聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
何とか教会。
その中でも、特に静寂に包まれた場所──図書室的な所に俺はやって来ていた。
表のエリアは、最近どうにも人の数が多過ぎてゆっくりできないんだよね。教徒達の会話を聞くのは良い暇つぶしになってたんだけども、ここまで数が多くては喧しさが勝ってしまう。
俺を無断でモフモフしようとする不埒者も現れ始めたし。マジ絶許。俺が可愛すぎるから仕方のない部分もあるけれど。
キラキラと綺麗な本が並ぶ中、なんか妙なドス黒いオーラを放つ一冊の本の隣で可愛いモフモフの液体になりつつ、俺は尻尾を弾ませた。暫くの間は、此処で時間を潰そうかな。初めて来た部屋ではあるが、良い感じに温かいしね。
俺に使って貰えることを、滅びるまで感謝しなよ本棚くん。
隣の黒い本をフミフミしながら、これからの過ごし方を決定した。
む、なんだ? この本、ドス黒いオーラが浄化されて──
「!! な、なに今の反応──……て、あ、貴方……何やってんのよっ」
あ、シスター少女じゃん。こんにちはだぜ。今日もとってもいい天気だな。
此方へと早歩きでやってきたシスターへ、俺は天使の鳴き声を放った。
「にゃあ」
「“にゃあ”じゃなくってッ……なんて使い方ッ。いやそれ以前に、貴方どうやってこの部屋に入ったのよっ?」
どうやっても何も、普通に開いてたから入ったのだが……。
「鍵、閉まってたわよね? 今も閉まってたし……」
鍵? んなもん掛かってなかったぞ。俺が来た時は、完全オープンな状態だった。嘘じゃないぜ。
「……兎も角、部屋から出るわよ。本と猫なんて、考えられる限り最悪の組み合わせ。此処は大事な場所なんだから」
大事な場所ばっかだな。というか、まだ出たくないんだけど。折角見つけた落ち着けるポジションだし。一眠りくらいさせておくれよ。
本棚に爪を立て、俺は踏ん張った。
「うっ、ぐッ……力込めてんじゃないわよ! 早く出るつってんでしょうが! 貴方のために言ってるのよ!?」
「ゔー……」
「抵抗しない!」
だって動きとーないもん!
「くっ……ぐぅッ……はあ、壺のときと同じね。貴方、見た目に反して譲らないんだから……」
俺を持ち上げようとするのを止め溜息を吐くと、シスターは近くにあった椅子を持ってきて腰掛けた。
諦めたか……。
「全く……いい? 此処にある本は、全て“聖書”。貴方がいくら興味を示そうと、理解できない代物ばかり。ものすっごく高いレア物も多いのよ?」
ふーん、そっか。興味はないな。俺自身が聖なる存在なんで、一々本を読む必要などないもの。俺が気に入ったのは、このポジション、狭さだけだ。
身を捩り、ペシンと聖書を遥かに上回る聖なる尻尾で、俺は聖書を叩いた。
「!? 尻尾で叩くな! しかも、その本は聖書の中でも有名かつ人気な、『
周囲をキョロキョロと見渡し、誰もいないのを確認するとシスターはホッと息を吐いた。
「貴方は言った傍から何やってんのよ!」
「にゃあん」
「可愛く鳴いて誤魔化すな!」
勘違いするでない、これは誤魔化しじゃなくて、俺のカワイさを世界に向けて放ってあげただけだ。可愛すぎて、立ってられないんじゃないか? カワイイは、最強の攻撃手段なのさ。ふふん。
俺は喉をゴロゴロと鳴らしながらシスターをみつめた。
「喉を鳴らすタイミングが可怪しいのよっ……私が遊んであげてるとでも思っているの?」
「にゃあ」
「……ほんっっとに、気の抜ける奴」
眉間を揉むと、シスターは緩んだ表情で俺のことを両の手で優しく撫でた。
おおう、流石のテクニック。どんな不敬も、このテクニックを披露されては、許さざるを得んな。そうだ、猫を讃えよ。猫のすることに反抗など出来るわけがないのだか──
「はーい、捕獲完了! 油断したわね、このモフモフにゃんこめ!」
「!?」
力が緩んだ隙を突かれ、俺は本棚から引き剥がされた。何が起きたのですか、今。
腕の中にいる俺を揺らし、シスターは勝ち誇った目でニヤニヤと見つめてくる。
貴、貴様! 余を謀ったのか! なんたる不覚!
「私を懐柔しようだなんて、十年早いのよ! フッフーン!」
「みゃああ……」
「罪悪感を煽ったってダメ。さ、早く部屋を出るわよ」
な、なんて奴。赦さん……猫たる俺を謀るなど、言語道断。絶対に後悔させてやるからな覚悟しろぉ!
「そろそろ、美味しいごはんの時間だしね。楽しみにしてなさい」
「にゃあ」
なら赦す。
喉を鳴らし、シスターの腕の中で俺は機嫌よく鳴いた。
「……あ、しまった。最初からごはんで釣れば良かったんだ。しくったわね……」
◆◆◆◆◆◆◆
あいも変わらずボロボロな廃教会。
そんな場所でも俺は、お腹を上に向けた状態で、目を閉じリラックスしていた。
俺クラスの神になると、どんな場所でも落ち着くことが可能になる。当然、猫が苦手なモノがなければの話ではあるが。
雨は俺に近づけるんじゃねぇぞ……。
『ふむふむ……“猫がお腹を上に向けて眠る理由は、周囲を完全に信頼しているから”、ですか。そう、ですか……っ、えへへ!』
今日もいつも通り楽しそうだな、お前さんは。
ついさっき、猫の生態の一部を纏めた本を見つけた聖女ちゃん。
その本を、蝶と風魔法を駆使してずっと読み漁っており、俺の行動に当てはめては一喜一憂しまくっている。
つーか、この廃教会によくそれほど状態の良い本があったな。俺が見る限り、他の本は大方真っ黒になってるのに。
『猫さんのことを調べるのは、とても“楽しい”ですね!』
それは良かった。でもジッと見られて、行動一つ一つを本で調べられるのは中々に鬱陶しいぞ。
主に不調の兆候や、猫の感情表現を知りたいらしいが……全部正しいわけじゃねーからな? 特に俺という特別な神猫に関しては。
しかし、熱心に調べるのが悪いワケじゃない。それだけ大事だってことでもあるからな。
俺は寛大なんで、暫くの間は赦してあげるともさ。
『猫さんが寝返りを打った! これは──』
「……」
『猫さんがこっちを見て瞬きを! えっとえっと──』
「……」
『猫さんがモフモフしてる! この感情の名前は──』
「……」
『猫さんがカワイイ! 世界で一番カワイイ理由は──』
「……」
俺は無言で本の置かれている方へと歩いた。
『あ、猫さんが本の上に乗っちゃいました。な、なぜ急に? ま、まさかコレは……“構ってほしい”という感情の顕れ!? か、可愛すぎま──』
本を破壊し、一生読めなくする勢いで俺は爪研ぎをした。
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