聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
気持ちの良い日の光が降り注ぐお昼下がり。
俺は、買い出し中だったのであろうシスター少女と遭遇し、その道中を共にのんびりと歩いていた。
「こういう、“一人のんびりと、ゆっくり買い物をして過ごしたいな”と思ったときに限って、貴方のような落ち着きのない子と出会うのよね……ああ、また問題を起こさないか心配で仕方ない」
俺が問題を凄く起こす奴みたいな言い方してくるじゃん。心外にも程がある。俺ほど落ち着きのある寛容な神猫も居ないんだぞ。
お前の前でも俺は常に優雅でカワイくて、礼儀正しい天使だったろうが。忘れたなんて言わせない、絶対訂正させてやるっ。
シスター少女の足元で俺は必死の抗議を行った。
「あ、こら。足元でじゃれつくのを止めなさい。誤って踏んづけちゃったら痛いのは貴方なのよ? ほんと、言った傍から貴方は……」
おい、『やれやれ仕方がないなぁ』感を出すな。これはじゃれついているワケじゃあなんいだぜ。
お前の認識を正すための神聖なる行動と理解しろ。俺はコロンと寝転がり、更なる追い討ちを仕掛けた。
「……貴方、割とどんな場所でもコロコロと寝転がるのに、どうしてそんなにも『純白』なのかしらね。いくら綺麗好きの猫でも、普通は汚れが目に見えて残るモノなのに。飼い主の人が洗ってくれているのは勿論あるでしょうけれど……でも、これは」
シスターはしゃがみ、目を細めて俺の毛をワシャワシャと撫で回した。
おおう、相変わらず良すぎるテクニックだ。この技術に免じて、俺への不敬は赦してしんぜよう。ありがたく思え。
「“神聖さ”もまた上がってるようだし……もう、ここまで来ちゃったら貴方の飼い主に会っておいた方がいいかもしれないわね」
「にゃあ」
俺に飼い主はいないぞ。
一番多くの時間を過ごしてるってことなら、断トツで聖女ちゃんになるわけだけども……どっちかと言うと、俺の方が飼い主な気がするな。どう考えても聖女ちゃんの面倒を、俺が見てあげてるもん。
「ま、今は買い物を楽しむのが優先だけどね」
そうか、存分に楽しみなよ。
お腹をモフるシスター少女の手を捕まえて、俺は鳴いた。
「にゃあ」
「……そういうところよ」
どういうところやねん。
◆◆◆◆
現在、シスター少女と街を散策中のカワイイ俺は、先頭を切るカタチでテテッと歩いていた。
「ちょっと! 貴方どこに行くつもりよっ」
「にゃあ」
知らぬ。風が赴くままに俺は歩いているだけなのだからな。目的地なんて特に設定してないんだよ。
けれど、猫に連れられて何処か知らぬ場所を歩くのって、すっごく幸せだろう? 俺には解る、だって人類っていつもそうなんだもの。感謝してくださいね、人の子よ。
「路地裏に入っちゃったし……なんで普通に買い物をする予定が、こんな場所に来てんのよ私は……」
良いじゃん、路地裏。俺は色んな発見があって好きだぜ。
時にはとんでもないお宝やトラブルがあったりするし、案外冒険のやりがいがあるんだぞ。
「……薄暗い場所だと尚更目立つわね、貴方の“純白”は。変な人達のたむろ場になっているとも限らないし、さっさと行くわよ」
「──もし、そこの綺麗なお嬢さん」
「みゃおーん、なーお」
「駄々をこねるんじゃないわよ。こんな所いたって何の意味もないでしょうが。ほら、行くのよっ」
「……ゔー」
「あんた、またしょうもない抵抗をッ」
「おい、シスター服を着た娘っ子」
「ん?」
む、誰だ貴様。
如何にもって感じの怪しい老婆に呼ばれて、シスターは足を止めた。
「やっていかんか、手相占い」
「はあ? 手相占い?」
ほう、手相占いとな。この世界でもあるんだな、面白そうじゃん。
老婆の方に近寄り、俺はワクワクを表すように尻尾を弾ませた。
「ヒヒ、そっちの猫ちゃんは乗り気のようだねぇ……どうだい、あんたは」
「いや、私あんましそういうの信用してないんで……貴方、明らかに胡散臭いし」
「ほう、言うじゃないか。なら尚の事試して行ってみな。今回は初回サービスってことでお代は取らないから。あんたみたいな生意気な子をワカラせてやるのも、嫌いじゃないんだよ」
「え、ワカラ……えー……」
占い老婆の言いように、シスターは困惑した。
随分と自信ありげな奴だぜ……ここは受けてみようよシスター。無料ならこっちが失うものなんてないだろう。
ほら、やろやろ!
