「ヤバい! 誰か魔人に追いかけられてる!」
スイード王国王都を囲う城壁を超えた直後、索敵魔法を展開していたシンが突然大きな声を上げて1人で飛び出して行ってしまった。
「ルカ、どうするの?」
未だ俺に跨られたままのミランダが聞いてくるが、今の俺たちに選択肢は存在しない。
「追いかけよう。まずはこの浮遊魔法を解除してもらわないとマトモに戦えない」
「それもそうね」
この魔法は長距離を移動するにはとても便利なのだが、これが戦闘になると俺たち近接戦闘組にとっては強力なデバフとってしまう。
何故なら変に体が浮いてしまって踏み込めなくなってしまうから。
最悪それでも戦えないことは無いのだが、戦闘中に魔法が解除されてしまうと俺でも確実に大きな隙を晒すことになるので戦いが始まる前に解除してもらうのは必須なのだ。
自分で解除することも出来るけど、それをやると無駄に気を消費してしまう事になるので緊急時以外はなるべくやりたくはない。
以上の理由でミランダに跨ったままシンを追いかけていると、視線の先でシンが魔人にドロップキックをお見舞いしていた。
その一撃で魔人の首をへし折って倒していたが、お前の場合魔法ぶっぱなした方が早いんじゃないの?
「シン、お前なんでドロップキックカマしてんの?」
追いついたのでミランダから降りてシンに声をかけると、シンは若干気まずそうにこちらを見てきた。
「ごめんルカ兄、どうしてもカマしたくなって……」
「お前って魔法使いだったよね?」
魔法使いって基本後衛職だと思うんだけど……ってこいつに関しては今更か。
「あの……」
そうして若干シンに呆れていると、先程まで魔人に追いかけられていたご婦人がおそるおそるといった様子で声をかけられた。
しまったな、今はシンの相手をするより被害者のケアをする方が優先だった。
「あ、どうもすみません。我々はアールスハイドからやって来た援軍ですのでご安心ください」
「アールスハイドの……?」
「はい。我々が来たからにはこれ以上の狼藉はさせません。それよりご婦人、この付近に避難所や救護所のような場所はありますか?」
「えっと……はい。兵士の皆さんの先導で避難所に向かう所でした」
「なるほど」
周囲の気配を探ってみると、数人の気配が感じられた。
おそらく兵士や避難民の気配だろう。
「シン、シシリーさんにはその避難所に向かってもらってもいい?」
「もちろん。シシリー、お願いね?」
「分かりました!」
ここに到着するまでの間にシシリーさんは戦闘よりも怪我人の治療をメインに立ち回ると決まっていたのでお願いすると、快く引き受けてくれた。
「他にも避難する人がいるみたいだし……ミランダとクライスとノイン、お前たち3人は避難民を護衛して避難所に向かってくれ。到着したらそのまま避難所の護衛を頼む」
「それはいいけど……アタシたちだけで大丈夫かしら?」
ミランダたち3人は少し不安そうにしているが、特に問題は無いと思う。
「大丈夫。魔人は俺が思っていたよりはるかに弱い。お前らなら余裕で勝てる」
「……そうなの?」
そうなのだ。
「王都に入る前に魔人の魔法を見たけど、威力、精度、発動速度、どれを取ってもマジシャンズのやつらより下だった。加えて気を込めたとはいえあれだけの遠距離狙撃で討伐出来たんだから防御力も高くない。総合すると脅威度は大型の魔物以上災害級未満って感じだと思う」
シンが「魔人は災害級より少し強い」と言っていたのはおそらく魔人になったのが学生とはいえ少しは魔法を学んでいたからだろう。
対して今回の魔人は魔力の扱いにあまり慣れていなさそうだったので、多分元々魔法を使えなかった人間が元になっているのだと思う。
この程度の相手、ミランダたちなら苦戦することなく勝てるだろう。
「俺とミランダ、ノインの動きは理解した。それでケントはどうするんだ?」
「ケントにはオーグの護衛についてもらおうと思ってる。オーグに万が一があったら困るからね」
