スイード王国国王様への報告を終えた俺たちは続けてアールスハイド王国国王ディスおじさんに報告をするためシンの《ゲート》でアールスハイドへと帰還した。
帰還した俺たちは城に勤める兵士や文官、使用人たちから大歓声で迎えられた。
「すごいぞ! アルティメット・マジシャンズ!」
「かっこいいぞ! アルティメット・ナイツ!」
そんな声が聞こえる度にシンが塩をかけられたナメクジのように萎れていたので「チーム名を決めたのはお前なんだからもっと堂々としておけ」と言っておいた。
そうしてディスおじさんに報告するためディスおじさんが居るらしい会議室へと到着すると、中にはメイちゃんと悪役令嬢さんも待っており、オーグが入室すると勢いよく立ち上がり揃ってオーグに抱き着いた。
その際タッチの差で先に辿り着いたメイちゃんがオーグと悪役令嬢さんに挟まれ意識を失うという大事件が起こったが、特に大事は無さそうということで流されそのまま報告する事になった。
メイちゃん……
◇◆
「――以上がスイード王国で起こった出来事です」
「そうか。スイード王国は連合に協力してくれるか」
「はい。それ以外にも帝国に国境を接する国は協力してくれるでしょう。問題は――」
「エルス自由商業連合とイース神聖国か」
学期末テストの直前に一夜漬けをした時に覚えたのだが、エルス自由商業連合という国は商人の商人による商人の国らしい。
ということはエルス自由商業連合こそがこの世界における株式市場の中心のような気がする。
優秀な代理人を雇えたらエルス自由商業連合に出向させよう。
イース神聖国は……宗教国家らしいよ。
日本という宗教観が割となぁなぁな国で生まれ育った俺とはあまり相性が良くなさそう。
経済活動もさほど活発ではないとの事なので特に自分で行ったり人を派遣したりする必要は無さそうだ。
その他の帝国と国境を接している国についてはよく知らない。
そんなのテストが終わった瞬間に頭から抜け落ちたよ。
ちなみに地理のテストは100点満点中41点だった。赤点じゃないので大戦果だ。
そんな事を考えている内に話は進んでいて、どうやらエルスとイースの対応は王太子であり、アルティメット・マジシャンズのメンバーでもあるオーグがする事に決まったようだ。
「分かった。ではエルスとイースについてはアウグストに対応を一任する。すぐにエルスとイースに使者を出せ」
「はっ!」
「では我々はこれで失礼致します」
「ああ、分かった。他の皆も魔人討伐から戻ったばかりだというのに悪かったね。ゆっくり休んでくれ」
「はい。では失礼致します」
ディスおじさんから退室の許可が出たのでしっかりと挨拶をしてから会議室を出てオーグの私室へと移動する。
「ここが私の部屋だ。まぁ寛いでくれ――私だ。入るぞ」
「はーい!」
オーグが扉の前で声を掛けると、中からメイちゃんの返事が聞こえてきた。
どうやら『メイちゃんサンドイッチ事件』の後オーグの私室に運ばれていたようだ。
無事目覚めたようで何より。
そうして中に入ると、メイちゃんと悪役令嬢さんに出迎えられた。
「おかえりなさいませ、アウグスト様」
「おかえりなさいませ! お兄様!」
ふむ、今回は飛び込んでこないのか……まあつい先程結構な騒ぎになっていたので自重したのだろう。
メイちゃん、ルカお兄ちゃんに飛び込んできてもいいんだよ?
「まさか追い出されるとは思ってませんでしたわ」
「私はいつの間にかお兄様のベッドで寝てたです!」
「うっ……それは何度も謝ってるじゃない……」
「エリー姉様、お兄様が御無事だったから嬉しかったんですよね? だから気にしてないですよ」
「あ、ありがと……」
「でもエリー姉様のお胸は凶器です! 危ないです!」
「だから! 変な事口走ってんじゃないわよ!」
「確かに……エリーの胸は凶器……」
「危ない。もぐ?」
「もがないで下さいまし!」
アリスと暴走にからかわれ、悪役令嬢さんは胸を隠す。
うん。たしかに大きいね。
でもあれだけ大きかったら弓は引けないだろうなぁ……
まぁ悪役令嬢さんは高位貴族のご令嬢なんだから弓を使う機会なんて無いから問題は無いだろう。
「あっちは置いておいてこっちは大事な話をするぞ」
「ちょっとアウグスト様! 放置なんてヒドイですわ!」
「ああ、皆が帰ってからな。エリーも皆の前では恥ずかしいだろう?」
「……そ、それもそうですわね!」
俺たちの前では恥ずかしいって一体何をするつもりなのだろう?
