聖女様の飼い猫   作:もふもふもふも

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35話 猫と美徳

 

 

 

 黒ローブ達と銀髪エルフさんの戦いは、俺が腕の中で不機嫌になっている内に、既に決着していた。

 アレは最早“戦い”というよりも、“蹂躙”と言った方がいいかもしれん。そのくらいに見ていて差があった。

 

 最後の方とか、黒ローブ達完全に怯えてたし。獰猛な笑顔でボコボコにしてくる銀髪エルフさんのことを、『化け物』だの『“祖”よりも恐ろしい』とか散々言っていた。

 

 まあ、俺はそんなことよりもコイツの抱っこの仕方が気に食わなくて仕方なかったのだけれども。

 後ろ足が垂れ下がって、ビニョーンってなるんだよ、お前の持ち方は。嫌がる子は嫌がるんだぞ、この感覚。

 

「き、き……き、さま……一体何者だ……これ程の“力”……あ、ありえん」

 

「只の一般エルフだよ、その後に“死に損ない”って言葉が続くけどもね。私の力なんて、あの人に比べたら天と地の差だよ。君たちの方こそ、支離滅裂な発言ばかりで……一体何なんだい?」

 

「い、一般エルフ……だと? ま、また……フザケたこと……をッ。我々が、潰してきたエルフと、貴様……どこが一緒だ。このっ……嘘つきめッ」

 

「君達に言われたくないかな」

 

 左手に黒い雷を宿し、這いつくばる黒ローブたちに向けて、銀髪エルフさんは優しい微笑みを浮かべた。

 

「お、おい……これ以上、何をするつもりだ」

 

「あはは、解っていることを訊くほど、君はこの世界に退屈してないだろう? 君達には色々と訊きたいことがあるんだ。そのために、街の騎士達に引き渡す。でも、簡単に話が通じるとも思えないから……少しだけ、ビリっとしてもらうね」

 

 少しだけ……?

 うわぁ、良い笑みすぎて感服するぜ。黒ローブ達の『エルフの同胞に手を掛けた』的な発言から、完璧にスイッチが入っちゃってる。

 その良すぎる笑みに、黒ローブ達も恐れ慄いていた。

 

「っ、ヒィッ……!」

 

「ゆ、ゆるぢて……ゆるぢてくだざい!!」

 

「いやぁ、止めてぇ! 助けて、助けてお母さん!!」

 

「ふふ。そこは君達の大好きな『祖』に助けを求めなよ。大きい声で呼べば、もしかすると応えてくれるかもしれないね?」

 

 いや、どっちが悪役? 

 完全に立場逆転してんじゃん。

 黒い雷を浴びて絶叫する黒ローブ達の姿を眺めながら、俺は困惑した。

 

 そして、持ち方に我慢出来ずに、無防備な銀髪エルフさんの顎に猫パンチを叩き込んだのであった。

 

「ほらほら、もっと大きい声を出さないと、誰にも届かな───」

 

「まーゔ」

 

「ぐえっ」

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「お、お、お勤めご苦労様でございます!!」

 

「あはは……別にお勤めってワケじゃないんだけれども」

 

 失神した黒ローブ達を街の騎士達に引き渡した銀髪エルフさん。何故か、冷や汗を垂らして畏まりまくった騎士さん達の対応に苦笑を見せている。

 思ったのだが、なんかコイツ俺よりも尊敬やら畏怖やらを人々から集めてない? 俺と一緒にいるときは、大体醜態しか晒してない抱き方が下手くそなウジウジしまくりのポンコツなのに。

 

 ……そう言えば、コイツも王族だってローザが言ってたような気がする。そこら辺が影響しているのだろうか。王様なんて、唯一無二の絶対的存在である俺に比べれば何ら珍しくないモノだが。  

 

「お、おい、あの方が『戦鬼』か」

 

「ああ、間違いねぇ。十五年前、王都に侵攻し始めた魔物の軍勢を、その驚異的な力で血の海に変えた、歴史を代表する大英雄の一人だ」

 

