賢者の孫のお兄ちゃん(魔力無しVer.)   作:愛飢夫

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濡れ衣を着せられそうになりました

 翌日、シンがシシリーさんのご両親に交際開始の報告をしに行っている間に俺はオーグの妹を紹介されていた。

 

 そういえば昨日俺たちが玄関ホールにやってきた時にはオーグの妹はばあちゃんに手を引かれて退場している最中だったし、夕食の時は目の前に並んだ温泉たまごに釘付けだったので存在を忘れかけてたよ。

 

「メイ=フォン=アールスハイドです! アウグストお兄様の妹です! ルカお兄ちゃんって呼んでもいいですか?」

「初めまして……でいいのかな? メイ姫様、俺はルカ=ウォルフォードです。オーグからはシンのことも『シンお兄ちゃん』って呼んでるって聞いてるからもちろん構わないよ」

 

 オーグから「妹のことも従姉妹のように扱ってやってくれ」と言われていたのでお貴族様相手の口調は使わないがさすがにいきなり呼び捨てやちゃん付けはどうかと思ったので妥協して「姫様」と呼んでみたのだが、当の本人は不服そうだ。

 

「姫様はイヤです。メイって呼んでください!」

「そう? じゃあメイちゃんって呼ぶね」

 

 俺が頷くと、メイ姫様はとても嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。

 

「はいです! ルカお兄ちゃん、よろしくです!」

 

 メーーーーイちゃーーーーん!!

 

「うぐっ……」

「どうした?」

「メイちゃんの純粋無垢な笑顔で俺の中の何か汚い部分が浄化されたような気がする」

「お前は何を言ってるんだ?」

 

 汚い大人は無垢な幼子の笑顔で綺麗な大人に進化出来る可能性があるんだよ。ちょっと進化しちゃいそう。

 毎日この笑顔に照らされれば間違いなく俺は綺麗な大人に進化してしまうことだろう。

 

「持って帰っていい? ウチの子にしたい」

「む……」

 

 俺がそう発言すると、周囲の空気が凍りついた。

 

「えっ……?」

「もしかしてルカって……」

「……小児愛好者なのだろうか?」

 

 クライスたちが小声で話しているが、そういう事じゃない!

 

「ルカ」

「ミ、ミランダ……?」

 

 周囲からの視線のあまりの冷たさに困惑していると、完全に表情を失ったミランダにガシッと肩を掴まれた。

 

「これ以上罪を重ねる前に自首しましょう? それともひと思いにアタシが斬ってあげようか?」

「待って! 違うから!」

 

 ちょっと! この娘目がガチなんだけど!?

 今ってオーグの妹を紹介してもらってほのぼのするパートじゃないの!? なんでこんな修羅場みたいになってんの!?

 

「つまり……ルカはメイを妻に迎えたいということか?」

「違う! そうじゃない!」

 

 どうしてそうなるの!? 俺はロリコンじゃない!

 仮にロリコンだったとしたら近くに成人した合法ロリが居るんだからそっちにいくわ!

 そもそも俺の好みは『守ってあげたくなるようなか弱い女性』じゃなくて『肩を並べて共に戦える強い女性』なんだから正反対なんだよ!

 

「ルカ、もう諦めよう? 潔く腹を切ろう? 介錯ならしてあげるから。ね?」

「だから違うんだってぇ……」

 

 ミランダは何故か慈愛に満ちた笑みを浮かべながらそんな提案をしてくるが、顔と発言内容が乖離しすぎてて恐怖しか感じない。

 

「ならば何が違うのかを説明しろ。お前はほかに好いた女でもいるのか?」

「お前……分かって言ってるだろ?」

 

 俺とミランダのやり取りを見てオーグが横槍を入れてくるが、真面目な声に反して顔はニヤけきっている。

 

 コイツ……全部分かっててわざとやってるだろ。

 

