聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
現在、森の中。
ローザの腕の中で風になった俺は、移り変わる風景を鑑賞しようと、可愛らしく身を捩らせた。
どうやら魔物の数が多いようだし、寄ってくる魔物が居れば教えてあげようではないか。俺の類稀なる動体視力が活躍するときがきたな。
周囲の警戒は任せなよ、ローザ。お前は安心して前だけ見て突き進め、行けローザ号!
「お、おい、暴れるな。お前、今の状況が分かっていないのかっ。頭を使って理解しろ! 無駄にもふもふしやがって!」
無駄にもふもふってなんだ? それじゃあ俺が無駄にもふもふしてるみたいじゃん……なにそれ最高かよ。やっぱもふもふは良い文化だね。何者にも勝る最強の装備だ。
己のもふもふしたカワイさが誇らしくなった俺は、機嫌よく鳴いた。
「にゃあん」
「ぐっ……気の抜ける返答をするなぁ!」
うお、また速度が上がった。なんかの魔法使ってるのかな。
どれだけ速度上がるんだろ……また鳴いたら上がるのだろうか。空気を読んで控えてあげるけど。
しかし、それにしても……さっきからこの人のもみあげ辺りから垂れる三つ編みの髪の毛が、気になって仕方ない。
風に揺られて、めっちゃ揺れてんだよね。そんなに誘われちゃうと、ついつい手を出したくなる。
揺れる三つ編みに向けて、俺はテシテシと猫パンチを放った。
「!? コラ止めろ、それは玩具じゃない! お前、空気を読めないにも程があるだろう!」
失敬な。読んだ結果、パンチを放ってあげたんだ。本来なら泣いて感謝すべき尊い行為なんだぞ猫パンチは。人によってはバフも掛かるのに。代表例は聖女ちゃんだ。
「お前と居ると、調子が狂──ッ! 魔力感知に高スピードで動く多数の反応っ……まさか、この速度に付いてきているのか? 風魔法を纏った今の私の速度に?」
あ、やっぱり魔法使ってたんだ。三つ編みの揺れ具合からして、そうじゃろうなって思ってたんだ。流石は俺……予測も圧倒的精度を誇ってやがる。
知能に優れた俺が、カワイイもふもふになっていると、周囲を確認するようにローザは首を振り、目を見開いた。
「あれは『
兜猿? 聞いたことない名前だな……見てみると、武装したゴツい猿どもが、凄まじい速度で俺達を猛追していた。俺と違って、知能ゼロって感じの面構えだな。
此処らの出身じゃないみたいだし、新顔は俺に一度は跪きに来いよ。この世の常識だぞ。
「いや、しかし……兜猿は本来鈍重な魔物の筈。何故奴等は私の動きに付いてこれるっ?」
「ホー……キー……ホーホー!」
「ホーホーホー!」
「キキキッ……キャーキャー!」
「キャーキャーキャーキャー!!」
「……そういうことかっ」
どういうことだよ。
何が通じ合ったのかは知らんが、俺にも情報を教えろよ。
「キーキーキャーキャー!」
「にゃあ」
「阿呆! あんな屑どもに共鳴して鳴くやつがあるか!」
別に共鳴して鳴いたワケじゃないし。あんなに煩く喚き散らされていたら、普通に声くらい被るでしょ。
つーかいい加減うるせぇなアイツら……俺が鳴いているときは、静粛にしつつ讃える準備だけしとけや。烏滸がましいんだよ。
「……どうやら、状況は私が思っていた以上に良くないらしいな。これで“加護持ち”まで行動を開始したら、極めて厄介なことになる。報告することが多そう──て、止めろ! 髪をテシテシするなと言っているだろうが!」
だって目の前凄い揺れてんだもん……猫の本能を刺激するほうが罪だと思うんです。寧ろ謝ってくれませんか。
「キキィーーー!!」
「ぐっ! コイツら!」
うわ、なんか飛んできたね……近くの木が真っ二つになったぜ。殺傷能力の高い技だな、ヒェ。
ローザは立ち止まると、忌々しげに兜猿の方へと振り返った。
「“風の斬撃”……私の風魔法を学習して、派生まで学んだか」
「キャ、キャ」
「キャキャー!」
「キャキャキャキキャーー!」
「ホ、ホ、ホ♪」
「……畜生共め。此方の両の手が塞がっているのを良いことに調子に乗り腐りやがって。我が剣技の一部まで吸収した気になっているのか? 身の程を解らせる必要があるようだな……猿真似では到達できない『頂』を教えてやる」
お、やる気だなローザ。とんでもない殺気だぜ。奴等の行動と表情が、プライドに障ったのかな。うぜぇ笑い方してるもんな……天使な神と違って。天使な神と違って。
俺が居たら邪魔になるだろうし、そろそろ降りてあげるよ。ローザの腕の中を抜け出そうと、俺はモゾモゾした。
「!? だ、だから暴れるな! 頼むから大人しくしてくれ!」
「みゃあぁ……」
「うぐっ!」
あ。俺が鳴いた途端、殺意が一気に四散しちゃったな。
折角何とかしてあげようとしたのにさ、俺の可愛さに意識が持っていかれてしまったか。うーむ、逆効果だったね。
俺のことは気にすんな、存分にバトりなさい若人よ。
「フキ……クキキキキ!」
「にゃあ」
「ッ……ああ、もう!」
俺を丁寧に抱き直し、ローザは再び風となった。わぁ、さっきよりもずっと速いぜ。
「仕切り直す! お前らの猿面は全て覚えたからな! 必ず一匹残らず殺し尽くす覚えておけ!!」
「キキィーーー!!」
捨て台詞が大分小物臭いな……。
速度差で遠ざかっていく兜猿を眺めつつ、俺は欠伸をした。キーキー喧しい奴等だったぜ。次会ったら全員猫パンチで浄化させよう。
「そろそろ陣に着く。『里』に飛んだら、一旦お前のことを里の者達に預ける。あそこは神聖な場所だ……セラスピア様のときのような勝手な真似はするなよ、解ったな!?」
どっか行くのか?
ついて行ってあげてもいいけどさぁ……良い感じの布団とご飯用意しとけよな。色んな場所を見るのは好きだけれど、それ以上に俺は快適な場所が良いんだよ。
基準値以下なら容赦なく威嚇するから覚悟しておけ。
ローザに向かって、俺は鳴いた。
「なぁん」
「絶対に解っていないなッ……気が、抜けるっ」
カワイイもんね。
カワイイからは、何者も逃れられはしないのだ……。
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『…………………………遅いな、猫さん』
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