賢者の孫のお兄ちゃん(魔力無しVer.)   作:愛飢夫

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魔物と戦いました

 そうして走ることしばらく、俺たちが『ヤバい存在』と認識した存在の下にたどり着くとそこには……身長3mを超える赤毛の熊が同じくらいの大きさの猪を貪り食っている光景が広がっていた。

 

「!?」

 

 俺には感じられないのでわからなかったのだが、その熊から発せられる禍々しい魔力を感じて恐怖したようで隣を走っていたシンの動きが一瞬止まる。

 

 これは仕方が無い。いくら狩りをしているとはいえこれから始まるのはれっきとした命の奪い合い。一方的に命を奪うだけの狩りとは似て非なるものなのだ。

 

 まぁ何にせよ俺とシンが組んで戦うなら前に出るのは俺の役目。

 俺がシンの剣となり盾となり、シンが魔法を使う時間を稼ごうと一歩足を踏み出そうとした瞬間……シンが《ジェットブーツ》を起動して雄叫びを上げながら飛び出して行った。

 

「「シン!?」」

 

 俺とじいちゃんの声が重なる。

 

「GWOOOOOOOO!!」

 

 熊もこちらに気付いたようで、敵意を剥き出しにして咆哮を上げている。

 

「チッ!」

 

 このままでは、いけない。

 

 そう思った俺は瞬時に全身を巡る気を活性化させ身体能力を強化、全力で地面を蹴って《ジェットブーツ》で移動しているシンに並んだ。

 魔道具を使っているシンよりも早く動ける俺が気を使って強化したのだからシンに追いつき追い越すくらいは朝飯前だ。

 

「ルカ! シン! 待つんじゃ!」

 

 後ろでじいちゃんが叫んでいるが、今は反応している場合では無い。

 飛び込んでくる俺たちを見据え、既に熊はその大きな右腕を振り下ろしてくきている。

 

「!?」

「そのまま進め!」

 

 俺の背後に居るシンはそれを見て一瞬方向転換を考えたようだが、その必要は無い。

 

 何故ならシンの前には俺が居るのだから。

 

「ルカ兄!」

「任せとけ!」

 

 膝を曲げ、腰を深く沈み込ませ、地面スレスレから全身のバネを使って飛び上がるように跳ねさせる。そして10歳の誕生日にミッシェルさんから貰った剣を引き抜きながら刃に斬れ味と強度を引き上げるために気を纏わせ、振り下ろされる熊の腕に向けて鋭く振り上げた。

 

「GAOOOOOOOO!?!?」

 

 俺の振るった剣は熊の右腕の肘の辺りを捉え、肘から先を斬り飛ばす。ついでに返す刀でもう一発斬撃を浴びせかけてからシンに指示を飛ばした。

 

「シン! やっちゃえ!」

「うぉぉぉぉおおお!!」

 

 シンは再び雄叫びを上げながら《ジェットブーツ》を起動させて熊の首目掛けて飛び上がる。

 

「GWAAAAAAA!!」

 

 熊は飛び上がるシン目掛けて今度は左腕を振るおうとするが、時すでに遅し。

 熊の左腕は既に俺が根元から切断している。

 

「やぁぁぁああああ!!」

 

 シンはこちらも魔道具であるブルブル剣……正式名称《バイブレーションソード》を両手で強く握って横に一閃。

 熊の首は胴体から離れ地面へと転がった。

 

 続いて『ズドン!』と大きな音を立てて熊の胴体も倒れ伏す。

 

 よし、問題無く倒せたな。

 

 最初にシンが飛び出して行った時には焦ったが、最終的にはお互い無傷で終わったのだから今はヨシとしておこう。後でちょっと小言は言うけど。

 

 しかしブルブル剣か……中々の斬れ味だったな。

 シンが言うには刃を超高速振動させながら押し当てると鉄さえ斬れるみたいな事を言ってたな。

 俺の剣にも付与しようかと聞かれたが俺は将来的に自力で鋼鉄すら斬り裂く剣士になる予定なので断ったことを思い出す。

 

「ルカ兄!」

 

 そんなことを考えつつどうやってこのバカを反省させようかと思っていると、そのバカが満面の笑みを浮かべながら両手を上げていた。

 

 まったくこいつは……

 

 どうしたもんかと苦笑しながらも、俺もシンに合わせて両手を上げ掌同士を打ち付けた。

 

「シン、よくやった! でも後で反省会な!」

「えー、上手くいったんだからいいじゃん」

 

 シンは唇を尖らせ文句を言うが、前衛である俺より後衛のお前が前に出たんじゃダメでしょうよ。

 

 まぁそれは帰ってからにしようと後ろで見ていたじいちゃんの方へと振り返ると、じいちゃんは目と口を大きく開け唖然とした様子で立っていた。

 

 ありゃ? 何か失敗しちゃったかな?

 

「じいちゃん?」

「お、おお……すまんすまん、ちょっとボーッとしておった」

「大丈夫? お腹空いたの?」

 

 孫の戦闘を眺めてボーッとするなんてじいちゃんらしくない。どうしたのだろう?

 

「いや、腹は減っておらんよ」

「そう? それで、俺たち上手くやれたかな? 俺は完璧だと思うけど、シンは失敗してなかった?」

「ルカ兄!」

 

 というか勢いでシンにトドメを譲ったけど、俺単騎でも余裕で倒せてたと思うんだよね。

 

「いきなりシンが飛び出した時は驚いて心臓が止まるかと思うたが、それ以外は2人とも完璧じゃったよ」

 

 じいちゃん、驚いたならそれは完璧じゃないと思うんだ。

 しかし失敗したのはやっぱりシンか、どうしようも無いやつめ!

 

「やっぱりシンは帰ったら反省な!」

「えー……」

「ほっほ、とりあえず帰ろうかの」

 

 こうして俺たちは初めての魔物討伐を終えて家路についた。

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 数日後、俺とシンはじいちゃんから「大切な話がある」と言われ森が一望できる丘の上へと呼び出された。

 

 そこで「実はお前たち2人とワシに血の繋がりは無い」とカミングアウトされた。

 

 俺とシンは当時から意識があったので当然知っていたが、さすがに当時1歳ということになっている俺たちがその事を覚えているとなるとそれは異常だという話になってしまうので俺とシンはアイコンタクトを交わして知らぬ存ぜぬを貫いた。

 

 じいちゃんを騙しているようで心苦しいのだか、「実はじいちゃんの孫には両方とも割といい歳の中の人がいるんですよ。だから全部覚えてるんですよ」と伝える訳にもいかないのでこればっかりは仕方ない。

 

 全てを聞き終えた俺たちはじいちゃんに感謝の気持ちを伝え、じいちゃんの孫になれて幸せだと言いながら左右から抱き着いた。

 するとじいちゃんは泣き出してしまい、釣られて俺も泣き出すとシンまで声を上げて泣き始めるというカオスな空間になってしまった。

 

 じいちゃん、建前でもなんでもなく俺は本当に感謝してる。ありがとう。

 じいちゃんのことは俺とシンで支えるから。介護は任せてよ。

 

 こうして家族の絆を確かめあった俺たちは数年振りにじいちゃんを真ん中にして3人で手を繋いで家へと帰った。

 

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