しばらくの間皆から生暖かい目で見られた後、女性陣は「買い物に行ってくる」と言い残して出掛けて行ってしまった。
「さて、じゃあ俺も行こうかな」
「どこ行くの?」
出掛ける女性陣を見送って一息ついたタイミングでシンが立ち上がったのでどこに行くのか聞いてみる。
「ガランさん……さっきの羊飼いの人が教えてくれた店に行こうと思ってさ。ルカ兄も一緒に行く?」
「何の店?」
一緒に行くのはやぶさかではないのだが、一応何の店かくらいは聞いておこう。
「『シェパード服飾店』って店だよ」
服屋か……新しい服でも欲しいのかな?
だったらお兄ちゃんがコーディネートをしてやろう。
「どんな服が欲しいの? 俺が選んでやろうか?」
「いや、まぁ新しい服も欲しいんだけど……今回の目的はコレだよ」
そう言ってシンは異空間収納を開いて中から戦闘服のマントを取り出した。
「マント?」
「うん。今このマントには《快適温度》と《光学迷彩》が付与してあるんだけど、《自動治癒》も付与しようと思ってて」
「なんで?」
「この前の戦いで――」
それからシンはその理由を話し始めた。
なんでもシシリーさんの治癒魔法では癒せないほどの重傷を負った人がいてその人を癒すためにシシリーさんが着ていた戦闘服を脱いで着させようとしていたそうだ。
「そっかぁ……」
「だからマントに素材を追加して付与を増やそうと思ってさ」
「ふーん……でもさ――」
まぁ人前で服を脱ぐとか一大事だからその気持ちは分からなくもないけど……
なんでそんなめんどくさい事しようとしてるんだろ?
「――それって戦闘服の《自動治癒》とマントの《快適温度》を交換すればいいだけじゃね?」
「えっ?」
シンは不思議そうな表情を浮かべている。
なんだろう、この子バカなのかな?
「《光学迷彩》は確かにマントに付与してた方がいいけどさ、マントに《自動治癒》付与するなら戦闘服にはいらないだろ?」
「いらない……です……」
「だよな? それと《快適温度》もマントじゃなくて戦闘服に付与してても問題ないよな?」
「問題ない……です……」
「だろ? だったら素材追加する必要は?」
「あり……ません……」
シンはガックリとうなだれているが、ちょっと考えたら分かるでしょうに。
というかそもそも他人に《自動治癒》を使わせたいならそんな事をする必要もないと思うんだ。
「はぁ……お前ら魔法使いは《異空間収納》が使えるんだから大きめの布に《自動治癒》を付与して何枚かずつ持っておけばいいだけだろ?」
「でもそれじゃ回収が……」
「それはマントでも同じじゃん」
「た、たしかに……!」
あれ? コイツこんなバカだっけ? コイツ魔法学院首席だよね?
「まぁ……だから買うなら《自動治癒》が付与できる布でいいんじゃない?」
「うん、そうする。やっぱルカ兄は頼りになるなぁ」
「むしろなんで思い付かないんだよ……」
それから俺たちは残っていた男性メンバーでシェパード服飾店へと赴いて魔物化した羊の毛を使った布を購入した。
会計中に先程出会った羊飼いの人がやって来て「そいつらにはオマケしてやれ」と言ってくれた事で4割引で買うことが出来た。
今度来る時には贈り物として俺が調合した特製プロテインを持ってこよう。
◇◆
こうしてこの街での目的を達成した俺たちは街へと繰り出した。
流石は『国民より羊の方が多い』説のあるカーナン王国と言うべきか、至る所で羊肉の串焼きが売られていた。
色んな屋台を巡り、色んな部位の串焼きを買い漁る。
そして皆であーでもないこーでもないと言い合いながら食べ比べを行い、ある程度腹が膨れたので今度は服屋を回り始めた。
「どうだ? 目当ての加工は出来そうか?」
そうして何件目かの店でシンを着せ替え人形にして遊んでいると会談を終えたらしいオーグたちがやって来た。
「お疲れオーグ。新しい付与なんだけど、考えてたのとはちょっと違う感じになりそうなんだ」
「そうなのか? もしかして魔物化した羊の毛を使っても付与文字数が足りないのか?」
「いや、そうじゃなくて……」
それからシンは俺と相談した結果何にどういう付与をすることにしたのかをオーグたちに報告した。
「なるほど……言われてみれば確かにその通りだな。盲点だった」
「マジ? オーグも思い付かなかったの?」
「ああ。これは素晴らしいと言わざるを得ない」
マジか、チームの中でもインテリなシンとオーグにも思い付かなかっただなんて……
もしかしてそれを思い付いた俺は賢いのではなかろうか?
