風魔法やジェットブーツで空を飛ぶ仲間たちを追いかけることしばらく、王都を出た辺りでようやく皆に追い付く事が出来た。
「どっこいしょぉぉぉおおお!!」
「うわぁぁああ!?」
追い付いたので最後に一際強く空中を蹴ってシンの背中に着地すると、シンは慌てたように声を出しながらその高度を少し下げた。
「ちょ、ルカ兄! 危ないだろ!?」
「黙らっしゃい! 俺にだけ魔法を掛けなかったお前なんて乗り物になってればいいんだ!」
「いや、ルカ兄は自前で飛べるじゃん!」
「うっせぇバーカ! 俺のはお前の魔法と違って気を使うから疲れるんだよ! 分かったら大人しく俺にも魔法を掛けるか乗り物になれ!」
「うわわ!?」
そのまま俺はシンをサーフボードのように操り荒れ狂う風の波を乗りこなす。
「分かった、分かったから! ルカ兄にも浮遊魔法掛けるから!」
「ジェットブーツも無いから風魔法もよろしく」
「それは知らないよ! 付与を断ったのルカ兄じゃん!」
だってジェットブーツ使うより自分で走った方が速いんだもの。
「無いものは無い。仕方の無いことだよ」
「自己責任! まぁ浮遊魔法は掛けるからあとはミランダさんにでも引っ張ってもらいなよ!」
「あ! おい!?」
シンは背中に立っている俺に浮遊魔法を掛け、俺が少し浮き上がった隙をついて自分だけ先に飛んで行ってシシリーさんの横に並んだ。
ちょ、俺の推進力……
空中にふわふわ浮いた状態でなんとか《
これはもう浮遊魔法を気を使ってレジスト、それから改めて《
「ルカ、お姫様抱っこで運んであげようか?」
「ミランダ……それをされるくらいなら俺は気合と根性でスイード王国まで《
なんで俺がミランダに抱っこされて空を飛ばなきゃならないんだ……普通逆だろ。
「冗談よ。手を繋いで引っ張るのとアタシの背中に跨るの、どっちがいい?」
「……手でお願いします」
背中に乗るなら安定感のありそうなクライスかケントがいいと思いそちらを見るが、そっと視線を外されてしまったので大人しくミランダの提案に甘えよう。
そうしてミランダに引っ張られ移動しながらどうやって戦うかなどを話しながら空を飛んでいると、先頭を飛んでいたシンが急にクネクネし始めた。
周囲からはなんの気配も感じられないのだけど……もしかして俺が気配を読めないレベルの敵から攻撃を受けたのだろうか?
となると……まさかスイード王国襲撃は囮で、敵の狙いは俺たちだったり?
「総員――」
俺やシンにも感知出来ない攻撃を受けた可能性があるので全員に警戒を促そうとしたのだが、俺が言い切る前にシンが混乱した原因が判明した。
「おいシン、何をいきなりクネクネし始めたんだ? 気持ち悪いぞ」
「お前! お前があんないきなりチーム名を考えろとか言うから!」
――うん?
あれ? もしかして俺の勘違い?
どうやらシンは何者かからの攻撃を受けたわけではなさそうだ。
「ふっ、くっ……いや、いいチーム名だと思うぞ?」
「笑いを堪えながら言うな! それと、お前もチームの一員だからな!?」
ふむ、どうやらシン的に『アルティメット・マジシャンズ』というチーム名は不本意なものだったっぽい。
なんでだろう。めちゃくちゃかっこいいのに。
「いいじゃないか。アルティメット・マジシャンズにアルティメット・ナイツ……悪くないと思うぞ」
「アルティメット・マジシャンズだけでも恥ずかしいのにルカ兄が被せてきたから恥ずかしさ倍増なんだよ!」
なんだとコノヤロウ! 最高にイカしたクールなネーミングだろうが!
……いや、パクったと言われてしまうと反論の余地は無いんだけどさ。
兄弟なんだからいいかなって。
「でも実際いい名前。私は両方気に入った」
「リンに気に入られるとますます自信が無くなるんだけど……」
「む、それは失礼」
ふむ、不満気なシンと満足気な真面目系眼鏡女子を見た感じ、俺の感性は後者に寄っているようだ。
しかし真面目系眼鏡女子には腐女子の疑惑がかかっている。そんな真面目系眼鏡女子と感性が似ていると言われるのはちょっと嫌だ。
いや、待て。まだ結論を出すには早い。
何故ならまだ『シンだけがズレている』という可能性も残されているのだから――
そう思ってミランダやクライスたちへと視線を向けると……
何とも表現し難い凄まじく微妙な表情を浮かべていた。
どうやらズレているのは俺と真面目系眼鏡女子の方らしい。
「そんな事よりシン、そろそろアールスハイドとスイード王国の国境です。気を引き締めて下さい」
「え? もう?」
「早い事はいい事だ。到着が遅くなればなるほど被害が大きくなるのだからな」
確かにオーグの言う通り。
1人でも多くを助ける為には1秒でも早く到着しなければならない。
「魔人か……勝てるのかな?」
間もなく到着するということで不安になったのか、ミランダがそう呟いた。
「大丈夫。ミランダなら勝てるよ。俺が保証する」
「でもアタシはまだ災害級の単独討伐はやってないし」
「やってないだけでやったら倒せると思うけどね。まぁそれはそれとして……多分ミランダたちからすれば災害級の魔物より魔人の方が倒しやすいと思うよ」
「どういう事だ?」
ミランダの不安を解消しようと話していると、気になったのか横からクライスが尋ねてきた。
