聖女様の飼い猫   作:もふもふもふも

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34話 猫と嘘つき

 

  

 

 街周辺の森の中で、俺は偶然出会った銀髪エルフさんと一緒に、良い感じに狩れそうな魔物を探していた。

 

 俺の半歩後ろを付き従うように歩く銀髪エルフさん。この俺が掲げる崇高な目的を理解してくれているのだろうか。僅かに口元を緩め、ニコニコと俺を見つめている。

 

 銀髪エルフさん……お前も、俺の華麗かつ勇敢なハントが見たいんだね……よかろう、とくとその眼に焼き付けなさい。語り部になることを許可してあげようじゃないか。

 

「まさか、森の中で猫ちゃんと出会うなんてね。此処も君の散歩コースに含まれているのかい?」

 

「にゃあ」

 

 最近はね。

 しかし、やはり中々魔物の影を見つけることは出来んな。なんでいきなりこんなにも数を減らしたのさ。ローザと共に森を駆け抜いたときは、そこら中いっぱいに魔物で溢れかえってたのに。

 

「今は平穏でも、全くのゼロってワケじゃない。やはり君のような子が街の外に出るのは危ないよ。……門番の子に掛け合って、君が街の外へ出るのを止めてもらおうかな」

 

 おいバカ止めろ、余計なことをするのは許さんぞ。出るのが大変になっちゃうじゃん。

 大体、猫たる俺が魔物風情に遅れを取るなどあるわけないだろうが。

 流石に誰もがあの二匹目に狩った大鼠みたいなクソ雑魚レベルではないと思うが……それでも、俺ならやれる。この研ぎ澄ませし鋭利なカワイイ爪で、相手を屠ることが出来るはずだ。

 

「ここら辺は、道が入り組んでいて危ないからね……木の枝に躓いたり、引っ掛かったりしてないかい?」

 

「にゃあ」

 

 んなドジするワケねーだろ。余を誰と心得てんだよ貴様は。バカな人の子じゃないんだぞ。

 

 そして、木の枝に足元を取られ、俺はコロンと寝転がった。

 

「あ……だ、大丈夫?」

 

「………」

 

 うん、カワイイから問題ないかな! それに俺は最強のハンターだし!

 何事もなく俺は立ち上がり、再び歩き始めた。

 

「私が抱っこしようか? やっぱり君に此処は危険だよ……ふふっ」

 

 なんだ、そのドジっ子なカワイイ子を見る瞳は。俺のことを、ハンターとして見てないなお前?

 なんでしょうか、この屈辱感は。舐めやがって。絶対俺の方が狩りは上手いのに。一刻も早く魔物を見つけて狩り潰し、このエルフの目の色を変えなければッ。

 

「あ、ま、待って! 急にどうしたの! そんなに速く動いたら危ないよ!?」

 

 危なくないし! 神である俺に勝てる奴なんざこの世にゃいねぇんだよ!

 銀髪エルフさんの制止を無視し、勢い良く駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数秒後、謎の黒い靄を纏った塊を踏んづけてしまい、俺は立ち止まるのであった。  

 え、な、なんですか……今の変な感覚……確認しようにも、謎の黒物質は俺が踏んづけたら蒸発して消えちゃったよぅ。

 

 一体全体なぜ? 俺は悪くないけれど。

 

「あ、見つけた! そんなに急いでいたら危ないよ! さっきみたいに転んだら痛い痛いだよ?」

 

 幼児に語りかけるような言葉遣い止めてくれません? 

 

「これ以上君を一人で歩かせるのは危険だね。私が抱っこして移動しよ……うん?」

 

「そこのエルフ。此処で一体何をしているんだ」

 

 お、黒ローブを纏った謎の人物が茂みから出てきたぜ。しかも三人も。骸骨少女の個性を薄めたような外見だな、三人とも。それじゃあ只の一般的邪教徒みたいだぜ。

 

「えっと……この子と散歩中だったんだ。何か問題でもあったかい」

 

「問題? そんなものは我々が推し量れるモノじゃない。大いなる意志と力の前ではな」

 

「そ、そっか」

 

 おいおい大いなる謎発言に、銀髪エルフさん引いてんじゃん。

 急に現れて、なんなのコイツら。何でもいいけどさ、一端俺に跪いてくださいよ。世界のルールだぞ。

 

「此処で見たモノは、全て他者に喋ることを禁ずる。偉大なる『祖』の姿を目にしたのだ……その尊さを語ることができんのは、それはそれは辛く悲しいことであろう。よく理解できるとも。しかし安心しろ、その内エイコーン全てが知ることになるだろう。かの御方が灯す導きの『闇』を……な」

 

「??」

 

 困惑しかしてないじゃん。

 

「あはは……兎も角、理解できたよ。私達はこれで失礼するね」

 

 俺を抱っこし、愛想笑いを浮かべて早歩きで移動し始める銀髪エルフさん。対応が完全に面倒な相手に対するそれだ。気持ちはすげー解るが。

 

「ああ……貴様にも、『祖』の導きがあらんこと──を? おい待て貴様とまれ」

 

