聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
聖女ちゃんへのお土産を失い鳴いていた所を、俺は必死の形相をしたローザに見つかり、次は逃げられないようにとガッチリ抱えられていた。
「全く、あんなに鳴く位なら初めから私の側を離れるなというに……このウツケめ」
「にゃあ」
だって折角の神チョイスが無駄になっちゃったんだもん……普通に悲しいじゃん。聖女ちゃんへのお土産、絶対喜んでくれると思ったのにさ。
運命の無情さは何時でも空気を読まんし、無礼が過ぎるんだよ。あのクソ畜生共が……黒いオーラを纏った大鼠と蝶々。次また同じ種類の奴が現れたら問答無用で遊び潰してやる。カワイイ俺にこんな悲しい気持ちを味わわせたこと、死ぬほど後悔させてやるからな。
この俺の許可なく勝手に死にやがって……覚悟しておけ。
「みゃおん」
「“みゃおん”じゃない……はあ、お前は何も知らずに呑気なものだな。お前、今回の件で無礼しか働いていないだろう」
呑気なのは否定しない。
だが、俺は無礼なんて働いていないぞ。俺が行っているのは飽くまでも世界一の身の丈にあった行動だけだ。
寧ろ、弁えるのはお前たち人類の方だということを理解しろ。カワイイの前ではどんな諍いも問題も全て虚無に帰るんだよ。あの勝手に死んだ畜生共のように。
「此度のコトの顛末……終ってみれば、お前の存在のように実に気が抜けるものだったな。お前に会ってから、こんなのばっかりだ」
良かったじゃん。
コトの顛末がどういうのかは知らんけど、カワイイ俺に会えたって一点だけでお釣りが一生返せないレベルの幸運なんだし。もっと称えてくれても良いんだよ?
オラ称えろ!
「あ、コラ! だから三つ編みをテシテシするなと……ダメだな。コイツ私の髪の毛を都合の良い遊び道具程度にしか考えていない」
「にゃあ」
お、珍しく正解だぜ。正解報酬として天使のゴロゴロ音色をプレゼントしよう。
「! またゴロゴロと……猫のそれは、一体どういう仕組みだ?」
人類を支配するカワイイ仕組みだよ。聞けることを感謝し媚び泣け。
そう傲慢かつ可愛らしく考えつつ、俺はローザが伸ばしてきていた人差し指をペシペシと叩いた。
「……ふん、軟弱なパンチだ。そんなものじゃ鼠一匹狩り取れんぞ」
は? 余裕ですが? 鼠畜生なんぞコレ一発でKOできたし、お前の敬愛しているハイエルフ達なんて頬に肉球押し付けるだけでダウンしちゃってただろうが。忘れたとは言わせんぞ、このまま馬鹿にされたんじゃ、俺のプライドに関わるし。
俺は連続でローザの指と髪に猫パンチを放った。
「!? な、なんだどうしたんだ!」
お前がさっきの言葉を取り消すまで! 俺は! お前を殴るのを止めない!
「や、止めろ! 連続でテシテシ殴るな! 移動ばっかりだったから気が立っているのか? ね、猫の機嫌の取り方など私には……そ、そうだ! 街に着いたら何か買ってやる! だからこれ以上暴れるな!」
「にゃあん」
なら許す。
怒りを鎮め、俺は可愛く鳴いた。
「そんなあっさりと……わ、わけが解らん……テンションの浮き沈みが激しすぎる。本当に何がしたいんだ、この生き物は」
◆◆◆◆
一日ぶりの街だぜ! 俺の帰還を全身全霊で喜べ!!
ヒャッハー、早速いつも通りに略奪だ! 略奪したものを、お土産として聖女ちゃんにくれてやる!
目を爛々と輝かせ、俺はローザの腕の中で沢山鳴いた。
「にゃあ、みゃあ」
「あ、あまり鳴くな……目立つだろうがっ」
残念だが、俺を抱っこしている時点でお前は目立ってんだよ。それがなくとも、お前さん見た目包帯グルグルの人だし。さあ、さっさと俺に供物を献上せよ。
街の物を襲撃し尽くすぞ!
