そんな投資話をしつつ、以前会った時より若干距離が近付いていたクリスねーちゃんとジークを見てもそこまでショックを受けなかった自分に驚いた婚約披露パーティーの翌日、俺たちは王城のとある一室へとやって来ていた。
「おお、オーグが本物の王子様っぽい……」
「ルカ、ぽいじゃなくて本物の王子様よ――殿下、申し訳ございません。ルカは馬鹿なので……何卒ご容赦を」
「ああ、知っている。大丈夫だ」
儀式用に正装しているオーグを見てつい「本物っぽい」と漏らしてしまった直後、何故かミランダが俺に代わって頭を下げた。
解せぬ。
「……しかしなんだろうな。皆の前でこういう格好をするのが恥ずかしくなってきたぞ」
「アウグスト様、ルカさんやシンさんたちに毒され過ぎですわ……やっぱりそうなのかしら?」
「おおい! 昨日婚約披露パーティーまでしただろ!?」
悪役令嬢さんがオーグをフォローしているのだが、「そう」とはもしかして裏で流行っているらしい『シン×オーグ』や『オーグ×シン』の事なのだろうか?
悪役令嬢さんはミランダに対しての悪役令嬢だと思っていたのにまさかシンに対しての悪役令嬢だったとは驚きだ。
ちなみに掛け算の事は究極魔法研究会所属の真面目系眼鏡女子に教えてもらった。
最近では俺がオーグを寝取ったり、逆に俺とシンの兄弟モノが台頭してきているそうだ。
俺とシンは仲良し兄弟である事に間違いは無いのだが、そういうのは割とガチでやめて欲しい。
なんで真面目系眼鏡女子はそれを俺に言ったんだ……
「……まぁ、いいですわ。それよりアウグスト様、これからこういう機会は増えていくのですから、元の感覚を取り戻して下さいまし」
「ああ、分かっている」
「殿下、皆様、そろそろ移動をお願いします」
そんな話をしているうちに時間となり、俺たちはオーグに続いて特設ステージへと移動する。
何故かと言うと俺たちも一緒にステージに上がるから。
実は俺たちはステージ上という特等席でオーグの立太子の儀式を見学した後、魔人たちと戦う戦力として国民にお披露目される予定なのだ。
ちなみにこの話は昨日のパーティーの直後に言われたので拒否権は無かった。
◇◆
『我が息子、アウグスト=フォン=アールスハイドよ。汝は王太子となりこの国の為、国民の為に身を粉にして邁進することを誓うか?』
王城前の広場にシンが作った《拡声》の魔道具を通してディスおじさんの声が響く。
普段は家のリビングで酔っ払って靴下を脱いでいる親戚のおじさんなのにこういった場では威厳のある王様に見えてしまうから不思議である。
『私はこの国の為、国民の為に命を捧げることを誓います』
ディスおじさんの問に対してオーグが返答する。
しかし「命を捧げる」か。
さすがこれから始まるであろう魔人との戦いの最前線に立つと宣言した男、覚悟が違う。
とはいえやっぱり立太子の儀式までを済ませた王太子サマを戦場に立たせるのはちょっとどうかと……
一歩引いた位置で指揮官とかやりません?
……やりませんよね。だったら俺たちは絶対にオーグを死なせない立ち回りをしなければ。
本人は「例え自分が戦死したとしてもメイが居るから大丈夫」とか言ってたけど、メイちゃんの為にも死なせる訳にはいかないのだから。
戦場では防御に優れたケントを護衛として侍らせておこう。
『うむ、よう言うた。アウグスト、汝を王太子として認める。国民の為に努める事を期待する』
『かしこまりました』
そうしてディスおじさんが王太子の証となるマントをオーグに羽織らせ、広場から大歓声が上がった直後、1人の兵士がステージ脇に駆け込んで来た。
息も絶え絶えで、全力で走って来たと思われるその兵士は他の兵士の制止を振り切って叫んだ。
「ご報告申し上げます! 先程スイード王国から通信が入りました!」
スイード王国とは帝国、王国共に国境を接する周辺小国と呼ばれている国だと習った。
そこから通信が入り、兵士が血相を変えて飛び込んできた……これは嫌な予感がするな。
「スイード王国に魔人が多数出現! 交戦状態に入ったとの事です!」
予想通り、ついに魔人どもが行動を開始したとの報告だった。
「馬鹿者! 儀式の最中にそのような報告をするとは何事だ!」
「よい! その者を咎めるな!」
飛び込んできた兵士を咎めようとした騎士に叱責を飛ばしたのはオーグだった。
「で、殿下……」
「よく知らせてくれた。魔人出現の報は何より優先される情報だ。遠慮して報告が遅くなる方が問題だ」
うん、正論。
でもこの会話、《拡声》の魔道具を通じてこの場に居る国民に聞かれちゃったけど大丈夫?
そんな俺の心配を他所に、オーグは報告に来た兵士から話を聞き、一度大きく頷いてから広場に集まっている国民へと向き直った。
『皆、落ち着いて聞いて欲しい。たった今、隣国スイード王国に魔人が現れたとの報告が入った』
オーグは広場に集まった民衆たちに語り掛ける。
『だが、心配するな。魔人に対抗する術を、我々は既に持っている!』
そう言ってオーグは俺とシンへと視線を向けて来る。
その瞬間に理解した。これはパフォーマンスだ。
『シン! ルカ!』
オーグが俺とシンを呼んだので、それに応えて俺とシンも前に出てオーグの両隣に並び立つ。
『まずは……こちらはシン=ウォルフォード。私の友人であり、かの英雄マーリン=ウォルフォードの孫であり、先日現れた魔人を討伐した新しい英雄である!』
オーグがシンをそう紹介すると、広場からは大きな歓声が上がった。
『コホン……続けてこちらはルカ=ウォルフォード。こちらも私の友人であり、英雄マーリン=ウォルフォードの孫であり、そして剣聖ミッシェル=コーリングが唯一自分よりも強いと認めた剣士である!』
その紹介を聞いた民衆からは歓声ではなく大きなどよめきが起こった。
どよめくんじゃなくて歓声上げてよ!
