聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
シスター少女が所属する、え、える……ぷさい? 教会を探索中のこと。
なんか、良い感じに身体が入りそうな絢爛な壺を見つけ、俺はその中に入っていた。
ううむ、中々のフィット感……悪くないな。お日様の当たる所も好きだけれど、こういう狭い場所ってのも安心感があって良いね。温かさもあるし。
この壺も、俺のような聖なる存在に入ってもらえてさぞや鼻が高いことだろう。世界一幸運な壺だな、お前は。
壺の中で可愛らしいもふもふの液体になりつつ、俺は鼻を鳴らした。
「あ・ん・た、ねぇっ……見当たらないと思ったら何やってんのよッ」
「にゃあ」
ハロハロ~、シスター少女。
壺の中からでも挨拶をしてあげよう、なんて礼儀正しくて可愛くて天使な俺。
「また大事なモノを勝手に変な使い方してるし……ああ、もうッ、取り敢えず出なさい! この壺の中じゃなくとも寛げる場所なんて沢山あるでしょうが!」
壺の中に手を入れ、シスター少女は無理矢理に俺のことを外へと出そうとする。
や、やめよ愚か者、我が憩いの時間を邪魔する気か。誰が何と言おうと、今の俺は此処がいいんだ。カワイイ判断に反逆を行うとは、身の程を弁えぬかッ。
「にゃぁあ……」
「ぐっ……ざ、罪悪感を煽るような鳴き方止めなさいよね。私が悪者みたいじゃないっ」
別にシスター少女を悪者にしたいワケじゃない。只、猫たる俺の行動を阻む者は、正邪に関係なく等しく赦さん。
絶対は俺だ、貴様ら人類は我がカワイさの前に胸をトキめかせて平伏しておけば良いのだ。暫くは絶対にこの壺から出んぞ覚悟しろ。
「ごはんはさっきあげたばかりだし……他にこの子の気を引けるモノって、何があるかしら」
マタタビだな。この世界にあるかは知らんけど。
「はあ……あのね、それは聖女様の聖魔法が込められた壺なのよ。解る? めちゃくちゃ貴重なの。貴方のごはん何日分買えるか分らないくらいに価値のある壺なんだから」
ほへ〜凄い。なら俺専用の猫壺にすれば、国を容易く買えるくらいの価値に跳ね上がるってことじゃんね。
希少価値の高い物品の希少価値を、更に高めてやっているんだぞ。一体何を困る必要があるんだい?
「ぜっっったいに貴方理解できてないわね」
「にゃあ」
失礼な。ちゃんとできてるよ。
俺の可愛さが遥か彼方を突き抜ける、天も支配するモノだってことをね。
「こんな所誰かに見られたら、こっぴどく叱られちゃうじゃない……貴方、せめてその壺割らないでよね」
任せとけ。
壺の中で、俺は身を捩った。
「ちょっ、あんまりモソモソ動かないで! 壺が倒れるでしょう!? 言ったそばからだなんて、貴方解っててやってない!?」
言葉は理解できてるに決まってんだろ、我猫ぞ?
理解はできてるが、守る気がそんなにないだけだ。ふふん。しかし安心しろ、割るつもりは本当にないからね。
シスターは、大人しく俺のカワイさに悶えて沈め。
「銅像のときといい、今回の壺といい、貴方、聖女様に無礼を働きすぎよ。上の方達がここまでの貴方の愚行を知ったら、どういう反応をするか……」
喜ぶんじゃね。
神猫の俺に偉大な歴史を使ってもらえるほど、名誉あることも世界にはないだろう。
少なくとも聖女ちゃんなら、『つ、壺の中に入る猫さんっ……ぐっ、世界一の破壊力ですッ。すみません、この壺売ってくださいませんか!? 言い値で買います!』と、血走った目と声色で騒ぎ立ててくれるに違いない。
……想像したらすげぇ鬱陶しいな。ずっと興奮状態で壺に発狂する聖女ちゃん。可愛すぎるのも考えものだぜ。
「にゃあ」
「……貴方って、可愛く鳴いたら全部赦されると思ってない?」
思ってないヨ。
そもそも鳴く必要もないし。猫は可愛く鳴かなくても、黙ってモフらせるだけで全てを支配することができるんだよ。
「全く……聖女様は笑って許してくださるでしょうけど、教会の上の方達はほんっっとうにガチ勢ばっかりなんだから。貴方、目を付けられないようにしなさいよね。唯でさえ、貴方“神聖さ”に磨きが掛かっちゃってる気がするし……」
もちろん。
厄介事は回避するぜ。
賢くて最強な俺は、壺の中で元気に返事をした。
「にゃあん」
「……とんでもなく不安だわ」
◆◆◆◆
今日は憎き雨の日。
聖女ちゃんの下で、俺は丸まっていた。廃教会ゆえに、ここ雨漏りが酷いんだよね。
さっさと去れ雨……そして天空よ晴れ渡れ。
『やはり猫さんは、雨が苦手なんですね……いつもより元気がないように見えます』
雨が好きな猫などそうそういるもんじゃねぇぜ。雨は我が道を遮る天敵だ、猫パンチで追い払ってやりたい。
したら俺の可愛いあんよさんが濡れちゃうのでやらないが。
『くっ……ダメなことだと解っているのに、足元で丸くなる猫さんがカワイイと思ってしまうっ。猫さんは今、辛くて悲しい思いをしているのに、そんな中で私を頼ってくれるのが死ぬほど嬉しいとッ。ああ、なんて私は罪深いのでしょうか……』
真面目か。
俺は別に気にしてないから、そんな重苦しい空気を出さないでくれませんかね。ジメジメした空気が、更にジメジメしちゃうじゃん。
『今はまだ空を晴らす程の魔法を使うことはできませんが……この教会全域に結界を施し、雨を遮ることならば可能です。猫さんの幸福を護るためにも、頑張りますからね!』
なんと、この鬱陶しい雨を防いでくれるのかい。流石は聖女ちゃん、やればできる子聖女な子!
今までポンコツ呼ばわりしてごめんね聖女ちゃん……お前は最高の臣下だぜ。忠道大義であるぞ!
感謝の印として、俺は聖女ちゃんの肩まで登り、擦り寄った。我がスリスリを味わうんだ、相応の働きはしてもらうぞ。
『ね、猫さんが私の顔に……ま、魔法に集中できませんっ……尊すぎて昇天してしまいそうですッ……も、もう限界…………ヴ』
尊死すな。
気持ちは分からんでもないが。カワイイ俺にこんなカワイイことをされたら、常人であれば一発で胸キュン心臓麻痺を起こすことだろう。しかし、今は絶対したらダメやろがいっ。まだ何一つ成し遂げてねーじゃんかよ!
やはり、聖女ちゃんはポンコツ……残念ポンコツ聖女だ。
その後も、一向に張られることのなかった結界のない空を見上げて、俺は確信するのであった。
因みに、結界は雨が上がってから発動した。
いや、遅いだろ。
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