「すっげー美人だな……魔力量もそんなに多くねぇみたいだし……思ったよりも覇気はねぇな。優しそうだし、誘ったら乗ってくんねーかな」

 

「バッカお前っ。ありゃ魔力に“制限”を掛けてんだよ! 見てくれに騙されてちゃあっという間にさっきの黒ローブ達みたいな、エゲツナイ有り様になっちまうぞ! 黒のローブよりも真っ黒にされたいのか!!」

 

「───しないけど?」

 

「ひぇっ」

 

 止めなよ、騎士達ビビってんじゃん。結構なボリュームで喋っていた奴らも奴らだが。

 口元を引くつかせる銀髪エルフさんの頬へ、俺は可愛らしい前足を伸ばした。

 

 おら和め!

 

「んっ……兎も角、私はこれで失礼するね。彼等の聴取は任せるよ」

 

「はっ! 命に代えても果たして見せます!!」

 

「いや、命に代えなくてもいいからね。でも、可能な限り聴き出して。わかった?」

 

「は、はい!!」

 

「ふふ、良い返事だね。なら、上手く出来たら前のように訓練をつけてあげるよ。今の騎士たちが、一体どれだけの力があるのか……私も知りたいからね」

 

「ひ、ひゃ、ひゃい!!」

 

 だからビビらせんなって。

 

 泣きそうになっている騎士たちに、俺は同情した。

 いつもは俺の愛くるしさに悶絶して微笑みが抑えきれてない一般的なエルフだが……やっぱ可怪しいんだね、コイツも。猫と接する人類は、大抵知能が下がってしまうものだけども。

 

 顔を近付けて俺の後頭部を嗅ごうとしてくる銀髪エルフさんの顔を押し退けながら、俺は唸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

『うーん……』 

 

「?」

 

 いつもよりも妙に真剣な気配で唸る聖女ちゃんに、俺は愛くるしい首を傾げた。 

 どしたの、話聞こか? 聞かなくても勝手に喋るだろうけれども。

 

『あ、首を傾げる猫さんカワイイ』

 

「にゃあ」

 

『鳴く猫さんもカワイイです……好き』

 

 どーも。

 もうこの子、『カワイイ』が語尾みたいになってないか。『好き』って言葉も、流れるように呟いてくるじゃん。性格と声が聖女ちゃんは良いから、人類が言われたら普通に堕ちる人とか現れそう。

 

 コレが天然タラシって奴ですか……聖女ちゃん、恐ろしい子!

 俺は言われ慣れてるんで挨拶程度にしか感じ取れんけどもね。俺がカワイイのなんて、猫が天地創造の神ってことくらいに当然の理であるし。

 

『ふふっ……世界は常に移り変わり続けるモノですが……貴方の尊さは、ずっと変わりませんね』

 

 そうだろう。

 猫がずっと尊くてカワイイのは、人類単位での歴史にて証明されている。人類が栄えた時も、衰えた時も、滅びかけた時も。いつ如何なる時代においても猫は永遠に可愛く、人々の心に寄り添い救い続けてきたのだ。

 

 ふっ、すまんね永久に変わらぬカワイさと慈悲深さで。

 崇め奉れよマジで。

 

『いえ……今の言葉にも間違いがありますね。貴方も世界同様、変わり続けています』

 

「!」

 

『──だって、見る度に猫さんはカワイさが永久に高まり続けていますから!!』

 

 否定はできんし、寧ろ肯定するけどもさ。

 

 でも、嬉しいの気持ちが顕れすぎて、俺の周囲を性懲りもなく“ぴょんぴょん”するのは良くないと思うんです。

 

『挑戦し続けるのは、人類の“美徳”ですから! えへへ、猫さんもそう思いますよね?』

 

 そうだね、挑戦するのは悪いことじゃないね。

 

 内容にもよるけど。

 

 俺は、一撃でカエルを屠った。

 

 

 

 

 




ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
高評価等もありがとうございます! 凄まじく励みになっております! おかげさまで、猫さんがビニョーンって伸びました!
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