初めての魔物討伐から数ヶ月、いつものようにシンを実験台にして気を使わずにミッシェルさんを倒すための新技を開発していると、我が家にやって来たお客さんに声を掛けられた。
「おや、ルカくんシンくんこんにちは。剣の修行かい?」
「ディスおじさんいらっしゃい! 今はミッシェルさんを倒すために特訓中だよ!」
「ディスおじさんこんにちは。俺は武術は程々でいいんだけど、ルカ兄の実験台にされてるよ」
やって来たのは大体月イチくらいで我が家を訪れるおじさんだった。
フルネームは知らないけど俺たちは『ディスおじさん』と呼んでいる親戚のおじさん的存在だ。
黄土色っぽい金髪と同色の口髭を生やした翠色の目のナイスミドルなおじさんで、いつも上質で綺麗な服を着ていて風格というかカリスマというか……なんかやり手の社長っぽい雰囲気の人。
前世の俺が従兄に負けずに家業を継いで数十年もすればきっとこんな感じのかっこいいおじさんになれていたと思う。
「はっはっは! そうかそうか、あまり無茶なことはせんようにな。ところで、マーリン殿は居られるか?」
「じいちゃんなら中に居るよ。呼んでこようか?」
「じゃあシンくん、頼めるかい?」
「わかった!」
「あ! こら、逃げるな!」
シンは俺に向かって舌を出し、ディスおじさんに返事をして家の中へと走って行った。
「あの野郎……せっかく新技思い付いたのに……」
「それはどんな技なんだい?」
シンが走って行った家の方を睨みながらブツブツ文句を言っていると、ディスおじさんが気になったのかそう質問してきた。
「えっと……地面スレスレを走って、足首を狙って攻撃するんだ。そうしたらだいたいの人は後ろに下がるか飛んで避けるかするでしょ?」
「そうだね」
「その瞬間に剣の向きを変えて――飛んで避けたら真上に、下がって避けたら突きを放つように股間を攻撃するんだ」
「う……うむ……」
「名付けて《
「そ、それはそうかもしれんが……」
ミッシェルさんに有効な必殺技《
元となっている《
「これで勝つる!」
「ミッシェル……強く生きよ……というかそんな技をシンくんで試そうと思っていたのかい?」
「一応寸止めはするつもりだよ? まぁ当たってもシンなら魔法で《物理障壁》張ってるだろうし、万が一当たっても自分で治せるし問題無いかなって」
「問題しか無いと思うのだがね……」
「へーきへーき」
アイツだってミッシェルさんから武術を叩き込まれているし、何より俺の弟なのだから。
「まぁ……キミたちがそれでいいのなら構わないが……」
「でも騎士ってこんな感じなんでしょ? ミッシェルさんが言ってたよ?」
「う、うーむ……私は騎士のことはそこまで詳しくないからわからんのだが、ミッシェルがそう言ったのならそうなのだろうな……」
ディスおじさんはそう言って目を泳がせ、背後に控えていた人物へと顔を向けた。
「恐れながら……男性として致命的なダメージを負うような攻撃は騎士団の訓練では厳禁となっております」
ディスおじさんに促されてディスおじさんの背後に立っていた人が一歩前に出てきて説明をしてくれた。
しかし――その丁寧な説明は俺の右耳から入って左耳から抜けていってしまった。
ふ、ふつくしい……!
前にでてきた人は今まで見たことの無い女性で、赤い紙をポニーテールにしている茶色い目のとても綺麗なお姉さん。
いつもディスおじさんにくっついている護衛の人と同じような服を着ており帯剣していることからこの人もディスおじさんの護衛だということが見て取れた。
中でも俺の目を引いたのは……その女性の『気の流れ』だ。
気というのは基本的にごく微量が体内を巡っているものであり普通は見ただけではわからない。
しかしこの女性は一目見てわかる……というか感じるくらいの量が全身を巡っていてその流れも整っている。
この世界に来てから感じた中で一番気の量が多かったのはミッシェルさんなのだが、この女性は気の量ではミッシェルさんに劣っているが、流れの淀みのなさでは勝っている。
さらに服の上から見ただけだがしっかりと鍛えられ引き締まったボディをしている。
結論から言うと、この女性はかなり強い。間違いなく今までディスおじさんが連れて来ていた護衛の人より強いだろう。
一秒にも満たない間にそんなことを考えながら呆然とこの女性を見つめていると、女性は何かに気付いたような表情を浮かべて口を開いた。
「失礼、自己紹介がまだでしたね。私はクリスティーナ=ヘイデン。ディセウム様の護衛です」
「ル、ルカ=ウォルフォードです! えっと……10歳になりました!」
「ふふ、よろしくお願いしますね」
俺が緊張しながら自己紹介を返すとクリスティーナさんは微笑を浮かべながら俺の頭を撫でてきた。
「ふぁ……!?」
クリスティーナさんの手が俺の頭に触れた瞬間、まるで雷が落ちたかのような衝撃が全身を駆け巡る。
これは……この気持ちは……恋!?
