聖女様の飼い猫   作:もふもふもふも

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33話 猫と変な人

 

 

 俺って、血湧き肉躍る魔物狩りを全くしてない気がする。ファンタジーでお馴染みの、魔物討伐系の“冒険”を全くやってないと言ってもいい。

 折角神の姿を獲得し、世界を統べる力を得たというのに……それって何だかすっごく勿体ないように思う。

 

 俺が狩った魔物といえば、好敵手とも呼べんちょっとデケーだけの鼠畜生が2匹だけ。全くもって張り合いがない。

 

 魔物の中には、めっちゃ強い“特殊”な奴がいると聞いたが、俺が狩る奴は全部外れも外れだ。運が悪いったらないね。

 

 最近は、森の中にも魔物が全く見当たらないし。只の優雅なお散歩に成ってしまっている。

 

 平和は好きだが、このままでは俺のカワイイ“狩猟本能”が満たされない。そんなの、許せるわけねーよなぁ。

 

 何とかせねばなるまいて。

 

 ベンチの上でグデンと溶けた体勢のまま、俺は小さく尻尾を振った。

 

 

「あ……あのときの、私のことを超好いてくれてる可愛いにゃんこだ」

 

 お、貴様は何時ぞやに出会った骸骨少女じゃん、こんにちは。今日もその目立ちまくりのお面かぶってんだな。気になっちゃうぜ。

 

 しゃがみこみ、俺のことを見つめてくる骸骨少女のお面に向かって、可愛らしい前足を伸ばした。

 

「おおっ……にゃんこが前足を……ん、握手」

 

 握手がしたいわけじゃないんだが。

 

「んふふ……癒し効果絶大。人類は、コレを毎日したほうがいい。絶対寿命が延びる」

 

 尊すぎて、寿命が一気に燃え尽きるの間違いじゃない? 人類程度じゃ、この可愛さを毎日耐えうるだけの忍耐力を持ち合わせておらんじゃろ。

 

「貴方は、人に酔ってない? 今は、人がとても増えてると思うんだけど」

 

「にゃあ」

 

 酔ってはない。

 俺の可愛さに酔いしれる人は何人も見てきたけれども。いつものことだし、問題ないね。

 

「ん、良い返事。偉い子だね」

 

 楽しげな雰囲気を纏い、骸骨少女が頭を撫でてくる。ふむ、まだたどたどしさが残っているが、前回よりかは良い感じじゃないか。

 

 悪くねぇ、この調子で励みなさいな。

 

「この手触り……撫でずにはいられない。何時間でも撫でられる。凄まじい、これがもふもふの力……」

 

 もふもふな猫の持つ魔力は、どんな手練れでも引っ掛かってしまう凶カワなトラップだからな。中毒にならんように気を付けなよ。どうせ俺の可愛さの前では人類は無力で抗えんし、言っても無駄だろうが。

 

「……貴方は、本当に平和の塊みたいな子だね。のほほんとしすぎて、狩りとかいっつも失敗してそう……ふふっ」

 

 は? してませんけど!? 

  

「あ、そうだ。貴方のために、色々猫グッズを買ったんだった。ん、一緒に遊ぼ──」

 

「あの、あの……ご、ごめんなさい、少しいいですか?」

 

「!!?」

 

 直ぐ後ろから聞こえたその声に、骸骨少女はバッと振り返った。あ、気が付いてなかったんだ。めちゃくちゃ驚いてるじゃん。

 その人、お前がしゃがみこんだ直ぐ後に近づいてきて、ずっっとそこでオドオドしてたぞ。

 解りやすすぎるくらいに行動が煩かったんで、骸骨少女も気が付いてるもんだとばかり思ってたぜ。

 

「………貴方は?」

 

「あ、えっと……わ、私は……その……お、御使いでやってきた者……ですっ」

 

「………御使い?」

 

 怪奇そうな声で言葉を繰り返す骸骨少女。どういうわけか、目の前の緑髪の少女を凄く警戒しているっぽい。

 なんでもいいけれど、ちょっとは雰囲気を緩めてあげなよ……唯でさえ変なお面被って威圧感あるんだからさ。超ビビってんじゃんその子。面倒事はごめんだぞ。

 

「え、え、えっとえっと……ひえっ」

 

「…………」

 

 怯えた声に警戒心を高めてんじゃねぇ!

