聖女様の飼い猫   作:もふもふもふも

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13話 猫と期待

 

 

 外の喧騒とはまた違う喧騒が周囲を支配する建物──冒険者ギルドの中を俺は歩いていた。

 

 流石に一般神にゃんこが居るのは珍しいのか、俺の姿に気が付いた冒険者達はもれなくこの動くもふもふに釘付けになっている。

 

 歩くだけで歴戦の猛者達の視界を奪ってしまうとは……人気者は辛いぜ。

 

「え、えー!? 猫いるじゃん! このギルド内で飼ってるワケじゃない筈だし、迷い込んだのかな?」

 

「にゃあ」

 

 迷い込んだんじゃない、己の意思で出向いてやったんだ。勘違いするなよ小娘。

 

 『私、魔法使いです!』みたいな特徴的な格好をした女性に、俺は訂正の鳴き声を上げる。さっさと跪いて俺が降臨したありがたさに咽び泣け。

 

「あはっ。声もカワイイじゃん! ビックリするくらいに白いし、絶対キミ野良じゃないね! 飼い主に怒られちゃうゾ?」

 

 ニコニコと笑う魔法使いさんに、頬をめっちゃモミモミされる。

 おい、止めるのじゃ無礼者っ……余を誰と心得るッ。

 

「はあ〜もふもふ〜。手触りも神じゃん」

 

 当たり前だろ、神なんだから。

 

「いや〜、雑草処理と聖女様の聖魔法目当てでやって来たけれど、こんなカワイイにゃんこちゃんを愛でられるだなんてね。あはっ、偶には遠出をするもんだ!」

 

「にゃあ」

 

「お、キミも話が分かる口かい? 教会の堅苦しい奴等より余っ程賢いねぇ」

 

 知ってるよ。

 教会の堅苦しい奴等を見たことないけれど、この理性溢れるもふもふからして、俺の知性の方が上って解るだろう。世界の常識だぞ。

 て、そんなこといいから離しなさい。撫で方は悪くないが、今は気分じゃないんだよ。

 

「わっ……凄い嫌がるね。私のナデナデは結構貴重なのに〜」

 

 俺の存在は、世界で一番貴重なんでな。人類が推し量れる領域を遥かに凌駕していると理解しろ。物事は全てカワイイ俺基準で回らなきゃならないんだよ。

 俺が『撫でろ』と願ったときは撫でる。『跪け』と命令したときは跪く。これこそが世界の理だ、学習しておけよ魔法使い。

 

「王都にもこんな純白な猫いないなぁ……もしかして超レアな子だったりするのかな。このにゃんこちゃん」

 

「にゃー」

 

「あはっ。でも警戒心がないのはいただけないゾ。キミみたいなカワイイ子は悪〜い人に誘拐されちゃうかもしれないんだから」

 

 そのときは誘拐犯を骨抜きにするから安心しろ。

 絶世の可愛さの前には、どんな悪鬼も無力なんだぜ。ふふん。

 

「あはっ、絶対理解できてないじゃん。無防備なカワイイ子は好きだぜ〜私は。キミは特に見ても触っても癒されるし、最高だね!」

 

 そうか、そいつはなによりだ。

 けど、別に俺は無防備なワケじゃない。俺を愛でたいと藻掻き苦しむ奴等のために、慈悲をくれてやっているだけだ。解釈を履き違えるでないぞ。

 

「さて……そろそろ約束の時間になるし、私は行くかな。すっぽかしたいところだけど、にゃんこちゃんが話し相手になってくれたお蔭で今は気分が良いや。ありがとね」

 

 おう、全身全霊で感謝しなさいな。次会うときは貢ぎ物も忘れずにね、絶対だぞ。

 

 満面の笑みで去っていく魔法使いさんに、俺は威圧的な咆哮を上げた。

 

「にゃあぁ」

 

「え、やっぱり私が居なくなるのは寂しいって!? しょうがないなぁ、やっぱり会合はすっぽかして──」

 

「………」

 

 はよ行け。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 ギルド内で冒険者達の視線を集めるのにも飽き、ギルドの隅をゴロンゴロンと転がっている所を、俺はOL娘に捕まっていた。

 

