賢者の孫のお兄ちゃん(魔力無しVer.)   作:愛飢夫

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 こちらをニヤニヤしながら見ていたクライスたちの頬を無言で叩き、なんだかいつもの5割増くらいでイチャイチャしているシンとシシリーさんをオーグたちと一緒になってイジっているとじいちゃんとばあちゃん、ついでにディスおじさんの大人組が現れ朝食の時間だと食堂へと促された。

 

 その際じいちゃんたちはシンとシシリーさんのことを微笑ましげに見た後、俺の方を見てニヤッとしたので大変に居心地がよろしくない気分になりながらも黙って大人しく食堂へと移動する。

 

「おはようございます、陛下、みんな」

 

 食堂にはすでにシシリーさんのお母さんであるアイリーンさんが一足先に来ていた。

 

 俺たちも慌てていつもの席に座り用意してもらった朝食を食べ始めたところでオーグとシンの話が始まった。

 

「そういえばシン前に言っていた立太子の儀式の件なんだが――」

 

 俺の目の前にだけ特別に用意されているゆで卵の殻を剥きながら聞いていると、どうやら一週間後にオーグの立太子の儀式とやらがあるのでそれまでに王都でもう一度シンとシシリーさんの婚約披露パーティをやって欲しいのだそうだ。

 

 俺的には昨日のパーティが婚約披露パーティだと認識していたのだが、昨日のアレは身内でのお祝いという扱いだったようだ。

 

 一週間以内か……果たして俺はそれまでに答えを出すことが出来るのだろうか?

 答えを出すならせっかくのパーティなんだし、俺のタキシードを新調してそれとお揃いのドレスを仕立ててもらってミランダに送ってみようかな?

 喜んでくれるかな……それならいっそ指輪も準備して――ってこれ完全にお付き合いを申し込む方向になってないか?

 

 いや、でも昨日のパーティで酔っ払っていたとはいえミランダにあそこまで言わせてしまったのだから男として責任を取るべきで――って俺ってこんなにチョロかったのか!?

 

「ルカ、どうしたの?」

「ミ、ミランダ!? なんでもないよ!」

「そう? 顔真っ赤だけど……大丈夫なの?」

「だいじょぶ!」

 

 急に隣に座っていたミランダに声をかけられたので取り乱しそうになってしまったが慌てず騒がず手に持っていたゆで卵を口に放り込む。

 

 ……ガリってした。殻剥きが終わっていなかった。

 

「ちょっと! ホントに大丈夫なの!?」

「大丈夫だ。問題ない」

「大丈夫じゃないでしょ!? あなた殻まで食べてるわよ!?」

「たまごの殻の約90パーセントは炭酸カルシウムでできており、非常に優れたカルシウム源です。しかし生のままでは消化しにくく、またサルモネラ菌など衛生面のリスクがあるためしっかりと加熱する必要があります」

「壊れた! ルカが壊れた! ウォルフォードくん!」

「叩けば直るよ」

「分かったわ! はぁぁぁあああ!!」

「ひでぶッ!?」

 

 こうしてミランダにぶん殴られ無事再起動を果たした俺は王城に出勤するディスおじさんに糸電話型の魔道具を渡して怒られているシンを尻目にのんびりと朝食を食べ切った。

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

「皆、今日から実戦訓練をするからこれに着替えてきてくれない?」

 

 朝食を終え、全員が鍛練の準備をするため部屋に戻ろうとしたタイミングで突然シンが《異空間収納》から紙袋を取り出し究極魔法研究会のメンバーたちに配りながらそんなことを言い出した。

 

 ふむ、実戦訓練か……シンがこれを言い出したということはつまり()()が完成したということだろう。

 

「実戦か……いきなりどうしたのだ?」

「昨日これが完成したからね。とりあえず着替えてきてよ」

「む……これは…?」

 

 オーグは渡された袋を覗き込み、疑問を口にする。

 

