いい時間になったので適当な店に入って昼食を摂っていると、王城に出向いていたオーグたちが戻ってきた。
そのまま一緒にテーブルを囲んで食事をしていると、食後の行動についての話になった。
「では私とエリーは出掛けてくる」
「うふふ……初めての2人きりのデート……」
食事を終えると、まずはオーグとエリーが立ち上がり2人で腕を組んで店を出て行った。
「じゃあ……自分たちも……」
「お先に失礼します」
続けてマークとストーンさんが立ち上がり、オーグたちとは別の方向へと歩いて行った。
「私たちは女同士で街を回ってくるわ。お土産も買いたいし」
「そうねぇ……ミランダも一緒に行きましょうよぉ」
「え? あ、アタシも……?」
「うん! 一緒に行こうよぉ!」
「あ! もしかしてミランダ、誰かさんと2人で――」
「行く! マリアたちと一緒に行くから!」
そう言ってミランダは立ち上がり、マリアたちと一緒に店を出て行ってしまった。
しまったな。旅行だし、せっかく日本で言うところの京都的な街に来ているのだからこの街のいい雰囲気の場所で告白するのもアリかと思っていたのだけど……
まぁ今回はタイミングじゃなかったということで諦めよう。
「ルカ兄、どんまい」
「何がだよ」
俺の気持ちに気付いたのかシンがそんなことを言ってくる。
腹立つな、ぶん殴ってやろうか?
「怖い怖い……シシリー、メイちゃん。ルカ兄に殴られる前に俺たちも行こうか」
「はい」
「いいんですか? その……ご迷惑じゃないです?」
シンに誘われたメイちゃんがコテンと首を傾げている。
とても可愛い。
「子供が何を気を使ってるんだよ」
「そうですよ。メイ姫様、行きましょう」
「メイちゃん、シンじゃなくてルカお兄ちゃんと行ってもいいんだよ?」
「シンお兄ちゃんたちと行くです!」
メイちゃんはとてもいい笑顔で俺の誘いを断りシンとシシリーさんの間に立ち、両手を繋いで楽しそうに街へと繰り出して行った。
「ルカ殿……」
「ウォーレス殿に続いてメイ姫様にまで……お労しい」
やめろユリウス、トール。そんな目で俺を見るな!
「ルカ、僕たちと一緒に行くかい?」
そうしてまるで可哀想な人を見るような目で見てくるユリウスたちを睨んでいると、横からトニーが話に入ってきた。
「なんだ? トニーは単独行動はしないのか?」
「てっきり1人でナンパしに行くもんだと思ってた」
ナンパってあれか、道行く女性に声を掛けて一緒にお茶を飲みながら楽しくお喋りするやつか。
前世でやった事あるよ。俺は黙って立ってただけだけど。
「団体行動でナンパしてどうするのさ……夜には宿に戻らないといけないし」
「……つまり1人で来ていたらしていたと?」
「もちろんさ」
話の流れ的にトニーがナンパをするなら声を掛けた女性とお泊まりをするということなのだろうか?
だとしたらそれは……とてもふしだらです!
「ルカだって興味はあるだろ?」
「いや、俺は――」
俺だって男の子なのだから興味はある。しかし俺は『そういう事』をしてはいけないのだ。
何故なら俺は高いレベルで《操気術》を修めているから。
《躁気術》というのは読んで字のごとく気を操る技術である。
そして気というのは生命力である。
つまり生命力を強化し、操ることの出来る俺は生命力に比例して生殖能力も強化されているのだ。
なので俺が女性と『そういう事』をすると高確率で妊娠させてしまう事になってしまう。
なんでも俺の何代か前のご先祖さまがそれでエライコッチャになりかけたから『そういう事』は結婚するまで絶対にするなと厳しく躾けられているのだ。
ちなみに女性側が《躁気術》を習得している場合はその生命力を活かして着床率を上げたり、逆に出されたモノを完全にシャットアウトして避妊出来たりもするらしい。
なので《躁気術》を習得している者の結婚相手は同じく《躁気術》を修めた者であるべきなのだ。
人体って不思議……ってあれ? これってクライスたちにも教えておいた方がいいやつかな?
それともまだそこまでのレベルには至ってないからまだ言わなくても大丈夫かな?