 

「にゃあ」

 

「! ……ちょっとだけ態度が悪かった。怯えさせるつもりはなかったの、ごめん」

 

「あ、い、いえ……そんな、気にしないでください。私が急に話しかけてしまったのが悪いんですッ。お、驚かせてしまってごめんなさい!」

 

「………」

 

 あ、緩みかけていた警戒心が、また爆発的に上がったな。顔は見えんが、コイツ結構今の発言に思う所があったみたいだ。

 今の発言の、何に警戒したのさテメーは。普通の謝罪やろがい。

 

「そ、その……私、本当に場の空気とか読むのが苦手で……昔から、それで周囲の人達を白けさせちゃったりして……あ、えっと……だから──」

 

「何が言いたいのか全く解らない。私に用があるのであれば、簡潔に解りやすく言ってほしい」

 

「あぅ……」

 

 骸骨少女が、狼狽えるオドオド娘に更に追い討ちを掛ける。

 コイツの方が、よっぽど空気を読めてない気がするぞ。ちょっと面倒臭くなってきたし、帰ろうかな。

 

「え、えっと……まず、か、確認したいのですが……貴方が、『ムクロ』さん……で間違い……ない、ですよね?」

 

「全然違う」

 

「えぇ!?」

 

 即答だな。俺は骸骨少女の本名を知らないんで、なんとも言えんが。多分こいつがムクロだよ。

 

「だ、だってその特殊なお面は──」

 

「これは、そこら辺の屋台で買った只の掘り出しモノのお面。これを付けてると、この子が喜ぶ」

 

 俺を持ち上げ、骸骨少女は得意げになった。

 ふーん……お前、俺を隠れ蓑にするつもりなんだ? 俺は寛大なんで別に構わんが、コイツは中々に良い度胸じゃんね……それ相応の報酬がなければ、その内復讐するぞ? ドでけぇ復讐を。身につけてるお面で爪研ぎしてやるからな、覚えておけ。

 

「そ、そうだったんですか……なら、私の全部勘違い? あぁ! ほ、本当にすみません!」

 

「ん、気にしなくてもいい。誰にだって勘違いはある」

 

 勘違いじゃねぇだろ絶対。

 

「な、なら私は早く次の場所を探すことにします……お騒がせして、すみませんでした……」

 

「問題ない。……ところで、そのムクロって人を見つけたらどうするつもりだったの?」

 

「えっと……人探しをお願いしようかなって」

 

「……人探し?」

 

 困惑する骸骨少女に、オドオド娘は目を泳がせた。

 

「……こ、これ以上は貴方を巻き込むことになってしまうので……す、すみません。次に会ったときは、必ずお詫びいたします!」

 

 それだけ早口で告げると、オドオド娘は早歩きで去っていった。

 歩くのが速すぎて、最早走ってるように見えちゃうぞおい。

 そんなオドオド娘の姿を見送り、骸骨少女は一言ポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

「……変な人」

 

 いやお前が言うな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

『猫さん猫さん!』

 

「?」

 

 ん、なんだなんだどうした? 脳に響く声に反応し、俺は聖女ちゃんの方へと視線を向けた。

 

『……』

 

「……」

 

『………』

 

「………」

 

『…………』

 

「…………」

 

 いや、なんか言えよ。カワイイ俺を呼んでおいてなんのリアクションもナシとか舐めとんのか貴様は。

 

 目を僅かに細め、俺は聖女ちゃんを睨みつけた。

 

『っ……ふふ! やはりダメですね……どれだけ我慢しても、猫さんに見つめられちゃうと思わず笑ってしまいます』

 

 睨みつけられて笑うとは、面妖な奴じゃな。まあ、気持ちは解るが。

 

『ふいに意図せず勝手に溢れてしまう笑顔……これ程までに幸福を感じられる刹那も中々ありませんね……猫さん、もう一度私を見つめてくれませんか?』

 

「………」

 

 俺は丸まり、顔を伏せた。

 

『あっ……ふふ!』

 

 どっちみち笑うんかい。

 

 

 





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