「なんの事だ? 私にはさっぱり分からんな」

「はぁ……もういいよ。俺がメイちゃんをウチの子にしたがってたのは妹が欲しかったから。それ以上でもそれ以下でもないよ」

「そうなのか? しかしお前には弟が居るだろう?」

「弟は可愛いけど、妹って格別じゃん?」

「私には弟は居ないから弟の可愛さは分からんが……お前はシンのことを可愛いと思っているということか?」

「むしろあんな可愛いシンをお前は可愛くないと思ってるの?」

 

 どうやらオーグはシンの可愛さが分からないらしい。

 これはオーグが理解するまで『シンの可愛いポイント』を語り続けるしかないだろう。

 

 えっとまずは――

 

「ルカ兄やめてよ……なんだかいたたまれない」

 

 まずは1歳時点で意思の疎通が出来ていたところから始めようと口を開きかけた瞬間、いつの間にやら俺の背後に立っていたシンに止められてしまった。

 

「あれ? シン、居たんだ」

「居たよ? 割と最初の方からずっと居たよ? ルカ兄は可愛い弟がすぐ近くに居たのに気付かなかったの?」

「ごめんて……皆からの視線が冷たすぎて動揺して気配が読めてなかったよ」

「まぁいきなり『メイちゃんをウチの子にする!』なんて言い出したらそりゃああなっても仕方ないだろ」

「なんでだよ」

 

 なんかもう汚い大人なのは俺じゃなくてコイツらな気がしてきた。

 お前ら全員メイちゃんの笑顔で浄化されてしまえよ。

 

「ルカお兄ちゃんはお兄ちゃんです。だから私はルカお兄ちゃんのお嫁さんにはならないです!」

「え? あ、うん。はい……」

「「「……」」」

 

 え? なんで俺がメイちゃんにフラれたみたいになってんの?

 

「ルカ」

 

 皆から向けられるなんとも言えない視線の圧力に屈して思わず膝をつきそうになっていると、1人だけ穏やかな微笑みを浮かべていたミランダに声を掛けられた。

 

「さすがに可哀想だから後で思い切り模擬戦に付き合ってあげる。だからそんなに落ち込まないで」

「ミランダ……ありがとう」

 

 さすがは乙女ゲームの主人公ミランダ、気遣いスキルが半端ない。

 

「茶番は終わったか? ならばさっさと訓練を始めるぞ」

「誰のせいだと思ってるんだ……」

 

 それから俺たちは「訓練を見学したい」と言い出したメイちゃんと悪役令嬢(仮)さんと共にシンの《ゲート》で荒野へと移動して本日の訓練を開始した。

 

「俺たちは昨日と同じように《魔力制御》の練習をするけど、そっちは何するの?」

「模擬戦する」

 

 ミランダは「付き合う」と言ってくれたので言葉通り付き合ってもらうが、クライスたちは俺をロリコン扱いしやがったので難易度インフェルノで相手をしてやろう。

 

 ちなみに俺の設定している模擬戦難易度は下から順にベリーイージー、イージー、ノーマル、ハード、ベリーハード、ヘル、インフェルノ、インポッシブルとなっている。

 なので難易度インフェルノは割とガチな俺との模擬戦ということになるのでクライスたちの生命は今日で終わってしまうのかもしれない。

 

「分かった。じゃあまた昼休みに入る時に声掛けるね」

「あんまり遅くなると俺をロリコン扱いしたクライスたちが死んじゃうかもだからなる早で頼むね」

「「「おい!」」」

「……まぁ程々にね?」

「回復魔法の練習いっぱい出来るようにしとく」

「本当に程々にね?」

 

 結局可愛いシンの顔に免じて難易度をハードモードまで下げて心ゆくまで模擬戦を繰り返した。

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 その後昼休憩を挟み、午後の訓練も昨日と同じく研究会メンバーは『魔法演習』を、ミランダたちは『《魔力破壊(マナ・ブレイク)》習熟訓練』を行い、いい感じの時間になったので俺が勝手に本日のメインイベントだと思っている『シンの魔法実験』の時間になった。

 何故メインイベントなのかというと、昨日シンが使った《指向性爆発》の魔法がとても面白かったから。

 

 俺には『どうやって思い付いたのか』や『どんなイメージをしているか』などは興味無い。

 どうやったらあの魔法をぶった斬れるかを考えるのが楽しいのだ。

 

 そんな訳で今日はどんなびっくり魔法が見られるかとワクワクしながらシンが魔法を使うのを待っていたのだが、どうやら俺以外のメンバーは期待感より不安の方が大きいらしい。

 いつでも《魔力障壁》を展開して自分と魔法を使えない俺の弟子たちを守れるように構えている。

 

 あの……俺の近くには誰も居ないんですけど、俺のことは誰も守ってくれないんですかね?