「来てくれたんだね、白猫さんッ。さっき冒険者の方が『白くて綺麗な猫がいる』って言ってたから、絶対に君だと思ったよ」

 

「にゃあ」

 

「あ、あぁー……癒しが心身に染みるなぁッ」

 

 相当疲れが溜まってたみたいだな、顔が完全に蕩けちゃってんぞ。良かろう、俺をモフり存分に癒されるが良い。

 

「ふふ……私、今休憩中なんだ。白猫さんも沢山の人に囲まれたりしてたらしいし、疲れてるでしょ? 奥に君専用の布団を用意したから、一緒に休もうか」

 

 ほう、お布団とな。確かに今世ではあんましお世話になった記憶がないな。懐かしさと高揚感を感じるぜ。

 良き計らいだ……褒美に癒しのゴロゴロ音色を賜わそう。ありがたく聴け。

 

「わ、私の腕の中でリラックスすんのかよぅッ……なんだよこの子、天使かよッ」

 

 天使だよ。新世界の神でもあるがな。

 人類には早すぎたかな、この可愛さは。

 

 表情の緩んだOL娘に、ギルド職員以外入ることのできないであろう部屋に通され、俺はふかふかなお布団の上に寝かされた。

 

 うむ、悪くない寝心地だね。これならぐっすり眠れそう──

 

「せ、先輩、その子は一体なんですか? 先輩の飼い猫ですか?」

 

「カワイイ……真っ白なお毛々、手入れができてる」

 

「わぁ、猫ちゃん! ね、ね、撫でても良い!?」

 

「お、おい、この猫さっきソロア厶様に愛でられてた子じゃないか? いいのか勝手に連れてきて」

 

「この猫、ワシのじゃないか?」

 

「カワイイの権化……猫を讃えよ……崇めよ」

 

 なんか、ギルド職員の人達に囲まれたでござる。

 

 いやまぁ、当然ではあるか。カワイイ俺が可愛く寝てたら、そりゃ皆こっちに来ちゃうよ。常識的に考えて。

 

 誰であろうと虜にするこの魅惑の存在……はぁ、カワイイって罪の塊やわぁ。

 

「皆さん、落ち着いてください。この白猫さんはギルド長に許可を貰って、このギルド内を好きにできる権限をもらった子なんです。立場で言うと、私達より上になる凄い子なんですよ?」

 

「にゃあ」

 

 そうだぞ、崇め奉れ。

 

 許可など得ずとも、俺は勝手にギルドを好きにする予定だったんで、あんまし関係ないがな。

 

 OL娘よ、説明ご苦労さま。お前は良き臣下だぜ。

 

「そして、この子は別に私の飼い猫ってワケじゃありません。恐らく何処かで大事にされている子なんでしょう。……ふっ、しかし私のことがめちゃくちゃ好きで、よくこうして会いに来てくれる『困ったさん』なんです。あぁ、好かれるって罪ですねッ」

 

 お前、あんま調子に乗るなよ?

 

 俺は全力で威嚇した。

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

『猫さん猫さん。貴方が今何を考えているのか、私には手に取るように解ります。ふふ、もう長い付き合いですからね!』  

 

 ほう、この俺の思考を読み取ったと? 聖女ちゃんがか? いつもは見当外れなことしか言ってないのに、随分と自信満々な発言をするじゃないか。

 

 良いだろう、その発言が嘘か真か、俺自ら確かめてやる。俺の偉大な意思を汲み取れる者が現れるのは、人類史上最大の功績だからな。

 

 聖女ちゃんの頭を、俺は尻尾で軽めにぺしんぺしんと叩いた。

 

 今考えているのは、“期待してるぞ、聖女ちゃん”だ。

 

 聖女ちゃんと付き合いが長いのは事実だし、聖女ちゃんはやればできる子である。きっと、奇跡を起こしてくれる筈。

 

 さあ……我が期待に応えてみせよ!

 

『成る程……“明日もいっぱいお昼寝がしたい!”、ですか。……ふふ、私の隣でいっぱい眠ってくださいね、快眠をお届けしますから!』

 

「………」

 

 俺は、聖女ちゃんの頭に尻尾を強めに叩き付けた。

 

 

 

 

 





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