聖女様の飼い猫   作:もふもふもふも

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15話 猫とハッピーエンド

 

 

 ──人々が幸福な道を歩くことができるのであれば。

 

 この身、この存在が朽ち果てようとも。これ程幸福なことはありません。

 

 失った命は戻らない。無くした宝物は返ってこない。多くの人たちが傷付き、悲しみに溢れ出た涙の雨が降ってばかりの辛く険しい世界ではあるけれど。

 

 だからこそ、私は夢と勇気を胸に、前へと進もうとする皆の未来を護りたいのです。

 

 歩き続けた先には、きっと。温かくてホッと一息つけるような……素晴らしい未来が待っている筈だから。

 

 ……ふふ、だって『諦めたくない』と。『大切な人を護りたい』と。『平和な世界になってほしい』と。焦がれる人達の“想い”が、こんなにも空いっぱいに溢れているんです。

 

 だったら、どれだけ悲しいことに胸が押し潰されようとも。挫けるワケにはいかないじゃないですか♪ 

 

 止まない雨はありません。登らない太陽もありません。どれだけの徒労を経験し、心が痛み傷付こうとも。

 私達が諦めずに歩み続ける限り、『希望の光』は必ず眩い明るさをもってして、私達の行く末を綺麗に照らしてくれます。

 

 えへへッ。そう信じる方が、ロマンチックでしょう?

 

 私、物語はハッピーエンドじゃないとイヤなんです──

 

 

 

 沢山の希望や願い、祈りを乗せた両の手の平を天へとかざし、少女は笑った。

 まるで、子どものように幼稚な物言い。今の闇夜が蔓延り続ける暗澹たる世において、余りにも適切じゃない言葉。それでも、少女の微笑みには不思議と人の心を温かくする力があった。

 

 そして、少女は言った。

 

 ──悲しむ誰かを見たくない。

 

 ──打ち拉がれる人の傍に寄り添いたい。

 

 ──救えるのであれば、全ての人々を救済したい。

 

 ──例え、未来に私の居場所がなくとも。世界中の誰もが私のことを忘れて、記憶の隅からも消してしまっても。

 

 

 それで皆が笑って暮らせる世界になるのならば、迷うことなど何もない。

 

 

 私の遺した灯火が、長く人の世を照らす光になってくれるのなら。  

 私の歩んだ足跡が、迷える者達を導く印になってくれるのなら。

 私の抱いた意志が、闇夜に負けない強き想いを育んでくれるのなら。

 

 

 私は、喜んで死よりも重く苦しい罰をこの身に受け続けましょう──と。

 

 高尚な意志と誓いを胸に、少女は心の底から幸福そうな笑顔で言ったのだ。

 

 

 

 

 

 ──皆が幸せで居てくれる……それだけで私は……私は、何があっても折れたりしないから。

 

 

 

 

 ……決して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 やはり俺は神だ。

 

 俺が居るだけで世界は幸福に包まれ、ハッピーエンドになる。

 

 俺というもふもふの猫天使は、人々の怒りや嘆き、喪失を全て覆す圧倒的な愛くるしさと可愛らしさを内包しているのだ。

 

 ついさっき、喧嘩中のパーティーの仲裁を寝転がっただけで成し遂げてしまった故に、俺はこの結論に至っていた。

 

 どれだけ怒り、憤懣を爆発させようとも猫の前では全て無力。

 足元に近付き、腹出して『にゃあ』と鳴けば人類なんて一発KOだ。

 

 人類って愚かッ……と、傲慢に罵ってやっても、奴等『カワイイっ』しか言わんからなぁ……ふ、チョロすぎて可哀想になるぜ。

 

 ベンチの上で街のばあちゃんに頭を撫でられながら、俺は人類に憐憫の情を抱いた。

 

「あんた……すごく白いねぇ」

 

 そりゃ白猫だからな。

 ばあちゃんもすげぇ撫でるの上手いじゃん。シスター少女に劣らないぞ。これが年の功ってやつなのかい。

 

「はあ……日の光は今日も暖かいわねぇ。お前さん、日の光は好きかい?」

 

「にゃあ」

 

 応ともさ。

 暖かい陽光の下で眠るのは、とっても気持ちいいからね!

 

「あたしも日の光が好きなのよ。お天道様は、ずっとあたし達のことを見守ってくれてるからね……ありがたいことこの上ないわ」

 

 ほんとっすねぇ。

 凄くありがたい存在だよね、お天道さん。俺には劣るけど。

 

「これもすべて、聖女様があたし達を救い導いてくださったお陰さね……次にまたあの光を拝める日がくれば。あの方の姿を見ることの叶う日がくれば……これ以上ないくらいに嬉しいんだけどねぇ」

 

 ばあちゃんも、聖女様に脳を焼かれたのかい? この世界の住人大体焼かれてんな……老若男女問わず焼いてんだから、ほんと大したもんだぜ。……あ、それは俺も同じことか。

 

 つまり、俺も世界の救世主ってことだな。聖女様、俺と同じ領域にようこそ。

 

「あたしの旦那も、日の光を見て最後は笑って逝くことができたんだ……あの方には一生返せない恩を作っちまったね。大勢の民が救われて、あの方のお蔭で『幸福な結末』に辿り着くことができた。……あの方も、幸福に生きていてほしいわね」

 

「にゃあ」

 

「可怪しいわね……ここまで話すつもりはなかったのに。きっと、あんたの雰囲気が似てたからだね……久しぶりに、懐かしい気分になれたわ。ありがとうよ、可愛い白猫ちゃん」

 

 うむ、ようわからんけど感謝しろ。

 

 ばあちゃんの微笑みに、俺も鳴き返した。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

  

 

 

『おかえりなさい、猫さん!』

 

「にゃあ」

 

 戻ってきて早々、元気な奴じゃなお主は。

 

 元気溌剌な聖女ちゃんの喧しさにもふもふしつつも、俺は聖女ちゃんの肩によじ登った。

 

 あー、今日も一日人々の心を癒してきたぜ。この慈悲深さ、銀河級だろうな。

 

『えへへ、猫さん。今日はとっても良い過去を思い出していたんです』

 

 過去? 聖女ちゃんの? あれか、発狂してた頃以前のものか。

 発狂時代は何一つ“良い思い出”じゃなかったからな……思い出すだけで心がつかれるよ。

 

『……もし、過去の私に言葉を伝える機会があるとしたら……ふふ、教えてあげたいんです。“貴方は苦難を乗り越えた先で、とってもロマンチックな道を歩むことになる”って』

 

 なんじゃそりゃ。

 ロマンチックて……聖女ちゃん、そんなメルヘンな道歩いてたっけ? 

 

『えへへ、やっぱり物語は、ハッピーエンドじゃなければダメですよねっ』

 

 ……ま、幸福そうだからいっか。

 

 聖女ちゃんの耳元で、俺はゴロゴロ音を響かせてあげた。

 

 おら泣いて歓喜しろ。

 

 

 

『至近距離で見る私の猫さん……可愛すぎるっ……いつか絶対、身体いっぱいに吸いこみますからねッ。それこそが、私の思い描く最高のハッピーエンドです!』

 

 そんなハッピーエンド滅べばいい。

 

 

 

 




 ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
 皆様の高評価や感想のおかげで、連日投稿という偉業を達成できました。
 これからもよろしくお願いします!
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