聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
聖女ちゃんのいる廃教会とは、段違いに綺麗な見た目をしている何とか教会。
そこで俺は、シスター少女から献上されたごはんを食していた。
色んなごはんを食べてきたけれど、シスターに貰うごはんが一番俺の舌にあう。匂いや味が俺のカワイイ本能を刺激し、『喰らえ』と訴えかけてくるような味なのだ。
つまり、マタタビに近い。食べたことないけど。
あ、ちょっぴりごはんがこぼれちゃったぜ。でも逃がしはせん、一つ残らず喰らってやる。
カリカリと人々を幸福にする音を奏でつつ、俺は床に溢れたごはんに顔を埋めた。
「……あんた、床に落ちた食べ物まで食べなくたっていいでしょうが。器の中に沢山あるんだから」
隣にしゃがみ込んだシスター少女が、呆れた目で俺を見つめながら言う。
だって勿体ないじゃん。ごはんも俺に食べられて嬉しいと思ってる筈だし。この慈悲深さに感謝してほしいくらいだぜ。
「もっと落ち着いて、上品に食べなさいよ。誰も貴方のごはんを取ったりしないから」
どう見ても上品に食べてんだろうが。聞け、このカリカリ音を。癒されるだろう? 人がすれば不快に感じる音も、猫がすれば忽ち幸福の音色に早変わりなのさ。
「全く、世の中が色々と変化してきてるってのに、貴方はあいも変わらず能天気ね。今の世界のこととか、貴方何も知らないんじゃない? 知らなくて当然だけれども」
いや、知ってるぞ。
カワイイ俺が居なくちゃ、世界は成り立たないってことをね。お前らこそ、俺の存在がどれだけ世界を救ってきたか知らんようだな……いいか、カワイイ俺は銀河覇者なんだよ。ふふん。
「凄いドニャ……んんっ、ドヤ顔。なんにも解ってなさそうな顔ね。気が抜けるったらないわよ」
両膝を抱え込み、顔を横に傾け覗き込むみたいにシスター少女は俺のことを見つめてくる。
頭に被ったベールが鬱陶しそうだな。
「貴方……また“神聖さ”が上がってない? 何かあったのかしら」
「にゃあ」
猫の1日は、大体何かあるぞ。貴様ら人類では予測もつかん壮大な大冒険もあったりするぜ。
「元気に返事をするのはいいけど、口元に食べカスがついてるわよ」
マジでか。綺麗好きの俺としては、許されざるミスだ。
顔全体を洗うように俺は毛繕いをした。
「……ふふ、カワイイ奴」
銀河で一番知ってる。
上手に頭を撫でてくるシスターの手にもふもふしつつ、俺は鳴いた。
「にゃあ」
「んんっ……に、にゃ───」
「シスター・カロス! 吉報だ! 近々、この街を再び歌姫様がご訪問なされるとのことだ!」
「………」
あ、シスターが止まった。
そんなシスターの様子に気がつくことなく、教徒はまくし立てるように言葉を続ける。
「聖女様の“奇跡”の再臨に続き、良いことばかりだな!! エルピス教会所属の者達の数も、ここ数日で更に増した! 他の街や都市からも様々な者達がやってきている! 街全体が凄まじい勢いで潤う計画が今も進んでいるんだ! このエイコーンの街は、今後聖女様の祝福を受けし『聖なる街』として、発展しつづけることとなるだろう! これこそ正に神の天啓! やはり聖女様こそが絶対無二の存在なのだ!!」
「………」
「な、なんだ、嬉しくないのか? シスター・カロス」
「……いいえ、別に。只、体調が優れないので少し街を散歩してこようかと」
「そ、そうか」
困惑する教徒に視線を一度も寄越すこともなく、シスターは俺を抱っこして歩き始めた。
俺も連れてくのか……ごはんは食べ終わってるからいいけども。
◆◆◆◆
「矢継ぎ早に……やっぱり発言は慎重に行うべきね、うん」
「にゃあ」
そうだね、人類は発言には気をつけるべきだ。猫たる俺の怒りを買うかもしれないのだからね。
ベンチに座り、頬杖をついているシスター少女。そんなシスターへ同意の意味を込めて、俺は尻尾を弾ませた。
「少々、気を取られすぎていたわね……まさか、声の届きうる距離になるまで気が付かないだなんて。こういうのを、“不覚”っていうのかしら」
“不覚”って言うほどのことでもないと思うぞ。大体の人類は、猫の前じゃ間抜けな発言しかしないから。
特段、お前が変なワケでも気が抜けていたワケでもない。只、俺が可愛すぎるだけなのだ。
「また見当違いなことを考えてそうね、貴方は」
ジト目で俺を睨みながらも、撫で撫で技術には一切のぶれがないシスター少女。
うむうむ、お主の撫で技術は本当に賞賛に値するな。素晴らしきお手々だ。
ゴロゴロと喉を鳴らし、俺は鳴いた。
「にゃあ」
「……たまに貴方が羨ましくなるわよ、ほんと」
シスターは空を見上げると、何かを見定めるみたいに目を細めた。
なんだなんだ、君も俺に憧れちゃってるのかい? 神猫の俺が、神ファンサでもしてあげよっか?
シスター少女には、いつも美味しいごはんを献上されてるし。
コロンと寝転がり、俺はシスター少女に腹を曝け出した。
オラ、もふることを許可しよう。
「な、なによ急に……お腹を撫でてもいいってこと?」
正解だぜ。
「警戒心を少しは持ちなさいよね……いや、今更貴方に言っても意味ないだろうけど。それでも、私が“良い人”とは限らないでしょうが」
「にゃあ」
「っ、あっそ。全くっ……ふふ、にゃあ」
◆◆◆◆◆
廃教会。
聖女ちゃんが魔法で作り出した、光るカエルがぴょんぴょんと跳ねる様子を、俺は寝転がった状態のまま眺めていた。
『む、むむっ……やはり慣れない生き物を象った魔法の操作は、難しいですね』
まあ、簡単なわけないよね。このカエル操作は、動きが難しい生き物の操作をすることで、魔法の練度を高めようとする試みということは聖女ちゃんから聞いた。最初のうちから上手に出来るわけもない。
しかし、ぎこちなかった動きが徐々に洗練されてきたというか、本物のカエルみたいに飛び跳ねてきている気もするんだよね。気のせいかもしれんが。
明日、本物のカエル捕まえて確認してみよう。
『大分操作には慣れてきましたが……カエルの動きによる景色の移り変わりは、妙に慣れませんね……き、気分が悪くなっちゃいます』
酔ってんじゃん。
でも、この短時間でカエルさんの動きを的確に掴んだ操作に慣れ始めるって……やはりバカと天才は紙一重ってやつか。今のところは天才寄りだが。
『ふ、ふふっ……これで猫さんを下から見ることができます!』
うーん、やっぱバカ寄りかな。
魔法の精度を上げるよりも、こっちがメインって感じがするし。
ぴょんぴょんと跳ね、カエルは俺の足元にへとやってきた。
………。
『下から見る猫さんっ……せ、世界の真実を───』
俺は叩き潰した。
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