聖女様の飼い猫   作:もふもふもふも

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25話 猫とふり注ぐ“奇跡”

 

 

 話し合いが終わった後。

 

 大樹の上に登り、セラスピアは遠くの闇に染まった景色をジッと眺めていた。

 

 視線の先に在るのは、無数の気配。感じ取ることができるまでに肥大化した、邪悪な敵のオーラ。忘却できない過去の惨劇。

 

 それはこの先に逃れることの赦されない地獄があることを示していた。

 

「っ、魔力消費が……激しい。内部の結界を維持し続けるのは、かなりしんどい作業だなやはり」

 

 セラスピアは額に伝う汗を拭い、精神を落ち着けるように息を吐いた。

 消耗し続ける魔力、極めて困難な状況。しかし、セラスピアは今が最も『生』を実感できていた。   

 

「戦うしか能のない私だ……これが性に合うんだろうな。全く……どうしようもない」

 

 己の破滅的かつ救いようもない性分を彼女は理解出来ている。だからこそ、この一歩先の未来は地獄であると断言できる今の状況に抗うことが、何処か“贖罪”の機会に思えた。

 

「私でも感じ取れる位に、大きい気配が増え続けている……どうやら奴も本気でこの街を潰すつもりらしいな。解りやすくて助かるよ」

 

 姿や気配すら微塵も見せない“加護持ち”に比べれば、“魔呼び”の今の行動は単純極まりない。

 

 殲滅。

 コレだけだ。

 

 敵の行動を読み、考えるのがまどろっこしいと常々思っていたセラスピアからすれば、今の解りやすい敵対は非常に有難かった。

 

「……狩り取る。一匹残らず。街の人達には……あの人の守った財産には触れさせない。命を賭けても」

 

「ん……重い話。あんまし趣味じゃないから、もっと軽い話をしてほしい」

 

「!」

 

 感情の起伏をあまり感じない平坦な声。

 骸骨のお面を被った者──ムクロが、セラスピアの隣を陣取ってきていた。

 

「君は確かムクロと言ったね。驚いたな……まさか、私が気配に気が付かないとは」

 

「私は、そっち方面のエキスパートだから。あと、今の貴方は消耗してる……私に気が付かなくとも仕方ない」

 

 ムクロは懐から瓶を一本取り出すと、セラスピアの方へと差し出した。

 

「魔力を回復させるポーション。リーダーが、貴方が『痩せ我慢してるだろうから』渡せって」

 

「魔力回復ポーション……しかもレア度MAXのものか。……貴重な物だろうに、良いのかい?」

 

「ん、当然。というか、貴方は持ってないの? エルフの偉い人って聞いた」

 

「ああ、魔力が切れるほど最近は魔法を行使してなかったからね。手に入れるのも面倒なんで特に考えなかったんだ。程度の低いものなら幾つか持っているんだけどね」

 

「……考えなしの人?」

 

「ふふ、よく言われる」

 

 不遜な物言い。けれど、セラスピアは全く気にしない。畏まられるよりも不遜な態度の方が余程落ち着くし、気分が良かったのだ。

 

「サポートメンバーを募って、明日の昼過ぎには大掃討を始めるって言ってたし……もう少し休んだ方が良いと思う。頑張りすぎは身体に良くない」

 

「ありがとう、でも今はこっちの方が心地がいいんだ。それに……さっき貰ったポーションのお蔭で、最低でも後一ヶ月は魔力が持つ。迷惑は掛けないとも」

 

 ポーションを一気に飲み干すと、セラスピアは安心させるように優しく微笑みかけた。

 

「迷惑ってわけじゃない。只、リーダーもモモノも貴方も、皆入れ込み過ぎって感じがする。だから、気になっただけ」

 

「入れ込み過ぎ……か。そう見えるかい?」

 

「ん、三人の中でも特に貴方は酷い。私は、人を見る目がある」

 

「使い方が違うと思うが……ふふ、けど君の言う通りだね。私は入れ込んでいるよ、今の状況にね」

 

 空を見つめると、星々は眩く、そして美しく輝いているのが解る。

 何気ない空……その価値を誰よりも、どんな生命よりも彼女は知っていた。

 

「ムクロ……君はどうしてこの街のために戦うんだい?」

 

「リーダーが戦うから。あの人には恩がある。あと、この街には死んでほしくないとっても可愛い子がいる」

 

「可愛い子? ぷ、あはは、そうか……それは戦うしかないな」

 

 どこまでも単純な理由。しかし返ってそれが尊いモノのように感じる。

 人が誰かのために戦う瞬間というものは、中々得難いもの……故に眩しく、閃光のように輝いていた。

 

「貴方は、なんで戦うの? 戦うのが好きってワケじゃなさそうなのに」

 

