聖女様の飼い猫   作:もふもふもふも

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26話 猫と起床

     

 

 朝。

 

 可愛い俺は、可愛らしく目を醒ました。

 

 今日も今日とて良き日になる予感。俺がいる所は総じて幸福の海になるので、予感と呼ぶには余りにも百発百中の最高精度すぎるがな。

 

 聖なる毛繕いを行い、俺は世界を平伏させるように天使の鳴き声を放った。

 

 さあ、俺の目覚めだ。歓喜せよ有象無象共が!

 

 

「にゃあん」

 

「王族の秘宝、“天霊(てんれい)の羽衣”の上で爆睡した挙句、目が醒めた第一声が元気いっぱいの『にゃあん』か……お前、身の程を弁えるという言葉を知らんのか? 能天気毛玉」

   

 あれ、ローザじゃん。

 君一回街に戻るって言ってなかったっけ? なんで居るんだろう。しかも何かあちこち包帯でぐるぐる巻きにされてるし……一晩の内に何があったんですか。

 

 何故か隣に座って、俺のことをジト目で睨み付けてくるローザに、俺も困惑の視線を返した。

 

「………」

 

「な、なんだその目は……私は一つも間違ったことは言っていないぞ。文句があるのか?」

 

「文句っていうか、ローザに会えて嬉しいって顔してるよ。良かったねローザ、やっぱり貴方は好かれてるんだよ!」

 

 いや別にそんな顔してねぇけど……適当なこと言わんでくれませんかね。

 

 ローザの後ろからヒョコっと顔を出すフォレ。その無邪気な笑みへ抗議するべく、渾身の“睨みつける”を俺は放った。

 

「!! こ、この子──」      

 

 お、我が怒りが通じたか!

 

「この子、とんでもなく綺麗な瞳してるよね……心なしか、昨日よりも綺麗に見える気がする。まるで聖女様みたい」

 

 綺麗認定されただけだった。怒っても天使は天使ってことですかそーですか。

 

「……もうツッコミはしませんよ、フォレイア様」

 

「えー……ローザのツッコミがないと寂しいなぁ、ふふっ」

 

「………」

 

 あ、ローザ大分イラってしてるな。表情が大分笑ってない。これが主君じゃなければ、蹴りの一発でもぶち込んでたって顔だぜ。

 

「はあ……大雑把なコトの経緯は先程話した通りです。詳しいことは次に戻ったときに話します……今は兎も角、この毛玉を街に戻そうかと」

 

「それは仕方がないことだけれども、その傷でまだ動くつもりなの? 色々なことが遭って疲れている筈だし、少しは休もう? ケガだってしてるし」

 

「そうしたいのは山々なのですが……その毛玉とフォレイア様が一緒にいると、心が休まらないんですよッ」

 

「え、どうして……?」

 

 ほんとにどうしてだろう。

 というか、また俺だけ話についていけてない気がするぞ。コトの経緯ってなにさ。まあ世界の中心である俺が知らないってことは、そこまで大した話でもないんだろうけどね。

 

「ローザの代わりに、私が猫さんを送ろうか?」

 

「絶対に止めてください! これ以上の混乱は必要ありません!」

 

「えー……聖女様の“奇跡”の巡礼と、姉様をぶん殴るチャンスだと思ったのにな……ふふ、残念」

 

「あ、頭の痛くなることをっ……」

 

 ん、あれ。俺なんかもう帰る流れになってない? まだ此処に来てから半日も経ってないんですけど……早すぎない? まだこの森の散歩も、聳え立つ光る木で爪とぎもしてないんだが。

 聖女ちゃんへのお土産を、此処らへんの生き物を狩って見繕って置きたいのに。

 

 起きて早々、一気に流れゆく展開についていけぬまま、俺はローザに抱き上げられた。

 

「では、行って参ります。この猫は私が責任持って元いた場所……はアレなんで、街に送り届けておきます。ご心配なさらぬように」

 

「どちらかと言えば、ローザの方が心配かな。あの方の“奇跡”が降ったのなら問題はないと思うけど、無茶はもうホントに止めてね。癪に障る敵を見つけたら、直ぐに興奮しちゃうんだから」

 

「別に興奮はしてませんから!」

 

「説得力がないなぁ、自分の見た目を見てみなよ……もう、一体どれだけ怪我を繰り返せば学んでくれるのかな」

 

「ぐっ! こ、これはっ、あのお面の者が大袈裟すぎるだけで、大した傷じゃありません! 強がりではなくホントに!」

 

 どうでもいいから、俺を抱っこした状態で言い合うの止めてくれよ。

 我猫ぞ……もっと丁重に扱え。猫パンチを浴びたいのか。

 

「にゃあ」

 

「あ、ほら……この子も、貴方に無茶はしてほしくないってさ」

 

「ぜっったいに言ってませんよコイツはッ。此方の言う通りに動いてくれたことなど一度もないんですからっ」

 

「絶対に言ってるって。だって、こんなに愛されてるって解る子は中々居ないよ? それが指し示すモノは、この子が優しくて、誰かの助けになってきたってこと。姉様も、この子のそういう部分を感じ取れたから、好いてるんだよ。だから、言ってるよ。ねー、猫さん?」 

 

「にゃあ」

 

「ほらね、言ってるよ」  

 

 言ってないよ。

 良い話風に纏めてるところ悪いが、一言も言ってない。お前の発言で合ってるのは、俺が“愛されてる”ってことと、“誰かの助けになってきた”ってところだけだ。

 

 基本俺は自由気ままに世界一可愛く居るだけで、お前たち人類が勝手に救われちゃってるんだけどもね。

 

 はあ〜、人類ってほんまチョロくて可哀想になるわ〜。擦り寄るだけで笑顔になり、救われちゃうんだもの。カワイイ俺は大正義なんで仕方ないが。

 

「まあ……コイツの飼い主が苦労しているんだろうなということは、理解できますが」

 

「ふふ、なら十分だよ。無茶、出来なくなったね?」

 

「元々コイツの前でするつもりはありませんよッ」

 

 ローザはほんの僅かに、俺を抱っこする腕の力を強めた。

 なんだかんだで俺のこと大好きじゃん、解りやすい奴。

 

「猫さん、今回はワチャワチャしちゃって、どこも案内することが出来なかったけれど……次はもっと素敵な所を沢山見せてあげるからね。是非とも、貴方の飼い主さんと一緒に来てね。待ってるよ」

 

「にゃあ」

 

 ワチャワチャしてたの? 俺ずっと寝てたんで知らなかったぜ。大変だな、下々の民たちは。

 せめて俺の声を受け取ることで疲れを癒しなさい。

 

 俺と視線を合わせるように屈んでいるフォレに、最大級の迫力を込めた鳴き声をブツけた。

 

「みゃあ、にゃあ、なぁん」

 

「……ウチの子にしちゃダメかな、やっぱり」

 

「!? ダ、ダメに決まってるでしょう!」

 

 

 

 次来るときは、ごはん用意しとけや。それ次第では、偶に来る散歩コースに加えてやらんでもない。

 

 真顔で俺に手を伸ばすフォレを猫パンチで払い除け、俺はフンスと鼻を鳴らした。

 

 

 まず戻ったら、聖女ちゃんへのお土産を森で適当にゲットしないとね! 俺の狩り能力がもふもふするぜ!

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

『…………………』

 

 

 

 

 




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