聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
屋根の上を優雅に可愛く散歩中のこと。
俺は、可愛すぎる天使に出会った───と思ったら、窓ガラスに映った自分の姿だった。
神々しすぎて、自分で自分に拝んじまうところだったぜ。なんと可愛らしい最高もふもふな俺。
流石、前世でも創造神が本気出して作った、無限の可愛さを内包する生命体とまで言われただけはある。
ほんと、カワイイで構成されすぎだろ。そりゃ人間は逆らえんわ……嫌われたら世界が終わっちゃうもん。
だから、精々俺の機嫌を取ることに全身全霊を注いでおくれよ、人類の諸君。
この可愛さをもってして俺は──新世界の神になる。
「……なんで、君は窓を見つめながらドヤ顔をしているんだい」
「にゃあ」
やっほー、銀髪エルフさん。祭りのとき以来だね。
何故ドヤ顔かって? カワイイからだよ。
ほら、君もさっさと頭を垂れて蹲え。猫の御前だぞ。
「いつ見ても君は……幸福そうな顔だな。ビックリするくらいに気が抜ける」
俺の頭を撫で、銀髪エルフさんは息を吐いた。
随分と疲れてるじゃん、なにかあったのか?
「逃げるのにも疲れたんでね、少し休息を取ろうか。君が隣にいれば、回復も早くなりそうだ」
逃げる? 穏やかじゃあねぇな。銀髪エルフさん、なんかヤッちゃったの? 一緒に星を眺めた仲だし、事情を話せば俺が力になってやらんこともないぞ。
「はあ……私が居なくとも“森”は変化しないというのに。引き継ぎもちゃんとやったじゃないか。私は堅苦しいのは性に合わないんだよ……」
「にゃあ」
「ふふ、慰めてくれているのかい? ありがとう」
いや、撫で方が乱雑になってきてるぞ。また猫パンチを浴びたいのかね。
「この前、聖女様の“光”が魔物達を一掃したらしいね。私は街を離れていたから、直接見ることは叶わなかったけれども……確かにあんな膨大かつ精密な魔力コントロールは彼女にしかできない。……ひとまずは安心したよ」
「にゃあ」
「はは、猫ちゃんも嬉しいんだね」
違う、撫で方……さてはお前、感情が諸に身体に出ちゃうタイプだな? 普段はそんなに悪くないのに、感情が揺さぶられる度に力加減が下手くそになってんぞ。
嬉しいのは分かったから、一旦落ち着いて撫でろ。さもなくば、お前は我が必中の肉球を顔面に押し付けられることになる。
当然、相手は死ぬ。聖女ちゃんで実験済みなんで間違いない。
「あ……魔力結界を抜けられた。気を抜きすぎたみたいだ。猫ちゃんに集中しすぎてたな……」
じゃあ仕方ないね。猫が最優先なのは世界のルールで決まっているし。
なんて考えていると、天から一人のエルフが降り立った。わぁ……やっぱ空飛ぶのはカッコいいな。俺もいつか飛びたいぜ。
「見つけましたよ、セラスピア様!」
「ローザ……君もしつこいな。猫ちゃんとの憩いの時間くらいゆっくりさせてくれないかな」
「ゆっくりしたくば、“森”にご帰還ください。妹様も、貴方様の帰りを心待ちにしております!」
「その内帰るって何度も言ってるじゃないか」
「“その内”から、もう15年経っております!」
「まだ、たったの15年だろう」
エルフ的な感性だな。
どっちの言い分も知らんし、詳しい事情はよく解らんが……くだらんことを猫の前で争うな。争うなら、俺の可愛さで争え。
俺は身を乗り出し、銀髪エルフさんの頬に肉球を押し付けた。おら和め。
「なぁん」
「うっ……か、かわいいことをシてくれるんだね。ローザ、この光景を絵に起こしてくれないか。額縁に入れて飾りたい……」
「何を言っているのですかセラスピア様!?」
至って普通の反応だから安心してくれ。
堕ちた銀髪エルフさんに抱き締められながら、俺は勝利を確信した。ふっ、お前は既に詰んでいる。
「ふふっ……カワイイ子め」
「………」
……やっぱ貴様力加減ヘタクソなんで離せ!
頬に押し付けた肉球を、俺はそのまま振り抜いた。
「ぐえっ」
「セラスピア様ぁ!?」
◆◆◆◆
『猫さん、猫さん』
「にゃあ」
『ふふ、呼んでみただけです!』
「……」
またか。
聖女ちゃん、ちょいちょい挟んでくるんだよな、この“呼んでみただけ”パターン。俺が暇してるときなんて結構な頻度で『猫さん』と呼んできては、嬉しそうにしている。
何がそれ程までに楽しくて嬉しいのかは知らんが……一々返答を返すのも面倒だ。次からはもっとテキトーに返すぞ。
『猫さん……今日はどんなことをして過ごしたのですか?』
「なぁう」
エルフ同士の面倒くさい諍いを、肉球一つで沈めたぞ。物理的に。
『成る程……日向の下で、ずっと寝ていたのですね。とっても気持ち良さそうです!』
何が『成る程』なんだよ。俺の発言と1ミリも掠ってないじゃねぇか。適当な相槌打ちやがって。
『私も、解呪が終われば猫さんと色んな所を散歩したいです……ふふ、絶対に幸せだって解りますね』
聖女ちゃんと散歩かぁ……落ち着くどころか、俺の行動全てガン見してきて鬱陶しそう。俺の可愛すぎる何気ない仕草に崩れ落ちまくっては、日が暮れてるだろ。容易に想像できる。
介抱するのはゴメンだぞ。カワイイ俺が介抱しても、聖女ちゃんは『ね、猫さんッ。私のことを心配してくれているのですか? うぅ、私の猫さんが世界一優しいッ』とか言って、悪化の一途を辿り続けるだけだろうし。
『まだまだ猫さんに見てほしい魔法もありますし、一緒に見てみたい場所も沢山あるんです。青空も、星空も、海も、山も、お花畑も。全部隣で見て笑い合いたい。……えへへ、希望が広がりますね!』
「にゃあ」
そうだね。
そもそも、俺という希望の権化がいるのだから、絶望などには絶対に呑ませはしないのだけどもね。
もし万が一、また聖女ちゃんが辛気臭くなって発狂し始めたら、何度でもパンチを浴びせ続けてあげるよ覚悟しろ。
『そのときは、猫さんのために作った歌を歌いますからね。楽しみにしておいてください!』
え゙。
覚悟を決めるのは……俺の方だったのか。
世界は残酷だっピ……。
◆◆◆◆
『猫さん、猫さん』
お、来たな。
これは間違いなく“呼んでみただけ”のパターンだ。何回も同じ手に引っ掛かるカワイイ猫じゃないんだからな。そんなもんに、俺の尊き声を響かせてあげる必要はない。
お前にはコレで十分だよ。
尻尾をパタンパタンと弾ませることで、俺は返した。
ふっ、聖女ちゃん……俺の“勝ち”だ。
『し、尻尾で返事を……ふ、ふふ……えへへッ。可愛すぎますっ……こんなに幸福でいいのでしょうか』
なんか心の底から幸福を噛み締められ始めた。
俺は敗北した。
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