聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
夜。
人の気配がなくなった公園。そのベンチに重苦しい雰囲気を纏った深緑を彷彿とさせる緑髪が特徴的な少女と、海のような青い髪と瞳をした男が腰掛けていた。
「じゃあ全く見つからなかったワケだな?」
「………は、はぃ」
男の問いに、少女──プレンフィルは弱々しく頷く。プルプルと震える姿は、小動物を彷彿とさせた。
「あー、責めてるワケじゃねぇよ。嬢ちゃん程の人間が見つけられないなら、そりゃ誰であろうと無理だ。嬢ちゃんは俺と違って仕事をサボるような性格じゃないしな。ここまで姿を上手く隠し続ける
足を組み、男は震えるプレンフィルに苦笑いを見せる。
隠密能力や戦闘スキルは『英雄級』に匹敵するとは思えないプレンフィルの挙動に、思わず緊張感が途切れてしまったのだ。
「まあ、流石は世界で名を轟かせる『
「……うぅ、面目ないです。折角皆さん期待してくださっていたのにっ」
「だから気にするなよ。任務サボってる俺の立つ瀬がないだろうが」
「……えっと、任務はちゃんとしましょう?」
プレンフィルのいたって普通の正論に、男は眉を顰めた。
「気分が乗らねえんだよなぁ。やりたくもない仕事をやらなきゃならないってのは、本当に心身に悪いぜ。俺の願いを知ってても奴ら、それを汲むつもりなんか欠片ほどもありゃしねぇ」
「……でも、やらないと叱られちゃいます」
「アンタなら、喧しい上の連中なんか一発粉砕できるだろ。こう……ガツンとやっちまえばいいんだよ。『臆病者は黙って私に従え!』つってよ」
「そ、そ、そんな恐ろしい真似できませんよ!!」
少女のワタワタと手と首を横に振る姿に、カラカラと男は笑う。
あまりにも焦りを隠していない行動は見ていて全く飽きず、退屈な任務を一瞬であろうと忘れさせたのだ。
「まあ胸糞悪い仕事ではあったが、こっちにも義理ってもんがある。ちゃんと最低限はこなしてやったから心配すんな。その後がどうなるのかなんて考えたくもねぇけどな」
「えっ、もう任務達成してたんですか!? す、凄い……」
「ありがとな。だが流石に2週間もあったらこんな任務誰でもできるだろうよ」
「うっ……未だに任務達成できてなくてすみませんッ……本当に、申し訳ありませんっっ」
「だから責めたわけじゃねーってば」
再び項垂れて、落ち込むプレンフィル。扱いづらいその生態に、男は眉間を揉んだ。
「でも……本当に凄いです。貴方は私のような影の薄さもない陽側の代表枠なのに……あの任務を達成するなんて」
「別に俺は陽側の代表枠じゃねぇよ。つかなんだよ陽側の代表って。エントリーする奴いるのかよそれ」
スルーをするつもりが、気になるポイントが多い発言に思わず少女の方へと男は向き直り、ツッコミを入れた。
「それに、本当に大したことねぇよ。エルピス教会の奴ら、今は“てんやわんや”って感じ丸出しだったからな。アレなら俺じゃなくても簡単に侵入できる。見つかることをちっとばかし期待してたんだがな……張り合いがねーよ、たくっ」
「は、張り合わないでくださいよぅ」
「はは、そりゃ無理な話だ」
抑えきれない欲を表した獰猛な笑み。男の真っすぐな意志をプレンフィルは直視できず、視線を逸らす。
羨ましくもあるが、今のプレンフィルにその『渇望』は眩しすぎた。
「嬢ちゃんの方は、どうするんだ? “ムクロ”が見つからない以上、『本命』を捕らえることなんて不可能じゃねぇか」
「……うっ、ど、どうすればいいのでしょうか?」
「へ、俺がわかると思うか?」
「…………」
「なんか言え」
深刻そうな顔をするプレンフィル。思ってもみない本気の反応が、男の心を若干傷つけた。
「……兎に角、俺に任された任務も、嬢ちゃんに任された任務も全く割に合わない。気にすることはねぇよ、面白さも皆無だしな。そもそも、“ムクロ”に運良く頼めても、『本命』が見つかる可能性は1割程度って話だったろ。上の連中もダメ元で言ったんだろうし、臆病者共の言葉に一々耳を傾ける必要なんざねーさ」
「………」
「ま、ボチボチやろうや。正直な話、俺としてもそっちの方が有難いんでな。俺は端から本命じゃなく激難任務の『予備』狙いだったんだ」
「え、そうだったんですか……?」
男の断言に顔を上げ、プレンフィルは目を見開いた。
「応とも。いくら難易度が高かろうが、影も形も掴めねぇ『本命』を延々と探し続けるより、所在が割れている『予備』を仕留める方が余程有意義ってもんだろ。回りくどい作戦は柄じゃねえからよ……そっちのが絶対面白えし」
「お、面白いって……そ、そんな理由で危ない方に舵を切らないでくださいよぅ」
「へ、悪いが性分だ、諦めてくれ。このままじゃ消化不良でいけねえ。『予備』の対象──“カルミナ”ももうすぐこの街へとやって来る。嬢ちゃんも、ずっと引きずってたら心身に悪いぜ? 折角の宴だ、楽しく行こうや」
「それは……そうかもしれませんが……でも、やっぱり支障はある筈です。私がもっと優秀なら──」
「あー、そういうウジウジしたのはナシだ。ここからは戦果で語ろうぜ」
強引に話を打ち切りベンチから立ち上がると、男は空を見上げた。釣られるように、プレンフィルも空を見る。輝く星空は何処までも広がり、二人の行く道を美しく照らしていた。
「こんなくだらねぇ命令に従ったんだ、相応の元は取らせてもらうさ。無理矢理にでもな。邪魔をするようなら、上の連中であろうと容赦なくブッ飛ばす。嬢ちゃんもそうしな」
「!? す、するわけないじゃないですか! そんな極悪非道なこと!」
「ははは! 嬢ちゃんの反応はやっぱ面白えな!」
狼狽えまくるプレンフィルを見つめ、男は再び笑った。
◆◆◆◆◆◆
廃教会の古びた机の上で、俺は溶けていた。
『やはり、猫さんは液体だったのですね……』
そんな世界一カワイイ液体になった俺を見つめて、感慨深そうに聖女ちゃんが呟く。
この姿、そこまで感動する要素あったであろうか? 誰目線の発言ですかねそれ。
『昔は、あんなにも可愛かった猫さんが……今では更に可愛くなってしまって……世界はこれほどまでに可愛かったでしょうか……』
ちょっと何言ってるのか解らないですね。いやホントに解らねーな……何言ってんだコイツ?
可愛いに脳が支配されちゃったのか? 語尾だけじゃなく全部がカワイイになっちゃってんぞ。聖女ちゃんの場合、いっそコレが普通なのかも知れないが……それはそれで心配だな。俺のカワイさは人を落すところまで落としちゃうリスクがあるからなぁ。
この子、善性の塊と言っても過言ではないが、天然ポンコツ要素が大半を占めてるし、戻ってこれなくなる可能性が全然ある。
頭に衝撃を与えて正気に戻ってもらわねばっ。
聖女ちゃんの肩までよじ登り、俺は聖女ちゃんの頭にポンと前足を乗せた。
元に戻れ!!
『カワイイは、猫さんだったのですね──……』
更に悪化した。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
高評価等もありがとうございます! おかげさまで、聖女ちゃんが正気になりました!