聖女様の飼い猫   作:もふもふもふも

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17話 猫と踊り狂う

 

 

 OL娘の用意したふかふかのお布団の上で、俺は聖なる毛繕いを行なっていた。

 

 最近はこのギルド内でも俺のカワイイ顔は知れ渡っており、最早ギルドの何処に俺が居ようとも、驚いた反応は誰も示さなくなっている。当然、可愛がる反応は全くなくならんワケだけども。

 

 ギルド職員達の作業効率向上や、冒険者達の活気にも繋がっているとかで、俺が降臨してから良いことばかりが増えたとOL娘も言っていた。

 

 至極普通の結果過ぎてなんの特別感もないんだけどね。猫が居るだけで人々の心を癒し、活力に繋げるなんて太古の昔から伝わってきた理だし。

 

 人類のチョロさは歴史が証明しているのに、何一つ進歩していないのはそれだけ猫という生き物の可愛らしさが、抗い不可能だということに他ならぬだろう。

 寧ろ人類のチョロさは日が経つに連れて悪化しているまである。俺のカワイさが進化し続けているからだとも解釈できるが。

 

 どっちにしろ、俺は大天使『カワイイ』ってことだ。

 

 今日も今日とてお前たち、俺の姿を見る機会に恵まれて良かったね。

 

 さあ、今日も元気に跪け!

 

「にゃあん」

 

「あら、どうかしたのかしら。お腹が空いたの?」

 

 空いてないよ。

 今日はもういっぱい食べたんで必要ない。

 俺に微笑みかけてくる桃色髪の綺麗な女性に、俺は否定的な目を向ける。しかし通じるワケもなく、カワイイ顎を優しく撫でられた。

 

 おおう、中々のテクニック……合格じゃ。これからも励めよ。

 

「ふふ、エーレちゃんなら今はお仕事中よ?」

 

 エーレ? ああ、OL娘のことか。別にあの者に用があったワケじゃない。

 俺は只、自らの尊き声を響かせて人類を支配しただけだ。勘違いするでないぞよ。

 

「……綺麗な子ね。エーレちゃんやソロアムが気に入った理由がよくわかるわ。どんなお手入れをしているのかしら」

 

 毛繕いだよ。

 俺の圧倒的センスによる毛繕いが、この美毛を維持してくれているのさ。知らんけど。

 

「あの“聖魔法”が街を照らしてから、この街の状況も色々と変わってきているけれど……貴方の顔を見ていると、そんな複雑なことはどうでも良いように思えるわ」

 

「にゃあ」

 

 桃色さん、撫で場所センスが良いねぇ。的確に俺の撫でてほしい所を撫でてくれている。

 コレに経験と技術が合わされば、更により良くなるだろうね、この俺が保証する。

 

「喉を鳴らしてくれてる……ふふ、確かに警戒心がなさすぎるわね。貴方の飼い主も心配しちゃうわよ?」

 

 心配いらん。俺は銀河クラスの可愛くて孤高な一匹にゃんこだ、簡単に尻尾を振ったりしない。喉は鳴らすが。

 安心しちゃうと鳴るんだから、仕方ないね。

 

「やっぱり、貴方のような可愛い子を招き入れて正解だったわ。皆や、何より私の心が癒されるもの。心が穏やかになる瞬間というのは、とても得難いモノ……過去の記憶を呼び起こすより、余程難しい偉業よ」

 

 ほう、偉業とな。

 よく解ってんじゃん桃色さん。俺の存在がいかに尊く得難い神なのかを。

 こりゃゴロゴロだけじゃなく、スリスリも褒美としてくれてやらねばならんようだな。とくと味わえ。

 

「あらっ……ッ、どうしようかしら。猫さんは大好きだし、庇護すべき大切な存在と認識しているけれど……この子はちょっと可愛いすぎるわね。穏やかになるどころじゃないようねコレはッ」

 

 俺のスリスリを諸にくらった桃色さんは、口を押さえて震え始めた。

 

 カワイイの真骨頂をその身に刻まれたか……お気の毒だぜ、見舞いとしてもっとスリスリを与えよっと。感謝しろ。

 

「くっ、誰も見てなくて良かったわ……こんなダラシない顔、他の子達には見せられない。威厳も何もないものっ」

 

 俺が見てるぞ。

 

 俺に関わる人、大体威厳なくなるんでもう驚かんけどもね。安心しろ、俺は口がかたいんで誰にも言ったりせんよ。

 

 

 慈悲深い俺は、更にもふもふを顔が蕩ける桃色さんに与え続けた。

 

 20分くらい。……いや、長くね?

 

 

「……何やってんですか、ギルド長」

 

「エ、エーレちゃん!? こ、これには深いワケが───」

 

 言うほど深いか?

 

 神は怪しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 夜。

 

 聖女ちゃんの魔法により生成された蝶が、俺の頭にとまっていた。一体どういうつもりだい、聖女ちゃん。

 

『頭に蝶が乗っている猫さん……カ、カワイイの塊すぎるっ……これは間違いなく禁忌とされる魔法の領域ッ。“聖女(わたし)を殺す魔法”ですッ』

 

 すみません、自分でやっといて死なないでもらっていいですか?

 俺のカワイさが禁忌的なのは、全面的に同意はするけどもさ。

 

『教会の本で、“力を得るためには重い代償が必要である”と読んだことがありますが……猫さんのカワイさは、最早それそのものが重い代償を纏った最強の魔法。人々を魅了する、天の力なのかもしれませんね……』

 

「にゃあ」

 

 よく解らんが、俺が最強にカワイイってことね。生まれる前から知ってた。

 

『私にとっての幸福の在処は、まさしく此処です。猫さんの後頭部を間近で見つめるこの景色……最高すぎます。世界は、とても美しいッ』

 

 俺の後頭部=世界はとても美しいの方程式が成り立っちゃったぜ。

 気持ちは分からんでもないけれどさぁ……聖女ちゃんに言われるとなんか『大袈裟じゃね?』って気分になるんだよなぁ。

 声色がガチすぎて引いちゃってるのもあると思う。基本俺といるとき幸福噛み締めてるからね、聖女ちゃん。

 

 噛み締めすぎて暴走も結構するがな。猫より自由だよね、この人。

 

『いつか、私自身の手で猫さんを抱きしめます。……えへへ、そのときは、目一杯構ってくださいね?』

 

 え、今より構うのか……?

 今も俺基準で一番構ってあげているのにか……俺のカワイさと同じで、限界値がなさそうで恐ろしい。

 

『あ! 頭の上もいいですけど、お鼻の上なら、もっとカワイイ、最高の景色を見ることができるかもしれません……!』

 

 名案! みたいなトーンで、聖女ちゃんは操る蝶を俺の目の前に飛ばした。

 

 猫たる俺の目の前に。この瞬間、蝶の行く末は決まった。

 

 ……予知しよう、キミは踊り狂って死ぬ♠

 

『わぁ! 超至近距離の猫さん! とんでもなくカワ──……え? あ、ね、猫さん!?』

 

 蝶は全力で踊り狂った。

 




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