ダーム観光……じゃなかった、訪問を終えた翌日、俺たちは牧畜が盛んで『国民よりも羊の方が多い説』のあるカーナン王国へと向かっていた。
先日と同じように関所を越え、ミランダに手を引かれながら飛んでいると放牧されている羊を発見した。
「ルカ見て、羊よ」
「ほんとだ。一匹くらい狩って持って帰っちゃダメかな?」
「絶対ダメよ。カーナン王国の羊は『国家養羊家』の資格を持った羊飼いにしか狩れないのよ」
「そうなの?」
「ええ。羊が時々魔物化して危険だから資格制度が出来たって中等学院で習ったわ」
中等学院で習うのか。なら通ってない俺が知らなくても仕方ないな。
習ってても覚えてる自信は無いけども!
「そうなんだ……つまり羊飼いになるには強さが必須なんだね」
「最低でも中型の魔物を一撃で倒せないとダメらしいわ」
「なるほどー」
って事は俺やミランダたちなら合格できる? あ、俺の場合筆記で落ちるか?
「とにかくそういう事だから羊を狩るのは禁止なのよ」
「はぁい」
ダメと言われたなら仕方ない、我慢しよう。
しかしあの羊は大きさ的には成羊かな? やっぱりマトン食べたいな。ジンギスカン……
まぁこれだけ羊がいるなら精肉店にでも行けば羊肉は手に入るだろ。
購入してシンの異空間収納に入れておけば腐る心配も無いから大量に仕入れておこう。
何故シンに限定しているかと言うと、シンの異空間収納には時間停止機能が備わっているから。
どうやら他の人の異空間収納には時間停止機能は備わっていないようなので羊肉保管係にはシンを指名したのだ。
ちなみに何故シンの異空間収納にはそんな機能が備わっているのかと言うと、シンは前世の漫画やアニメ、ゲーム知識から「異空間収納とかマジックバッグ、アイテムボックスは時間停止がデフォだよね」と言っていたので多分イメージの問題だと思う。
この世界の魔法は大体なんでも出来るって言ってた。やっぱり魔法使いはズルいよね。
「ねぇ! あれ!」
そんな事を考えながら移動していると、マリアが声を上げながら前方を指差した。
そちらへと意識を向けてみると……突如群れの中の羊が1匹魔物へと変貌した。
マジか、魔物化する瞬間とか初めて見たわ。
「と、とにかく一旦下に降りよう!」
シンの号令で地面に降り立つ。
とりあえずアレは狩ってもいいの? でも魔物化すると魔力がアレしてソレしてソイヤッして食べられなくなってしまうのでとても勿体ない。
マジで羊食べたかった。
「どぉぉおおらぁぁあああ!」
そんな事を考えながら魔物化した羊を見ていると、近くの草むらから巨大な武器を持ったとてもいいマッチョが飛び出してきた。
ふむ、あれは――
「ファルシオン!」
「残念、ハルバードでした」
シンが思わずといった様子で間違った答えを叫んでいたので冷静に間違いを訂正してやる。
ファルシオンは片刃幅広の剣だから武器の種類が全く違うよ。
しかし
マッチョにハルバードは良く似合う。
「……!?」
シンが全力で間違えた事を恥ずかしがり絶句している間に飛び出して来たマッチョは魔物化した羊の首を斬り落とし討伐を完了させた。
ムキムキに鍛えられ素晴らしい筋肉にハルバード、そしてローブというかマントを纏ったその姿、マッチョじゃなければ変態にしか見えない。
マッチョは鍛え上げた肉体を晒したくなる生き物なのでセーフである。
というかこの人羊狩ってたけどいいのかな? もしかして羊飼いの人? この国の羊飼いってマッチョなの?
