聖女様の飼い猫   作:もふもふもふも

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32話 猫と本

 

 

 

 何とか教会。

 

 その中でも、特に静寂に包まれた場所──図書室的な所に俺はやって来ていた。

 表のエリアは、最近どうにも人の数が多過ぎてゆっくりできないんだよね。教徒達の会話を聞くのは良い暇つぶしになってたんだけども、ここまで数が多くては喧しさが勝ってしまう。

 

 俺を無断でモフモフしようとする不埒者も現れ始めたし。マジ絶許。俺が可愛すぎるから仕方のない部分もあるけれど。 

 キラキラと綺麗な本が並ぶ中、なんか妙なドス黒いオーラを放つ一冊の本の隣で可愛いモフモフの液体になりつつ、俺は尻尾を弾ませた。暫くの間は、此処で時間を潰そうかな。初めて来た部屋ではあるが、良い感じに温かいしね。

 俺に使って貰えることを、滅びるまで感謝しなよ本棚くん。

 

 隣の黒い本をフミフミしながら、これからの過ごし方を決定した。

 

 む、なんだ? この本、ドス黒いオーラが浄化されて──

 

「!! な、なに今の反応──……て、あ、貴方……何やってんのよっ」

 

 あ、シスター少女じゃん。こんにちはだぜ。今日もとってもいい天気だな。

 此方へと早歩きでやってきたシスターへ、俺は天使の鳴き声を放った。

 

「にゃあ」

 

「“にゃあ”じゃなくってッ……なんて使い方ッ。いやそれ以前に、貴方どうやってこの部屋に入ったのよっ?」

 

 どうやっても何も、普通に開いてたから入ったのだが……。

 

「鍵、閉まってたわよね? 今も閉まってたし……」

 

 鍵? んなもん掛かってなかったぞ。俺が来た時は、完全オープンな状態だった。嘘じゃないぜ。

 

「……兎も角、部屋から出るわよ。本と猫なんて、考えられる限り最悪の組み合わせ。此処は大事な場所なんだから」

 

 大事な場所ばっかだな。というか、まだ出たくないんだけど。折角見つけた落ち着けるポジションだし。一眠りくらいさせておくれよ。

 

 本棚に爪を立て、俺は踏ん張った。

 

「うっ、ぐッ……力込めてんじゃないわよ! 早く出るつってんでしょうが! 貴方のために言ってるのよ!?」

 

「ゔー……」

 

「抵抗しない!」

 

 だって動きとーないもん!

 

「くっ……ぐぅッ……はあ、壺のときと同じね。貴方、見た目に反して譲らないんだから……」

 

 俺を持ち上げようとするのを止め溜息を吐くと、シスターは近くにあった椅子を持ってきて腰掛けた。

 諦めたか……。

 

「全く……いい? 此処にある本は、全て“聖書”。貴方がいくら興味を示そうと、理解できない代物ばかり。ものすっごく高いレア物も多いのよ?」

 

 ふーん、そっか。興味はないな。俺自身が聖なる存在なんで、一々本を読む必要などないもの。俺が気に入ったのは、このポジション、狭さだけだ。 

 身を捩り、ペシンと聖書を遥かに上回る聖なる尻尾で、俺は聖書を叩いた。

 

「!? 尻尾で叩くな! しかも、その本は聖書の中でも有名かつ人気な、『聖黒(せいこく)の原典』じゃない! ああ、なんて真似を……誰も見てないわよねっ?」

 

 周囲をキョロキョロと見渡し、誰もいないのを確認するとシスターはホッと息を吐いた。

 

「貴方は言った傍から何やってんのよ!」

 

「にゃあん」

 

「可愛く鳴いて誤魔化すな!」

 

 勘違いするでない、これは誤魔化しじゃなくて、俺のカワイさを世界に向けて放ってあげただけだ。可愛すぎて、立ってられないんじゃないか? カワイイは、最強の攻撃手段なのさ。ふふん。

