とはいえ最愛の弟の婚約披露パーティを欠席する訳にはいかないので、ばあちゃんの意識が逸れたタイミングで隣に居たミランダの手を掴んでこっそりと移動を開始する。
「えっ?」
「しっ! 静かに! バレちゃうから!」
急に手を掴まれた事に驚いたのか、ミランダが声を上げたので慌てて静かにするように伝える。
「ご、ごめんなさい。でもルカがいきなり手を掴むから……」
「たまたま隣に居たもので」
今までばあちゃんの説教から逃げ切れた事が無いもので。
いきなりのチャンスにちょっと不安になって思わず掴んじゃったよ。
決してミランダだから手を握ったわけではない。隣に居たのが仮にクライスかノインだとしても俺は手を掴んでいたと思う。
ケントに限っては俺より明らかに縦も横も大きいので手を掴むのではなく背中に隠れただろうけど。
「えっと……」
「今までばあちゃんの説教から逃げられた事は無いんだ。こんなチャンスも初めてでちょっと不安だからミランダが嫌じゃなければこのまま手を握らせて欲しい」
自分が主に刀剣類を扱うからかは知らないけど、不安になった時利き手に何か握ってたら安心感があるんだよね。
「べ、別に嫌ってわけじゃ……」
ミランダはおめめバタフライ状態になっているが、ハッキリと「嫌ではない」と言ったのでそのまま俺とミランダの気配を消して危険地帯からの脱出ミッションを開始した。
◇◆
「皆グラスは行き渡っているか? それでは、我が友マーリン殿とメリダ殿の孫のシンくんとクロード子爵家のシシリーさんが恋人になったお祝いと婚約披露パーティを始めよう」
「ディセウム、ちょいとお待ち」
こっそりとばあちゃんから離れ、参加者の中でケントの次に体の大きいユリウスの背後に隠れ気配を消しながらも拍手をしていると、この中でというかこの国で一番偉いディスおじさんがパーティの開幕を宣言したがばあちゃんにストップをかけられた。
王様の言葉を遮るなんてばあちゃんはやはり半端ない。もしかしたら王様よりも偉い女帝か何かなのだろうか。
「はい? なんでしょう、メリダ師」
ディスおじさんもディスおじさんでなんで普通に対応してるんだろうね?
王様なんでしょ? もっと頑張れよ。
「アンタが宣言すると正式にこの子たちが婚約者になっちまう。それは大変喜ばしい事なんだけど……クロード夫妻」
「はい!」
ばあちゃんに呼ばれたシシリーさんのご両親がいい声で返事をする。
だからなんでばあちゃんは王様やお貴族様より偉そうなんだよ。
俺にはもうばあちゃんの立ち位置が分かんねぇよ……
「アンタたちに話しておかないといけない事がある」
そんなアホな事を考えていたのだが、ばあちゃんの顔にはなにやら悲壮な決意が宿っていたので悪ふざけはやめて気配を戻した。
その際壁にしていたユリウスが俺とミランダに気付いてギョッとしていたがそれは些細なことだろう。
「これを話しておかないとアンタたちを騙している事になる。それは心苦しいからね、聞いとくれ」
「わ、分かりました」
ばあちゃんの真剣な様子に気圧されながらもシシリーさんのお父さんはしっかりと頷いて返す。
「シンは……ルカとシンはアタシたちの本当の孫じゃない」
その言葉に意表を突かれたのか、パーティ会場が沈黙に包まれる。
俺の隣に居たミランダも絶句しているようで、言葉も無く俺の顔をじっと見つめている。
あー、そういえばその話、誰にもしてなかったっけかな?
