聖女様の飼い猫   作:もふもふもふも

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27話 猫とお土産

 

 

 

 弱いモノを蹂躙するのは強者の特権。弱いモノを思うがままに遊び、淘汰するのはとても、とてもオモシロイ。

 

 

 それが、魔物──『魔呼び』と呼ばれるモノの価値観だった。

 

 人々の嘆き、叫び、惨劇。数え切れない程の悲劇を観戦し、愉しむことで魔呼びは成長を遂げてきた。

 

 弱いモノの、恐怖で歪んだ顔は見ていて凄く“歯応え”がある。思わずヒラヒラと舞い上がり高揚するくらいに。

 

 弱いモノの不幸は、絶望は飽きないのだ。

 何時だってそれは新鮮で、温かい気持ちにへと魔呼びを導いていた。

 

 蹂躙し虐げるという、強者の証。それを振り翳すことが赦されている、止められないという圧倒的暴力。

 

 愉しい。愉しくて仕方がない。

 

 強いモノが、弱いモノを遊び殺すことが。

 

 

 魔呼びは大好きであった。

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

「──天の裁き」

 

 

 

 12年前。その理不尽なまでに眩しく、積み上げてきたモノ全てを無に返す“光”を目にし、魔呼びは逃げることしかできなかった。

 

 強者の特権、それを振り翳す権利を得ているのは、何も自分だけじゃない。この世界には、理解不能の、埒外の『怪物達』が存在する。

 

 どんな強い魔物も関係なく、あの怪物達の前では等しく弱者。平等に、弱い。しかし、何故か侮られた、下に見られたという屈辱感は湧かなかった。

 

 関わってはいけない領域にまで魔呼びの中で、あのモノ達の存在が昇華されていたからである。

 

 闇と光の聖争。アレに巻き込まれれば、間違いなく死ぬ。

 

 降りそそぐ光の柱に、黒い雷。周囲を殲滅するように放たれ続ける光線と、闇の炎。

 

 桁違いのその攻撃規模を見て、魔呼びはそう思わざるを得なかったのだ。

  

 魔呼びが欲しいのは、飽くまで愉しいこと。弱者の嘆きと悲しみ、それを上から嘲笑うことだ。

 そのため、遥か格上との命懸けの闘争に身を投じるつもりは微塵もなく。強くなろうなどという気概も全くなかった。

 

 

 故に魔呼びが考え、選び取った選択肢は一つだけ。

 

 それは──待つことであった。あのモノ達が、時間の流れにより消え去るのを待ち続けること。ジッと耐え忍び、終わりを願い続ける。それこそが“最良”であると判断したのだ。

 

 そして、実際その判断は正しいと言える。

 

 

 約2年後。

 

 

 聖戦が終結した。あの恐ろしいニンゲンと竜を置き去りにして。

 

 

 

 

 これで漸くまた羽根を伸ばして、人類で遊ぶことが出来る。愉しく人を殺すことが出来る。

 

 魔呼びは、嬉しくて仕方がなかった。待ちに待ち望んだ“自分が一番愉しめる世界”がやってきたからだ。

 

 弱者の恐怖で歪む顔……ソイツを再び拝めるのかと思うと、堪らなく愉しい。ヒラヒラと舞い上がり、魔呼びは喜びを露わにした。

 

 もう自分の道が阻まれることはない。愉しみを奪われることもない。

 

 きっとこれからは、自分にとって“愉しいこと”だけの世界になる。

 

 そんな、浮き立つような希望に溢れた予感。それを明確に強く感じ取っていた。

 

 魔呼びは、世界で一番幸福だった。

 

 

 ──が。

 

 

『──天の裁き(猫さんを探すのに邪魔です)

 

 その光は再び魔呼びの道を遮り、悉くを蹂躙し尽くした。

  

 何故? を考える暇すらない。魔呼びは思い出していた。圧倒的強者による蹂躙を。

 

