聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
無能かつ不敬極まりない蛇畜生を仕留めたその翌日。
カワイイお腹がペコペコになってしまったため、俺はシスター少女のいる何とか教会へと赴いていた。俺にごはんを献上する場所であれば、此処の他にも幾つかあるが……シスターのくれるごはんが最も俺の舌に合うからね。
ムシャクシャしたときは、美味しいモノを食べるか、なんでもいいから活きの良い獲物で遊ぶのが一番である。昨日の鬱憤を、今晴らそうではありませんか。
教会の中庭に設置されたベンチ。そこに座り、妙に険しい顔で本を読んでいるシスターを見つけた俺は、小走りでその場に向かった。
何があったのかは知らぬが、今の余は空腹なのじゃ……今すぐに馳走を用意せい!
「にゃあ」
「わあ!? な、なんだ貴方か……気配もなく近寄ってきてんじゃないわよっ。もっと解りやすく足音を鳴らしなさい、吃驚するでしょうがっ」
すまんな……クセになってんだ、音殺して動くの。
つーか俺のカワイイあんよさんは、元々足音鳴らして歩くのに向いてないんだよ。この最強のハンターに相応しきぷにぷにの肉球を見りゃ解るだろう。
前足を上げて、シスターの足をフミフミした。
「はいはい、ごはんね……催促しなくても分かってるわよ」
本を閉じ、シスターは軽く笑みを見せる。ふむ、流石は我が臣下。よく理解できているではないか。ミスることも多いが、現段階で俺の言葉を一番正確に読み取れているのは、間違いなくお前だぜ。“名誉臣下”の称号をくれてやっても良いぞ。
聖女ちゃん、お前も少しはシスターを見習いなさいな。正答率0なんだからよお前は。
「全く、真剣に考える時間もくれないんだから……貴方、本当に空気読むの下手くそよね」
「………」
「……ま、考えて解決するような問題でもないから別にいいんだけれどもね」
俺の頭を撫で、シスターは言う。
ちょっとイラッとしたが、この撫でテクニックに免じて聞かなかったことにしてやるぜ。俺は寛大なのだ。
「ごはんの準備をしてあげるから待ってなさい。勝手にうろちょろするのはダメだか──……はあ。こういう時に畳み掛けてくるのよね、もう」
溜息を吐き、眉間を押さえるシスター。
なんだなんだ、どうしたのさ。可愛らしく首を傾げていると、シスターの下へ1人の信者が息を切らしながらも走り込んできた。
「はあ、はあ……シ、シスター・カロス、大ニュースだ! 凄まじい情報を、ぜえ……ぜえ! 入手したぞ! はあ、ぜえ!」
「わかりました、わかりましたから……まずは落ち着いて呼吸を整えてください。話はそれからです」
信者の呼吸が整うのを、シスターは渇ききった笑みで見つめている。
……ねえ、俺のごはんは?
「あ、ああ、すまない。もう大丈夫だ。冒険者ギルドでこの話をお伺いしてな……居ても立ってもいられずに此処まで走ってきたんだ。はしたない姿を見せてしまったな。いい歳した大人が恥ずかしい……ちょっぴり幻滅されちゃったか?」
「いいえ。慣れてますし、そもそも最初から幻滅するほどの好感度はないので問題ありません」
「え?」
「はい?」
「あ、いや……聞き間違いかな」
「…………」
聞き間違いじゃないぞ。あとごはん。
「それで、大ニュースとは何でしょうか?」
「あ、ああ、そうだ! シスター・カロス! 来月開かれる聖女様の“奇跡”の再臨を称える催し──『聖譚祭』のことは知っているな!」
「ええ、もちろんです」
「実はな、その『聖譚祭』のメインイベントの1つは、あの“歌姫様”のコンサートとのことらしいのだ!!」
「………」
聖譚祭? そういえば冒険者ギルドでも聞いたなその言葉。結構大がかりなイベントがある感じらしいが……まあ、気分が乗れば参加してやらんこともないぞ。もちろん、貢ぎ物として、美味しいごはん又は、活きの良い玩具を献上することが必須条件だけれど。
……あと美味しいごはんは??