「それは皆の戦闘服だよ。このままずっと制服で戦う訳にはいかないだろ?」

「それはそうだが……お前、この服に何を付与しているんだ?」

 

 オーグの疑問は尤ものようで究極魔法研究会のメンバー全員の視線がシンへと集まる。

 

「戦闘服に付与してあるのは――」

 

 それからシンが語った戦闘服に付与されている魔法を聞いて俺とシンを除く全員の表情が引き攣った。

 

「お前……またとんでもないものを……」

「これから俺たちは魔人との戦いの最前線に立つんだろ? それならこれくらいの装備は必要だよ」

「それはそうかもしれんが……」

「そういう訳だからとりあえず着替えてきてよ」

「分かった」

 

 オーグたちはまだ何か言いたげな表情を浮かべていたが、次の瞬間にはそれぞれ顔を見合せ頷き合い全てを諦めたような清々しい表情へと変わり紙袋を持って着替えのために部屋へと戻って行った。

 

「さて……じゃあ次は騎士学院の皆だけど」

 

 去り行く究極魔法研究会のメンバーたちを見送り、シンがこちらに向き直る。

 

「俺たちにもあるのか?」

「もちろん。クライスたちもルカ兄や俺たちと一緒に魔人と戦うつもりなんだろ?」

「あ、ああ。そのつもりだが……」

「だったら装備は必要だろ」

 

 そう言いながらシンは《異空間収納》を開いて中から紙袋を3つ取り出してクライスとノイン、ケントに手渡した。

 

「……これは?」

 

 3人はそれぞれ紙袋を受け取って中を覗く。

 中にはちょっと特殊な素材で作った鎧下が入っているのだが……シンが黙ってこちらを見ているのでここは俺が説明することにしよう。

 

「それは鎧下だよ。ちょっと特殊な素材で作られてるから通気性やら伸縮性、防刃性にも優れていてある程度衝撃も逃がしてくれるから鎧下には最適だよ」

「特殊な素材って……何を使ってるんだ?」

「獅子の魔物のタテガミ」

「……は?」

「あとシンに頼んでいくつか魔法も付与してもらってるから普段着にもおすすめだったり」

 

 まぁ見た目ほぼ全身タイツだからその上から私服着た方がいいとは思うけど。

 

「ただでさえ国宝級の素材を使っているのに、さらにウォルフォードの魔法付与だと……」

「どんな魔法が付与されてるんだよ……」

「……聞くのが怖い。もう返したいんだが」

 

 3人はなんだか戦々恐々としているが、どうせ受け取ることは確定しているのだからもっと堂々としていればいいのに。

 

「付与されてるのは《快適温度》と《修復》、《清潔》それから《自動治癒》の4つだよ。付与可能文字数にはまだ余裕があるみたいだから何か欲しい付与があればシンに頼んでよ」

 

 《快適温度》は究極魔法研究会のメンバーが装備する戦闘服のマントにも付与されているいわゆるエアコン魔法で《修復》はちょっとした破れやほつれくらいなら勝手に直る魔法、《清潔》は頑固な汚れや臭いを消してくれるとても便利な魔法で最後の《自動治癒》は例え腕や足がちぎれても何とかしてくれる保険的な魔法である。

 

「本当に国宝級だった……」

「マジでどんだけだよ……」

「……恐れ多い」

 

 ふむ、特に要望は無さそうか。ならば話を進めよう。

 

「じゃあ続いて――シン」

「はいよ」

 

 俺がシンに声を掛けるとシンは頷いて再び《異空間収納》を開き、3人の前それぞれに鎧を着用したマネキンを取り出した。

 

「ルカ……」

 

 クライスの前に置かれているのは金属少なめ災害級の魔物の素材多めで作られている動きやすさと防御力のバランスの取れた軽鎧。

 

「お前……」

 

 ノインの前には金属をほぼ使わず主に災害級の魔物の素材で作られた大事な部分だけを守れるようにした部分鎧。

 

