聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
弱いモノを蹂躙するのは強者の特権。弱いモノを思うがままに遊び、淘汰するのはとても、とてもオモシロイ。
それが、魔物──『魔呼び』と呼ばれるモノの価値観だった。
人々の嘆き、叫び、惨劇。数え切れない程の悲劇を観戦し、愉しむことで魔呼びは成長を遂げてきた。
弱いモノの、恐怖で歪んだ顔は見ていて凄く“歯応え”がある。思わずヒラヒラと舞い上がり高揚するくらいに。
弱いモノの不幸は、絶望は飽きないのだ。
何時だってそれは新鮮で、温かい気持ちにへと魔呼びを導いていた。
蹂躙し虐げるという、強者の証。それを振り翳すことが赦されている、止められないという圧倒的暴力。
愉しい。愉しくて仕方がない。
強いモノが、弱いモノを遊び殺すことが。
魔呼びは大好きであった。
そして。
「──天の裁き」
12年前。その理不尽なまでに眩しく、積み上げてきたモノ全てを無に返す“光”を目にし、魔呼びは逃げることしかできなかった。
強者の特権、それを振り翳す権利を得ているのは、何も自分だけじゃない。この世界には、理解不能の、埒外の『怪物達』が存在する。
どんな強い魔物も関係なく、あの怪物達の前では等しく弱者。平等に、弱い。しかし、何故か侮られた、下に見られたという屈辱感は湧かなかった。
関わってはいけない領域にまで魔呼びの中で、あのモノ達の存在が昇華されていたからである。
闇と光の聖争。アレに巻き込まれれば、間違いなく死ぬ。
降りそそぐ光の柱に、黒い雷。周囲を殲滅するように放たれ続ける光線と、闇の炎。
桁違いのその攻撃規模を見て、魔呼びはそう思わざるを得なかったのだ。
魔呼びが欲しいのは、飽くまで愉しいこと。弱者の嘆きと悲しみ、それを上から嘲笑うことだ。
そのため、遥か格上との命懸けの闘争に身を投じるつもりは微塵もなく。強くなろうなどという気概も全くなかった。
故に魔呼びが考え、選び取った選択肢は一つだけ。
それは──待つことであった。あのモノ達が、時間の流れにより消え去るのを待ち続けること。ジッと耐え忍び、終わりを願い続ける。それこそが“最良”であると判断したのだ。
そして、実際その判断は正しいと言える。
約2年後。
聖戦が終結した。あの恐ろしいニンゲンと竜を置き去りにして。
これで漸くまた羽根を伸ばして、人類で遊ぶことが出来る。愉しく人を殺すことが出来る。
魔呼びは、嬉しくて仕方がなかった。待ちに待ち望んだ“自分が一番愉しめる世界”がやってきたからだ。
弱者の恐怖で歪む顔……ソイツを再び拝めるのかと思うと、堪らなく愉しい。ヒラヒラと舞い上がり、魔呼びは喜びを露わにした。
もう自分の道が阻まれることはない。愉しみを奪われることもない。
きっとこれからは、自分にとって“愉しいこと”だけの世界になる。
そんな、浮き立つような希望に溢れた予感。それを明確に強く感じ取っていた。
魔呼びは、世界で一番幸福だった。
──が。
『──
その光は再び魔呼びの道を遮り、悉くを蹂躙し尽くした。
何故? を考える暇すらない。魔呼びは思い出していた。圧倒的強者による蹂躙を。
隣に居た魔物が一瞬の内に消え去った。1秒も経たない内に、もっと多くの魔物が死ぬことになるだろう。呼び出したばかりのモノ達の悲鳴が、轟音が響き続ける。
この神の如き御業には、慈悲も救済も、愉しみもあったものじゃない。
在るのは、どこまでも深く恐ろしい“絶望”だけ。
此処は正しく、この世の地獄であった。
他の魔物達を盾にし、気配を殺し続けることで、それでも何とか魔呼びは生き延びていた。過去の大戦で気配を押し殺すのには慣れ、弱い魔物のフリをするのも上手くなった。
その経験が、魔呼びを今一度この世に繋ぎ止めたのだ。とはいえ、今回は被害と己が浴びたダメージがあまりにも大きい。失ったモノが多すぎる。
しかし、時間をかければ必ず治る。己が生きてさえいれば、どうとでもなる。今欲しいのは、身体を休める時間。そして治った後に取る行動も、方針も既に決まっていた。
あのニンゲンが死ぬまで──待つことだ。幾らあのニンゲンが恐ろしく強くても、寿命には決して勝てはしない。次はありえない。
幾ら打ちのめされ、屈辱に塗れようとも。ニンゲンに見下されることがあったとしても。最終的に、自分が愉しめる方法を選べばいい。生き残った者こそが、弱者を甚振る権利を獲得できるのだから。
この経験が、また己のことを成長させ、一つ一つ強くする。
待つのには、慣れている。待つのは得意だ。
だから自分が動き出す、その時がくれば……今度こそ、世界をオモシロイことでいっぱいにしよう。
人類を……あのニンゲンが護ろうとした者を、一つ残らず滅ぼそう。憎みはしない、関わりも持つつもりはない……が、報いは絶対に受けさせる。
弱者を蹂躙し、殺せるのは……強者の特権なのだから。
全て奪い、土塊が崩壊した国の残骸を眺めよう。
そうした愉しいことの果てにいつか必ず──この世界を滅ぼしてやる。
ヒラヒラと舞い、魔呼びと呼ばれるその魔物──【
「!!!??」
そして、突如現れた白い毛玉の前足によって、幻夢蝶は叩き潰されたのであった。
◆◆◆◆◆
聖女ちゃんへのお土産、みーつけたぁ!
ローザの腕を振り解き、俺はなんか気味の悪いオーラと、紋様をした蝶を捕まえていた。
目にした瞬間、コイツしかいないと思ったね……俺の狩りを受ける、名誉ある者は。多分コイツは、レア度の高い蝶で間違いあるまい。変なオーラ纏ってるし。きっと聖女ちゃんの作り出す蝶の参考になる筈だ。
我ながら見事な獲物選びのセンス……最高すぎる。今から聖女ちゃんに見せるのが楽しみで仕方がないぜ。フフン。
「………」
でも、その前にもうちょっとコイツで遊ぼっと。
弱者を蹂躙するのは、絶対強者であるカワイイ俺の特権だからなぁ!
捕まえた蝶で遊ぼうと、俺は捕まえていた蝶を放した。
オラもう一回飛んでみろ。一撃で土の味を思い出させてやるからよ。
「………」
「?」
アレ……なんかコイツ……身体が崩れていってね?
あ、あの時の大鼠と同じパターンだこれ。俺の許可なく謎の昇天をしていくパターンの奴。
おまっ、ちょ、ふざけるなぁぁぁぁああ!!!!
「おーーーん、なおーーーん」
聖女ちゃんへのお土産を失い、俺は鳴いた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
高評価等もありがとうございます! お陰様で猫さんが可愛く狩りを成功させました()