聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
夜。
骸骨のお面を被った人物──ムクロは、雑貨店でお目当ての物があるかを物色していた所、ニコニコと笑う魔法使い、ソロアムに捕まっていた。
「持ち場にいないと思ったら、此処で一体何やってるのかなぁ〜? ムクロ」
「うげっ……リ、リーダー」
顔を見ずとも分かるくらいに、苦々しい反応を見せるムクロ。そんな反応には慣れきっているのか、ソロアムは笑みを深くした。
「あはっ、『うげっ』かぁ……ふふ、時間になっても来てくれないから、私とっても心配しちゃったなー……ね、私心配してたんだけど、どう思う? ね、ね?」
「……ご、ごめんなさい」
強すぎる圧に、ムクロは謝罪の言葉を口にすることしか許されなかった。実際、時間を忘れて物を探すのに夢中になっていたのは事実であるため、返す言い訳も思いつかない。
「報告は忘れずにしようね、いつもなら見逃してあげなくもないけれど、今回はクエスト内容が重いんだから。通常の何倍も気を張るくらいが丁度良いって言ったでしょ?」
「気はちゃんと張ってる……只、ずっと感知だけっていうのも、一流としてどうかなって……ん、偶には自分から動いて探さないと」
「動いて探すって、キミずっとこの雑貨店で楽し〜く商品を物色してただけのように私は見えたんだけどなぁ……それともなに、此処に“加護持ち”が潜んでいたりするのかな? あはっ、なるほどなるほど〜。流石は一流のムクロちゃんだね! ね、ね!」
「……ご、ごめんなさい」
2度目の謝罪。
目が全く笑っていない煌めく笑みに、頭を下げて謝る段階に突入したことをムクロは悟った。
「全く……一昨日様子を見たときは、こんなにも気は抜けてなかったでしょうに……感知魔法を使いすぎて、急に弾けちゃったの?」
「わ、私はいつでも至って真面目──」
「ん?」
「………」
ムクロは押し黙り、目を逸らした。
「まあ、私の大切な後輩が無事で良かったよ。危機感がないのは頂けないけどね」
「別に危機感がないわけじゃ……」
「ん〜?」
「………」
言葉を続けることが、ムクロは出来なかった。何を言われたワケでもないが、圧が強すぎて勝てる気がしない。笑顔一つに完全にムクロは委縮していた。
「じゃあ危機感のあるムクロちゃん。捜索結果の報告を聞かせてもらおうかな。約束の時間をすっぽかして、雑貨店で何十分も商品を眺める余裕があるんだから、それ相応の成果があったんだよね?」
「………」
この人、商品を観察する私のことを観察していたな。相変わらず逃げ道を残すことすら許してくれない。
そう思いつつも、ムクロは重い口を開いた。
「えっと……“加護持ち”は、現在絶賛捜索中」
「“絶賛”て……使い方全然違うよ?」
「……深く物を考えるのは、リーダーの悪い癖」
「深く考えてないけど……つまり、全く成果は上げられなかったってこと?」
「………」
その問いに、沈黙で返すことしかムクロは出来なかった。
「そっか……んー……仕方がないかな。そもそもが私の勘だし、居なくても不思議じゃないか」
「リーダーの勘は、最早予知の領域。絶対に外れない……“加護持ち”は必ずこの街にいる筈。問題があるのは私の方」
「あはっ、どうもありがとう。……けど、もし居たとしても、キミクラスの感知魔法で引っ掛からないって解っただけでも十分な成果だよ。やっぱり大鼠は簡単には捕まってくれないか」
「もっと気楽に考えたい……案外、猫が狩ってたりするかもしれないし」
そのいい加減な発言に、ソロアムは吹き出した。
「ぷっ、あはは! キミってそこまでユーモアある冗談言える子だったっけ? もし猫が“加護持ち”を狩っていたとすれば、色んな意味でとんでもなく平和な結末だね!」
「ん……平和な結末こそ一番」