「いや、戦うのは好きだよ? そいつが原因で私は神淵の森を飛び出したわけだし」

 

「え、なんか……意外」

 

「あはは、今は結構落ち着いているからね……そう思われるのも仕方がないさ」

 

 人差し指に“光”を灯し、それを離さず、包み込むみたいにセラスピアは拳を握りしめた。

 

「ん、聖魔法? 凄い、久し振りに見た」

 

「ありがとう。……でも、私の限度はここまでだ。これ以上大きい聖魔法は灯せない」

 

「使えるだけ、すごいと思う」

 

「! ……ふふ、ソロアムと同じことを言うんだね。やはり彼女が連れてきただけのことはある」

 

「ん、私は優秀だから」

 

 フンスと鼻を鳴らすムクロ。表情は窺いしれないが、きっとドヤ顔をしているんだろうなぁと、何となく理解できた。

 

 その姿を見つめ、セラスピアは微笑みを溢し、言う。

 

「私が戦う理由はね……“贖罪”だよ」

 

「贖罪?」

 

「ああ。君のように誰かのために戦うわけじゃない。約束を守ることで、私は私を裁きたいんだ」

 

「なに言ってるのか解らない」

 

「ぷっ」

 

 何を言っているんだコイツ? とあからさまに解る雰囲気を纏うムクロに、思わずセラスピアは吹き出してしまった。

 

「君は正直な子だね……とても良い」

 

「だって、ホントに何を言ってるのか分かんなかったから」

 

「ふふ……もう少しだけ詳しく言うと、私は今でも後悔してるんだ。彼女に全てを背負わせてしまったことを」

 

「??」

 

 首を傾げ、何が何だか解らないと反応で示すムクロ。

 そんな反応に笑みを浮かべた後、セラスピアは再び遠くの闇を見つめ、立ち上がった。

 

 

『──セラスピア、貴方が居てくれて良かった』

 

 

 過去の光景が過ぎる。

 鮮烈に焼き付いた記憶は、セラスピアの士気を高めるには十分すぎるものであった。

 

 一緒に戦うことも、同じ歩幅で、同じ道を世界を未来を歩むことすら赦されなかった。あの“光”に縋り、“背中は任せろ”なんて当たり前の言葉も口に出来ず。

 全てが違いすぎて、その可憐で優しい背中にあまりにも強く、重いモノを背負わせることしか出来なかった。

 

 そして残ったものは──……誰もが待ち望んだ平和な世界。

 

 でも、そこにあの人はいない。誰よりも優しいあの人を、独りぼっちにしただけだった。

 

 だから、今度こそは。

 

 

「多分……ここなんだ。私が生き残った意味は。アレから街を護る……そのために私は今まで生きてきたんだ」

 

「よくわかんないけど……重い話は止めてほしい。軽い話をして」

 

「あはは、ごめんね。善処するよ」

 

「その言葉を使って、本当にした人を見たことがない。ソースは私」

 

「君なんかい」

 

 ムクロの発言にクスっと笑ってしまうものの、敵から視線は逸らさない。

 

 視える未来は不透明。“希望の光”など、視えるわけがない。勝てるかどうかなんて解るはずもない。

 

 しかし、それでも。

 

「……護るよ、絶対」

 

 もう2度と後悔しない。あの人が見せてくれた、あの何よりも美しい光のように。

 

 次は──私の番だ。

 

 目を瞑り、過去に見てきた数々の“奇跡”を思い出して、セラスピアは笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!! な、なに……あれ? “奇跡”?」

 

「ん、君にも過去の“奇跡”が視えているのかい?」

 

「え? ち、違う……目を開けて、あれ見て! 凄いこと起きてる!」

 

「凄いこと? ふふ、今の私は、生半可なものじゃ驚かないが────はあ!!!??」

 

 目を開け、森に降りそそぐ大量の光の柱──“希望の光”を目にし、セラスピアは心臓が止まりそうになるくらい驚いた。

 

 

 人々に希望を与える、無慈悲な“奇跡”が夜の森を美しく照らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

「!!」

 

 は! なんか俺のいない所でとんでもないことが起きてる気がする!

 

 まあ……今は眠いからそっち優先でいいか。猫は眠るのがお仕事だし仕方ないね。

 

 一瞬起床の後、俺は再び可愛く眠りについた。

 

 今のこのフカフカの毛布も良いが、明日は聖女ちゃんの足元で眠ってあげるか。心配掛けたお詫びとしてね。勿論、煩くなりそうなら猫パンチと猫しっぽアタックを食らわせてやる──……スヤァ。

 

 

 

「い、一瞬凄い勢いで顔を上げたと思ったら、またスヤスヤ眠り始めた……猫って不思議だなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
高評価等もありがとうございます! お蔭で猫さんが一瞬起きました!
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