聖女様の飼い猫   作:もふもふもふも

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41話 猫と大丈夫

 

 冒険者ギルドにある、職員専用の談話室。

 

 そこに用意された俺専用のお布団の上に寝転がりつつ、俺は目を爛々と輝かせる若いギルド職員の相手をしてあげていた。

 

 お前さん、見ねぇ顔だな……新入りか? もしそうなら挨拶として、今すぐに頭を垂れて蹲え。神である俺に礼を尽くし励むのは、この世の法みたいなもんなんでな。

 

「こ、この子がエーレ先輩の言っていた、とってもカワイイ白猫ちゃんですね! ほ、本当に超カワイイじゃないですかぁ! エーレ先輩、この子超カワイイですよ!!」 

 

「わかった、わかったから……音量をもっと下げて。白猫さんがビックリしちゃうでしょ?」

 

 オッス、OL娘もこんにちはだぜ。この娘、お前の後輩か? 随分と元気いっぱいな奴だな。神猫的には、そういう明るい子は嫌いじゃないぞ。許容限度はもちろんあるが……今回は全然セーフである。俺のカワイさに興奮しちゃうのは、最早人類という種であれば回避不可なイベントだし。

 

 その元気な反応を以てして不敬への免罪としよう。感謝しなさい。

 

「ズルいなぁ、エーレ先輩も、皆も。私が王都に出張している間に、こんなにカワイイ子を迎え入れてただなんて……時間をすっごく無駄にした気分です」

 

「無駄って……王都のギルドに推薦を貰うことは、とても名誉あることなんだよ。それだけ仕事振りが認められてるってことだし、王都勤めになれば、今のお給金の何倍も──」

 

「あーあー! そういう話は聞きたくありません! 先輩と話していると心がささくれちゃうんですよ! 何度も言っていますが私、この街を離れるつもりありませんし!」

 

 OL娘の声を遮り、俺の顔を両の手でもふもふと撫でてくる後輩さん。

 撫で技術はまあまあかな……銀髪エルフさんやフォレよりは上程度ってところか。OL娘やシスター少女の足元にも及ばん程度のレベルだけどもね。これからの発展に期待だな。

 

「第一、今となってはこの街の方が余程大変じゃないですか。絶対人手不足でしょ、今。今日久しぶりに働いてみて分かりましたよ。冒険者の数、明らかに増えてますよね」

 

「………それは」

 

「王都でも持ちきりでしたよ。“聖女様の祝福を最も受けし、聖なる街”だって。それ自体は私も嬉しく思いますけど……色々とイベントが発生しすぎです。今までも、そしてこれからも。先輩、大分ストレス溜まってるんじゃないですか?」

 

「ストレスの方は大丈夫。白猫さんをモフれば、どれだけしんどくても大抵何とかなるから」

 

「え? あ、えっと……あ、あはは。そうですかぁ……」

 

 後輩さんよ、そんな“コイツ、本格的にヤバくなってないか”みたいな引いた目で見つめてやるなよ。 

 OL娘の言ってることは何ら間違ってないんだからさ。まあ、あの完全にキマった目で見られるのが怖いのは分からんでもないが。

 

 ちょっと、疲れ切った彼女が哀れすぎて癒しの声や甘えをくれてやっただけなんだが……サービスしすぎたかもしれぬな。

 

「本当に大丈夫だよ。虚勢とかそういうんじゃなくてさ……私だって耐えきれないくらい嫌になったら、お仕事を休むくらいの理性はあるもの」

 

「……本当にそうですか?」

 

「うん。過去の私なら確実にそうだったろうね。けど、今は不思議と気分がいいんだ。心も身体も絶好調に近い……ううん、絶好調以上なの。何だか笑っちゃうよね」

 

「…………」

 

 “いや、笑えねぇよ”って表情を晒す後輩さん。

 言ってることが完全にキマっちゃった奴の発言だし仕方ないね。

 

「ま、まあエーレ先輩が大丈夫なら私からはこれ以上何も言いませんけど……ヤバくなったら本当に休んでくださいよ? エーレ先輩優しいし優秀だから、人一倍誰かのフォローをしちゃうし、仕事も多く熟してるんですから」

 

「君に“優秀”って言われるの、煽りみたいに聞こえるね。イラッとしちゃった……ねえ、引っ叩いてもいい?」

 

「え、そこにキレるんですか!?」

 

 おい、驚いたのは解るが、俺の顔をムギュッとするのを止めろ。前が見えないじゃねぇか。

 顔を振り、俺は後輩さんのお手々を強引に振り払った。

 

「あっ……猫ちゃんに超嫌がられた」

 

「強引に扱うからだよ。白猫さんは繊細なんだから、もっと割れ物を扱うみたいに丁寧に接しないと」

 

「す、すみません……」

 

 敬意さえ示せば、別にそれほど丁寧に扱う必要はないが……俺、そんな繊細じゃねーし。余は大らかかつ寛大な神猫なのさ。

 否定するのも面倒だから、黙っておくけれども。

 

「あ、そういえば先輩。今度開催される『聖譚祭(せいたんさい)』に関する資料が届いたんですけど……読みました?」

 

「え? ああ……まだ読んでないね。新人教育や、此処に新しく入ってきた冒険者様方の対応に追われていたから。何か問題でもあったの?」

 

「いえ、そういうワケじゃないんですけど……記念すべき第1回目の開催。最近のこの街の知名度やイメージ大幅向上で、各国に注目されまくりとのことで……とんでもない規模のお祭りになりそうなんですよね。……冒険者ギルドの方にも寄る方が多いらしく、その……超忙しくなるかと」

 

「へえ……そう………分かりきってたことではあるけどもね、ふふ。何も問題ないよ、今の私は絶好調だから」

 

「そ、そうですか……なら良かったです」

 

 OL娘の笑みに、後輩さんもホッと息を吐いている。

 

「うん、問題ない問題ない。あはははは……は、はああああああ」

 

「溜息ふっっか」

 

「え、どこが? 全然深くないけど」

 

「いや、無理ありますって……本当に大丈夫ですか?」  

 

「うん、問題ないよぅ……はは……はああああああ」

 

「だから深いですって!!」

 

 うむ、いつも通りのOL娘の溜息だな。元気そうで何よりだぜ。『聖譚祭』? が何なのかはよくわからないが、余程のことのようだ。

 お前はいつも頑張ってるし、せめてもの餞別をくれてやる。俺をモフって活力に繋げるが良い。

 

 OL娘の足元に擦り寄り、俺は聖なる癒しの声を放った。

 

 おら、癒せ!!

 

「にゃあ」

 

「──私、聖譚祭が終わったら、窒息するくらいまで思いきり白猫さんを吸い込むんだ……」

 

「何言ってるんですか先輩!? 頭と心は大丈夫ですか!!」

 

 大丈夫じゃないから安心しろ。聖女ちゃんと同じようなこと言いやがって。

 

 この後、めっちゃ2人を癒した。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 聖女ちゃんが水魔法の練習をしている傍ら、俺は優雅に寝転がっていた。

 

『あの……猫さん。あまりそのっ……カワイイ行動をするのは抑えてくださいませんかッ。また、魔力操作が乱れてしまいますっ』

 

 別にそんなつもりはないんだけども。

 まあ、猫は何をしてもカワイイからしょうがないか……また水濡れになるわけにもいかんからな、大人しく言うことを聞いてあげよう。

 

 俺はノソノソと身体を起こし、グッと身体を伸ばして欠伸をした。

 

『────ゔ』

 

 瞬間、崩壊した水が降り注いだ。

 

 いい加減にしろよ……ポンコツ聖女オメー。

 




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