重いけど、怪我とかはしてねーよ」
「身体が重いのは気を使いすぎたからだね。補充するからちょっと動かないで」
自分の体内で練り上げた気をノインの身体に流し込む。
うん、思った通りかなり減ってるな。2割くらいしか残ってない。
「おー、身体が軽くなった」
「かなり消費してたからね。とりあえずこれで満タンだから第2ラウンド行ってこい」
「ちょっとくらい休んでも……」
「ミランダに言いつけるよ?」
「鬼! 悪魔!」
余程ミランダにチクられるのが恐ろしいのか、ノインは半泣きで魔法が雨のように降り注ぐ荒野へと駆けて行った。
絶望的にかっこ悪いな。やっぱりノインたちは攻略対象者ではなさそうだ。
「うん、皆魔法の起動も早くなってるし、威力もかなり増してきてるね。とりあえず今日はこれくらいにしようか」
そうして時折吹き飛ばされる弟子たちに気を注入して送り出すことを繰り返していると、シンが魔法演習の終了を告げた。
「ぜぇ……ぜぇ……」
「はぁ……はぁ……」
「……うっぷ」
シンが終了宣言をした事で今まで雨のように降り注いでいた魔法が止まり、クライスたちはその場に崩れ落ちている。
さすがに限界か。まぁクライスに3回、ノインとケントには4回も気の注入をして訓練を続けさせたのだからそれも当然か。
「アンタたち情けないわね」
「いや、むしろなんでミランダはピンピンしてるんだ!?」
「志が違うのよ!」
ドヤ顔のミランダを前にクライスたちは困惑しているが、ミランダの言っていることは何も間違ってはいない。要は『気の持ちよう』なのだから。
「お前たち、怪我はしていないか?」
そのことを説明し、精神を鍛える大切さを説いていると研究会メンバーを引き連れたオーグがクライスたちに声を掛けた。
「殿下!」
「畏まる必要はない。それより怪我は無いのか?」
クライスたちが慌てて膝を着こうとするのを押し止め、再度オーグが問い掛けるとクライスたちは自分の身体を確認し始めた。
「大丈夫です。地面を転がった時に少し擦りむいた程度です」
「そうか。回復魔法は必要か?」
「いえ、これくらい唾をつけておけば――」
「んじゃ回復魔法が苦手な人にお願いしようかな」
魔法での治療を断ろうとするクライスに言葉を被せる。
「ルカ……」
「例え軽傷でも怪我は怪我。せっかくなんだから回復魔法の実験台になってやれよ」
「実験台というのはどうかと思うがルカの言う通りだ。良ければ回復魔法の練習をさせて欲しい」
「そういうことなら……」
クライスとノイン、ケントはそれぞれ怪我をした場所を研究会メンバーに見せ始めたが、ミランダだけはその場から動かなかった。
「ウォーレスは女性メンバーに診てもらうといい」
「あ、いえ……アタシは怪我をしていませんので」
「む? そうなのか?」
ミランダも何度か魔法の余波を受けて吹き飛ばされてはいたけど、毎回空中で身体を柔らかく使ってネコ科の動物のように身体を捻って足から着地していたので地面を転がってはいなかったため擦り傷などは負っていない。
俺も武術家としてそれなりに身体が柔らかい方だとは思っているがミランダの柔軟性には敵わないだろう。
「はい。ですので回復魔法の練習台が必要であればすぐに傷を作りますので少々お待ち頂けますか?」
「いや、そこまでする必要は無い。あくまで訓練で負った傷で練習したいだけでわざわざ傷を作ってもらうつもりはないからな」
「俺はシンの練習の為に切り傷を作りまくったけど」
「……そうなのか?」
「弟が回復魔法の練習をしたそうにしていたら弟の練習の為に傷を作るのが兄心だよ」
「それは絶対に違うと思う」
話を聞いていた全員がドン引きしてるけど、お兄ちゃんならそれくらいして当たり前なんじゃないの?
それからクライスたちの傷を魔法で癒した後、シンの魔法実験が行われたのだが、えげつない威力の爆発魔法を使ってばあちゃんに怒られていた。