「前の“降臨祭”のときは、君は用事があるとかで、彼女のコンサートを見に行けなかっただろう? 規模も小さく歌姫様が来てくれたのも偶然の産物であるから、もうチャンスはないだろうと嘆いていたではないか。それが、こんなにも早いタイミングで再び機会が訪れた……これほどまでに喜ばしい情報も中々ない。違うか?」
「……………そうですね、情報提供感謝致します」
「はは! なに、気にすることはないさ! 聖女様を慕う同志として、当然のことをしたまでのことだ! 君は誰よりも信心深いというのに、周囲とは一線を引いている節があるように思えたからな! 役に立てたというのであれば嬉しいよ!」
「………あはは」
愛想笑い丸出しだな、全く嬉しそうじゃないぜこの子。どうやら色々思うところがあるようだ……短くない付き合いなんで何となく分かる。
が、正直今はそんなことはどうでもいい。誰がどんな思惑を抱き、どんな悩みや願いを抱いているのかなんて、今考えることでもない。どうせ俺が居れば大体解決することだし。
ねえ、それよりも俺のごはんは?? ずっと待ってんですけど。聖譚祭だか歌姫様だか知らないが、一番優先されるべき大切なことじゃないのか? 我に食事を用意することって。
「実はエルピス教会の方でも、今回の聖譚祭で歌姫様と───」
「はは、そうなんですね──」
「ああ! そこで君にも是非──」
「有難い話ではありますが──」
「みゃおーん」
いい加減にしろ!!!!
俺は怒りの咆哮を放った。
◆◆◆◆◆
怒りの咆哮を天へと放った後。
無事にごはんを献上された俺は、今までの鬱憤を全て晴らすように器に顔を埋めていた。
「いい食べっぷりね……見ていて安心するったらないわよ」
だろうな。カワイイもふもふの俺は何をしても“癒し”を行動に付与しちゃうんでね。ふふん。
先ほどまでの無礼がなくなるワケではない……しかし、お前もどちらかと言うと困っている側のようだったからな。美味しいごはんを献上した褒美だ、ほんの少しサービスをくれてやる。
頬杖を付いてこっちを見てくるシスターを見つめ返し、俺は一言鳴いてあげた。
「にゃあ」
「っ………ほんっっとに……はあ……バカみたいに気の抜ける子ね貴方は。こっちが悩んでいるのがバカバカしくなるじゃない」
俺の顎を優しく撫で、シスターは笑う。ううむ、良きテクニックじゃッ。
「まあ、そのくらいがいいんでしょうね。焦っても、何も生まれない。出来ないことに行き詰まって苦しむよりかは、出来ることに目を向けて、その数を知っていく方が気が楽だし。“人生”だもの……出来れば苦労はないけれどもね」
よくわからんが、シスターなら出来るんじゃね。だって、作るごはんがこんなにも美味しいもん。神猫である俺が認めているんだ、何も問題ないだろう。
「まあた見当違いなこと考えてそうね……この能天気おバカにゃんこめ」
は? 世界で一番知能に優れている神猫の間違いやろがい!
空に目を向け黄昏ているシスターを、俺は思いきり睨み付けた。
「──貴方様なら。これから先の未来をどう歩いていきますか? 私は、どうすればいいと思いますか? 聖女様……」
「にゃあ」
「いや貴方じゃないわよもうっ。ほんと、空気を読めない奴……ふふっ」
なにが可笑しい!!
◆◆◆◆◆
『猫さん、少し質問しますね』
「?」
なんだ、質問? 答えてあげてもいいが……ちゃんと俺を愉しませることのできる質問なんだろうな? それを確約してくれるのであれば、寛大に耳を傾けて答えてやるのも吝かではない。
但し、俺の偉大かつ尊き声を、正確に聞き取ってよね、ほんと。流石に長い付き合いだ、少しは読み取り能力が成長したと信じるからね?
聖女ちゃんの方を見据え、俺はゆっくりと瞬きをした。
『くっ……んんっ。で、ではいきますねっ。ね、猫さん……なぜ、夜空に輝く星々はあんなにも美しいのだと思いますか?』
夜空に輝く星々が美しい理由?
え、普通にわかんないんだけど……聖女ちゃんの残念な思考から答えを導き出すとすれば、“猫さんが世界で一番カワイイから”とかそんなんじゃないの? それ以外思いつかないんだが。
捻り出した『解答』を込めて、俺は聖女ちゃんに向かって威厳たっぷりに鳴いた。
「にゃあん」
『ぐ、ぐぅ! ……お、惜しいですが、ハズレです! ふ、ふふ、まだまだですね猫さんっ』
尊死しそうな声色なのに随分と粋がるじゃん。大丈夫か聖女ちゃん。……大丈夫だな、いつも通りだし。
しかし、うーむ、ハズレか……流石にそれはなかったようだ。結構良いセンスだと思ったのになあ。正解は何であろうか。
教えてよ、聖女ちゃん。
『──正解は、“猫さんが世界で一番カワイイから”です! ふふ、猫さんには難しすぎましたねっ』
いや合っとるやないかい!!
読み取り能力が全く成長していない聖女ちゃんへ、俺は全力で威嚇した。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
高評価等もありがとうございます! お陰様で猫さんが威圧感たっぷりな可愛いモフモフになっております!