「……驚かせてしまいましたか。ごめんなさい」
「い、いえ! だ、大丈夫です……」
「そうですか」
「はい……あ、あの!」
あまりの衝撃に俯いてしまっていたが、意を決して顔を上げてクリスティーナさんに目を合わせる。
「何ですか?」
「えっと……ク、クリスティーナさんって呼んでもいいですか!?」
本来なら初対面の女性のファーストネームを呼ぶなんて不躾な真似はしないのだが、クリスティーナさんだけは是非ファーストネームで呼びたいと思って聞いてみた。
俺のことはもちろん呼び捨てでルカって呼んで欲しい。
「もちろん構いませんよ。しかし少々長いのでルカ様がよろしければクリスとお呼びください」
「じ、じゃあクリスさんで……あと俺のことは呼び捨てで呼んでください!」
「わかりました。それでしたら私のことも呼び捨てで構いませんよ」
よ、呼び捨てはちょっとハードルが……
「えっと……呼び捨ては……」
「そうですか? 少し砕けた感じで『お姉ちゃん』などはいかがでしょう?」
「クリス……お姉ちゃん」
少し恥ずかしくなりモジモジしながら名前を呼ぶと、クリスお姉ちゃんは大きく目を見開いて両手を口に当てていた。
「……なんでしょう? 呼ばれ慣れているハズなのに、このくすぐったい感覚は……」
「クリスお前……ガキ相手に何やってんだ?」
なんだか照れているクリスお姉ちゃんを可愛いなぁと思いながら見ていると、横からまた別の人が話に割って入ってきた。
俺とクリスお姉ちゃんのお喋りを邪魔するやつはどこのどいつかと思いそちらを見てみると、そこに立っていたのは銀髪に青い目をしたイケメンだった。
くそぅ……その顔面にこの拳を叩き込んで二度と見れない顔にしてやろうか?
「ジークですか。私はマーリン様とメリダ様のお孫さんと親交を深めているところです」
「親交って……まぁいいか。それで、ルカだったか?」
「……何?」
せっかくの楽しい時間を邪魔された恨みとイケメンへの妬みを込めてクリスお姉ちゃんにジークと呼ばれていた男を睨み付ける。
「おー怖い怖い、そう睨むなよ。俺はジークフリート=マルケスだ。俺もクリスと同じディセウム様の護衛だよ」
「……ルカ=ウォルフォード」
「よろしくな! クリスのことを姉ちゃんって呼ぶなら俺のこともジーク兄ちゃんと呼んでもいいぞ!」
「やだ!」
「なんでだよ!?」
ジークのこともお兄ちゃん呼びしちゃったらなんかクリスお姉ちゃんとジークが親戚のお姉ちゃん夫婦みたいになるからだよ!
「お前なんてジークで十分だ!」
「なんだとガキンチョめ!」
「うるせぇ! やんのか!?」
「ハッ! ガキが俺に勝てるわけが無いだろうがよ!」
ジークが勝ち誇ったような顔で見下ろしてきたのでとても腹立たしい。
なので開発したばかりの新技の実験台にしてやることを俺の中で決定した。
「ジーク……覚悟しやがれ!」
「おう、かかってこい!」
「秘技! 《
ルカは こしを ふかく おとし まっすぐ あいてを ついた!
「あがっ……!? お……おま……」
俺の《
「完! 全! 勝! 利!」
その姿を見た俺は右手を天に掲げ勝利を宣言した。
「……仲良くなったようで何よりだ」
「ほっほ……」
あ、じいちゃん来てたんだ?
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