昼の訓練を終えてクロード屋敷に戻り、まだ夕食まで時間があったので庭の片隅を借りてミランダたちと軽く筋トレしたり《練気》をしたりして過ごしていると、急に屋敷の玄関ホール辺りが騒がしくなった。
「急にどうしたのかしら?」
「いきなり気配が増えたからシンがシシリーさんのお父さんを連れて帰ってきたんだと思うよ」
「わかるの?」
「この屋敷内くらいなら余裕だよ。ちなみに増えた気配は3つだね」
「3つ? えっと、ウォルフォードくんとシシリーのお父さん……あと1人は?」
「ディスおじさん」
ディスおじさんの気配は覚えているので間違えることは無い。
「……誰?」
「この国の王様だよ」
「陛下が来ているの!?」
「あの人フットワーク軽いから。シンの婚約披露パーティとなれば何を置いても参加するだろうね」
森に住んでいた時には月に一度か二ヶ月に一度くらいの頻度で来ていたが、王都に引っ越して来てからは大体3日に一度ペースで遊びに来るくらいにはフットワーク軽いよ。
「まさか陛下が来られるなんて……」
「いくら賢者様と導師様の孫だからって……」
「……信じられん交友関係だな」
クライスたちも何やら青い顔をして呟いているが、ディスおじさんはディスおじさんだから仕方ない。
「まぁあの人は親戚のおじさんポジだからね。そりゃ来るでしょ」
「常識的に考えて国王陛下を親戚のおじさん扱いはどうかと思うの」
「常識って育った環境で変わるものなんだよ」
なんかもう「世間知らず」とか「常識知らず」とか言われ過ぎて割とどうでもよくなってきてるんだよね。
最近では俺がズレてるんじゃなくて世間の方がズレてるんだと思うようになってきている。
世界よ、俺に従え!
「ミランダ、ルカに関してはもう何も気にしないと決めただろう?」
「考えたら考えただけ泥沼にはまるぞ」
「……そういうものだと思って流しておくのが正解だ」
「皆ルカに毒されてない? 陛下よ?」
「「「ルカだから仕方ない」」」
「お前らさぁ……」
そもそも今回ディスおじさんが来たのは俺のせいじゃなくてシンのせいだからな?
「……何にせよ陛下をお待たせする訳にはいかないんだし、早く屋敷に戻った方がいいんじゃない?」
「そうだな。いくらルカが居るとはいえ俺たちが陛下をお待たせするなんて恐れ多い」
「俺たちこれから陛下にお会いするんだよな? やべぇ、めちゃくちゃ緊張してきた……」
「……まさか俺たちのような学生が陛下にお目通りが叶うなんて想像もしていなかったな」
4人は緊張しているのか顔を引きつらせながら立ち上がっているが、別にそんな緊張する必要は無いと思う。
「皆緊張し過ぎじゃない? ディスおじさんは親戚のおじさん扱いされて喜ぶ人だから皆も普通に接してみたらいいと思うよ。皆も『ディスおじさん』って呼んでみれば?」
「「「出来るか!」」」
「ですよね!」
言ってみたらいいとは思うけど、さすがにそれが無理なことくらい俺でも分かる。
俺だって最初からディスおじさんが王様だって知ってたらおじさん呼びはしなかった。
「そんな提案をしてくるなんてやはりルカには常識が足りてないな」
「冗談じゃん」
「普通は陛下に絡めた冗談なんて言えないんだよ!」
こうして俺はクライスたちに小言を言われながら借りている部屋へと戻り、ちゃんとした場に参加するため制服へと着替えてシンの婚約披露パーティが開かれる食堂へと移動した。
◇◆
「おお、ルカくん。遅かったね」
「やっほーディスおじさん、なんだか久しぶりだね」
「久しぶりって……合宿の出発前に会ったばかりじゃないか」
婚約披露パーティの会場である食堂に足を踏み入れると、そこには既にディスおじさんが待っていた。
あれ? ディスおじさんって王様だよね? なんで俺たちより先に来てスタンバってるの?
こういうのって俺たちが先に入ってから満を持して王様登場とかそういう流れなんじゃないの?
