聖女様の飼い猫   作:もふもふもふも

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36話 猫と何の話

 

 正午近くの時間。聖なる街、エイコーンを拠点とする騎士達が集う駐屯所。

 そこにある、異端かつ罪を犯した者の話を訊く尋問部屋にて。

 

 一人の精悍な顔つきの騎士と、黒いローブを身に纏った目つきの鋭い男が向かい合っていた。

 

「あー……それで? お前たちはこの街で何をやらかすつもりだったんだ?」

 

「……お前たちは愚かで、惨めで、可哀想な生き物だ。あの強すぎる“光”を信仰し、真なる“尊さ”を知らぬお前たちはな」

 

 騎士を強く睨み付け、カタカタと拳を震わせる黒ローブ。

 “屈してたまるか”という、強い意志がその瞳の色から察することができた。

 

「俺は別に、なんの宗教にも所属してないぞ」

 

「所属はしてなくとも、心は帰属している。あの強すぎる『聖女』の所にな。私には……私にはお前たち下賤の者の心を読むことなど容易いのだ」  

 

「へー。じゃ、今俺が何を考えてるかわかるか?」

 

「【何も考えていない】と言う言葉を、脳内で繰り返している……違うか?」

 

「大当たりだ。……読心魔法ってやつか? それ、難易度高くて殆どの奴が習得できないやつじゃないか。凄いな」

 

 ズタボロの黒ローブの所有する魔法に、思わず騎士は感嘆の声を上げた。

 

「『祖』が、我らに力を与えてくださったのだ……奪われることのない、揺るがざる“力”をな。あの方こそ、我々を導いてくださる真の光だ……『希望の光』そのものなのだ! 返せ、あの方を、『祖』を返せ!! そうすれば、慈悲深く苦なく殺してやる!!」

 

「そりゃ有難い話だな」

 

 完全に目のイッた黒ローブを、頬杖をつきながら騎士は見つめる。仕事上、こういう頭の可怪しい輩を相手にすることは少なくない。

 しかし、疲れるものは普通に疲れる。溜息を吐き、目尻を押さえた。

 

「悪いが、俺達は『祖』なる者の居場所には関与してない。知りたければ、『戦鬼』を……お前たちをボコボコのズタボロにした姐さんを連れてくるが、どうする?」

 

「!? や、止めろォ! 私とあの悪魔を会わせるなぁ!」

 

 ガタガタと震え、怯える黒ローブ。  

 そのあまりの怯えように『これは、よっぽど揉まれたな』っと、騎士は純粋に同情した。

 

「ま、今となってはお前らのヤろうとしてたことは、全部“未遂”ってワケだし、そいつはもういいか。勿論、素性や経歴は徹底的に調べさせてもらうけどな」

 

「───……未遂、だと?」

 

 その発言に震えがピタリと止まり、黒く沈んだ瞳で、黒ローブは騎士をまっすぐに見据えた。

 瞳の奥には、先ほどまでの“恐怖”も“つかれ”も見て取れず、あるのは底なしの“闇”であった。決して理解できない方面での覚悟。黒ローブの瞳からは、それの片鱗が宿っていた。

 

「……我々を捕まえた程度で、計画が潰れると思っているのであれば……それは大きな勘違いだ」  

 

「……はあ?」

 

「我々の存在や命など、計画とはなんの関係もない。最も『祖』が状態良く顕現出来るのがあの場所だっただけで、他の場所であろうと『祖』は芽吹くことができる。最も忠義に生きたこの私が、『祖』復活の瞬間に立ち会えないのは、なんとも許しがたい話ではあるがね。ここまで来てしまえば、それも仕方なしと諦めるしかないだろう。最後の最後に幸福に生きるのは、我々なのだ」

 

「何を言っている……?」

 

「我々が、この愚かしき聖なる街に……終止符を打つ。そうするための種は……街中に既にばら撒いた」

 

