聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
聖女ちゃんが泣き喚き、取り乱している現在。
俺は、ローザに買ってもらったお土産の入った小袋に頭を突っ込み、ガサガサしていた。
取り敢えず聖女ちゃんを泣き止ますために、お土産の一つでも渡そうと思っていたのだが……ううむ、中々このガサガサに気持ちが持っていかれる。
やはり袋が奏でる音や、動き回りたくなるような感触は、猫たる俺にとってはどうにも堪らないモノなのだ。
頭を突っ込むまではそんなに気にならなかったんだけどもなぁ。一度好奇心を刺激されちゃうと、時期状況関係なく飽きるまで夢中になってしまう。猫の宿命、カワイイから仕方ないよね……。
小袋よ、我が刃をその身に刻むことを光栄に思いなさい。
袋を被った状態でコロコロと転がりながら、俺は小袋がズタボロになるくらい遊び尽くそうとした。
「まーゔ」
『うおーんッ……うぅ……う? ね、ね、猫さん!? 頭が袋から外れないのですか!? ああ、傍にいながらなんという醜態ッ……待っていてください! 今すぐ貴方を救いますから!!』
え? いや別にコレはそういうんじゃない。邪魔ぁすんじゃねぇよ今良い所なんだからさぁ! ──と言う暇もなく。
突如として謎の風が吹き荒れ、俺の顔を包んでいた袋を引き剥がし、遥か彼方の夜空へと吹き飛ばしていった。
判断が早すぎる。
『これで、貴方の視界を遮るモノはありません。無事で良かったッ……』
「………」
なんも良くないよ?
聖女ちゃんが、俺の身を案じてくれたのはわかる。猫が小袋で窒息する可能性は全然あるわけだし。
けれど、だ。それはそれとして、あの小袋はズタズタにするつもりだったのに! よくも邪魔を!
聖女ちゃんの足元へ行き、俺は報復の気持ちを込めて頭突きを放った。
『喜んで……くれているのですか?』
「にゃあ」
違います、怒ってるんです。
『ッ……貴方には、本当に救われてばかりですねっ』
俺の頭突きを浴び、感極まった声を出す聖女ちゃん。
よくわからんけど、俺は聖女ちゃんを救っちゃったようである。全くの逆効果かよ。
毎度毎度、繊細なのかバカなのか、わけわからん奴だな……泣き止んだのは喜ばしいことだけれどもさ。
『猫さん……勝手に居なくなるのは……いいえ、勝手じゃなくとも、貴方が傍に居ないのは嫌……ですっ。本当に、本当に、死ぬほど心配したんですよ。貴方に、何かあったんじゃないかって……不安で仕方なくって……今まで生きてきた中で、一番堪えたんですからッ』
重いし、ごめんて。
今後は森に行く頻度もちょっぴり減らすんで、勘弁しておくれ。泊まりになるときは、声掛けもするように心掛けるし。
大事だよね、報連相。通じるかは別として。
「にゃあ」
『うっ……ダメですね。言いたいことは沢山あるのに、猫さんの声を聞くと、どうしようもない“多幸感”に見舞われて、安心しちゃいますっ』
神の声だからな。
どんないざこざがあっても、俺の声を聞くだけで人々は手を止め、幸福を感じるものだ。
さながら、“生きた癒し”だぜ。ふふん。
『……ほんの少し、身体を確認してもよろしいですか、猫さん。悪い気や、見えていない場所に怪我をしている可能性もありますから』
怪我? そんなもんないと思うが、それで聖女ちゃんが満足するのであれば、甘んじて受け入れてあげよう。感謝しなよ。
傍に寝転がり、俺はジッと聖女ちゃんを見上げた。
『ぐっ……私のことを見上げてくれる猫さんっ……カワイイがすぎますッ。1日半ぶりの生命の源ッ……えへへ、ずっと見ていたいっ』
「………」
めっちゃ嬉しそうなところ申し訳ないが、確認したいのならはよしろや。ジッとしとくのも楽じゃないんだぞ。
『大人しく出来て、猫さんはとっても偉いですねっ。では、確認しますね。──“蝶が羽ばたく魔法”』
「シャー」
『えぇ!?』
此方へと飛んできた光る蝶を、俺は一撃で薙ぎ払った。
それは赦さん、極刑だ。今の俺に蝶を見せるのは、“神よ、どうか破壊してください”と言ってるのに等しいぞ。今じゃなくとも破壊するが。
『あぁ……あんなに威嚇するなんて……猫さんは蝶が苦手なのでしょうか』
寧ろ好きな部類だぞ。活きの良い獲物として。
『しかし、それだけ元気に動いてくれるのは、とても喜ばしいことです。問題はないみたい……ですね』
「にゃあ」
応ともさ。心身共に、なんの問題もないぜ。
あ、でも可愛さには磨きが掛かっちゃったかもしれない。猫の可愛さは、生涯上がり続けるっていうし。ふっ、すまんね進化しちゃう系カワイイ猫で。
『けれど……やはり心配です。念のため、治癒魔法を掛けておきますねっ』
「……」
まあ、これは仕方ないか。聖女ちゃんの性格上、心配しまくった俺に対して、一度も魔法を掛けないなんて出来ないだろうし。
俺に使用する際、聖女ちゃんの魔法は暴発気味な傾向にある。だが今回は系統も系統だし、治癒魔法一回程度じゃあ、なんてことな──
『──50回くらい』
……掛けすぎじゃね? そんな掛けられたら、俺のもふもふボディが逆に異常をきたすかもだろ。俺への魔法精度を考えると、十二分にあり得る。
コ、コイツ、やっぱり頭が可怪しい! ……あ、それはいつものことか。
冷静さを失い、大真面目に治癒魔法を50発放とうとする聖女ちゃんから、俺は全速力で距離を取った。
『!? な、なぜ距離を取るのですか猫さん!』
「みゃあ」
経験じゃボケ。
◆◆◆◆◆◆
なんやかんやといつも通りに過ごしている内に、聖女ちゃんは元気を取り戻していった。
最初の大泣きを見たときは、どうなることかと思ったが……流石は俺。今回も無事にやり遂げたぜ。
くたびれた机で爪を研ぎつつ、俺は己の有能さと可愛さに酔いしれた。
『く、机で爪研ぎをする猫さんも、とんでもなく天使です……!』
宇宙が爆誕する前から知ってる。
……さて、今日は聖女ちゃんの足元で眠ってあげるかな。また、『猫さんが居ない!』って泣かれても大変だもの。色々と迷惑を掛けたのも事実だしね。
聖女ちゃんの足元に寄り添い、俺は目を閉じた。
『……ふふ、温かいっ。この温もりに勝るプレゼントはありませんね。……ありがとう、猫さん。私の傍に居てくれてっ』
「にゃあ」
俺の温もりに勝るプレゼントはない、か。俺が与える温もりは唯一無二だからね。良いこと言うじゃんか、聖女ちゃん。
ふふん、俺の温もりに勝るプレゼントは───あれ? プレゼント??
あーー! ローザに買ってもらった聖女ちゃんへのお土産! 小袋に入ったまま吹き飛ばされたんだ!
お、お前何してくれとんのじゃあああ!!
聖女ちゃんの脛に、俺は猫パンチを叩き込んだ。
「みゃああぁあ」
『な、なぜ!?』
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
高評価等もありがとうございます! お陰様で、聖女ちゃんが無事に猫さんと眠れました!