「同感。でも現実はそう理想的な展開にならないもんだよ……現に、今は“加護持ち”だけじゃなくて“魔呼び”の行動も確認されているんだもの。全く、ヤになっちゃうね」
「………魔呼び?」
聞いたことのない名前に、疑問符をムクロは浮かべた。
「ムクロ……感知魔法の効果を高めるために、範囲を絞っていたから気が付かないのは仕方がないよ。私も違和感を抱いたのは昨日のことだもん……けど、“魔呼び”って言葉自体を知らないのはどうかと思うなぁ。魔物書、読んで勉強するように言っておいたよね。勉強サボってたんだ?」
「うっ……家に帰って、読めたら読む」
「それ読まない人の台詞だよ。……しょうがない、一度ちゃんと説明してあげるよ」
苦笑を見せ、ソロアムは建物の出口を指さした。
「ずっとお店の中で立ち話も迷惑になっちゃうし、続きは外を歩きながらしようか。買うものがあるのなら、早く買ってきなね」
◆◆◆◆◆
「ムクロは“魔呼び”って名前でどんな魔物をイメージする?」
「ん……えっと、鳴き声が『魔』とか?」
「あはは! そんな魔物居たら笑っちゃうよ! ……ふふっ」
「わ、笑いすぎ」
夜風を浴びながら、月明かりが照らす道を歩く二人。
肩を震わせて笑うソロアムの肩を、ムクロは叩いた。
「“魔呼び”っていうのはね、魔物を強化召喚する魔物のことを言うんだよ」
「魔物を強化召喚する魔物……?」
ソロアムは薄く笑みを溢し、言葉を続ける。
「そう。“魔呼び”は特殊な召喚魔法が使えてね、多少の時間は掛かれど、色んな魔物を呼び出すことができるんだ。どんな魔物も“英雄級”、もしくはそれ以上にまで強化した状態で、ね」
「……それは」
この上なく面倒な能力を持つ“魔呼び”の情報に、気分が重くなる感覚をムクロは感じていた。
基本的に魔物というものは、生息地が大体知れ渡っているケースが多い。
ゴブリンやオークのように複数の地域にいる魔物もいれば、
そして、魔物の強さというものは、個体差はあれどある程度の測りの内に収められていた。
しかし“魔呼び”は、その常識を根底から全て覆してくる存在……想像すればするほど、頭が痛くなるような特質を備えた劇物のように思えた。
「厄介度で言えば、間違いなく“加護持ち”と同ランクだね。聖戦時代は、どれだけ私も手を焼いたか分かんないよ。聖女様が現れてからは、片手間に処理されちゃってたんで印象は弱いかもしれないけれども」
「え、聖戦時代? ……リーダーって、年いくつ?」
「17だけど?」
「え、でも初めて会ったときには、もうその見た目だったような──」
「なんのこと☆」
「……ごめ、あ、すみません……」
今日一番の重圧にムクロは押し潰された。
「あはっ、ムクロは素直な良い子だね」
「……ん、私もそう思うっ。でも、子ども扱いは許さない。ギルティ」
「キミのそういう所、私好きだなぁ〜」
ムクロの頭をクシャリと撫で、ソロアムは笑った。
「これから大変なことになっていくだろうけれど……あの人が守った世界を繋ぐためにも、私も頑張るか」
「リーダーが頑張るのなら、私も頑張る。この街には私のことを好いてくれている子もいるし」
「へ? キミ誰か誑し込んだの?」
「ん、平和の象徴みたいな子を誑し込んだ。また会う約束もしてる」
お面の奥で、今までにないくらいに上機嫌な雰囲気を纏い、ムクロは口角をあげた。
◆◆◆◆◆
『……猫さん……今頃寂しくて、沢山鳴いてるに違いありませんっ……ああ、なんて可哀想にッ』
◆◆◆◆◆
「グー……シュピー……」
「ね、猫さん……顔を隠した状態でイビキかいて寝てる……カ、カワイっ」
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
高評価等もありがとうございます! いつも力をもらっております!
今年も、カワイイ猫さんをモフってあげてください! よろしくお願いします!