聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
気分が安らぐお昼。るんるんと愉しげな気分を纏った聖女ちゃんの宣言を、俺は受け取っていた。
『ふふ、猫さん。今日は全身全霊で遊びましょう!』
「にゃあ」
この言葉、一体聞くのは何回目になるであろうか。聖女ちゃん、俺が飽きるまで延々と遊びに付き合ってくれるんだよな……。
一回試しにどれくらいで聖女ちゃんが飽きるのかと思って、ずっと遊んでみたことがあるが……この子、テンションが全然下がらないのだ。
俺が跳んだら『凄い!』と喜び、俺がコロンと寝転がれば、『とっても偉いです!』と初見の反応みたいに嬉しそうに言う。いつも目の前で寝転がってあげてんだろうがよ……。
表情は動かないが、幸福全開元気いっぱい! なのが丸わかりなのは凄いぜ、ほんと。普通は感情に関係なく疲れが見えてくるのが人類の常だろうに。
『見てください猫さん! “
聖女ちゃんの周囲に、水で形成された幾つかの球体が出現し、ぐるぐると回り始めた。ざっと見ただけで20個くらいはあるかな。はえ~凄い。
『猫さんのお蔭で、魔力コントロールの精度も漸く戻ってきました……もう2度と、魔力操作を乱して猫さんに迷惑を掛けるなんて愚行も犯しません。これを高めていけば、あの複雑な“呪い”を解くこともできるでしょう。猫さんを抱きしめて、思いきり吸うことのできる日は、必ず訪れます。楽しみで仕方ないですね……えへへっ』
声色がニマニマしてんな。聖女ちゃんのモチベ、大体……つーか全部俺だもんな。そりゃ嬉しくもなるか。絶対吸わせんけど。
『これ程までに楽しみと感じ、幸福と期待感に胸がいっぱいになったのは生まれて初めてです。……猫さんと出会わなければ、このような感情とは、一生無縁でした』
そうか、なら俺と出会えた運命を死ぬ気で感謝……は本当にしそうなんでダメだな。程よく感謝しろよな。
「にゃあ」
『ふふっ……ありがとう、猫さんも楽しみなんですね!』
言ってないよ。
いやまぁ楽しみか楽しみじゃないかと言われれば、結構楽しみな部類ではあるけれどもさ。解呪後? の聖女ちゃんの変化がどうなるのかは気になるし。
『猫さん、視線が水に釘付けです……ふふ、可愛い』
だってそんなにぐるぐる回ってたら気になるでしょうよ。魔力コントロールが上達したっていうのは本当らしいね、ちょっぴり……いや、かなり感激だ。俺が触れるだけで魔法を暴発させる聖女ちゃんは、もういないんだね。
何故か少し淋しい気持ちもあるが、聖女ちゃんの成長であれば俺も純粋に祝福できる。
偉いね……聖女ちゃん。
『猫さんのために一生懸命頑張った甲斐がありますっ』
「にゃあ」
『……“水球”を優しい猫さんが喜んでくれるのは、解っていました。猫さんが何が好きで、何が嫌なのか、私には全てお見通しですからね!』
ドヤァ……て擬音が付きそうな雰囲気だな。
いつも大体見当違いな方面へと突っ走り、何にも見通せて居ないだろうに貴様は。なのによくもまぁそこまで自信満々な発言を言えるものである。
頑張っているのは事実ではあるから、見逃してはあげるが……ほんと、お前特別なんだぞ。ここまでの慈悲深さを見せるのはさ。
聖女ちゃんの方を見つめ、俺は寛大に尻尾を弾ませた。
『えへへ……自信満々なのにどこか蕩けた顔をする猫さん天使すぎますっ』
いや蕩けた顔してるのお前やろがい! 正確にはしてないけど!
調子に乗ってる聖女ちゃんの足元へと近付き、俺は頭突きを放った。
『あ、ふふ……甘えたいのですか? 猫さんの頭突き……世界で一番破壊力のある甘えですっ……一生浴びていたいッ』
「………」
結構な力と敵意を込めてんですけど……この子無敵ですか?
『私はこの世で最も幸福な者ですね……あ、しまっ、魔力コントロールが!』
は? おまえさっき、もう2度としないって───
そして、形を失った水球が一斉に周囲に雨となって降り注いだ。
うん……このポンコツ、やっぱり全然成長してねーな。100連続猫パンチの刑で決定。
◆◆◆
『今日の私は、とことん猫さんに付き合います! さあ、どんどん甘えてきてください!』
今日“も”の間違いだろ。
今日も今日とて元気な聖女ちゃん。さっきまであんなに魔法練習に打ち込んでいたのに、なんで今活動を開始したかのように振る舞えるんですか?
無尽蔵すぎる体力オバケの聖女ちゃんを、俺は引いた目で見つめた。
『? 眠いのですか、猫さん』
違います。
『猫さんは、いつも硬い床か、私の隣で寝ていますからね。睡眠が浅いのかもしれません』
「にゃあ」
そんなことないけど。
フカフカも良いが、硬い場所には硬い場所の良い所がある。猫特有の感じ方とは思うが。
『……簡単な魔法で、身体の解れや疲れは全て取ってあげているつもりでしたが……自惚れていたようです。ごめんなさい、猫さんっ』
え、そうだったんか……。
この廃教会内で眠ると妙に身体の調子が良くなるなぁとは感じていたが、聖女ちゃんの仕業だったのか。知らなかったぜ。
てっきり俺の無限のカワイさに固有の力があるのだとばかり……。
『次からは、現在の私が使える最大クラスの聖魔法で、猫さんの身体を保護してから安眠をお届けするようにしますね!』
「にゃあ」
嫌な予感しかしないんで止めてください。
『本当は、どうにかしてお布団でも用意するのが良いのでしょうが……今の私では、そのような偉業を達成することはできません。何もできない至らない身で……本当にごめんなさいッ』
いやぁ、何もできなくはないけどさ。聖女ちゃんの使う魔法、俺が今まで見てきた者の中でもトップクラスに凄いし。俺が関わらなければだけど。
勝手に落ち込みまくる聖女ちゃんの足元にいき、俺は下から聖女ちゃんに癒しの鳴き声を放った。
おら立ち直れ!!
「にゃあん」
『猫さん……そうですよね。落ち込んでいる暇なんかありません。今の私ができることを精一杯すること。それだけが、今の私に赦された唯一のことなんですから。見ててくださいね、猫さん!』
その意気だぜ、頑張りなよ聖女ちゃん! 退屈かつ、起きている間は見ておいてあげるよ!
これは餞別だ、受け取りなさい。
キラキラとしたオーラを放つ聖女ちゃんの肩によじ登り、ゴロゴロ音を耳元で鳴らしてあげた。
『わ……えへへっ』
更にもう一発!
俺は聖女ちゃんの頬に肉球を押し付け、即死クラスのモフモフをプレゼントした。よしこれで頑張れるな!!
『か、かわいすぎます─────ごふっ』
そして、聖女ちゃんは死んだ。
この人でなし!!
あ、神だからいいのか……。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
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