聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
猫に転生し、自由気ままな生活を謳歌している俺だが、そんな俺にも困った事がある。
それは、教会で起きて過ごしていると、とんでもない勢いで聖女ちゃんが話しかけてくるってことだ。眠っているときは極力俺に気を遣って邪魔するような真似はしてこないが、起きているときはその時の分も纏めて返済するように、脳内でマシンガントークを仕掛けてくる。
石像ゆえに動けなくて、会話相手が欲しいのは分からんでもないが、めちゃくちゃ喧しい。
発狂しないだけマシではあるものの、煩いったらない。今もガンガン頭痛になるレベルで喋りまくっているし。
……少し抗議と威圧の意味を込めて鳴いてみるか。
「ゔー……まーゔ」
『!! 猫さん、い、いつもと少し声色が……ま、まさか病では! せ、聖魔法、聖魔法を使って猫さんを救わなければ!』
いや大袈裟すぎじゃね?
ちょっと声色を変えただけで狼狽しまくる聖女ちゃんに、申し訳ない気持ちが湧いてくる。見た目が石像じゃなければ、とんでもなくあたふたしていたことだろう。聖女ちゃん、典型的なニャンコ心配症の傾向があるっぽいなぁ、それも重度の。猫飼いならばそんなに珍しくもないことだけれどもさ。
聖女ちゃんを安心させるため、俺は声色を戻してもう一度鳴く。
「にゃー」
『良かった、声色が戻ったみたいですね……でもやはり心配です。どうにか守護魔法を掛けて、ドラゴンの息吹からも身を守れるくらいにしないと』
だから大袈裟だよ。
ドラゴンのブレスに身を突っ込む予定なんてないぞ、永久に。言っている意味がファンタジーすぎて全然わからん。
『猫さんはカワイイから、誰かに誘拐されないか心配ですし……』
それは解る。俺の可愛さはチート級だものな。よく解ってんじゃねぇか聖女ちゃん。でもやっぱり守護魔法はやりすぎだと思うぜ。
聖女ちゃん他者を気遣うほど余裕ないだろう? なに心配するな、俺は最強なんでね……聖女ちゃんは自分の問題を解決することだけに集中してな。いやほんと頼む。煩いのも発狂ももう勘弁して。
『うっ……ドヤ顔可愛い』
俺の自信溢れる顔を見て聖女ちゃんが呟いた。
知ってる、俺って可愛いよね。石像の聖女ちゃんですら虜にしちゃうだなんて、ほんと可愛いって罪やわ〜。あ、蝶々。
自分の可愛さに酔い痴れていると鼻がムズムズし、俺はクシャミをした。
「ぷしゅん」
『!! ね、猫さんがクシャミを……風邪、風邪なのですか!? せ、聖魔法──』
あ、これループするやつだな。
俺は絶望した。
◆◆◆◆
猫になってから思うが、猫って寒さに弱い。こんなに毛が沢山あるのに、全然寒いのだ。
なんで寒いと感じるのか、もっと調べとけば良かったな。猫になり転生した今となっては全て後の祭りだが。
教会は、廃れて窓も割れているので夜になり気温が下がると大分辛いんだよね。暖を取れるようなものも設備されてないし。
ほんと、猫に優しくない場所だな此処は。廃墟なんだけどもね。
仕方なく聖女ちゃんの足元に行き、俺は丸くなった。
『ふふ、猫さんは温かいですね』
ほんとにそうか?
石像の聖女ちゃんに言われてもいまいち納得できないな。モフモフなのは知っているが。
『心が、温かくなります』
心かい。それは俺には判断のしようがない。猫って存在自体が心を温かくする存在なんでな、考えるまでもないが。ふふん。
『……昔、私の治癒魔法を受けた人が言っていたのですが、本当の幸福は“心”が癒されることらしいです』
そうなんだ。良いこと言うじゃん、その人。
身体がいくら健康でも、心が元気じゃなければ幸せには成れないってことね。どっちも健康なのが一番だけども。聖女ちゃんも、体調には気を付けて──て、聖女ちゃん石像だから体調も糞もないか。
『私、聖女をやって人々を救っているときは確かに幸福だったんです。笑顔の人々が、その暮らしを護ることが私の生きる意味、幸福なのだと疑うことはありませんでした。今でも、そう思います』
聖女かよ。あ、聖女ちゃんは聖女だったわ。自称だけど。
俺は自分至上主義だから、他者を満たすより、自分を満たす方が大事だなぁ。……猫は生きているだけで他者を満たしちゃうし。
ほんと、罪で可愛くて最高な俺。
『人々が私のことを、“救世主”、“希望の光”だと呼んでくれたように……私も貴方のことを、私にとっての“希望の光”だと今は思うのです。誰も気が付かなかった私に気が付き、傍に居てくれるだけで……私の“心”は救われたんです。貴方が生きているから、私は生きていける』
「にゃー」
そ、そっすか。え、おっっっっも。
聖女ちゃん、湿度高くね? 癒されてるっていうか、完全に信仰の領域じゃん。俺を神か何かだと勘違いし……あ、猫は神だったわ。疑う余地なかったね。
『もし、この石化を解除して、私が本当の身体を取り戻したら……猫さん、私の家族になってくれますか?』
「にゃー」
プロポーズかな?
ま、まさか前世でも一度も縁のなかった最初の相手が石像とは……この猫の目をもってしても見抜けなんだわ。
しかし、こういうのは念入りに考えたいんだよね。俺は、慎重派な猫だから。返事は暫く保留ってことでお願いします!
『ありがとうございます! 私きっと、貴方のことを幸せにできる最高の聖女になります!』
あ、これ通じてねーな。俺返事OKしたみたいな流れになってる。
声のトーン変えて訂正を……ダメだ。また病気なんじゃないかと心配されるのがオチだ。聖女ちゃん、心配症だもの。
しょうがねぇ、年長者として適当に話を合わせておこう。聖女ちゃんの年齢は知らないが、感じからしてまだまだ若者じゃろ。知らんけど。
猫は深く考えない生き物なんで、適当に生きるとしようか。
聖女ちゃんを見つめ、俺は『心配症すぎるのは身体に毒だぞ、聖女ちゃん石像だけど』という意味を込めて鳴いた。
「にゃー」
『ね、猫さん……私も、私も貴方のことが大好きです!』
だから言ってない。