 隣に居た魔物が一瞬の内に消え去った。1秒も経たない内に、もっと多くの魔物が死ぬことになるだろう。呼び出したばかりのモノ達の悲鳴が、轟音が響き続ける。

 

 この神の如き御業には、慈悲も救済も、愉しみもあったものじゃない。

 

 在るのは、どこまでも深く恐ろしい“絶望”だけ。

 

 

 此処は正しく、この世の地獄であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

 

 

 

     

 

 

 

 他の魔物達を盾にし、気配を殺し続けることで、それでも何とか魔呼びは生き延びていた。過去の大戦で気配を押し殺すのには慣れ、弱い魔物のフリをするのも上手くなった。  

 

 その経験が、魔呼びを今一度この世に繋ぎ止めたのだ。とはいえ、今回は被害と己が浴びたダメージがあまりにも大きい。失ったモノが多すぎる。

 

 しかし、時間をかければ必ず治る。己が生きてさえいれば、どうとでもなる。今欲しいのは、身体を休める時間。そして治った後に取る行動も、方針も既に決まっていた。

 

 あのニンゲンが死ぬまで──待つことだ。幾らあのニンゲンが恐ろしく強くても、寿命には決して勝てはしない。次はありえない。

 

 幾ら打ちのめされ、屈辱に塗れようとも。ニンゲンに見下されることがあったとしても。最終的に、自分が愉しめる方法を選べばいい。生き残った者こそが、弱者を甚振る権利を獲得できるのだから。

 

 この経験が、また己のことを成長させ、一つ一つ強くする。

 待つのには、慣れている。待つのは得意だ。

 

 だから自分が動き出す、その時がくれば……今度こそ、世界をオモシロイことでいっぱいにしよう。

 

 

 人類を……あのニンゲンが護ろうとした者を、一つ残らず滅ぼそう。憎みはしない、関わりも持つつもりはない……が、報いは絶対に受けさせる。

 

 弱者を蹂躙し、殺せるのは……強者の特権なのだから。

 

 全て奪い、土塊が崩壊した国の残骸を眺めよう。

 

 そうした愉しいことの果てにいつか必ず──この世界を滅ぼしてやる。

 

 ヒラヒラと舞い、魔呼びと呼ばれるその魔物──【幻夢蝶(げんむちょう)】は決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!??」

 

 

 そして、突如現れた白い毛玉の前足によって、幻夢蝶は叩き潰されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 聖女ちゃんへのお土産、みーつけたぁ!

 

 ローザの腕を振り解き、俺はなんか気味の悪いオーラと、紋様をした蝶を捕まえていた。

 

 目にした瞬間、コイツしかいないと思ったね……俺の狩りを受ける、名誉ある者は。多分コイツは、レア度の高い蝶で間違いあるまい。変なオーラ纏ってるし。きっと聖女ちゃんの作り出す蝶の参考になる筈だ。

      

 我ながら見事な獲物選びのセンス……最高すぎる。今から聖女ちゃんに見せるのが楽しみで仕方がないぜ。フフン。

 

「………」

 

 でも、その前にもうちょっとコイツで遊ぼっと。

 

 弱者を蹂躙するのは、絶対強者であるカワイイ俺の特権だからなぁ!

 

 

 捕まえた蝶で遊ぼうと、俺は捕まえていた蝶を放した。

 

 オラもう一回飛んでみろ。一撃で土の味を思い出させてやるからよ。

 

 

「………」

 

「?」

 

 アレ……なんかコイツ……身体が崩れていってね?

 

 あ、あの時の大鼠と同じパターンだこれ。俺の許可なく謎の昇天をしていくパターンの奴。

 

 おまっ、ちょ、ふざけるなぁぁぁぁああ!!!!

 

「おーーーん、なおーーーん」

 

 聖女ちゃんへのお土産を失い、俺は鳴いた。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
高評価等もありがとうございます! お陰様で猫さんが可愛く狩りを成功させました()
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