「うん?」

 

 黒ローブの言葉に、銀髪エルフさんは足を止めた。

 

「貴様……『祖』を何処にやった?」

 

「え……知らないけど」

 

「我々が此処を離れたのは僅か一分程度。その間、『祖』への拝謁の栄に浴したのは貴様だけだ……これでも白を切るのか?」 

 

「う、うーん……」

 

 『どうしよう、話が通じない』って顔をしてるな、銀髪エルフさん。

 思い込みの激しい奴っていうのは、大体自分が正しいと思いがちで、話は全く通じんのがスタンダードだ。相手取っても疲れるだけよ、無視して違うとこ行こうぜ。

 

「『祖』が、貴様程度の輩にどうこう出来るとは思っていない。しかし、今の『祖』はまだ羽化の……進化の真っ最中だったのだ……卵を隠す程度のことは出来るだろう。隠し場所をいえ。さすれば、不敬を赦してやる」

 

「ごめんね、本当に身に覚えがないんだ……」

 

「愚民がっ……まだ、つまらぬ虚偽を申すつもりか。ならば問おう。……貴様、聖魔法を扱うことは出来るかね?」

 

「出来ないよ」

 

 その即答に、黒ローブの一人の身体が、淡く発光した。一体どういう仕組みなんだ?

 発光を確認した銀髪エルフさんは俺と同様に困惑の表情を晒し、一方で黒ローブ達は──怒りの形相に染め上がった。

 

 わあっ……真っ黒な恰好なのに顔は真っ赤だぜ。

 

「やはり嘘かっ……感じ取れる雰囲気からして“もしや”とは思っていたが……この、不届者の屑めが! やはり『祖』を隠したのは貴様だな!!」

 

「あ、いや……別に悪意があってついたんじゃな───」

 

「もとより、聖魔法を扱える者を生かしておくわけにはいかん。お前たち、三方に散れ! この者を今ここで葬り去る!」

 

 命令と同時に、俺たちを取り囲むように三方へ跳ぶ黒ローブ達。

 中々に素早い動きだぜ。俺には遠く及ばんがな。

 

 つーか、さっきからコイツらが言っている『祖』って……さっき俺が踏んづけて、消しちゃったやつだったりするのかな。

 

 ……いや、ないか。猫の体重でちょっと踏まれただけで消え去る奴を『祖』と崇め奉るとか、どんだけコイツらは暇人だって話だよ。俺の許可なく消え去った、あの不届者の『鼠』と『蝶』と同レベじゃん。それに、そんな大事なモノであるのなら、そこらの茂みに放置してるとかありえんし。ないない絶対ない。

 

 そんなもん崇める暇があったら、本物の神である俺を信仰しとけよ、そっちの方が絶対ご利益もあるだろうに……馬鹿な奴ら。 

 

「愚かなエルフよ、これが最後のチャンスだ……『祖』の場所をいえ。言えば、苦を感じることなく、天国にへと送ってやる」

 

「いや、だから……知らないんだってば。そもそも君たちが言う『祖』にも会っていないし……あ、もしかすると猫ちゃんのことかい? それならまだ納得出来るのだけれども……」

 

「ふ、ふざけるのも大概にしろ!! 行くぞお前たち! 『闇の三幻想(さんげんそう)』!!」

 

 黒ローブの三人は全く同じ構えを取り、魔法を唱えた。

 三位一体の合体技かな? 初めてみた。どんな効果か、ちょっぴりだけ気になるぜ。

 

「これは……闇魔法か。しかも、この感覚……禁忌の類だね」

 

「その通りだ……愚民といえども、流石はエルフ。博識だな……が、もう手遅れだ。この魔法が発動した以上、貴様は指一つ動かすことは叶わん。俺たち三人の合計魔力量を、貴様が上回りでもしない限りはな」

 

 黒ローブ達は、勝ちを確信した面で俺たちにほくそ笑んでみせた。

 

「しかし、そのようなことは絶対にありえん。我々三人は魔法使いとして、一流の領域にまで達している。貴様のようなバカで傲慢なエルフの者も、これまで何人も下してきた。多少聖魔法が使えるといっても、所詮はそれだけだ。我らにはなんの意味も効力も持ちはせん。全て理解できたか? 貴様の“詰み”ということだ」

 

「同胞を…………へえ?」

 

「お前は今から指一本動かせないまま、我ら三人に蹂躙されるのだ。文字通り、死ぬほど後悔する思いを味わわせてや───ぐほぉああ!!!!?」

 

 言い終わる前に銀髪エルフさんは凄まじいスピードで近付き、気持ちよく話していた黒ローブの顔面に蹴りを叩き込んだ。

 うわ、速っ。ローザに負けず劣らずのスピードだ。エルフってこんなのばっかりなのかい?

 

「──なんだ、普通に動けるじゃないか。この嘘つきめ」

 

 腕の中にいる俺を僅かに揺らし、銀髪エルフさんは好戦的な笑みを浮かべた。

 

 持ち方が下手くそになってきてんぞ。後で猫パンチしてやる。

 

 

 

 




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