「おう! 旅の人か? 大丈夫だったかい?」
そうしてケントやユリウスと比べてどちらの方がマッチョなのかと考えていると、マッチョな羊飼いが気さくな様子で話しかけてきた。
いい声だ。声までマッチョだ。
「ルカ、あれがこの国の羊飼いよ」
「そうなの?」
そうかもしれないとは思っていたが、やはりそうだったのか。
「ええ。見て、ローブの背中に紋章があるでしょう? あれが国家養羊家の紋章なのよ」
「へぇ……」
ミランダに言われてマッチョの背中を見てみると、そこにはデフォルメされた羊の刺繍が入れられているのが見える。
あれが国家養羊家の証なのか、やけに可愛らしいな。マッチョには似合わない。
「それとハルバードね。国家養羊家はハルバード以外の武器の使用は禁止らしいわ」
「マジか」
「おい、いつまで話しているつもりだ? そろそろ出発するぞ」
そんな話をしているうちに羊飼いとの話も終わっていたようで、さっさと行くぞとオーグに急かされた。
「はいよ。また飛んで行くの?」
「いや、ここからは徒歩だ。王都まではそう距離は無いからな」
「了解」
こうして俺たちは羊飼いとの邂逅を終え、王都に向かって歩き始めた。
ケントとユリウスは先程の羊飼いの筋肉について熱く語り合っていた。
◇◆
羊飼いと別れてから1時間ほどでカーナン王国王都に到着、入場門でダーム王国の時と同じようなやり取りをして入場。
王城へと向かうオーグたちと別れて俺たちは門の兵士に教えてもらった宿へと移動した。
「凄い! フカフカです!」
「これは凄いですわね……わたくしの家で使っている物と比べても羊毛の量が格段に多いですわ」
ダームの時と同じ部屋割りで部屋を確保。その中で一番広い部屋に集まるとメイちゃんがベッドに飛び込み、悪役令嬢さんがベッドに使われている羊毛の量を見て呟いた。
「そういえば……シンくんのお家の寝具は羊毛を使ってないですよね?」
「なによシシリー。もうシンの家の寝具まで知ってるの?」
「なんだと!?」
俺の警戒を抜けて連れ込んだのか? いや、夜はしっかり警戒していたはずだから俺が居ない昼間を狙った犯行なのか?
というか付き合い始めたのって合宿が始まってからだよね? だとしたらちゃんとしたお付き合いを始める前に連れ込んだって事だったり……?
シン……お兄ちゃんは許しません! 教育的指導パンチをお見舞いしてやる!
《
「え? あっ、ちがっ! お婆様! お婆様の部屋に行った時に見せてもらったの!」
ばあちゃんの? ならセーフか……いや待て、なんでばあちゃんがシシリーさんを連れ込んでんだよ。
「なんでばあちゃんの部屋に?」
シンも俺と同じ疑問を持ったようでシシリーさんに尋ねている。
「お婆様、トレーニングで少し腰を痛めたようで……その治療のために伺ったんです」
「「ばあちゃん……」」
俺とシンの声が重なった。
ばあちゃん、ちゃんと体に負担がかかり過ぎないメニューを組んだのにまたオーバーワークしたんだね……
毎回ちゃんと「やり過ぎは逆効果」だって言ってるのに、なんでやり過ぎるんだろ?
「それでベッドに横になってもらって治療をしたんですけど……その後マットレスが違うなって気が付いて。アレなんですか? お婆も知らないって言ってましたし」
「ああ、あれは――」
それからシンはベッドの原材料について話し始めた。
「あれは森で見付けた木の皮で出来てるんだ。俺とルカ兄で色々試して最終的にあの低反発マットレスが完成したんだ」
俺は寝具には一家言あるからね。納得のいくマットレスが完成するまでにたくさん試したよ。
「低反発? そんなので寝れるの?」
「それが凄いの。お婆様に『試してみるか?』って聞かれたから横になってみたんだけど……危うくお婆様の目の前で寝ちゃうところだった」
「そ、そうなんだ……」
それは仕方がないと思う。
だって家のベッドはアールスハイドで一番だから!
「ところで――」
そうして女子たちがキャーキャー言いながら話しているのをうんうんと頷きながら聞いていると、突然マリアが爆弾を放り投げた。
「――ミランダはルカの部屋のベッドの感触は知らないの?」
瞬間、室内に静寂が訪れた。
「な、ななな何を言ってるんだマリア!?」
部屋の中で一番最初に再起動を果たしたのは爆弾を投げつけられた本人であるミランダだった。
「え? だって……ねぇ?」
「アタシはルカの部屋にも入った事無いから!」
「……そうなの?」
全員の視線が俺へと向けられたが、俺にはそっと目を逸らすことしか出来なかった。
「ちょっとルカ! ちゃんと否定してよ!」
「ミランダ、俺の部屋、来たことない」
「ルカ!?」
その後俺とミランダはしばらくの間皆からの好奇の視線を浴び続けた。