「まぁ……ルカは不特定多数の女性にはあまり興味は無いだろうな」
「だな。この前騎士学院の先輩の女子に囲まれてた時も面倒くさそうにしてたし」
「……基本的にミランダにしか興味が無いのだろう」
「「「ああ……」」」
「お前らちょっと待て」
なんで全員「納得しました」みたいな顔して頷いてるんだよ。
「まぁ一途なのはいい事だよね。それよりクライスたちはどうなんだい?」
「俺たちはその……」
「そ、そもそも出会いが無くて……」
「……察してくれ」
「なるほど理解したよ」
クライスたちの絶望したような顔を見たトニーは苦笑を浮かべていた。
うん、さすがにちょっと可哀想。
「なぁ、この話続けててもいいこと無さそうだからそろそろ行かない?」
「ああ、うん。そうだね。どこに行こうか?」
「とりあえずブラついて目に付いた店に入ってみればいいんじゃね?」
「そうだね、そうしようか」
こうして俺たちも席を立ち、ダーム王国王都の散策を開始した。
目に付いた屋台で買い食いをしたり、適当な店に入ってお土産を見繕ったりして楽しんだ。
そしてそろそろ宿に戻ろうかと話していると――
「ねぇお兄さんたち、私たちとお茶しない?」
「あら、可愛い子発見。お姉さんたちと遊ばなぁい?」
「兄さんたちいい筋肉してるじゃないか。アタイらといい汗かかないかい?」
「「「……あ゛ぁ゛!?」」」
ハチャメチャが押し寄せてきた。
めんどくさいから気配を消しておこう。
「ちょっと! 私たちが先に声をかけたのよ!?」
「何言ってんのよ! アタシたちよ!」
「ふざけんな! アタイらだろうが!」
突然複数の方向から女性たちに声を掛けられ、声を掛けてきた女性たちが争い始める。
ふむ、街娘っぽいグループ、大人のお姉さんっぽいグループ、ハンターっぽいグループか……
どこにもついて行くつもりはないけど、強いて言うならハンターっぽいグループかな?
ミランダも呼んできて皆で筋トレだ!
「僕たち、宿に帰りたいんだけどねぇ……」
「もういい加減にするで御座るよ」
「あれ? ルカどこ行った?」
「「「アンタたちは黙ってて!」」」
「「「は、はい!!」」」
クライスたちは何とか脱出しようと試みているが、一蹴されている。
さて、どうしたもんか――ってあそこに居るのシンたちじゃね? てかミランダたちも一緒に居るな……合流してたのか。
「ほら、私たちと――」
「いや、アタシたちと――」
「だからアタイらと――」
それぞれの体と視線の動きから彼女らが誰を狙っているのかを確認する。
街娘っぽいグループはイケメン狙いなのかトニーとクライスを、大人のお姉さんっぽいグループは可愛い系狙いなのかノインとトールを、ハンターっぽいグループはマッチョ狙いなのかケントとユリウスを……
つまりトニーやクライス程イケメンではなく、ノインやトールのように可愛くもなくてケントやユリウスと比べると細身な俺はどのグループからも狙われない存在ということだろう。
だったらもう――先に帰っても問題無いよね?
そう結論付けた俺はそっとその場を離れ、シンたちの方へと移動する。
基本的に常に索敵魔法を展開しているシンと最近何故かばあちゃん並みに気配を消した俺を見付けるのが上手くなってきているミランダがじっとこちらを見つめていた。
シンはまだ分かるんだけど、まだ未熟なミランダが俺を見付けられるのはちょっと意味が分からない。
「やぁシン! 奇遇だね!」
「ルカ兄……そんな爽やかなフリをしても逃げて来たの丸分かりだからね?」
「そこは見過ごせよ」
どのグループのターゲットでもない俺があそこに残る必要は無いのだから。
「ルカ、良かったの?」
最近のシンはやけに俺をからかおうとしてくるなぁと思っていると、マリアたちと一緒に居たミランダがスっと寄ってきてそんな事を聞いてきた。
「何が?」
「せっかく女の子に囲まれてたのに逃げてきてるから」
ジト目だ。なんかミランダがすごいジト目でこちらを見ている。
なんだろう、俺は一切悪いことはしていないはずなのになんだかとても悪いことをした気分になってきた。
それから俺はずっとジト目で見てくるミランダの機嫌を直すことに苦心した。
そのお陰か宿に到着する頃にはいつも通りに戻ってくれたので安心したのだが、直後に何故か服をヨレヨレにして帰ってきたクライスたちに詰め寄られてしまった。
一体俺が何をしたって言うんだ!