そもそも俺自身がその事をちょいちょい忘れてたりするから話してなくても仕方ないよね。
確かに血は繋がってないけど、俺とシンにとってじいちゃんとばあちゃんはかけがえのない家族だもの。
「アレは15年近く前になる。ワシは魔物に襲われ全滅した馬車を発見した」
場の沈黙を破ったのはじいちゃんで、じいちゃんは俺たちを見つけた時の話をし始めた。
その話を聞いているうち、いつの間にかミランダの腕を掴んでいた俺の手は外され、逆にミランダの手が俺の手を包み込んでいた。
「アンタたちかシンを認めたのは、こう言っちゃ何だけどアタシたちの孫だからっていうのも大きいだろう。でも、この子に血の繋がりは無い……それでもシンをシシリーの婚約者と認めてくれるかい?」
じいちゃんが全てを話し終えたタイミングを見計らい、ばあちゃんがシシリーさんの両親に確認を取る。
さてどうなるか……これでもしも「シンを認めない」なんて結論に至ってしまったなら俺はどうすればいいのだろうか?
「メリダ様、マーリン様……私は正直ガッカリしました」
「なん……だと?」
「ルカ!」
シシリーさんのお父さんの返事を聞いた瞬間、普段無意識下で制御している俺の外気が荒ぶり殺気となって周囲に放たれそうになった瞬間、ミランダが握っていた手を通じて俺の外気に干渉し荒ぶる俺の気を鎮静化させた。
むぅ、俺の気に干渉して操作するとは……
師匠としてはミランダの成長が嬉しくもあるのだが、シンのお兄ちゃんとしては殺気をぶつけてお漏らしくらいはさせてやりたかったので残念だ。
「お二人とも私たちを見くびらないで頂きたい!」
ミランダの師匠としては嬉しく、シンの兄としては腹立たしく、じいちゃんとばあちゃんの孫としてちょっと悲しいというとても微妙な気持ちになっているとシシリーさんのお父さんが声を張り上げた。
おや? この感じはもしかして俺の早とちりでした?
「私たちがシンくんを認めたのはお二人のお孫さんだからではありません! シシリーの事を何より大事に考えてくれて、その家族である私たちまで守ろうとしてくれる……そんな優しく強いシンくんだからこそシシリーとの付き合いを……婚約を認めたのです! 馬鹿にしないで下さい!」
シシリーさんのお父さんはじいちゃんとばあちゃんを強く睨みながらそう言い切った。
やっべ、思い切り殺気をぶつけてお漏らしさせなくてホント良かった……ミランダマジでありがとう!
あと俺たちの近くに居たせいで敏感に殺気を感じて若干震えながら冷や汗を流しているユリウスにはごめんなさい。
「主人の言う通りですわ。私たちはシンくんがシンくんだからこそシシリーの相手にと願ったのです。どこの誰かは関係ありませんわ」
「そうかい……そうかい……」
「ありがとうのぅ……」
シシリーさんのお母さんの言葉を聞いてじいちゃんとばあちゃんは揃って涙を流している。
それを見て俺たちは本当に大事にされているんだなと改めて実感し、俺もちょっと泣きそうになってしまった。
「ルカ……」
そんな俺を心配そうに見ていたミランダに繋いでいた手を強く握られた。
「余計なお世話かもしれないけど……アタシから見てルカたちは家族だと思う。血の繋がりなんて関係ない。マーリン様とメリダ様は間違いなくルカのお祖父様とお祖母様だとアタシは思う」
「ミランダ……」
どうしよう、ミランダの気持ちが嬉し過ぎて言葉が出ない。
「ご、ごめんなさい。アタシはあんまり口が上手くないから気の利いた事は言えないけど……大丈夫。ルカは1人じゃない」
その言葉を聞いて、浮かんでいた涙が溢れてきた。
「ちょ……泣かないでよ!」
ミランダは慌ててハンカチを取り出そうとしたのか繋いでいる手を離そうとするが、今はこの手を離したくない。
「ミランダ」
「な、なに?」
繋いでいる手を強く握ると、ミランダは困惑しながらも握り返してくれる。
なんだかとても嬉しくなり、自然と頬が緩んでいく。
「ありがとう」
ミランダのお陰で俺はこのままでいいのだと感じられた。なんだかとても救われたような気分だ。
いや、別に悩んでたとかではないんだけども。それでも何かこう……ミランダの気持ちが嬉しい的な?
「ど、どういたしまして……それより、手を……」
「離さない」
顔を真っ赤に染めてモジモジしているミランダがとても可愛く見えてついそんな意地悪な事を言ってしまった。