「うっ、そんな期待する瞳でジッと見つめてきてんじゃないわよ……しょうがないわね」
老婆の対面の椅子に座り、シスターはソッと手を差し出した。シスターの老婆を見つめる目が、完全に怪しい人を見るソレだ。間違ってないんだけどもね。
「ふむふむ……あんた、エルピス教会に所属してるね?」
「まあ、はい……見たまんまとは思うけど」
「む、役職は?」
「特に。只の一般教徒よ」
シスターの言葉に、何故か占い老婆は顔を顰めた。
「言葉に嘘がないのは解る。けど可怪しいね……あんたほどの才能があれば今すぐにでも──いや、そこら辺はあんたも解っててやってるようだねぇ……なら、私が言うことは何もないね」
「………はあ?」
シスターよ、『この婆さんは何を言っているんだ、ボケてんのか?』って顔で占い老婆を見てやるなよ。あからさますぎんぞ。
「そして、あんたは……他人には絶対に言えない秘密があるね?」
「……そんなもの、誰にだってあるものでしょ」
「確かにそうだ。けど、あんたのはどうやらとんでもなく“大きいこと”らしい。気安く触れると、この私でも焼かれてしまうくらいにね」
「……もう、帰っていいかしら」
手を引っ込めて、占い老婆のことを睨み付けるシスター少女。怪しすぎて付き合いきれないって感じかな。俺は面白いんで、もうちょい聞いていたいんだが。
「まあ、待ちな。まだあんたのこれからの吉凶を占ってないじゃないか」
「貴方に関わった時点で、紛れもなく“凶”よ。言わせないでくれる?」
切れ味強いなおい。
「ヒヒ、嫌われたもんだね……なら、聞き流してもいい。私が勝手に占うから」
シスターの言葉を意にも介さず、怪しげに占い老婆は笑った。
「あんたの運命は、これより『苦凶』に入る。どうしようもなく、強大な苦凶にね。あんたがいくら過去を覆い隠そうとも、悪魔はあんたを逃がしはしない、絶対に。……辛く険しい運命を乗り越えるために必要なモノは、“今”を捨てる覚悟。そして、カワイイ白猫だ。ヒヒ、精々気張りな」
「…………」
よく分からんかったが、最後のだけはわかる。カワイイ白猫って絶対俺じゃん!
やっぱり俺が運命を乗り越える最強のピースってことだね、知ってた。
結果を聞くなりシスターは椅子から立ち上がり、俺を連れてその場を立ち去ろうとした。
「ほら、もうここに用はないでしょ。行くわよ」
「ゔー……」
「ちょっと! 占いは受けてやったじゃないっ。なんでまだ粘るのよ!」
ふざけるなっ。
俺が、まだこの俺が受けてないでしょうが!! 俺だって、手相占い受けてみたいんだよ! お前が受けてる間も、ずっと羨ましかったんだからな! お前ばっかり楽しそうなことしてズルい!
シスターが座っていた椅子に跳び乗り、俺は占い老婆に前足を差し出した。
さあ、老婆よ……我が運命を占ってみせよ!
「なんだ、握手かい? ヒヒ、良い肉球してるねぇ……」
俺は老婆の手にパンチを放った。
◆◆◆◆◆
俺は、特に意味もなく聖女ちゃんの左側の何もない場所をジッと見つめていた。
『どうかしたのですか、猫さん。何もない場所を見つめたりして……はっ。ひょっとして “何か”いるのですか? 私でも感知できない、得体の知れない“何か”が』
いや、いないぞ。
『私の猫さんが安心できないのは困ってしまいます。聖魔法で、猫さんの視線の先にいる所を吹き飛ばしてしまいましょうか……』
過剰すぎるんだよ、お前は。
俺は、聖女ちゃんの足元に寝転がり、尻尾でパタンパタンと叩いた。
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