聖女様の飼い猫   作:もふもふもふも

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19話 猫と阿呆

 

 屋根の上を可愛く散歩中のこと。

 

 黒装束を身に纏った、変なお面を被った人物に俺は出会った。

 

 なにその……骸骨のお面? 俺も前世ではそういうのは好きだったけれど……いや今もどっちかと言うと好きだが。でも外でする格好にしては、かなり奇抜で危険感が漂っているね。

 被るなら、鼠のお面とかにしろよ。絶対そっちの方が良い思い出になるぞ。

 

「ん……猫? 音と気配がしなかった……隠密歩行の使い手?」

 

 違……くもないか。猫の隠密能力は、全生き物の中でもトップクラスだし。

 気が付いた時には、とき既に遅し状態にしたことも少なくない。カワイイのにハンターとしても優秀とか、最強すぎるだろ……。

 

「チチチッ……おいで、おいで」

 

 骸骨さんはしゃがみ、俺が来るように手を差し出して声を上げる。

 人類っていつもそうですよね……猫の顔を見れば、愉しげにこっちへ来てよとアピールをする。それをやったら俺が向かう軽い存在にでも見えてるんですか? ほんと、調子に乗るのも大概にしてほしいものですね!

 

 まあ、俺は寛大だから行ってあげるけど。

 

「お、おお……初めて猫が寄ってきてくれた……」

 

「にゃあ」

 

「声もカワイイ……ん、この子は治癒魔法『癒しの声(ヒール・ボイス)』が使えるに違いない」

 

 ふんわりと、もふもふを味わうように骸骨さんは俺のことを撫でてくる。

 治癒魔法か……どっちかと言うと、俺のコレは神魔法だな。神魔法『俺』だ。効果は相手を癒し殺すこと。

 

「もふもふな手触り……真っ白な見た目……きゅるるんなお目々……コレだけでも、此処に来た価値がある。『闇の雨』を見る覚悟で来たけれど……ん、良い誤算」

 

 そりゃ良かったぜ。

 良い誤算どころか、人生における幸運を全て使い切ったくらいの幸福度はあるだろうけどね、俺と遭遇するということは。

 

「猫さん……貴方は、鼠を見なかった? 普通のより大きくて、赤い鼠」

 

「にゃあ」

 

 見たぞ。

 この前、血祭りにあげてやった。

 

「そっか……やっぱり知らないか。……けど良かった……会ってたら、貴方も無事じゃ済まないから」

 

 いやだから血祭りにあげたつってんだろ……ダメだな、通じんか。どいつもこいつも、俺の神聖な御言葉を正確に聞き取ろうという意思はないのかね。

 

 絶対話半分に聞いてるんだよなぁ……特に酷いのはお前だぞ、聖女ちゃん。

 

「もうかなりの日数を探してる……ここまで私の感知魔法に引っ掛からないなんて想定外。本当に居るのかな……猫さん、どう思う?」

 

「にゃあ」

 

 居ないんじゃね。

 

「そうだよね……やっぱり、リーダーが予想を外すとは思えない。問題があるのは、私の方」

 

 お前に問題があるのは同意してやる。

 しかし、此奴……撫でるのは上手いな。骸骨のお面被ってるくせに。

 

「折角任された難易度MAXのクエスト……リーダーは、私の感知魔法の精度を『現役で一番』とまで言ってくれてる。……その期待に、応えたい。だから今度の報告の時に、なんの成果も上げられなかったとは言いづらい。……なにか、良い手を……」

   

「にゃあ」

 

「寝転がった……カワイイ」

 

 小難しいことを猫の前で考えるな。

 猫の前で考えて良いのは、『カワイイ』、『偉い』、『神ぃ!』等の賞賛の言葉だけだ。

 

「あ、そうだ……大鼠の代わりに、この猫を見つけて撫でたって言えばきっと何とかなる。ネズミなんかより、この子の方が余っ程カワイイし大物」

 

 そうしろ。

 脳が溶けたような報告をされる“リーダー”とやらは宇宙猫になるだろうがな。

 

「ん? 貴方……よくよく感知をしてみたら……あれ? そもそも感知に引っ掛からない。どういう……あ、喉が鳴ってる、カワイイ」

 

  おうおう、撫で方に雑念などいらん。カワイイ俺を愛でて癒されることのみに集中しろ。さすれば、癒しのゴロゴロ音とスリスリを賜わそうぞ。もう喉は鳴ってるけどなぁ!