「……俺が殿下を護衛するのか」
ケントは顔を真っ青にしているが、俺を除くアルティメット・ナイツの中で一番要人警護に向いているのがケントなのだから仕方ない。
魔人の強さを考えると護衛は必要無さそうだけど、一応念の為にね。
「避難所の護衛には魔法使いも居た方がいいよね? だったらトニーに任せようかな」
「僕かい?」
「うん。トニーなら騎士学院生たちとも合わせられるだろ? 適任だと思う」
「おいシン、騎士学院生じゃなくてアルティメット・ナイツと呼びなさい。略称のナイツでも可」
「……トニーならナイツの皆とも合わせられるだろ?」
シンはとても嫌そうな顔をしているが、このチーム名の半分はシンが出したようなものなのでそんな顔はしないで欲しい。
「ナイツの皆はレベル高いからねぇ……足を引っ張らないよう頑張ってみるよ」
「よし、各員の動きも決まった事だし、早速行動を――」
『スイード王国国民、及び魔人どもに告ぐ! 私はアールスハイド王国王太子、アウグスト=フォン=アールスハイドだ!』
早速行動を開始しようとした瞬間、俺たちと一緒に地面に降りず高い建物の屋根の上に降り立っていたオーグの声が響き渡った。
『スイード王国国民よ、安心するがいい! 我々の中には、かの英雄マーリン=ウォルフォードの孫であり、魔人を圧倒的な実力差で討伐したシン=ウォルフォードとつい先程あっという間に10体を超える魔人を討伐したルカ=ウォルフォードがいる! 万が一にも勝ち目があると思うな!』
オーグがそう宣言をすると、主に王都の中心に近い場所から「おおおおお!」と歓声が上がった。
ふむ、あの辺りに避難しているのか。
『魔人ども……覚悟しろよ! 1体残らず討伐してやるからな!』
「うるさっ!?」
避難民が集まっている場所が分かったのでその周辺から魔人を狩って行こうと考えていたらいきなり真横に立っていたシンがオーグと同じように拡声の魔法を使いながら魔人どもに宣戦布告をし始めた。
やるなら先に言えよ! びっくりしたじゃねーか!
「ルカ兄、ルカ兄も何か言いなよ」
「え?」
宣戦布告を終えたシンはこちらにと向き直り、俺にも何か言うようにと言いながら拡声の魔法を使用した。
ふむ、そうだな……
『あーあー、マイクテス、マイクテス』
うむ、感度は良好。さて何を話そうか。
『えー……先程ご紹介に預かりましたルカ=ウォルフォードです。俺は魔法は使えません。それでも力無き一般人を襲うしか出来ない情けないヤツらには負けるつもりはありません。なので――』
そこで一度言葉を切り、《内気》を操り声に気を乗せるため声帯に気を集める。
同時に全身に纏わせている《外気》の量を一気に増やして自分の存在感を爆発的に上昇させた。
そうするとどうなるか――誰しも俺の声には耳を傾けざるを得なくなる。
つまり今の俺はこのスイード王国王都の中で最も注目を集める男になったのだ。
『悔しかったら俺を殺してみろ腰抜けども!』
少しでも俺にヘイトが集まれば物的、人的被害は減らせるし、俺を殺しに来てくれれば討伐も楽になると思い適当に挑発してみたところ、その効果は覿面で周囲から複数の殺意を向けられたのを感知した。
効 果 は 抜 群 だ !
「ルカ……」
全員から呆れたような目で見られているが、効果覿面だったのだから許して欲しい。
とにかく……早く行動しなければ!
「アルティメット・ナイツ及びマジシャンズ! 我々はこれより魔人掃討戦を開始する!」
俺がそう言うと、呆れたような目をしていた全員の瞳に力が宿った。
「各員、絶対に躊躇うな。奴らは人とは似て非なる存在であり、魔に堕ちた外道である! お前たちが躊躇った先にあるのはお前たちの……仲間たちの死である! 故に絶対に躊躇うな!」
「「「応ッッ!」」」
「よし! では――行動を開始せよッ!」
こうして俺たちアルティメット・ナイツとマジシャンズによるスイード王国魔人掃討戦が開始された。