 

「あのさ……今回のはそんなに危なくないから……」

「……本当か?」

「……攻撃魔法じゃないから」

 

 え? 攻撃魔法じゃないの? なら何魔法?

 

「そうか、なら大丈夫か」

 

 シンの言葉を聞いた皆は警戒を緩めた。

 

 しかし攻撃魔法じゃないなら何を使うつもりなのだろう? もしかして召喚魔法?

 

「……じゃあ始めるね」

 

 そう言ってシンは屈み、足元に転がっていた拳大の石を手に取った。

 

 あの石が『触媒』というやつなのだろうか? あの石にあれをこうしてソイヤッとしてドラゴンを召喚するのだろうか?

 

 興味は尽きない。期待に胸が高鳴る。

 

「おいおい……本当に大丈夫なのか?」

「集まっている魔力の量が尋常ではないですね」

「ほ、本当に危なくないんでしょうか!?」

 

 魔法を扱えない俺には『なんとなく首筋がピリピリするなぁ』くらいにしか感じないのだが、研究会メンバーたちはシンが集めている魔力の量に驚いている。

 まぁ俺の首筋がピリピリするということはあの量の魔力を攻撃魔法に変換してぶっぱなされると俺が死んじゃう威力になるということなので驚くのも無理はない。

 

「お、やった! 成功だ!」

 

 完全に《召喚魔法》だと思い込んでいたのでいつドラゴンが現れるかとワクワクしながら見守っていると、急にシンが嬉しそうに声を上げた。

 

 え? ドラゴンは?

 

「よし、じゃあ次は……」

 

 持っていた石が小さかったので手乗りドラゴンでも召喚したのかと思ったが、シンの手元にそのような気配は感じられない。

 

 ――シンは一体何に成功したのだろう?

 

 そう思って見ていると、シンの身体が徐々に宙に浮き上がり始めた。

 

「おい……なんだこれは……」

「シンくんが……宙に浮いてます……」

「え? あれって……シュトロームが使っていたやつよね?」

「あの時のシン殿の口振りでは《浮遊魔法》は使えなかったハズですが……」

「もう開発しちゃったのかい……」

「相変わらず魔法の常識知らずで御座るな」

 

 なるほど、《浮遊魔法》か。

 

 確か5歳だったか6歳だったかの頃、俺とシンは『空を自由に飛びたいな』を合言葉にアレコレと実験していた時期があった。

 もちろん俺は気で、シンは魔法で空を飛ぶ事を模索していたが、当時は何一つ成功しなかった。

 

 全身を多量の気で覆ってその気を操って上空に飛ばせば覆われている俺も飛べると思って実行したら覆っていた気だけが飛んで行ってしまったのはいい思い出だ。

 まぁその気に引っ張られるように俺の体も数センチだけ浮いたのだが、1秒もしない内に無事着地を果たしたのであれは成功とは呼べないだろう。

 シンも俺と同じように集めた魔力をそのまま操ってみたり、突風を起こして風に乗って空に舞い上がろうとしていたが、その悉くが失敗に終わっていた。

 まぁそこから着想を得て『ジェットブーツ』を作っていたので俺とは違って得るものはあったみたいだけど。

 

「ふむ……」

 

 しかし今、シンは宙に浮かび前後左右上下、自由自在に飛び回っている。

 見たところ『宙に浮く』のと『飛び回る』のを別々の魔法でやっている感じなのだろう。

 

 別々の事柄を組み合わせて新たな事象を発生させる……

 

 うん、ちょっと面白いこと思いついた!

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