「……俺たちにこれを装備しろと?」

 

 そしてケントの前には金属も災害級の魔物の素材もふんだんに使って作られたとても重たそうな全身鎧と大盾である。

 

「そうだよ。本当は研究会の奴らと同じように戦闘服にしようかとも思ったんだけど、それだと戦闘中に魔力を流したり止めたりしないといけなくなるからね。お前らにそんな事できると思う?」

「できない」

「だろ? だから普通の鎧にしてみた。ちなみにさすがにケントの装備は重すぎるから《軽量化》を追加で付与してるけど、他は《修復》と《清潔》だけだよ。これでお手入れも楽々だね」

 

 俺たち魔法を使えない組は魔力の操作が上手くないのであまり魔道具を装備しても使いこなすことはできない。なので使い慣れた装備のグレードを上げつつ手入れが簡単になる方向にシフトしたのだ。

 

 ケントの装備に関しては仕方がない。盾役(タンク)にとって装備の重さも大切な武器なのだから。

 軽い装備で吹き飛ばされてちゃ役に立たない。

 

「そうか……」

「分かった……」

「……ありがとう」

 

 3人は困惑しながらもお礼を口にしたのでクライスたちへの新装備の授与はこれでいいだろう。

 

 さて次は――

 

「シン」

「はいよ」

 

 俺がシンを呼ぶとシンは三度《異空間収納》を開いて中から大きめの木箱を取り出し俺へと差し出してきた。

 

 なんで俺?

 

「シン?」

「ミランダさんにはルカ兄が直接手渡してあげてよ」

「なんで……って別にいいか」

 

 俺から渡されようがシンから渡されようが中身は一緒だし。

 

「という訳で……はい、これがミランダの新装備ね」

「あ、ありがとう……開けてみてもいいかしら?」

「もちろん。どうぞどうぞ」

 

 俺から木箱を受け取ったミランダは一度木箱を地面に降ろしてから木箱の蓋を開けた。

 

「これは……」

 

 木箱に入っていたのは臙脂色の上着と黒い袴、それと同じ素材で作られた篭手。そして道着の下に着るためのシャツとスパッツだ。

 

「ミランダの戦闘服だよ。ミランダは俺と同じく刀を使うから戦闘服もお揃いにしようと思ってさ」

 

 やっぱり刀を扱うなら和装をするべき。これは外せない。

 

「お揃い……」

「うん。お揃い。ちなみに付与はクライスたちのと同じだから」

 

 一応メインの素材はこちらも獅子の魔物のタテガミなのだが、ミランダの剣道着には他にも様々な魔物の素材がふんだんに使われて作られている。

 お値段にするとクライスたちの装備一式よりお高くなるのは内緒の話だ。

 

 とはいえ素材の大半が俺の持ち込みなので支払いはほぼ工賃のみだったので思ったよりも安く済んだ。もちろん支払いは災害級を狩りまくって貯めた俺のポケットマネーである。

 

「ルカ兄はミランダさんとペアルックがしたかったんだって」

「そぉい!」

「うわ!?」

 

 シンがふざけたことを言い出したのでとりあえず黙らせるためにハイキックを放ったのだが、紙一重で避けられてしまった。

 

 クソッ、俺の蹴りを回避するなんて生意気な……

 

「ペアルック……」

「ミランダ、違うからね? 刀を使うにはこれが最適ってだけだから。クライスたちも刀を使うならこれにしてたから」

「あれ? でもルカ兄、俺もルカ兄から刀貰ったけど道着は貰ってないよ?」

「お前は黙ってろ!」

「はーい!」

「ペアルック……」

「ミランダももういいから!」

 

 こうしてなんとかシンを黙らせ、ミランダに道着の着方を簡単にレクチャーしてから実戦訓練の準備をするため各自部屋へと戻る。

 

 さて……俺も今日は剣道着を着てみましょうかね。

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