 俺は喉をゴロゴロと鳴らしながらシスターをみつめた。

 

「喉を鳴らすタイミングが可怪しいのよっ……私が遊んであげてるとでも思っているの?」

 

「にゃあ」

 

「……ほんっっとに、気の抜ける奴」

 

 眉間を揉むと、シスターは緩んだ表情で俺のことを両の手で優しく撫でた。

 

 おおう、流石のテクニック。どんな不敬も、このテクニックを披露されては、許さざるを得んな。そうだ、猫を讃えよ。猫のすることに反抗など出来るわけがないのだか──

 

「はーい、捕獲完了! 油断したわね、このモフモフにゃんこめ!」

 

「!?」

 

 力が緩んだ隙を突かれ、俺は本棚から引き剥がされた。何が起きたのですか、今。

 腕の中にいる俺を揺らし、シスターは勝ち誇った目でニヤニヤと見つめてくる。

 

 貴、貴様! 余を謀ったのか! なんたる不覚! 

 

「私を懐柔しようだなんて、十年早いのよ! フッフーン!」

 

「みゃああ……」

 

「罪悪感を煽ったってダメ。さ、早く部屋を出るわよ」

 

 な、なんて奴。赦さん……猫たる俺を謀るなど、言語道断。絶対に後悔させてやるからな覚悟しろぉ!

 

「そろそろ、美味しいごはんの時間だしね。楽しみにしてなさい」

 

「にゃあ」

 

 なら赦す。

 

 喉を鳴らし、シスターの腕の中で俺は機嫌よく鳴いた。

 

 

 

 

 

「……あ、しまった。最初からごはんで釣れば良かったんだ。しくったわね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 あいも変わらずボロボロな廃教会。

 

 そんな場所でも俺は、お腹を上に向けた状態で、目を閉じリラックスしていた。

 俺クラスの神になると、どんな場所でも落ち着くことが可能になる。当然、猫が苦手なモノがなければの話ではあるが。 

 

 雨は俺に近づけるんじゃねぇぞ……。

 

『ふむふむ……“猫がお腹を上に向けて眠る理由は、周囲を完全に信頼しているから”、ですか。そう、ですか……っ、えへへ!』

 

 今日もいつも通り楽しそうだな、お前さんは。

 ついさっき、猫の生態の一部を纏めた本を見つけた聖女ちゃん。

 その本を、蝶と風魔法を駆使してずっと読み漁っており、俺の行動に当てはめては一喜一憂しまくっている。

 

 つーか、この廃教会によくそれほど状態の良い本があったな。俺が見る限り、他の本は大方真っ黒になってるのに。

 

『猫さんのことを調べるのは、とても“楽しい”ですね!』

 

 それは良かった。でもジッと見られて、行動一つ一つを本で調べられるのは中々に鬱陶しいぞ。

 主に不調の兆候や、猫の感情表現を知りたいらしいが……全部正しいわけじゃねーからな? 特に俺という特別な神猫に関しては。

 しかし、熱心に調べるのが悪いワケじゃない。それだけ大事だってことでもあるからな。

 俺は寛大なんで、暫くの間は赦してあげるともさ。

 

『猫さんが寝返りを打った! これは──』

 

「……」

 

『猫さんがこっちを見て瞬きを! えっとえっと──』

 

「……」

 

『猫さんがモフモフしてる! この感情の名前は──』

 

「……」

 

『猫さんがカワイイ! 世界で一番カワイイ理由は──』

 

「……」

 

 俺は無言で本の置かれている方へと歩いた。

 

 

 

 

  

 

 

『あ、猫さんが本の上に乗っちゃいました。な、なぜ急に? ま、まさかコレは……“構ってほしい”という感情の顕れ!? か、可愛すぎま──』

 

 本を破壊し、一生読めなくする勢いで俺は爪研ぎをした。

 

 




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