 

「猫じゃらし……持ってくれば良かった。リーダーの言っていた通り……やっぱり準備は大切」

 

 猫じゃらしかぁ……あんま使ってくれる人は居ないな。常に装備している人なんて中々居ないだろうしな、そこは仕方ない。

 

「私に懐く猫は珍しい……もふもふは良い文化。今度会うときは、もっと猫グッズを集めておく……楽しみにしてて」

 

 しょうがないにゃあ。

 

 楽しみにしとくから、つまらないもの持ってきたら全力で唸るぞ。

 

 骸骨さんに、俺は鳴いた。

 

「にゃあ」

 

「…………」

 

 めっちゃ撫でるスピードが速くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 今日は久し振りに街ではなく、その周辺にある森の方を散歩することにした。

 猫たる俺からすれば、街を出ることなど容易い。気配を消して静かに通る、街を出る奴にくっつく、全速力で走り抜けるのどれかを選択しちゃえばいいだけだ。

 

 ゆっくり我が物顔で通ろうとすると、門番の人に『危ないからねぇ』と普通に止められちゃうからな。タイミングは見極めねばならぬ、今となっては慣れたものだがな。

 この森、結構魔物出るからね……出たら俺の驚異的なパワーで懲らしめてやろうではないか。ふふん。

 

 森の中、聳え立つ良い感じの木で爪を研ぎながら、俺はドヤった。

 

「おい……なんで貴様が此処にいる、白毛玉ッ」

 

 あ、モ……ローザではないか。キミも散歩中かい。俺もだぜ、今日も散歩日和のとっても良い天気で良かったね。一モフりするか?

 

「全く、いくら毛玉といえども、こんな所まで来るとは……この街近辺の状況を何も知らないのか? 阿呆め」

 

 誰が阿呆だ。神に向かって不敬な奴じゃな、裁きの咆哮を放たれたいのか。

 

「ちっ……私は今、忙しいんだ。お前のような考えなしの能天気な毛玉に構っている暇はない。悪いが放置していくぞ」

 

 構わん。

 俺も俺でのほほんと優雅に散歩するんで、ローザも己の用事を終わらせてきなさいな。俺は気遣いのできるカワイイ猫なんでね、人の邪魔などしないとも。

 

 俺は余裕だけど、この森は安全じゃないからな、一応気を付けなよ〜。

 

 背中を向け、遠ざかるローザに俺はカワイイ鳴き声を沢山届けた。

 

「にゃー……にゃあ……」

 

「……」

 

「みゃあ……みゃああ」

 

「…………」

 

「なぁう……」

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ! 私は一体何をやっているんだバカなのか!!?」

 

 俺は今、ローザの両腕の中で風になっていた。

 

 うわ速……人の出せるスピードか? これが……。

 

 流石はエルフだぜ……でも何処に向かってるんだ? 俺も暇じゃないんですけどね。オヤツの時間までには街に帰してくださいよ。

 

「此処からなら、もう陣に向かって『里』に転移した方が速い! さっきから魔物が群がってきているし……これではキリがない! 貴様妙なことをしてないだろうな!」

 

「にゃあ」

 

「聞いた私が阿呆だった!」

 

 ローザは阿呆じゃないぞ。

 

 俺が賢すぎるだけなんだ、気にすんな。比べる相手が悪かったね……可哀想に。

 

 慈悲深い俺は、哀れなローザにスリスリをプレゼントした。

 

「!? い、今それは絶対にタイミングが可怪しいだろう! ああ、もう! なんなんだコイツは!!」

 

 

 新世界の神です。

 




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