「取り敢えず猫用の店はないのか? コイツが何が好きで何が毒になるのかさっぱり解らんのだが……」
まあ、ローザは知らんだろうな。でも安心しろ、片っ端から襲撃すればそんなモノは関係ない。
集めた物を、後で俺が吟味してやるからよ。カワイイ俺に略奪されることを、末代まで称えろよ人類の諸君。
「そもそも、血なまぐさくなるまで戦ったその翌日に、私は何をやってるんだ……白毛玉のお守りだと? 冗談にもならん、過去の私が見たら絶対“腹切って死ね”と言うぞ……」
絶対過去のお前もそんなこと言わないから安心しろ。俺のことをチラチラ見ながら撫でたそうにしている姿が想像できるよ。
て、あの店いいじゃん〜行こうぜローザ! 略奪の時間だぜ!
ローザの腕から強引に身体を乗り出し、俺はある店の方を見つめながら一点集中で鳴いた。
「にゃあ、なぁう、まーう」
「あ、あの店が気になるのか? ……いやだがあそこに食べ物は……ああ、わかったわかった! わかったから暴れるな!」
◆◆◆◆
日が沈み始める時間帯。
街にあるお店を満足するまで一通り見てきた俺は、ベンチの上で優雅に毛並みを整えていた。うむうむ、非常に有意義な時間であった。
俺の首には今回獲得し、その中でも特に気に入った『成果物』が小袋に包まれた状態で掛けられている。
結局一番最初のお店で得たもので、お土産は決着していたな。
お蔭で、後のお店では俺の個人的に欲しい食べ物をローザに強請りまくれたワケだけども。
しかし、今日はなんともまぁ街が騒がしくて仕方なかった。なんか良いことでもあったのだろうか。詳しく聞くつもりもなかったんで、今回はスルーしてきたけれど。
また別の日に、誰かを襲撃して何があったのかを聞き出そうかな。
「つ、疲れた……昨日の殺し合いより疲れるなど、どれだけ街の人間共はコイツに興味があるんだ……」
俺の隣では、生気のない顔色でローザがくたびれまくっている。
俺のことについて、行く先々のお店で聞かれまくってたからな……まあ、ローザもローザでポーションやらなんやら沢山貰ってたし良かったじゃん。
レア物もあったんだろう? 貰った瞬間『!?』ってなってたし。
「猫を連れているだけで、こうも人間は好意的になるのか……ここまでのサービスなど、生まれて初めてされたぞ」
「にゃあ」
「だが、それ以上に疲れた。人間とは、ああもやり辛い種族だったか? エルフである私に全く臆することなくグイグイ来やがって……もっと敬意を示せ、恐れろよ」
カワイイ猫に翻弄される見た目ボロボロなエルフとか、誰が臆するってんだよ。ローザは気付いてないだろうけれども、俺への振る舞いや扱いが完全に甘々だったしね。
神たる俺に尽くす者を恐れるとか、無理に決まってんだろ。お前100%街の人間たちからの印象上がったぞ。
「お前、ソレ……妙にパンチばかりしていたから買ってやったが、本来の用途は遊び道具じゃないんだ。絶対に食べるなよ?」
俺の首に掛かった小袋を指差し、ローザは目を細める。
買ってくれたのは感謝している……が、こんなもん食べるわけねーだろ、馬鹿にしてんのか。精々齧りつくくらいだぜ。
俺は眼圧レベルを最大限まで高め、ローザを睨み付けた。
「……。なんだ、その顔は。全く……バカめ。ふふっ」
なにわろてんねん。
◆◆◆◆◆
ローザと別れた後。
俺はいつもの道を通り、いつも通りボロボロ具合が半端じゃない廃教会の前までやってきていた。此処まで中々に長い道のりだったぜ……だが、俺は元気に帰ってきた。流石俺。
聖女ちゃんへのお土産も装備完了! 綺麗なもふもふもカワイさ完璧! さあて、カワイイ俺が帰ってきたぞい!
扉の小さい隙間を通り抜け、俺は小走りで聖女ちゃんの元へと向かった。
ただいまー聖女ちゃん!
「にゃああぁあ」
『────────…………猫さん?』
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
高評価等もありがとうございます! お陰様で猫さんがもふもふしております!