その後オーグたちから会談の結果を聞いてみると「大体ダームと同じ感じ」との答えが返ってきた。
つまり成功したということだろう。
「んじゃ街ブラ再開しますか!」
オーグたち3人を加えたことでまぁまぁな大所帯となってしまったが、気にしても仕方が無いのでそのまま店を巡り、俺たちが食べた中でも特に美味しかった串焼きをオーグたちに食べさせ、お土産やその他の買い物を済ませて宿へと戻った。
「ふぅ……買い物って疲れるな……」
「そう? まだ巡り足りないんだけど」
「ルカ兄はなんでそんな元気なんだよ……」
「皆でワイワイしながら買い物するの楽しいじゃん。普段物静かなケントに選ばせたらめちゃくちゃファンキーな上着を持ってきた時とかめちゃくちゃ面白かっただろ?」
「それは面白かったけど……」
アレはマジで面白かった。
危うく笑い転げて床をバンバンしてしまうところだった。
「……俺は真面目に選んだぞ」
「いや、アレはケントには似合わねーよ」
「俺も服には疎いほうだが……ノインに同意だな」
「お前ら……」
「そんなケントにはこれをあげよう!」
ノインとクライスにまでツッコミを入れられてしょんぼりとしているケントに紙袋を手渡す。
「……これは?」
「俺が選んだケントに似合いそうな服だよ。セットアップになってるから悩まなくていいとても便利な服だよ」
「……いいのか?」
「めちゃくちゃ笑っちゃったからね。これはそのお詫び」
ケントは不思議そうな顔をしているが、これくらいはしないといけないと思うんだ。
それに人の服を選ぶのは好きだからね。趣味みたいなものだよ。
「……ありがとう」
「どういたしまして。ああ、何か付与して欲しければシンに頼んでよ」
「いや……私服に付与は必要ない」
「それもそうか」
「ただいまです!」
そうしてどうでもいい話をしていると、女性陣が帰って来た。
「はぁ……楽しかったですわ。こんなにお店を回ったのも初めてですし」
「まあちょくちょく行こうよエリー!」
「護衛なら私たちが居る。心配ご無用」
「フフ……そうですわね。また行きましょう」
「私も行きたいです!」
「心配しなくてもメイも連れて行ってあげますわよ」
「やったです!」
女性陣は元気だな。楽しかったようで何よりだ。
「……買い物の話題を振るのはやめておこう。付き合ってくれと言われたら堪らん」
「だな……」
背後でシンとオーグがコソコソ話しているのだが、何が不満なのだろう?
買い物楽しいじゃん。ウインドウショッピングも俺は好きだよ。
てかその発言、フラグだと思います!
「あの……アウグスト様……」
「!?」
……ほらね?
「あの、シンくん」
「え!? お、おお……どした?」
こっちもか。フラグ回収早すぎるだろ。
それから皆でワイワイ喋りながら食事をしてその日は就寝。
翌朝、のんびりと朝食を食べて出発しようとしたところで大量の羊が魔物化する事件が発生したのだが――
シンたちアルティメット・マジシャンズの魔法によってあっさりと解決されてしまった。
俺たちアルティメット・ナイツの出番は無かった。
今回の戦いの見所は……ローブを纏いハルバードを装備したマッチョがたくさん見られたことくらいである。
ナイスバルク!