聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
日向ぼっこって気持ち良い。
人だった頃はそこまで好きでもなかったが、猫になった今は感じ方が全然違う。身体が活性化しスッキリするというか、気分が凄い落ち着くのだ。
そりゃ前世でも猫は日向を好むわけだ、これはマタタビにも負けない猫アイテムだね、間違いない。今世でマタタビは見たことないし、猫がマタタビを好む理由も知らないけれども。いつかマタタビにも出会えたら嬉しいものだね。
教会の直ぐ前。日当たりの良い岩の上で身体をグッと伸ばし、俺は大きく欠伸をした。
『ね、猫さん! その岩よりも私の方がひんやりしていて気持ち良いですよ!』
教会の中から聖女ちゃんが見ているらしい。頭の中で声が響く。
ひんやりて……今は暖かいのが欲しいんだよ。アピールポイント間違えてるな。聖女ちゃんの居る場所日陰で寒いし、何を言われても今の俺がそっちに向かうことはない。
ふわぁ、暖かい岩さん最高〜。
『う、うぅ……岩に猫さんを奪われた……なんで……なんで、こんなことにっ』
落ち込みすぎだろ。
どんだけショック受けてんだよ。世界の終わりみたいな反応しやがって。猫が暖かい所を好むことくらい、聖女ちゃんだって知っているだろうに。
仮にも聖女を名乗るなら、この程度のことで一々取り乱してたら心が崩壊するぞ。猫は自由な生き物なんだから。
『私が弱いから、猫さんは私を選んでくれないのでしょうか』
「にゃー」
場所の問題ですね。
強弱全く関係ないよ。
『や、やはり! 私はまだまだ未熟の身……世界を一度救った程度では、猫さんを護れないってことですねっ』
「にゃー」
違うねぇ、言ってないねぇ。
この人、ほんと思い込み激しいな。石像だけど。猫の言葉を自己解釈するのは猫好きあるあるだけどもさ。俺の顔を見ればそんな意図がないのは一発で解りそうなものだが……あ、今の俺の顔ずっと天使だったわ。
『分かりました。猫さんが私を選んでくれるように、これからも全心全意励みます。見守っていてくださいね。それから、そこの岩!』
そこの岩て。そんな生物を相手するみたいに呼ばなくても。
聖女ちゃん、今まで接してきた限り真面目な天然さんだから、お巫山戯ナシでこれ言ってるんだよな。
『今は、貴方のほうが上かもしれません。しかし、最後に猫さんに選ばれるのは私です。絶対、負けませんからねっ』
え、えぇ……。
日当たりの良い岩に宣戦布告する石像兼自称聖女かぁ……なに言ってるのか自分でもワケわかんなくなってきた。勝敗がなにか解らないし、聖女ちゃんは一体何処を目指してるんだろう。
どんな志を抱こうとも勝手だが、変な方向に振り切れるのだけは勘弁してほしいものである。既に8割は変だけれども。
暖かい日差しの中、俺は目を瞑った。
『猫さんが私以外のモノと眠るなんて……うっ……ぐっ』
脳破壊かな。寝取られビデオ見てるような反応してくるじゃん。
やっぱこの子、10割変だわ。
◆◆◆◆
『ね、猫さん猫さん見てください!』
夜。そこら辺にある椅子で爪研ぎをしていると、興奮気味な聖女ちゃんの声が届いた。
ガリガリと爪研ぎをしつつ、視線を聖女ちゃんの方へと向ける。一体なにごとさ。
『私の手から“水”が……水が出たんです!』
水ぅ……? 石像の聖女ちゃんから?
見てみると、確かにチョロチョロと聖女ちゃんの手から水が溢れていた。転生してから初めて見る光景だ。ほんと、不思議だぜ。
聖女ちゃんの肩までよじ登り、俺は間近で溢れる水を眺めた。うーん、凄い澄んだ色、キラキラ輝いて見えるぞ。
『水魔法が発動したんです! この姿になってから魔法の類はまるで使えなかったというのに……やった、遂にッ……私はっ』
「にゃー」
良かったね、聖女ちゃん!
しかし石像が魔法を使えるなんて、ほんと想像してなかったな。ひょっとすると聖女ちゃんって、凄い石像なのかもしれない。それ以上に変な子だけど。
『ありがとう……全て、猫さんのお蔭です! 猫さんが居てくれたから私は……私はッ。本当に、ありがとうっ』
おう感謝しろよな。
感極まった様子の聖女ちゃんに、俺はゴロゴロ音をプレゼントした。あの発狂ばっかしてた石像の聖女ちゃんが魔法を使う日が来るだなんて……ほんと、立派になったものだ。感慨深くなってしまう。
『猫さんっ……ふふ、私、こんなに幸福でいいのでしょうか。今ならどんな困難にだって立ち向かえる気がします。──もう、何も怖くない』
なんで唐突に死亡フラグ立てたの??
『猫さん、よければこの水を飲んでみませんか? 街の水や、他の魔法使いの生成する水よりも健康に良いことは保証します。なんて言っても、猫さんのためを思って私が作った水ですから!』
「にゃー」
そうなんだ。
確かにこれほど綺麗な水見たことないんだよな。マジで今まで生きてきた中で一番綺麗な水だ。健康に良いって話だし、飲んでみようかな。
聖女ちゃんの手の所まで行き、俺は水に顔を近づけた。大丈夫かどうか一応匂い確認だけしとくか。
『うっ……猫さんが私の手に……ああ、なんて幸せ……あ、しまっ、魔力コントロールが!』
ん? なんか不穏な言葉が聞こえ──
「!?」
瞬間。聖女ちゃんの手から、水が一気に溢れ返った。溢れた水を思い切り被り、俺は全身ずぶ濡れ姿に変貌を遂げる。
そっか、こういうことしちゃうんだ聖女ちゃん。ふぅん……おい。
「ゔー……」
『ご、ご、ごめんなさい猫さん! 魔法を使うときに、これほど感情が昂った経験がなくて! ほ、本当にごめんなさい猫さん!!』
「………」
……油断していた俺も悪いし、許してあげるけどさ。嬉しいことがあって舞い上がるってのは、俺にも経験があることだからな。今回は聖女ちゃんの頑張りと苦労に免じて、不問としようじゃないか。頑張った子を叱るのは出来れば遠慮したいし。
だが次やったら猫パンチの刑だ。解ったな?
「みゃーう」
『ね、猫さん……やっぱり怒ってますよねッ。うぅ、私はなんてことを……はっ! 魔法で猫さんを温めれば──』
許すって言ってるし、また面倒な結果になるから絶対に止めろ!
俺は猫パンチを繰り出した。