『私は……我々はこの2人と共に研鑽を続け、ついに魔人に対抗するだけの力を得た!』
オーグは俺たち以外の全員も後ろ手に手招きをして呼び寄せる。
『我々は既に災害級の魔物を単独で討伐出来るまでに成長した!』
「災害級を単独で討伐!?」
いや、あの……そちらの研究会所属の人たちは単独で討伐出来てますけど、こちらはまだ単独ではちょっと……
ミランダなら挑戦させれば倒せると思うけど、クライスたちにはまだちょっと厳しいです。
とはいえこんな場所でそれは口には出来ないので黙っておこう。
クライスたちにも単独討伐が出来るようなる早で鍛えておきます!
『そうだ! 報告によると人工魔人は災害級とほぼ同じ強さらしい。そんな奴らに我々が遅れを取ると思うか!?』
チラッと横目でミランダたちの様子を見てみると物凄く顔がこわばっていた。
今だけは「災害級? 余裕で倒せますけど?」くらいの顔しとけ。
『我々はすぐさまスイード王国へと向かい、魔人どもを討伐して来る、安心するがいい!』
そう言ってオーグは儀式用の衣装を脱ぎ捨てる。
その下には既に究極魔法研究会の戦闘服を身に付けていた。
いや、それどういう仕組み?
儀式用の衣装ってシュッとしてたのにその下に戦闘服はありえないだろ!?
「シン、お前も何か言え」
「俺も?」
「それと何かチーム名を考えろ。研究会の名前じゃ不安が残る」
「今かよ!?」
「スマンが頼む。シンが終わったらルカ、次はお前だ」
「りょ!」
目の前には《拡声》の魔道具のマイク部分があるのでそれに拾われないよう小声でオーグがそんなことを言ってくる。
ふむ、チーム名か……『無敵☆つよつよ団』と『ルカと愉快な剣士たち』ならどっちがいいかな?
もしくは『ウォルフォード自警団』とか?
そうして必死にチーム名を考えていると、先に喋るよう指名されたシンが緊張しながら一歩前に出た。
『……皆さん、安心して下さい。俺は魔人とは既に対戦し、問題なく倒しています。ここに居る皆は魔人に十分対抗出来る力を持っています。俺たち――』
シンはそこで一度言葉を切り、縋るような目を向けてくる。
安心しろ。俺はシンが変なチーム名を付けても笑わないから!
『――俺たち《アルティメット・マジシャンズ》が必ず魔人を討伐して来ます!』
アルティメット・マジシャンズだと……!?
何それ超かっこいい! だとすると俺たちは……
『ならば……ならば俺たち《アルティメット・ナイツ》はこの刃に誓って《アルティメット・マジシャンズ》を隙なく守り、そして魔人たちを斬り捨ててみせよう!』
「ルカ兄!?」
腰に差している刀を抜き、高く掲げる。
同時に刀へと魔力を流してシンに付与して貰った光魔法を発動させて刃を真っ白に輝かせた。
すると――
「「「うぉぉぉぉおおおおお!!」」」
今までにない大歓声が巻き起こった。
「クク……『アルティメット・マジシャンズ』に『アルティメット・ナイツ』か。中々いい名前じゃないか?」
「お、お前……こんな時まで……」
俺が刀を掲げて輝かせている隣でシンとオーグが何やら小声で会話しているが、今俺は民衆たちを盛り上げるのに忙しいので気にしない。
「ル、ルカ……本気なの!?」
「アルティメット・ナイツって……」
「マジかよ……」
「……」
ふむ、ミランダたちも気に入ってくれたようで何よりだ。
アルティメット・ナイツ……かっこいいよね!
これが無ければ5人しか居ないのに『
「よし、派手に出陣するぞ。国民に希望を持たせる為にな」
「ああ、分かった」
オーグの言葉にシンが返事をしたので流していた魔力を切り、刀を鞘に収める。
派手にって事はあれでしょ?
そう思った瞬間、
……うん?
珍しくシンが魔法に失敗したのかと思いそのまま様子を見ていたが、いつまで経っても俺の足元に魔法陣は浮かばない。
これ……もしかしてワザとか!?
「どうしたルカ、早く来い」
「いや、ちょ……マジで?」
「何をしている? 出陣するぞ」
「わ、分かった!」
俺は慌てていることを民衆に悟られないよう表情を作り、その場で腕を組みながら高速で足首だけを動かして《
ちょ……これめっちゃキツイ! 早く俺にも《浮遊》掛けて!
「では……『アルティメット・マジシャンズ』並びに『アルティメット・ナイツ』出陣!」
「「「おお!」」」
「俺には……無いんですね! ちくしょう、分かりましたよ!」
アルティメット・マジシャンズの面々は風魔法を、アルティメット・ナイツの面々は新たにシンに付与してもらった《ジェットブーツ》をそれぞれ起動して空を飛ぶ。
そんな中、何の魔法も補助も無しな俺は皆が水平姿勢で飛んでいるのに1人だけ空中をダッシュして追い掛けた。
そして……俺たちの後ろでは何度目かの大きな歓声が上がっていた。