もしかしてほっぺにちゅーくらいするのかな? オーグたちは大人だなぁ……
「皆がいると恥ずかしい事って何をする気なんだ?」
いつも揶揄われているシンが我が意を得たりとばかりにニヤニヤしながらオーグに突っかかっていくが、それはやめておいた方がいいと思う。
それは完全な返り討ちフラグだから。
「言っておくがお前が想像しているような事はしないからな。人前でイチャイチャ出来るのはお前らだけだ」
「そんなイチャイチャしてるか?」
「あぅ……」
オーグの返しにシンは不思議そうに、シシリーさんは恥ずかしそうにしている。
「……あれをイチャイチャと言わない……だと!?」
「恐ろしいですわね……」
「やっぱりモザイクが要るね!」
俺は大人だからモザイクはいらないけど、いつ深夜にシシリーさんを部屋に連れ込まないかだけは気にしておこうと思います。
連れ込んだら壁ドンしてやるんだ!
「そんな事よりルカ、お前に聞きたい事がある」
ワイワイとそんな話をしていると、オーグの矛先が突然こちらに向けられた。
「何?」
「お前はスイード王の問いに『心に決めた女性がいる』と答えていたな? それは誰の事だ?」
瞬間、騒がしかった部屋の中が水を打ったように静まり返り、全員の視線が俺に集まる。
「……えっ?」
「『え?』ではない。相手は誰かと聞いている」
「なんでよ。オーグには関係ないだろ?」
なんでそんな事答えなきゃいけないんだよ……てかオーグなら分かってるよね?
「関係ならあるさ。友人として気になるのは当然であるし、この国の王太子としてルカがどこの国のどのような立場の女性と結ばれるのかは重要な問題だ」
あ、これアレだ。からかおうとしてる奴だ。
真面目な顔を装ってはいるけど気の流れを見ればそれくらいは読み取れる。
となると……どうしよう?
ガチで真面目な話なら正直に話してこの場で告白するのもひとつの手だとは思うが、からかうつもりの発言なら真面目に答える必要は無いだろう。
というか右後方に居るミランダからの圧がヤバい。ちょっと怖いくらいだ。
告白するならちゃんといい雰囲気の場所で告白したいので今はちょっと見逃して頂きたい。
「そうだな、オーグが心配する必要はないと思うよ」
「そうか。ということはアールスハイドの女性なのだな?」
「まぁ……そうだね」
そもそも俺に他国の知り合いは存在しないのだから当然だ。
「そうか。ちなみに私としては相手が貴族女性であれば嬉しいのだが……相手は貴族女性なのか?」
そう言ってオーグの視線が俺から外され横へと動く。
その視線の先に居たのはミランダ――ではなくマリアだった。
「えっ!? 私ですか!?」
「ああ、ルカの周りに居る貴族女性となるとクロードとメッシーナ、後はエリーとメイくらいだろう? クロードとエリーには相手が居るし、ルカはメイの事は妹にしようとしていたからな。消去法でメッシーナしか残っていない」
オーグはキリッとした顔でそんな事を言っているのだが、気の流れを読めば今にも噴き出しそうなのを耐えているのが丸分かりだ。
しかし俺とは違い気の流れから感情を読む事が出来ないアルティメット・ナイツの男子メンバーやマジシャンズのメンバーたちは戦々恐々としながら俺とミランダの方を見つめている。
ミランダ? ミランダはなんか今にも刀を抜いて俺を刺しそうな瞳でこっちを見ているよ。
普通に怖い。
「えっと……いや、でも……」
マリアは俺とミランダを交互に見てから意を決したように口を開いた。
「ルカ……ごめんなさい。ルカの事は嫌いじゃないけど、恋人としては見れないかな」
「いや、俺もマリアの事は嫌いじゃないけど……タイプじゃないです。てかなんで俺が振られる流れになってんの?」
そもそも俺の想い人はマリアじゃないんですけど?
「ふむ、メッシーナではないのか……ならば――」
再びオーグの視線が動き、今度はマジシャンズの女性メンバーへと向きかけたので続きを口にする前に言葉を被せる。
「オーグ、これ以上この話続けるならぶん殴るから。割とガチで痛くするから覚悟しといて」
ここにはシンが居るのだから歯や骨が折れてもどうにかなる。
なのでクライスたちでも半泣きになるレベルのパンチをお見舞いしてやろう。
「ならばこの話はここで終いにしておこう。それよりシン、お前に頼みがある」
オーグの表情と気の流れを読む限り、今度は真面目な話っぽい。
拳に纏わせた気は体内に戻しておこう。
「そうか、俺もオーグに頼みがあるんだ」
「「各国を回らせて欲しい」」
シンとオーグが顔を見合わせて頷き合い同時に口を開いた。
お前らさぁ、そういうところだぞ?
お前らがそういう事してるから悪役令嬢さんに勘違いされたり薄い本が出る出ないの話になってんだぞ?
そうしてなんやかんやあって明日から周辺国家に根回しという名の旅行に行く事が決定した。
俺としてはとりあえず話を逸らすことに成功したので要らぬ口は挟まないようにしようと思う。
皆様シルバーウィークはいかがお過ごしでしょうか?
愛飢夫は仕事です。