「まさか陛下をお待たせしてしまうなんて……」
「土下座したら許してもらえるかな……」
「……土下座じゃ足りないんじゃないか? ここは誠意を見せるために指を詰めるか腹を切るかだと思う」
ほら、クライスたち真っ青になってるし。
あとケント、そんなことしなくてもディスおじさんなら「ごめんね」って謝れば大抵の事は許してくれるよ。
「皆落ち着いて。ルカが慌ててないんだからきっと大丈夫よ」
ケントたちはなにやら錯乱しているが、どうやらミランダだけは冷静なようだ。
どうやら俺のことを信頼してくれているらしい。友達として、そして師匠として嬉しいね。
だったら俺はその信頼に応えよう。
「後ろの子たちはルカくんの友達かい?」
俺がそんな決意をしたタイミングでディスおじさんがのほほんとした様子で話し掛けてきた。
よし、返事をする前に指摘してやろう。
「そうだよ。でも紹介する前にひとついい?」
「ん? なんだい?」
「なんでディスおじさんが先に入っちゃってるのさ?」
「……え?」
俺がそう指摘すると、ディスおじさんの目が点になった。
如何にディスおじさんがイケオジだったとしてもその表情は可愛くない。
「ディスおじさんって一応王様なんでしょ? 王様が俺たち平民より先に入室して待ってるのって常識的に考えておかしくない?」
「お、おいルカ……」
クライスがオロオロしながら俺を止めようと肩に手を置いてきたが、今は攻める時であるので無言でその手を払い除ける。
「む、むぅ……」
「王様ってことはこの国で一番偉い人なんでしょ? だったら『国王陛下のおなーりー!』みたいなアナウンスがあってから満を持して偉そうに出てくるべきだと俺は思うよ?」
「い、いや……普段の謁見ならそうするのだが、今日はシンくんの婚約披露パーティだろう? だったら主役は私ではなくシンくんなのだから私が先に部屋に入って待つのもおかしくはないだろう?」
「む……」
どうしよう、正論で返された。
「……父上、いくらシンとクロードが主役とはいえ父上が先に入室して待つのは如何なものかと」
「アウグスト……お前もか」
「今回に限っては奇跡的にルカの方が正論ですので」
「そう……だな。今回は珍しくルカくんの意見が正しいな」
「はっ倒すぞコノヤロウ!」
命に関わる《
「おいルカ! いくらなんでも陛下と殿下にそれは無いだろう!?」
「そうだぞ! 今謝れば許してくれるかもしれないんだからすぐに謝れ!」
「……土下座をするなら一緒にしてやる」
「それとも切腹する? それなら介錯はしてあげるわよ」
お前らさぁ……
「はっはっは! 分かった、次からは気を付けよう」
「父上、次とは?」
「そんなの決まっているだろう。ルカくんの婚約披露パーティだよ」
「えっ?」
俺の婚約披露パーティ? そんな予定はないよ?
「アンタたち、何を騒いでいるんだい?」
俺と俺の傍らに立つミランダを交互に見てニヤニヤしているアールスハイド父子の息子さんに《
「ば、ばあちゃん……」
「はいばあちゃんですよ。で、何を騒いでいたんだい?」
「べ、ベツニナニモ……」
笑顔のばあちゃんが一番怖い。このことを骨の髄まで叩き込まれている俺は全身冷や汗ダラダラになりながらも爽やかな笑顔で「何もしていない」と弁明を試みる。
というか今回俺は何も悪くないと思うんだ。
悪いのはオーグとディスおじさんだよ。大体ニヤニヤしている奴が悪いんだ。
「まぁ今回に限ってアンタは間違ったことは言ってないね」
「でしょう?」
よし、ばあちゃんからのお墨付きゲットだぜ!
これなら怒られる心配は無いな……無いよね? 誰か無いと言ってくれ。
「ただ、暴力に訴えようとしていたことは頂けないねぇ」
「いや……その……ち、違うんです! 誤解なんです!」
ばあちゃんは俺が言っていた事自体は間違っていないと太鼓判を押してくれたが、その後の指ポキに対して説教をするつもりらしい。
どうにか言い逃れをしなければ……って無理か。今まで言い逃れ出来たこと一度もないし。
「何が誤解なんだい? アタシにも分かるように説明しな」
「えっと……あの……その……違うんです」
「何が違うんだい?」
「えっと……えっと……」
全身冷や汗まみれになりながらも新たに編み出した奥義《
もしかしてこれは大チャンスなのでは?
こんな危険な場所に居られるか! 俺は先に部屋に戻らせてもらう!
転職したばかりでバタバタしてました
おちんぎんはまだ頂いてないけど仕事内容はかなり楽になりました
ただ待機時間がほぼ存在しない……書く時間が……