 不吉とも取れる発言。決してウソとも切り捨てられない鬼気迫る形相に、先ほどまでのどこか抜けた雰囲気を騎士は四散させる。妙な胸騒ぎがした。

 

「……なにをした、全て話せ」

 

「そうだな……もう、話しても問題ないか。どう足掻いても手遅れであるからな……くくっ」

 

 愉しげに笑い、黒ローブは祈るように両の手を組んだ。

 

「祝福の儀式の祭壇にしただけだ……この街全体を」

 

「祭壇……だと?」

 

「天の声で『祖』は……残酷な景色を望んだ。人々の恐怖が、悲しみが、絶望が。負の感情が高まれば高まるほど、自身の復活するエネルギーが増幅すると仰られたのだ」

 

 恍惚とした顔で、黒ローブは天を見た。

 

「だから、我々はそれを実現することにした」

 

「! まさかッ!」

 

 嫌な予感を膨らませて、騎士は勢い良く立ち上がった。

 

「ははは! 喜べ!! お前たちエイコーンの民は、『祖』復活のための生贄に選ばれた! この街は、間もなく火の海に変貌を遂げる!! 時が来れば発動するタイプの爆発魔法を、街全体に仕掛けさせてもらったぞ!」

 

「っ! 今すぐ阻止を──」

 

「無駄だぁ! 正午には一斉爆発するようになっている! もう10分もないぞ! 更に仕掛けた爆発魔法の数は147個! 一つ一つの破壊力も高いうえに、『祖』より賜った幻影魔法で、絶対に見つからないようにカモフラージュもしてある! 神の御業でもなくては、絶対に見つけられないし、解陣対応もできん! お前たちに勝ち目はない、大人しく火を燃え上がらせる薪となっておけ!!」

 

「関係ない!」

 

「偉大なる『祖』よ! 我等に祝福を!!」

 

 狂ったように嗤う黒ローブを無視し、騎士は走り出した。あの黒ローブの言葉が正しければ、確かに間に合う可能性は0である。しかし、そんなことを言い訳にして、生きるのを諦めろと……嘆き潰れろと、“あの背中”から教わったことなど一度たりともない。

 

 偉大なる聖女が護ってくれた、この街を救わなくては──人々を護らなくては! その一心で、騎士は駐屯所にいる他の騎士達に向けて、叫び声を上げた。

 

「総員、聞け! これより緊急ミッションを開始する! 死にたくない奴は、俺の命に従え!! もうすぐ此処は、焦土と化す!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆   

 

『うーん……』

 

 聖女ちゃんは、昨日に引き続きまだ唸っていた。

 ほんと、どうしたのさ。そんなにうんうん唸られたら気になっちゃうじゃん。尻尾を弾ませ、俺は聖女ちゃんの方を見つめた。

 

『やはり、細かな魔法操作はまだまだ出来ませんね……遠隔ともなれば、尚のことです。この前のように、大雑把に処理できれば楽なのですが』

 

「?」

 

 なんの話だい? 

 

『しかし、良い練習にはなりますね。ふふ、こうした召喚陣の解陣作業を丁寧にするのも、何だか久し振りです。いつもは大体陣なんて気にせずに、纏めて浄化しちゃってますから』  

 

「??」

 

 だから、なんの話だい?

 

「にゃあ」

 

『猫さん……後少しだけ待っていてくださいね! 作業が終われば、また一緒に遊びましょう!』

 

 ねーねーなんの話?

 

『えっと……今ので、同時に46個解いたから……合計で147個、でしょうか? 見落としもないみたいですし……ふふ、これで今日の練習終了です! 一緒に遊びましょう、猫さん!』

 

 なんの話かって聞いてんだろ!

 

 聖女ちゃんの肩によじ登り、俺は聖女ちゃんの頬に猫パンチを叩き込んだ。

 




ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
高評価等もありがとうございます! 凄まじく励みになっております!

猫さんが獲物を仕留め、聖女ちゃんが後処理をする。一般的な家庭ですね()
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