聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
俺のカワイさに悶え、ワチャワチャと過ごした後。
フォレは俺へ向けて、可憐な笑みを浮かべた。
「今更かもしれないけれど、自己紹介するね、猫さん。私の名前はフォレイア。この
「にゃあ」
これはご丁寧にどうも。
俺に名前はまだない……が、皆からは『カワイイ』、『偉い』、『天使』、『もふもふ』と呼ばれている。どうぞよしなに。
「フォレイア様……何を猫相手にツッコミ所の多い自己紹介などしているのですか。コイツは見ての通り只の毛玉。此方の言葉なんて理解できていませんよ」
「そうかな。この子は案外、こっちのことを見てくれているよ。私の顔だって覚えてくれてるかもでしょ?」
「天地がひっくり返ってもありえません。見てくださいコイツの顔を……人の顔を覚えられるほど、知性があるように見えますか」
失礼すぎだろ。
天地ひっくり返すぞボケ。
「んー……可愛くはあるかな。雰囲気もとっても良いし、見てて和むよ」
「和んでどうするのですか……ご姉妹揃って、この毛玉に甘すぎますっ。もっと厳しく接さねば、つけ上がるのはコイツですよッ」
「……ふふ、『甘い』って、ローザがそれを言うんだ?」
「なっ」
あ、ローザ完全に負けてんな。フォレの方が何枚も上手だ。流石はローザの主だぜ。
「さて、ローザをからかうのはこれくらいにしておこっか。怒られたくないもの」
「自覚があるのなら、適当なことを言って心労を掛けさせないでください……」
「適当なつもりはないんだけどなぁ」
「……はあぁぁ」
深い溜息だな。溜息をつくと、幸せが逃げるっていうぞ。あ、俺がいる時点で幸せは限界値突破してるんだったわ。
「ところでローザ、今日は里に泊まっていくの? 日ももう暮れてるし」
「そうしたいのは山々なのですが……先程も言った通り、厄介な問題が立て続けに発生しているんです。夜の森は危険ではありますが、毛玉を預けたら直ぐにでも戻ろうかと」
「そっか、仕方ないね……“加護持ち”にしろ、“魔呼び”にしろ、不幸というモノは、どうしてこうも畳み掛けてくるんだろうね。私もそっちに行ければ良いんだけども。あ、ほんとに行っちゃえば──」
「お気持ちだけで結構です……いやほんとに」
俺は気持ちだけじゃなくて、ごはんや玩具も欲しい派だぜ。もふもふが温かく休まる良い寝床があれば尚良しだ。つーか寄越せ。
「“加護持ち”も“魔呼び”も、必ず私が仕留めます。なので、フォレイア様は大人しく里に居て下さいね……貴方にまで身勝手に動かれては、収拾がつかなくなってしまう」
「そうかな? 私が居なくなっても、案外収拾はつくもんだよ。だって、時の流れは無情に残酷に、いずれは人の過去を消し去っていくんだもの」
「にゃあ」
俺が居なくなったら、収拾はつかなくなるけどな。
時の流れを超えるカワイさなんだよこの俺はね。どれだけ経とうと、カワイイは過去も未来も凌駕し人を支配するのさ。
「ふふ、猫さん。“そんなことないよ”って言ってくれてるの? ありがとう」
「いや、絶対にそんな気の利いたこと言ってないと思いますよ……精々“お腹すいた”くらいじゃないですか」
残念。それも言ってねーよ。
「兎も角、フォレイア様は里から出ないでください。わかりましたね?」
「しょうがないなぁ……でも、ローザや姉様がピンチになるようなら、皆を引き連れてでも出撃するからね。彼らの……特に“加護持ち”の恐ろしさを忘れたワケじゃないでしょう? もし、街に侵入しているのなら悲惨な結末を辿ることになる。街の人達、全員ね」
「……だからこそ、来ないで欲しいと言っているのですよ。私が必ず命に代えても殺しますから」
「はあ……真面目だね。相変わらず」
一般的ファンタジーな会話だな。俺の整った完璧な脳は、何分覚えておけるだろうか。
あとさっきからちょいちょい出ているが、“加護持ち”ってなんだ? 俺みたいな聖なる存在のことかな。俺のカワイさはとんでもなく恐ろしいし。
「みゃあん」
「………」
「どうしたのローザ、猫さんを見つめて。あまりにも場違いな雰囲気の中、急に毛繕いをし始めたから毒気が抜かれちゃった?」
「ッ!!」
「この子が関わると、貴方はとっても解りやすくなるね、ローザ」
俺が居なくとも解りやすいだろう此奴は。明らかに俺のことが好きってわかるぞ。聖女ちゃん並みに解りやすい部類じゃろうに。
「そ、そろそろ戻りますッ。呉れ呉れも勝手なことをせずに、責任感を持って行動するようにお願いしますね!」
「ふふ、解ってるよ。里のことは任せて。あ、出来れば姉様のことも連れて帰って来てね。色々と喧嘩したいことがあるから」
「喧嘩はしないでください、森が荒れますっ」
森が荒れたら揺れる木の葉を追いかけ回したり、ノコノコ出てきた鼠やらで遊べるんじゃね。ううむ、やってみたい。
ローザは苦い顔で立ち上がり、出口の方へ向かって歩きはじめた。
「ローザ、気を付けてね」
「! ……無論です」
なんか解らんが、俺も一緒に行きたい。一度廃教会に戻っておかないと、聖女ちゃんが『猫さん……私の猫さんが居ない! う、うおーん、うおーん!』って泣き始めるかもしれないし。顔見せ程度はやっておかねば。
ローザを追い掛けるように、俺も可愛く歩き始めた──が、フォレに抱っこされて動きを止められてしまった。
なんのつもりだぁ……小童が。
「ダメだよ、猫さん。ローザは今、とっても忙しいんだから。決心が揺らいじゃうカワイイことをしたら罪になるよ」
「べ、別に決心は揺らいだりしませんが……感謝します、フォレイア様」
「ううん、気にしないで。いってらっしゃいローザ」
フォレに抱っこされた状態のまま、俺はローザを見送った。
うぎぎ……王族風情が神の動きを制限するなど烏滸がましすぎる。身の程を知りやがれや。
「みゃぁ、にゃあ」
「わっ、とと……ふふっ。騒動が収まるまで、貴方のことは私が精一杯もてなすからね……あの人が作ってくれた平和を繋げられるように、一緒に頑張ろうね」
「!? ちょ、ちょっと待ってください! 言い忘れていましたが、この毛玉はライ爺に預けてください! 彼ならコイツのペースに巻き込まれることはない筈! フォレイア様は、今まで通り王族の使命を果たすことに──」
「凄い勢いで戻ってきた……やっぱりこの子が関わると解りやすいねローザ」
「にゃあ」
へ、解りやすいエルフ。
◆◆◆◆
『もしかして、迷子になってしまったのかも……なれば、もっと範囲を広げなければ……街を覆い隠すくらい……もっと……もっと』
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