それから俺たちは詰所を後にして宿の確保と街の観光へと出向いた。
とはいえ宿に関しては詰所の兵士にオススメの宿をいくつか教えて貰えたのでその中から全員が泊まれそうな宿へと向かい予約を取り、そのまま街へと繰り出した。
マジシャンズやナイツのメンバーによると、ここダーム王国は元々『創神教』の総本山があった宗教国家だったらしく、街の至る所に教会があり、暮らす人たちも穏やかな人が多いそうだ。
「ルカ、お前は神を信じているのか?」
そんな教会や街ゆく人々を眺めていると、クライスがどこかの似非宗教家のようなことを言い出した。
さて、どう答えようか?
「あー……クライス、ウチでは宗教の話なんてほとんど出たことないからルカ兄に聞いても分かんないと思うよ?」
「そうなのか?」
失礼な! 俺だって宗教くらい知ってるわ!
ウチは建御名方神を信仰してたよ!
神話では建御雷之男神に敗れはしたけど、最後まで不屈の闘志で戦い抜いた逸話から『不退転の覚悟で護衛対象を守り抜く』という信念のもと信仰してたよ。
毎日祈りを捧げていたけど、儀式=鍛練だったなぁ……
っとここまで考えて気が付いた。これ、前世の話じゃん。
もしかしてシンは俺がポロッと前世の話をしてしまうことを危惧して話を逸らしてくれたのかもしれない。
だとしたらありがとう!
「ああ、ばあちゃんは現実主義だから『神様に頼る前に自分で何とかしろ』って人だし、じいちゃんは……」
「マーリン様は……?」
「ばあちゃんから昔『神様上等!』って叫んでたって聞いたことある」
あ、それ覚えてる。確かその時「俺も神様と戦いたい!」って言ってばあちゃんにしばかれたんだったっけかな。
「そうか……ウォルフォード、その話はこの国ではしない方が良さそうだ」
「うん。俺もそう思うよ」
シンたちがそんな話をしているのを聞いていると、先程までマジシャンズの女性メンバーと話していたミランダが俺の隣にやって来た。
「ねぇルカ、それって……結婚式とかはどうするの?」
「それは教会にお願いするんじゃないの?」
「え? そうなの?」
いや、そんな不思議そうにされましても……
前世の俺なら家の伝統に則って神前式を挙げただろうけど、今は何のしがらみも無いんだからアールスハイドの風習に従うよ?
あ、もしかして俺が知らないだけで教会以外でも式は挙げられたりするのかな? 人前式とか。
「もしかして俺が知らないだけで他の場所でも出来るの? そういうのは教会に頼むものだって教わったけど」
ばあちゃんからね。ばあちゃんは教会のことは「冠婚葬祭を頼む場所」だって教えてくれたよ。
「ルカの認識で合ってるわよ。そうね、結婚式は教会で挙げたいわよね……」
「う、うん?」
なんか急にミランダがトリップし始めた。
そんなに結婚式に憧れがあるのかね?
そうして周りからなんだか生暖かい目で見られているなぁと感じていると、目的地にしていた歴史上の偉人『殉教者イース』の生家へと辿り着いた。
「ここが……殉教者イースの生家……」
割と敬虔な信徒であるらしいクライスが感慨深げに呟いているが、俺の感想としてはなんと言うか――
「意外とショボいです」
「コラ! メイちゃん、そういうことは言っちゃダメだよ」
「はわ……ごめんなさいです……」
シンに窘められているメイちゃんと全く同じである。
しかしまぁ偉業を成す前のいち聖職者の生家なのだからこんなものなのだろう。
生家ではなく終焉の地ならまた別なのかもしれないけど。
そんな殉教者イースの生家は博物館になっていたので皆に付いて見て回ったのだが、普通の一般家庭以上の感想は出てこなかった。
まぁ……うん。そんなもんだろ。
殉教者イースの生家はそれほど大きくはなかったのですぐに周り終えたので、次は街に点在している教会を見て回ることになった。
いくつか有名な教会はあるらしいのだが、やはり「観光するなら」と旧総本山であるダーム大聖堂に行ってみることにした。
ダーム大聖堂に近付くにつれてどんどん人が増えてくる。
さすが観光名所。
「凄い人だかりだな」
「なんか人に酔いそう……」
「む、見えてきたぞ」
ケントが指差した方向を見てみると、とても大きくて立派な聖堂が見える。
その周囲にはここよりさらに人がごった返していた。
ノインはこのくらいで酔ってたら軍事行動は出来ないと思うから早く慣れとけ。
ともあれ何かのイベントかなと思い近付きながら大聖堂を注視していると、大きな鐘の音と共に大聖堂の扉が開いて今しがた結婚式を挙げたであろう男女が出てきた。
「大聖堂での挙式となると……貴族の結婚式か」
「これが混雑の原因かー」
「……中々見られるものではないな」
「だね。いいもの見れた気分」
クライスたちとそんなことを話しながら横目でミランダの方を見てみると――ものすごくウットリした顔で式の様子を眺めていた。
やはり女性は豪華な結婚式に憧れがあるのだろう。
「ふむ……」
豪華な結婚式か……俺ももうちょい頑張ればイケるかな?
大聖堂は国立らしいから後でオーグにでもどうやったら挙式の予約が出来るのか聞いておこう。
いや、まだ告白すらしていないのに気が早すぎるか。
「ルカ、どうかしたの?」
そんなことを考えながら大聖堂で執り行われている結婚式を眺めていると、隣に居たミランダに声を掛けられた。
「いや、別に何も無いよ」
「そう? なら皆移動しちゃってるからアタシたちも行きましょう」
「そうだね」
そうして俺たちはどちらともなく手を繋いで並んでシンたちを追い掛け始めた。
◇◆
「「……あっ!」」
追い付く前に気付いて良かった。
シンの魔法で空を飛んでいる最中はずっと手を繋いで引っ張って貰っていたから癖になってしまったのかもしれない。
間に合いました。
明日から愛飢夫も旅行です!