「簡単な話だよ。お前らは災害級と戦うより魔人と戦った方が相性がいい」
「相性?」
分かんないか……なら簡単に説明してやろう。
「まずは体の大きさ。災害級はめちゃくちゃデカいから斬撃や刺突で致命傷を与えるのが難しい。対して魔人は大きさは人間と変わらないらしいから一撃で首を刎ねる事が出来る」
災害級の魔物はデカすぎる。
俺が10歳の頃に戦って倒し切れずにシンにヘルプを求めたのは心臓を狙って根元まで剣を突き刺したのに刃が心臓まで届かず頭から丸かじりされたからだし。
「2つ目、災害級の魔物の攻撃は基本物理だけど魔人の攻撃は魔法が主体……ここまで言えば分かるよね?」
「ええ。《
「ミランダ正解。攻撃を完封出来て尚且つ一撃で致命傷を与えられる大きさの相手……勝てないと思う?」
「「「思わない!」」」
「その意気だ! 最初は4人で行動してもいいけど、1人で倒せそうだと思ったらそれぞれ散らばって戦ってくれ。だけど絶対に無理はするなよ?」
「「「応ッ!!」」」
よし、これならとりあえず心配は要らなさそうだ。
最悪死にさえしなければどうにでもなるのだし、ここは気張って戦いの経験を積んでもらおう。
とりあえず最初は俺もすぐに駆けつけられるよう注意はしておこう。
「おい、スイード王国の王都が見えて来たぞ!」
オーグが指差した方向へと顔を向けると、そこには大きな城壁に囲まれた街があった。
あれがスイード王国王都か。
少し目を凝らすと、その城壁に向けて魔法が放たれ、それを防ぐ《魔法障壁》の光が見えた。
ふむ、これは……
「数箇所城壁が破られています!」
「全員全速力! このまま突入して《索敵魔法》で魔人を選別、撃破するぞ!」
「「「了解!」」」
今は外の魔人を倒している時間が惜しい。城壁の上で必死に魔人どもの魔法を防いでいる兵士たちには申し訳ないが、今は戦う力を持たない一般人の救助を優先させて頂こう。
後で必ず救援に向かうのでそれまで何とか耐えしのいでくれ。
とはいえ何もしないのはちょっと違うと思うので、最低限の援護射撃はしておこうか。
「シン、俺の弓出して!」
「ここから攻撃すんの?」
「移動しながら射るから大丈夫。ミランダ、ごめんけどちょっと跨らせてもらっていい?」
「別にいいけど……」
ミランダの許可も得たのでシンから弓と矢筒を受け取り、ミランダの背中に跨った。
跨ったことで俺のお尻とミランダのお尻がおしりあいになってしまったが、今それを考えるのはとても不謹慎なことなのであとでゆっくりじっくり考えよう。
そうしておかないとつい「ミランダ、この戦いが終わったら大事な話があるんだ」とか言っちゃいそうだし。
とにかく今は集中だ!
「ルカ、当てられるのか?」
自らの頬を張って明鏡止水の境地に達しようとしていると、訝しげな顔をしたオーグが尋ねてきた。
「前に言った通り精密射撃は500メートルくらいまでだけど、俺の弓の最大射程は1キロだから」
今回は水平射撃ではなく打ち下ろしなので飛距離は問題無いし、魔人どもは何故か密集隊形を組んでいるので適当に真ん中を狙えばどれかには当たると思う。
「だとしてもこんな安定しない状態で……大丈夫なのか?」
「大丈夫!」
流鏑馬は得意だったから。ミランダは馬よりも揺れないのだからこのくらい余裕だよ。
「そうか……まぁこれで数を減らす事が出来ればこちらとしても助かる。頑張ってくれ」
「了解!」
オーグに返事をしつつ弓に気を纏わせ、矢をつがえる。
そして鏃にも気を纏わせながら引き絞り、大雑把に狙いを付けて矢を放つ。
放たれた矢は空気を切り裂きながら真っ直ぐ進み、そのまま真ん中付近に居た魔人の頭部を貫いた。
ふむ、この距離からでも射殺せるのか。だとすると防御力は思っていた以上に低そうだ。
「嘘でしょ……」
「この距離で当てられるのか……」
「当てるのもすごいけど、威力もおかしいだろ……」
「……あんな鉄弓よく引けるな」
ミランダたちは驚いているが、このくらい《躁気術》を修めていれば簡単に出来ることなのでそう遠くないうちに出来るようになると思うよ。
弓の技術は別だけど。
そうは思っても悠長に説明している時間は無いので今は黙々と矢を番え、放ち続ける。
俺が矢を放つ度に密集している魔人の頭や胸、喉に突き刺さり次々と絶命させていく。
途中、俺の狙撃に気付いた魔人が物理障壁を張って矢を防ごうとしてきたが、たっぷりと気を纏わせて放たれた矢は障壁ごと魔人を貫いた。
「よし、これで城壁の防衛も楽になるかな?」
城壁に辿り着く頃には矢筒に入っていた矢を全て撃ち尽くしていたので丁度いい。
戦果的には討伐10体、重傷3体軽傷2体といった感じだろう。
「凄まじい戦果だな……」
「そうでもないよ。何体か倒し損ねた」
近くで見ていたオーグがそんな事を呟いているが、個人的には5体倒し損ねた事が情けない。
理想は一矢一殺だ。
「それは……まぁいい、この後は市街戦になる。そちらでも頼んだぞ」
「任せろ! よし、アルティメット・ナイツ! 準備はいいか!?」
「「「お、おう……」」」
「もっとテンション上げていけよ! そんなんじゃマジシャンズに負けちまうぞ!?」
「「「応ッ!!」」」
こうして俺たちはスイード王国王都へと到着した。
魔人ども、首を洗って待っておけ。俺たちがお前らを駆逐してやる!